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25話 解放へのカウントダウン

 貴重な後輩との昼食を終えて。

 乙女心を抱く少女の夢と阻むために現れた般若のお面を被る高校生、そして依頼人として参考となる人物、世良正雪の事情の一部を確かに聞いた。


「先輩、また一緒にご飯食べましょうね!」

「おう」


 とりあえず返事をする。

 すると愛花は笑顔を保ちこちらに向けて手を振りながら涼華と共に姿を消した。あくまでも推測だが、多分二度とあの子達とは昼食を取らないだろう。


 イケメンという最大のメインディッシュが本腰に据えるなら。

 注文してない前菜など、口にしたりしない。


「きっと、その偶然の機会は永久的にないと思うけどな」


 訪ねてきたのは単純な興味。明日のための話題。本人から聞き出したソースで改竄されてしまう恐れがある。彼女らの口から一言も約束事すら開かなかったのだから、後で問い詰めようがもう遅い。不条理な弾圧で糾弾されるのがオチだ。


 大体、相席するその神経を疑う。


「情報を手に入れたことは、ある程度譲歩してやるけど」


 乗り気がしない。

 可愛い見た目をして他人を貶めていたら流石に幻滅。都会の人を信用できないのはつまりこういう駆け引きみたいな騙し合いがあるからか。


 助け合いが馬鹿馬鹿しくなってくる。

 人の為ではなく自分の為に行動しているのなら、誰だって疑うのは当然だ。


「……結局は分からないものだな」


 念のため風紀委員から逃れるように、賑わい場所から静かに離れる。


 残り少ない昼休みの時間をどう活用するか。ストーカーを探すために削るのなら状況を整理する賢明な判断が必要。単独行動は自由でも、引き換えに様々な人達の行く末を正しく導かなければいけない。


 依頼を解決するだけなら誰にでも出来るものだ。

 最も難しいのは、亀裂を修復するキッカケを把握しなければ全て水の泡になる。


 それを気付かない愚か者は。

 ただの共犯者だ。


「なぜ、関係が拗れたんだろう」





 淡々と授業をこなし、結局は放課後を迎えた。

 徐々に近付くテスト期間。それでも余裕綽々の様子を示すクラスメイトの行動力は相変わらず青春に向けている。所謂勉強よりも遊びの方が大事というワケだ。


「後で世良くんに勉強教えて貰えばいいよ~」


 これがリア充の答え。

 好意を抱く人物には弱さを晒し、構って貰う泥棒猫のように尻尾を振る。嫌いになりたくないから、同調するだけのイエスちゃんは主人公に従う。


 従順なビッチ擬きの誕生である。


「つーか、俺達をダシにしてるんじゃ……」

「は? 世良くんを呼べるだけで居る意味あるから。なに言ってんの? 童貞?」


 この酷い言われようは相手に関して何かしらの感情を浮かばない。


 道具だ。主役を呼ぶだけのモブキャラであると、カーストの序列が高い女子高生は所詮見下しているに過ぎないのだ。


 簡単に誹謗できる人は羨ましい限り。

 権利さえあれば、好きなだけ『使い捨て』をパシリに出来るのだから。

 恐ろしい。


「丹羽がいないと世良くん来ないじゃん。それぐらい分からないの? バカァ?」


「あ? キャンキャン言わせてやったのに悪口しか言ってねぇだろテメェ。テストが迫っているのに部活はあるわで呼べる余裕なんてねぇわ! 中島が呼べよ!」


「な、なによ……ッ!」


 堪忍の緒が途切れて教室内でパルチザン決行。


 今まで黙っていた草食系男子が激怒。

 忽ち一部の女子達と対立関係に。

 揉め事でも第三者は見ないフリをしてこの場から離れるだけ。手を出したりはせず、冷静に帰宅をするか部活をするだけ。巻き込まれたら無傷ではいられないし、無駄な戦いに時間を裂く方が悪いと内心から思っていることだ。


 弥彦もまた同じ理由で退避していた。


「アホか」


 完全に怒号が聞こえなくなった所で、弥彦は恋路部を目指して移動する。


 たとえ着いたとしても二人は来ない。

 別々で依頼を解決させている以上、彼女達が万が一部室に来る可能性は少ないと考えるべきだ。


 正雪と共に行動する契と。

 情報収集に長けた理世。


 彼女達に任せていれば自動的にストーカーの正体は直に暴かれる。

 今週か、はたまた来週か。


 正直期待していた部分はそれだ。犯人が女性なら対抗できるのは女性しかない。狂う恋心を読むのは難しい。当然弥彦は男だから不可能の領域だ。執念深く相手に付き纏う以前に、そのような感情を抱かないのだから。


 そのために彼女を任せた。

 いや、後任せにした方が正しいと言うべきか。


「……」


 ただ部室に行くだけなのに、足は止まっていた。


 罪悪感が悪足掻きをしている。二人だけの部員を雑に扱っている部長ただ一人。ロクに会話などせず、一方的な見解で彼女達から距離を置いている。


 勝利に導くための駒は、あくまでゲームみたいに。

 口実が効く彼女達は何のために入部してきたのか、分からなくなるのだ。


 どうしてこの道を決めたのか。


「アイツらとは、まともに会話していないのに……」


 振り返ると、ほとんどが個人の活躍だった。組織の連携すら皆無の同調の多さ。部長の指示に従うだけに全うしている部員は否定せずに現在に至る。そして、この現状は明らかな部活動の曖昧さを露呈していた。


 かの生徒会副会長の時と同じく。


 自身の利己的な偏見によって暴走した結果、内部から軋轢が生じてしまった。


 それはまさしく連携やチームワークが乱れた。

 途方に暮れたワガママなのだろう。


「……いや、違うか」


 不意に微笑を浮かべ、弥彦は前を見据える。その先にある恋路部。夕日に黄昏た景色は寂寛さを覚える。人を寄せ付けなかった本来の姿がそこにはあって。


 部室ある方向から真逆へ進む。

 あともう少しの所なのに、手を伸ばすのを諦めた。


 居場所を求めた先に辿り着いたのは一階にあるピロティだった。都合がいいことに誰も居ない。缶コーヒーを購入してベンチに腰掛けると寡黙気味に。


「難しいな。人間関係は。とことん上手く行かないなんて」


 理世に向けて示した行動も契に向けた言葉も。果たして伝わったのか曖昧で距離の駆け引きは停滞している。


 築いてきた関係が壊れてしまったら。

 もしもその未来が来るのであれば、弥彦の選択は失敗であると潔白しよう。


 優しさが誰かを傷付ける事を。


「あの時と同じ結果になるならいっそ……」


 プルタブを開けようとした途端、携帯端末の通知音が鳴りはじめた。画面を確認してみると電話表示。しかもその相手は担任の先生秦村吉報であった。


 これは珍しい。

 明日は土砂降り模様の天気になるかもしれない。


「なんだよ、暇なのか。あの先生は」


 無視して怒られるのは嫌なので、とりあえず弥彦は真面目に電話に応答。すると向こう側から雑音が少し掛かった声が返ってくる。


「先生ですか」

『もしもし、ああ、秦村だ。ちょっと新藤に確認したいものがあってな、お前今何をしている? 出来れば現状報告をしてくれ』

「相変わらず模索中です」


 職員室にいるのか他人の声がよく分かる。笑い声は体育教師しかいない。

 秦村はその言葉を聞いて、


『そうかそうか。ご苦労。苦戦はしているようだな。確かに今回の依頼は厄介なものだろう。世良の言うストーカーも早々姿を見せてくれまい。だがお前の慧眼なら容易いものだろ。時間の問題だ』


「いえ、以前として正体は不明。あと進展は停滞しています」

『マジか』


 落胆したような声を溢す。しかしあっという間に我に返る秦村。


『その原因はなんだ。試験に出る問題じゃないだろ。お前は何処で躓いている』

「さあ、どうだか」


 肩を竦めて鼻で笑う。

 他人に情報を漏洩するのは大問題。たとえ同じ部活のメンバーでさえ許すワケがない。依頼を解決するために犠牲なしで得られない。だったら犠牲になるのが相応しい弥彦が結果に出せれば、誰も傷付かないのだ。


 単独行動の意味はその為にある。


 描いた信条を守り通すと決めた弥彦に対し、秦村は怪訝そうな反応をする。


『茶化すな。お前を見込んで依頼を任せた。民間人でも解決できる程度のレベルを苦戦するとは思えないが。まさか、連携できていないんだろうな?』


「連携はできてますよ。相澤が筆頭として世良をサポートに徹しているので」


『そんなのは既に把握済みだ』


 恋路部の顧問だけあって情報を見過ごさない。

 詰まらない反応を残す秦村は部長について煙たく思っているのか、


『つーか、お前本当にアイツ等と連絡取っているのかよ。仲間なら協力するもんだろうが普通。異義を唱えるばかりでは、解決しようにも不可能だぞ。大体、他人に妥協する気がない時点でお前の行動は筒抜けなんだよ』


「……別に連絡しなくても、部活は出来るだけじゃないですか」


「それは白状したと捉えてもいいんだな?」


 何時にない冷酷な態度がやけに厳しく、電話中なのに威圧感を覚える。


 今までの依頼をこなしてきたのはいつも一人だった。

 以前の高校生活も変わらずに。いじめを終わらせたのも同じ状況。特別な立場を利用して得られたものは、掛け換えのない親友と一方的な排除。


 ニュートラルの選択は五分五分の結果に終わった。

 今度は嗜好を変えて、弥彦は誰かのために突き進もうと発奮していたのに。


「確かにこの依頼はお前一人でも解決できる。その程度の許容範囲なんだ」

「あの抜かりない身分でも、事件性には程遠いのか」


 すると秦村は面白そうなアクションを起こす。


「ははは、そんなのは言わなくても分かるだろう。身分が世間離れをしている世良だが、あくまでも一人の学生に過ぎない。ストーカーという事件に発展しても警察沙汰にならないんだ。この意味を、お前は分かるかな?」


「最初から知っていれば、とっくに解決してますよ」


『嘘付け。お前は真剣に楽しんでるくせに』


 嘘を吐いても意味がない。

 あらゆる示唆を解読する時間は想像以上に必要で。死角を埋める根拠がなければこの問題は隠蔽されてしまう。


 そうなる前に弥彦は行動を決起させる。

 妄想に浸る可哀想な相手を、現実に呼び戻すための布告を。


『……とにかく、お前は二人と世良を協力しろ。言いたいのはそれだけだ。それをクリア出来ないのであれば部長の肩書きを後退させてやるからな』


「善処します」


『あ、そうだ。別にお前はあの二人と距離を置く必要はないんだからな。仲間なんだ、結束なければ勤まらないし、生き恥を曝すぞ。後悔しても先生は知らん』


 画面の向こう側で、やれやれと呆れながら呟いた一言が耳に残る。余計な言葉がなければ弥彦も一言掛けようと思えたが、呆気なく電話は途切れてしまった。


 置いてけぼりにされる弥彦。

 結局景色と共に黄昏ていると、無言のまま缶コーヒーを口に含めた。

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