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31話 再開の瞬間と終わらないウワサの連鎖

 袂を分かつ。

 理想の未来と従来の伝統を壊した弥彦。

 束縛された選択肢を無効にして、あえて対立する形で恋路部は残存し、二人の意志は自分自身の為に動いていると風紀委員に知らしめた。


 全ては自由を奪われないように。


 決定的な茶番劇と思える宣戦を開示をする。

 この明確な挑発が契と理世の活力となり、不安を覆う暗雲の表情が徐々に解けて晴れていく。晴天に満ちた安泰の微笑みを浮かべる契の表情が、一度の挫折から恢復した理世はどこか納得したような、面映ゆい柔らかな微笑が帰ってきた。


 群衆も然りだった。

 特に、第三者の目線に位置付くベルティーユが顕著な反応を見せてくれる。


「こ、これが、夢見てた青春ものってヤツですね……!」


 両手で祈るような仕草を取って、眼から星が出るような感動さながらはクールジャパンを感じ取ったのだろうか。だとしてもこれは喧嘩から生まれた一端なので決して感動シーン物じゃない。


 それにお忘れではないだろうか。

 フランスと日本のクォーターの背後に鬼の如く末恐ろしい笑みを湛えた彼女が。


「九条さん、後で、素晴らしいご歓談を楽しみましょうね」

「……お、お茶会がいいな~! ギャァァァ!?」


 横腹をつねられて悶絶。

 なにかと女性陣に不憫なベルティーユだが、彼女のお陰で教室の雰囲気は殺伐が掻き消されている状態。それほど一方的な質問攻めは姑息であり、決してやりたくない手口の一つだ。


 争いは終わらない。

 滅裂な会話が平和に結び付ける訳がなく、傷だけが増えていくだけだ。

 お互いに傷付けても虚しいのに。


「彦くん、恋路部を続けるんだね」

「ああ。依頼終わってないし。何より先生の勧告で好きに部活やっているからな」

「そうなんだ。てっきり彦くんが部活を立ち上げたと思ったよ」

「……想像してみたら普通にゾッとしたぞ」


 世良正雪のストーカーを見付けなければならない。


 弥彦は任された。だから最後まで依頼を全うする。無関係な横槍が入ろうが時間稼ぎの相談を打破してみせる覚悟はとうに決めている。


 渦中の人にこれ以上ない至高のサプライズを起こすまで退けない理由があった。

 真実は常に飢えていることを奴に伝える為には。

 油断したその瞬間を狙う。


「……貴方は本当に、動じない人ね」


 風紀委員の紛糾が続いている中で、理世は静かに弥彦に言葉を告げる。

 バラバラになりかけた。未然であるけれど、少なくとも部活の決裂した景色を後見してしまうのは想像出来なかった弥彦のミスだ。過剰に意識していた理世を宥められなかったことは悔しさを覚えるほど。


 当然、理世や契にも迷惑を掛けた罪悪感を呼び出してしまった。


 心無い嫌がらせは、他人に漬け込む最大の毒だ。

 未だに解決法は見付からない罠を紬妃は行使した。相手を計るために、見極める為の強欲さには手段を選ばない執念が十分に見受けられた。


 だけど、その方法では、傷付けることしか出来ないというのに。

 彼女は知っていたのだろうか。


「……」


 そして風紀委員長の座を統べる少女、成瀬七弦の反応が乏しい。

 同胞の紬妃が窮地に追いやられてもなお、平然としてこちらを見据えてる。

 冴えた目が目と合う。 


「やっぱり優しいわ。優しすぎて疑いたくなるわよ、その庇う姿勢。メリットもないのに、西園寺さんを相手にするなんて肝が据わるレベルじゃない。気概の権化、と言うべきなのかしら」


「済まないがオバケや幽霊は苦手なんだ」

「なにその弱点……」


 ほんのちょっと呆れながら猟奇的な視線を送る理世。

 途端にクスッとはにかんだ。


「少し、意外」


 熱を帯びた純粋な微笑と涼しげな眼差し。均等な温度に満たす空間は丁度良い。不安を振り払った彼女達の姿を見て、弥彦は心の何処かで安堵した。


「……私は新藤くん、貴方本人が苦手ですよ……」


 ベルティーユを都合の良いサンドバッグにし、沸騰した怒りを鎮めることに成功した紬妃。地獄から沸き上がる灼熱の炎のような、怨嗟を纏う声音を放つ。


 希望は途絶えてしまった側の報われない結果を滅茶苦茶にして。

 敵対と成した弥彦に向けて、紬妃はムッとした態度で睨む。言うことを聞いてくれない者に個人的な制裁を下そうと躍起になる。駄々をこねる仕草はまるで玩具を買ってくれない子供のようだ。


 しかし、夢は叶わないと肩を落としてしまった。


「私はただ、相澤さんと茅月さんの実力を計ろうとした上で、貴方の判断力を見極めていたのに。……残念ですね。三人が入部してくれれば、敵なしでしょうに」


「悪いな。こちらも譲れない意地がある」


 そっと側に寄り添う形で二人が援護。

 揺るがない契のスマイルは相変わらず人を元気付ける力があって、真面目な理世は今度こそリベンジを果たそうと神経を研ぎ澄ませていた。


「……ええ。新藤くんにも、相澤さんにも、私だって意地がある。他人の足枷を素直に聞いてはいけない。それを教えくれたのは西園寺さん。貴女のおかげよ」


 今度は理世のターン。

 散々屈辱を味わった彼女だからこそ、一つ越えることができた。成長の糧を惜しくも与えたのは西園寺紬妃であり、彼女がいなければ、理世は中途半端なまま感情を揺さぶっていただろう。


 相手の勢いを活かす挑発。

 それはまさに彼女なりの本気を魅せる最適な模範回答だった。


「良かったですよ。私達を分かりやすく敵対してくれて、ホントに感謝です」

「……まだ何か仕掛けているんじゃないだろうな」

「あはっ、分かりました?」


 裏に隠された思惑が潜んでいるのか。


 咄嗟に身構える弥彦は流石に警戒を怠らない。それでも弥彦に向けて同じ笑顔を振る舞う彼女は、怪しげに言葉を弾ませる。


 もしもの話。

 イエスかノーの選択がこの場面にあったとしても。

 強制的に流される現状があらかじめ想定されたシナリオ内だったとしたら。


 彼女の台詞はウワサの御心のままに。


「『皆さん』から聞きましたよ? 引き受けた依頼、かなり複雑じゃないですか」

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