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26話 疑念の聲

 今回の依頼に通じて抱いた疑念がある。

 それは他人の心境。真偽を問う本音はどちらに当て嵌まるか。


 鵜呑みする言葉と凪ぎ払う言葉を区別して。顔色を監視しながら辿る結果は曖昧で卑怯だった。騙し合いのルーレットは相手を選ばす、無関係な人達を巻き込んでいく。ヘイトを拡散させる手口はまさしくイタチごっこ。繰り返す噂の匂わせは世間の評価によって全ては決まると、そう認識させようという目論みに募らせた。


 既に出来上がった口実を利用する曲者。

 反論を破綻させるべく計算尽くした俺様ルールは、狂うほど捻じ曲がっている。


 つまり、根性が腐っていることだ。


「イタチごっこ。蜥蜴の尻尾切り。どちらが悪事を働いているかな」


 どちらが正体をバレるまでの競争。

 後は溺れた本音を根刮ぎ風穴を開けるのみ。


 自爆を狙う弥彦の策略は決して作戦通りにはいかないけれど、これまでの経験を活かすとなると、無駄な行動をすれば逆手を取られてしまう。結果的に一部の人達を除いて『いないもの』にされてしまった。


 その残酷な結末を迎えてみせた転校生、新藤弥彦は考える。


(ここは動かずに現状を見定める。まだ動かない。動いてはいけない。相手の思う壺になる前に奇襲を掛けてやる。誰も知らない俺だけが知っている作戦)


 缶コーヒーを口元に含ませながら。

 これから開始するであろうゲームに期待していた。一人静かに確信の微笑を浮かべて、狙い通りの展開に心境に乱れは一切存在しなかった。


 何故なら弥彦は友達がいない。それが証拠にも切り札にもなれる。

 決して自虐ではないのであしからず。


「結局は数よりも、一人の方が強いんだよな。これが」


 もしも、情報が漏洩してしまう可能性が少なくとも有るというのならば。

 最初から単独で行動をすればいい。

 たったそれだけだ。


(いずれ二人は犯人の正体を暴いてくれるハズだ。それを重点的に弱点を突き降参させる。自分の過ちを気付くチャンスを絶対に無駄にはしない。奇襲を掛けてしまえば、犯人だって逃げられはしない)


 奇襲という名のチェックメイトを告げる完全勝利は近い。

 真実へ辿り着く正解は既に用意している。


(誰かに責任を負わせないための、正しいと思える選択肢だ)


 猿猴取月を狙いに。

 狭い世間を利用してストレスを貯める者の感情を爆発させる。それは仕掛けたトラップではなく、地雷を踏ませるための布石。浅はかに完遂しようとする張本人を、完膚なきまでに更正させてやるのだ。


 感情に取り込まれないように。

 自覚ある意識を保ちながら、他人に惑わされない生活を手に入れるには。


 ワガママな自分と戦うべきだ。





 着実に犯人の手掛かりを捉えていく。

 日々の試行錯誤。


 噂という見えない第三者の存在によって、無駄に掻き回す世間の声。真実と嘘をハッキリ決めるくじ引きは正当だったかと尋ねるとすれば、返すべき言葉は紛れもなくアンバランスに満たされていた。


 見据えた情景の先にある真実は見事に悲惨さを物語る。

 部室には見知らぬ美少女がいた。


「……この場を借りて、お会いできて光栄です。新藤弥彦さん」


 まるでこのタイミングを望んでいたような。

 少しだけウェーブの掛かった髪が仕草で揺れる。ライトブラウンの色をした長髪を持つ彼女はこちらを見てゆっくりと微笑む。優雅な眼差しは温情が深く溢れた慈愛は困難を行く者を正しい道へ啓蒙させる。そのための腕章は風紀だけではなく、秩序さえも完遂してみせる。


 黄昏色の後光に佇む風紀委員。

 慈悲という言葉が釣り合う少女は弥彦を待ち受けていた。


「……アンタは?」


 微弱ながら身構えて。

 潔く彼女の前で質問をする弥彦は時間を稼ぐ。


 あえての時間稼ぎは状況を見定める為に。そして瞬時に汲み取った結果、部室の風景に紛れていたのはこちらの様子を伺う契と理世の二人。


 共に不安を抱えた表情と訴え掛ける眼差しは辛くて。

 何かしらのヒントが隠されているのか思案を巡らせようと努力をするが、意図も簡単に阻害されてしまうことに。


 何故ならば彼女の協力者がいたからだ。


「この美しい美貌とスマイルがパーフェクトなのが西園寺紬妃サンで、仁王立ちをしてるのが私達の風紀委員のリーダー成瀬七弦サンデース!」


 連れらしき金髪碧眼の少女。

 弥彦に訪ねてきた彼女と紹介に不機嫌のな様子の風紀委員長こと成瀬七弦を外人特有のフレンドリーな雰囲気を醸し出しながら紹介してみせる。


「ちなみに私の名前は九条ベルティーユ! 帰国子女! ハ、ハーフデース!」

「なんで日本語流暢なのに片言なんだ」

「う、うぃ~……?」


 知らないフリをする九条(くじょう)ベルティーユ。

 下からの目線であざとく首を傾げるが、そういう馴れ合いは不要だ。


「風紀委員がなぜ恋路部に」

「私が説明を差し上げましょうか?」


 リーダーである七弦を差し置いて事の成り立ちを言い添える西園寺(さいおんじ)紬妃(つむぎ)

 視線は相変わらず弥彦を向いている。


「そうですね。私達風紀委員の総意としては恋路部は評価しております。もちろん活躍した部分を鑑みる限り、新藤さんの存在が大きいのかと。特に正門前の野次馬を撃退させる手段は大変ながら参考になりました」


 ペコリと会釈を返す紬妃。

 感謝の意を示しているが本年の部分は汲み取れない。何せ、感激するのであれば針積めた緊迫感を漂うのは間違っている。


 尋問そのものだ。


「……評価、か。本来の目的とは大分外れていると思えるが」

「いいえ。決して閑話休題を挟んだ訳ではありません」


 首を左右に振って否定。再び微笑を湛えながら胸元で丁寧に手を合わせる。

 だが、弥彦と同じ瞳をしている彼女は続けて言葉を並べた。


「事実、恋路部は必要だとは思います。今後活用をする人達が現れるのでしょう。生徒会直々に認められた正式的なボランティア活動部なのですが、詰まるところ、私達風紀委員の方はそうでは有りません」


 満面の笑みで放たれた否定の心境。

 断固として恋路部を弾圧を企てる校内の組織は、計り知れないものがある。


 それは彼女達は恋路部を廃部にしないことだった。


 むしろ、衰退させると言うべきか。


「――ただ、私達は相澤さんと茅月さんを風紀委員にスカウトしに来たんですよ」

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