解読、迫る危機。
失踪していた美影を発見し、救急車で病院へと運び、何とか一命は取り留めた様子。が、しかし、美影の状態は…。
学校からの帰りに、病院に行く事が日課になっていたボク。あの日直ぐに救急車を呼び、そのまま入院になった美影先生。因みにここはボクの親が働いている病院だ。入院の手続きなど面倒な事は親がやってくれた。
実際美影先生はボクの家に住んでるのだから、住所もウチなわけで、先生が目を覚ますまでは何も分からないという事で、それまではウチの親が身元を保証するという事になっているらしい。
そして、お見舞いに通いつめて二週間経った日の夕方の事、いつものようにお見舞いに病室を訪れると、ベッドの上に座った状態で、既に目を覚ました美影先生の姿があった。
ボクを見るなり美影先生は何かを伝えようと口を開くのだが、声が思うように出てこないらしく、ボクには何を言っているのか理解出来なかった。長い時間目が覚めなかったからなのか、怪我の状態が声を出せなくしているのかは分からないが、「う〜」「あ〜」としか発音出来ていなかった。
それならばと、紙とボールペンを出したのだが、ベッドのシーツから出して見せてくれた両腕を見て、ボクはそれさえも無理な事を理解した。
美影先生を発見した時は、気が動転していたせいもあり、怪我の具合までは確認出来ていなかったのだが、先程見せてくれた美影先生の両腕は、左右どちらも手首から先が存在していなかった。包帯と金具でグルグル巻きになっているので、傷の状態までは見えないが、それは手と認識出来る要素が何も無かった。
美影先生は何かを必死に伝えようと頑張ってくれるが、ボクに理解出来る事はなかった。そうこうしていると、病室のドアが軽く二回ノックされ、白衣に身を包んだ看護師さんが一人入ってきた。
「こんにちは英之くん。良かったね、今日の昼ごろ目覚めたんだよ。でも…、手術の時の麻酔のせいか、まだ上手く話せないみたいなのよね…。」
そうボクに話しかけてきたのは、この病院につい最近来たという『須藤由紀』さんだ。そう、あの須藤のお姉さんらしいのだが、実家には五年程帰っていないらしく、喧嘩して飛び出したと聞いている。
由紀さんはおとなしい性格で、ゆっくりとした口調が特徴だ。顔は、お世辞にも綺麗だとは言い難いが、笑顔がステキな女性だ。が、これはボクの好みの基準であって、由紀さんがショートカットである為、綺麗では無いと言ったまでだ。患者さんの間では、結構な人気がある。
「それで…、由紀さん、先生はいつ頃話せる様になりますか?」
「う〜ん…、ハッキリとは私にも分からないけど…、徐々に話せる様にはなると思うよ?…、えへへ、実は私も詳しく聞いてないから何も知らないのよね。担当させるなら、ある程度の情報はと思って聞いたんだけどね、検温と包帯の交換だけしてろって、怒鳴られちゃったのよね…。」
「あ…、ごめんなさい…、多分ボクの父がそう言ったんですよね…。まぁボクにもそんな感じでいつも怒鳴ってばかりですし、あれが父の普通と言いますか…、ごめんなさい。」
由紀さんの話しを聞いて、ボク自身も父の事を思い返してみたのだが、頭に思い浮かぶのはどれも怒鳴っている場面だけだった。優しくされた記憶が無いのだ。
「ううん、英之くんが謝る事じゃないよ。平塚先生は誰にでも厳しいから。でも腕はいいのよ。この病院でも外科の知識や、手術では、先生の右に出る人はいないんだから。気にしないで、英之くん。」
申し訳なく思い俯いていたボクに、そんな優しい言葉をかけてくれる由紀さんは、話しながらも美影先生の包帯を交換してくれていたみたいだ。話し終わると同時に、「はい、終了!」と告げて、後片付けを始めた。
「あの、今美影先生が何かをボクに伝えたいみたいなんですが、何か方法はないですか?ボクじゃ思いつかなくて…。」
「ん?あー…、あ!そうだ、いいものがあるから、ちょっと待っててね。」
片付け終えた由紀さんは、そう言い残して病室から走るように出て行ってしまった。
数分後、また小走りで由紀さんが病室へ戻ってきた。その手には、折りたたまれた広告紙?みたいなモノが握られてた。そして、それをボクに突き出しながらこう言った。
「ごめん、私呼ばれたから行かないといけないのよ。後は任せるね。終わったらそれ、小児科前の遊戯コーナーの本棚に戻しておいてね。」
そう言い残し、またまた小走りで去って行ってしまう由紀さん。忙しい人だ。
手渡された紙を広げてみると、小さな子供が、文字を覚える為に使う、ひらがなを五十音順に並べたモノだった。これならば、ボクがペンで文字を指して、美影先生に頷くなりしてもらうと会話が成立する。
さっそく美影先生にそれを伝えて、食事用の簡単なテーブルに紙を広げてとりかかる。
かなり時間がかかったが、何とか美影先生が伝えたかった事を、手持ちのノートに書き出せた。改めてその全文を、目で追いながら読んでみる。
【みゆきがなにものかにつかまつたわたしがみつかるのもじかんのもんだいだみゆきをたすけてくれおまえのしやどうがひつようだわたしのくぐつはしようめつしたたすけてくれ】
何となく読んで理解出来るが、念のため間違いないか美影先生にも確認してもらうと、頷いてくれたので間違いなさそうだ。もう少し読みやすく、新たに書き直してみるとこうなった。
【美雪が何者かに捕まった。私が見つかるのも時間の問題だ。美雪を助けてくれ。お前のシャドウが必要だ。私のくぐつはしょうめつした。助けてくれ。】
この書き直した文章を、もう一度美影先生に確認してみると、再度頷いてくれた。どうやらこの内容で間違いなさそうだが、美雪が捕まったというが、どこにいるのか手がかりが無い。それに文章の最後の部分。
「美影先生の影が…、消えてしまったって意味なの?消滅したって意味なの?」
ボクのその問いに、美影先生が頷く。色々な力を使えたはずの先生の影が無いとなると、未だに暴走気味の、ボクのシャドウだけで何とかしないといけないという事になる。が、それしか方法が無い。
「それと…、この、時間の問題だ、っていうのは、また美影先生が狙われる可能性があるという事だよね?この病院にいても危ないって事だよね?」
即座に頷く美影先生。そして、身を捩りながらベッドから降りようと動き出した。傷の具合がどうなのか分からないが、ここにいるのが危険だと言っているが、この病院から抜け出した方がいいのか、安静にさせた方がいいのか、ボクには分からない。
「美影先生、気持ちは分かるけど、ボクの父に話して、見つからないようにしてもらおうよ。」
そう言ったボクの言葉に、先生が激しく首を横に振った。
「なぜ?遠慮なんかしないでいいんだよ。ボクが父にお願いして…」
そこまで言いかけた時、美影先生が包帯ごと腕をボクの口に押し当ててきた。そして、先程会話に使っていた紙を腕で指して、書き出すように促してきた。何か言いたい事があるのだろうと、それに従うボク。
【おまえのちちおやはくぐつそしきのなかまのかのうせいがたかいそしきのにんげんがもつゆびわをしていたもしてきがそしきならあぶない】
またまた少し時間がかかったが、これをまた書き直してみると、驚いて言葉が出てこなかった。
【お前の父親は、くぐつ組織の仲間の可能性が高い。組織の人間が持つ指輪をしていた。もし敵が組織なら危ない。】
「おい、お前まだいたのか。早く帰るんだ。先生の事は病院がきちんとやるから、お前は帰れ。」
美影先生の話しを解読して呆然としているところに、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くと、そこには白衣を脱いだ父の姿があった。噂をすればなんとやらだ。
「あ、う、うん。そろそろ帰ろうかと思ってたとこ。あ…、お父さんも帰るの?」
先生の話しがあったから、たどたどしい話し方になったのでは無く、父と話す時のボクはいつもこうなのだ。そして、話しながらも、先程の解読分にあった指輪を探した。左手の小指にはめられた赤い指輪が確認出来た。装飾も何もないツルッとした赤い指輪。自宅にいる時には見た事がない。間違いなくアレが先生の言う組織の証だろう。
「あぁ、だがわたしはこれから約束があるのだ。家まで送る事は出来ん。一人で帰れ。おっと、もう行かなくては。早く帰れよ。」
相変わらず冷たい口調の父の言葉だった。言いたい事だけ言うと、約束の時間とやらに遅れそうなのか、慌ててボク達を残して去って行った。
やはり美影先生をここに残しておくのはマズイかもしれないと判断し、ここから連れ出す覚悟を決めた。しかし、ボク一人では連れ出す事が出来ない。
しばらく迷い考えたが、妹にも協力してもらう事にした。美影先生に病室でしばらく待つように言い、ナースステーション脇にある公衆電話へと向かった。
無残にも両腕を失っていた美影。そればかりか、傀儡まで消滅したという。そして謎の敵の手に落ちたという美雪の救出依頼。美影自身もまだ危険であり、安心出来るはずの病院の先生である父までもが疑わしいという。設楽姉妹を救う為に覚悟を決める主人公。無事に美影を連れ出す事は出来るのか!?




