設楽美影。
お騒がせな暴言貧乳教師が、主人公の家に居候!?
今夜は下校時の事もあってか眠れない。いや、それより設楽先生のイビキのせいかもしれない。せっかくのテントも、先生にかかっては意味が無いものになってしまう様だ。
もの凄く寝相が悪い設楽先生は、その身体の半分以上がテントからはみ出してしまっている。しかも、綺麗な顔が台無しになる程に口を開けて、ヨダレまで垂らして寝ているのだ。
《はぁ、しかし…、何故こんな事に…。》
先生がここに来た理由。あれから簡単にではあったが説明はしてもらっていた。
〜 三時間前 〜
「はいはい、妹ちゃんはちょっと外してくれるかな〜、これからクラスの極秘会議を始めるから。まぁ、黒板消し係と極秘会議ってのもおかしい話しだけどね〜。そんな訳だから、出てけ。」
「な、ちょ、アンタね!ここは私の…」
「ま、まぁまぁ!堪えて堪えて…。みぃちゃんごめん、今は黙って言う事を聞いててくれないかな。後でちゃんと説明するから。ね…。」
先生の言動に凄く問題があるのは分かっているのだが、向井君の事や、電話で言っていた『カゲクリ』という言葉の意味など、先生には色々聞きたい事があったので、妹には申し訳ないが自室に戻ってもらう様にお願いした。ブツブツ言いながらも素直に自室に戻る妹を確認した後、ボクは先生に切りだした。
「さっき電話で話していた事、詳しく話してくれませんか?向井君の事や『カゲクリ』って言葉の意味とか…。」
「あぁ、その為に来たんだ。先ずは向井の事だが、お前の影が投げ捨てた後で、私がコイツで受け取った。」
ボクの質問にそう答えながら先生が見せてくれたのは、シャドウに良く似た黒いモヤモヤした影の様なモノだった。さすがにこれには驚いたのだが、感情がうまく表に出ていない事が自分でも分かった。
「まぁ、コレを見て驚かないのは、既に知っていたか、あるいは、私が心配していた事が起きたか、そのどちらかだろうな。お前の影…、上手く使えていないのだろう?暴走気味だったり…とかじゃないのか?」
「なぜ…、それを知って…。見られていたのなら隠す必要も無いですから話しますが…、あんな事をシャドウにさせた覚えがボクにはありません。ただ…、思い当たる事はあります。」
どう言えば伝わるか考えていたのだが、いざ口にするとうまく言葉が出てこない。考えているボクを見ていたであろう先生が、ため息を一つ吐き出し、頭を掻き乱しながら口を開く。
「自分の意思じゃないってなら、やはりお前の影は暴走してる。暴走…というか、自我を持ち始めている。そう言った方が正しいだろう。いずれお前自身から離れようとし、お前を傷つける可能性だってある。」
「…、先生は…、何故、ボクの影について知っているんですか?それに先生のソレ…。少し前にウチに忍び込んだ男がいましたが、そいつもシャドウみたいな影を操れると言ってました。先生はそいつらの…仲間なんですか?」
あのコソ泥の影をハッキリ見た訳ではないので確信は無いのだが、聞いた事と、先生が見せた影が良く似ていた事から、仲間なのではないかと思ったから聞いてみたのだが、先生はボクをジッと見つめたまま口を開こうとしない。
「じゃぁ、質問を変えます。『カゲクリ』って…何ですか?」
先程の質問のせいか、先生の顔はまだ少し曇ったままに見えたが、その質問に対して静かな口調で教えてくれた。
「その言葉のまま、影を操る者の事をそう言うのだ。『影操』だ。そして…、我々の操る影とは全くの別物だ。ただ…、出自は同じだ。もう何万年もの間、その使い手はいなかったと聞く。私もまだ若い方だから、実際に見たのは、今日の放課後が始めてだった。」
「えと…、何万年って…?それが何故ボクに…。始めて見たのが今日だとして…、何故先生はそんなに詳しく…?」
先生の言っている意味は理解しているつもりだったが、辻褄を合わせようと頭の中で整理しようとすると混乱してしまう。
「私は、その影繰の研究をしていたのだ。さっきの質問の答えだが…。元は私も『闇傀儡師』の一員だったよ。しかしある人物の出現によって、組織は大きく変わっていったのだ。そいつは我々にこう言った。『来たるべき戦いに備えねば、我々は影繰に滅ぼされるだろう!』とな。」
「それは…、え!?ボクがその陰謀を成す悪者って事!?」
突拍子も無いデタラメな話しに驚き、そう言い放ったボクに、先生はコクリと頷いてみせる。そしてボクの手を取り話し出す。
「少なくとも連中はそう思っている。あの男…、今のリーダーを務めるあの男のデタラメに踊らされて。そして私はそれに反対したのだ。結果…、一族から追放されてしまった。だがこれは良い機会だと私は思った!こうやってお前を、影繰を側で守り、研究が出来るのだから。」
「な、なるほどです…。せ、先生…、手が痛いんですけど…。」
「あ、あぁ、すまん。つい熱くなってしまって。…、これだけはハッキリと言える事だが、私が研究してきた中で、影操が闇傀儡師に害を成したという記録はどこにも無い。だが、我々の一族では予言としてこう伝えられてきた。『闇の一族より、光浴びても尚、影落とし自在に操る者現る。その者、いずれ我らを滅ぼさんとする害悪となるであろう。一族の滅びこそ影操がもたらす唯一の災厄である。』とな。だがこの予言は、どの資料にも書かれていないのだ。」
「先生、何となくですが…、その闇傀儡師の一族に伝わる予言のせいで、ボクの身が危ないという事は分かりました。先生が影に詳しい理由と、何故ボクに近付いてきたのかも。ですが…、何故一緒に暮らすんです?」
何となくだが理解出来た事を伝え、もう一つ気になる事を尋ねてみたのだが、明らかに先生が一瞬固まったのをボクは見逃さなかった。
「そ、それはほら…、あれだ!お前を守るには、こうやって近くにいた方がいいだろうが。ま、まぁ、そう言う事だ。」
先程までとは違い、明らかに目を逸らして話す先生。今までの話しの内容から察すると、こういう事なのかな?と考えた事が思わず口に出てしまった。
「なんだ、一族から追い出されて行くとこが無いのか…。あ!?ちょ、その…、ごめんなさい。」
ボクの迂闊な言葉に反応して、拳を振り上げた先生だったが、力無いため息をついて拳を納めてくれる。
「はぁ…、そうだ。故郷でも、この星に来てからも、私はずっと一族と共に生きてきたのだ。だから帰るところが無いのだ。それに今更あそこに戻ろうとは思わんしな。という事で、これからここが私の家だ、よろしくな。あ、それと、お前の親には了解も貰っているから安心しろ。」
「ええ!?…、そ、そんなぁ。…、ん?ちょっと?さっきおかしな事言いましたよね?この星に来たとか何とか!?ちょ、ねぇ!先生?出てきて下さいよ!」
さりげなく凄い事を話してくれた先生に、その事の真相を確かめようとしたのだが、先程組み立てたテントの中に引きこもってしまった。強引に開けてもいいのだろうが、流石にまだ生きていたいのでそれは止めておく事にした。
また少し、設楽美影という先生の事が分かった気がした。この人、都合が悪くなると殻に閉じこもるんだ。
〜 明け方 〜
もの凄い激痛が頭に走り飛び起きる。どうやら先生との会話を思い出しているうちに、そのまま寝ていたようなのだが、殴り起こすのはやめてほしいものだ。二発目を放とうとしている先生の姿が目に映っている。
「ちょっと!起きましたよ!…、クゥ〜、イテテ…。何なんですか一体?ん?あぁ、まだ五時半じゃないですか、もぅ。」
「うむ!起きたか。今日から毎朝、日が登る前に訓練を行う!お前はこのままだと影に…、シャドウに呑み込まれてしまうだろう。そうならない為の訓練だ!さぁ、とっとと起きて着替えろ!」
「ぐあぁ!痛い痛い痛いですって!」
頭をさすっていたボクに、更に追い討ちをかけてヘッドロックする先生だが、あまりにも薄い胸故に、頭が洗濯板でゴリゴリ擦り下ろされているかの様な激痛が走る。
普通、こんな綺麗な女性にヘッドロックされると、幸せな気持ちになっても良さそうなモノだが、全く、全くそんな事は無い。
《もぅ…嫌だ…。》
気が強い女性は家族でお腹いっぱい…のはずだった。シャドウ、美影、みぃちゃん、両親、これから上手く生きていけるのだろうか…、心配だ。




