変化。
早速訓練に入った主人公だが…、何やら様子が…。
設楽先生の闇傀儡が、ボクの細かな傷を癒してくれる。先生達が使う闇傀儡には色々な事が出来るらしく、今施されている『回復』の他には、『短・瞬間移動』『飛行』『擬態』などなど、他にもあるらしいが、教えてもらったのはこれくらいだ。
「先生…、この訓練って、意味あるんですか?ボク…、ただ殴られてるだけですよね…。」
「何を言っているんだ!さっきも説明しただろうが…。これはお前が怒りを抑える為の訓練だ。そもそもお前が考え無しでシャドウを使うからだろ?感情のままに繰り出せば、いずれシャドウはお前の怒りを吸収して暴走する。今はその一歩手前なんだ。そう説明したはずだが?」
「はぁ、まぁ…。他に痛くない方法って…。」
ドゴン!!「あ痛っ!!ぐあぁぁぁ…。」
泣き言を言うボクの頭に、容赦のない先生のゲンコツが落ちる。
「グズグズ言う暇があったらシャドウ出して構えろ!!」
確かに殴られても回復してくれてるから、傷自体が残るという事は無いのだが、やはり殴られると痛い。それが嫌だと言っているのだが、先生は聞く耳持たずだ。
「さっきも言ったと思うが、人間ってのはストレスってのがあんだろ?私らにもそれはあるんだが、傀儡を繰り出す時にそれを持ち込まない様にしてるんだ。それを出来る様になってもらわないと、本当にお前が一族を滅ぼし兼ねんからな。大事な事は、外的刺激を心でどう捉えるかだ。反発心や怒りで受け止めてしまうと、シャドウはそれを吸収し成長していく。そしてお前自身がシャドウの強い影響を受け、やがてお前の自我は失われてしまう。この外的刺激…、ストレッサーを無くす事は不可能だ。しかし、考え方一つで、その後で、それを心でどうとでも出来る。」
小学生のボクには難しいと感じるが、先生の言っている事は何となく理解しているつもりだ。
「つまり…、先生が言いたいのは、ボクが怒り任せにシャドウを使うと、シャドウがそれを吸収して暴走する。そしてボクも抜け殻になる?って事ですか?」
「ま、まぁ、簡単に言うとそうだ。人間はストレッサーを受け生きていく事は避けられない。問題は、その後、心でどう捉えるかだ。それによっては大きなストレスとなり、人生をも大きく変えてしまう事だってある。お前は長年イジメに耐え、そのストレスを内に貯めていた。そこにシャドウの登場だ。初めは良かったのかもしれんが、誰にも言えない秘密も同時に抱えた事になった。そしてバケモノ扱いされ、友達に裏切られ、とうとうお前の心が限界に達したんだ。それを苦に感じなかったのは、シャドウがそれを吸収していたからだ。結果どうなった?お前は無関心な時が多くなってしまった。」
「あ、それって…、ボクの自我が薄れてきている?って事にも思えるんですけど…。」
「もっと自信を持って答えろ。お前の言う通りなのだから。それを私が矯正しようと言っているんだ。」
「はぁ…、強制ですか…。」
「違う!!!矯正だ!!コノヤロ…、喧嘩売ってんのかぁ?あぁ?」
紙に書いたのならともかく、吐いた言葉の違いが分かるなんて凄い先生だ。そしてゲンコツを落とすのは本当に勘弁してほしい。
「お前が言いたい事は分からんでも無いが、私は他のやり方を知らんのだ。お前の事を思っての事だと理解してくれ…。すまん。」
その先生の言葉に少しジーンときてしまったボクは、まだ自我がちゃんとあると実感しながら、怒りを抑える強制的な訓練に戻った。
〜 訓練後の自宅 〜
傷は回復してくれるのだが、疲れまでは癒せないらしく、やっと自宅へと戻ったボクは、疲れと空腹でフラフラ状態だ。早く何か食べないと死んでしまいそうだ。
「あら、おはようございます。お兄さま…、こんな朝早くにお帰りで…、この女とどちらへ行かれたのですか?」
震える手でドアを開けると、玄関上り口には仁王立ちの妹の姿があった。そして何やら勘違いをなさっている様子である。
「うむ、英之がな、大人のアレコレを知りたいと言うものでな。然るべき場所で、手取り足取り教えていたのだ。さすがに私も疲れたから、先に朝メシを頂こう。じゃ。」
《「じゃ」じゃないだろうが!!!なんでそんな誤解を招く言い方するんだ!!》
「あ、あ、あ、あの…みぃちゃん…?そ、それは誤解だ…、ギャアァァァァァァァ!!!!」
ボクが散々な目に遭っているにも関わらず、涼しげな顔でこちらをと一瞥し、「治療は出来んからな」と短く言い残してキッチンへと消えていく先生。その後ろ姿を見送りながら、訓練以上の傷を負ったのはお察しください。
朝食が終わり、登校する頃になっても、妹の機嫌は悪いままで、更には出がけに「変態!」とまで罵られてしまう始末。肝心の先生は、生徒と一緒に登校したらマズイとの理由で、一足先に学校へ向かった。
とりあえず先生の提案通り、ボクは両方の耳に栓をして自宅を後にした。これは、まだボクをバケモノと呼ぶ生徒がいるから、それが聞こえにくい様にと先生が考えた事だ。しかし、ボクの自宅付近に子供はいないから、ここまでしなくても大丈夫だと思うのだが。
そう思っていたのだが、ご苦労な事に、バケモノを一目見ようという考えからなのだろうか?電信柱の影、外壁の影、大木の影からは、同じ学校の生徒がボクを観察しているかの様に見ていた。
言い忘れていたが、ボク達の学校は、指定の色のバッグを持って登校する決まりになっている。ランドセルの他にという事だ。ちょっと変わっているらしい。バッグには、特に何かを入れなさいという事は無いのだが、『どこの生徒か分かる様に』という意図がある事は間違いない。
ボクはなるべくそれを見ないようにしながら学校へと急いだ。あんなにスパルタで、あんなに貧乳なのだが、頼りになる先生がいるからだ。なるべくシャドウが出ない様に影を伝って急ぐ。
「きりーつ!…、なんだよ、平塚かよ…。先生かと思ったじゃねーか。」
教室に駆け込むなり、今日の日直当番が号令をかけた。設楽先生だと思っていたのだろう。それがボクだと分かると、教室が一気にどよめきで騒がしくなる。どうやら緊張感いっぱいで席についていた様子だ。
無理も無い。昨日の暴言を吐く設楽先生を見て、不安にならない者はいないと思う。
《あれ…、今ボクの事を普通に『平塚』って…。バケモノって呼ばれなかった?どうしたんだろ。》
「おはよう平塚君。今日は遅刻ギリギリじゃないか?何かあった?」
その声のする方へと視線を向けると、あの向井君だ。驚く事に、何事も無かったかの様に話しかけてきていた。返す言葉も無くキョロキョロするボクに、続けて向井君が話しかける。
「だ、大丈夫?ホント、何かあったら教えてよ?ボク達友達だろ?」
「あ、あぁ…。その…向井君…、昨日の事…。」
「ん?昨日どうした?校門前で別れた後に何かあったの?」
「……、いや、え?向井君がほら…、須藤達の件で…。」
「ん?須藤?…、平塚君、どうしたんだ?ホント大丈夫?須藤…って、あの先月転校した須藤?イジメられて転校してったあの須藤の事?あいつに何か言われた?」
《どういう事だ?須藤が転校?イジメられてた?》
向井君の話しが全く理解出来ず、須藤の席を確認してみた。しかし、そこに座っていたはずの須藤の姿は無く、見た事も無い女子がいた。
ガラガラガラ!「おい!皆んな席につけ!号令どうした!平塚ー!前を向け。…、あー号令もういい。それより転校生を紹介する。もう勝手に座っているみたいだが、そこの女子だ。おい、自己紹介しろ。」
いきなり入ってきた設楽先生に全員驚き、日直も号令を忘れて口をアワアワさせていた。余程驚いたのだろう。そして、その先生が転校生と言って紹介したのが、あの須藤の席にいた見知らぬ女子だった。どうりで知らないはずだ。
「おはようございます。今日からこのクラスに転校してきた『設楽美雪』です。よろしく。」
そう自己紹介した女子は、ボクをジッと見て微笑んでいた。
《設楽美雪…さん…。え、設楽?え!?》
思わず先生を見ると、ボクを見て不敵な笑みを浮かべているように見えた。どう考えても悪い予感しかしないのだが。
転校生と先生の不気味な微笑みに、悪い予感がする主人公。うん…、多分皆んなも考えてる事は同じだ。うんうん。




