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22話 ふたりのスピカ

 恋路部は何のために存在するのか。


 とうに解答は誰かに通じて啓蒙している。恋愛関係に悩める少年少女を、当事者本人が自らの判断力を見出だすよう、手助けするために設立された、学生ためだけの生活指導部。


 なのに今回の依頼によって、目指した方向性は若干ズレを生じている。

 ある意味では特殊と言うべきか。


(従来の依頼とは違う部分。それは恋愛感情による怨念であること。当初は陰ながら依頼人に恋心を抱いていたが、ある方向転換によって彼女は哀れなストーカーと化した。犯人は間違いなく危害を加える者であり、放置でもしてみれば甚大な被害を出す。たとえ自分自身さえ犠牲にしてまでも)


 昼休みを現在進行形にして活用していた弥彦。

 食堂でハンバーグ定食を購入。トマトソースが絡むスパゲティをフォークでくるくると回していた。


 今日は独りで食事。

 昨日みたいな誤解が生まれるのは御免で、女王には申し訳ないが、チャイムが鳴った時点で弥彦は風の如く教室から脱走。一番乗りで食堂に着く。


 限定を狙わずにただの勘で選んだ定食。

 しかし好みに合う風味に、丁寧に時間を掛けながら食す。


 案外悪くない。

 トッピングが豊富で栄養を考えているのか野菜が少し多めだ。サラダは歯応えが良く、煮込んだカボチャは十分に甘い。主役に負けじと食欲をそそる豚汁はご飯が無くなってしまいそう。そして圧倒した存在を誇るハンバーグには文句を言う所が有り得なかった。


 要するに美味しかった。甲乙付けがたいくらいに食品が活かされている。


「これが、食堂のお婆ちゃんが作るハンバーグ定食、だと……?」


 弁当に尽くす苦労の数々を知る弥彦は唐突に呟いた。

 明らかに自分の作る料理とは桁違いにまで美味しさを感じる。やはり愛情が込められた物に勝るものはないのか。弥彦は自身の料理の腕前を危惧して、微かに肩を落としてしまう。


「業が深いな……。俺も、鍛練しなければな……」


 一様メモを取ろうと胸元のポケットからペンを取り出して走らせる。

 分からないものばかりだ。


 だからこそ。

 弥彦には知りたい事が沢山ある。

 言葉に出来ないほどの無限に広がる宇宙みたいに。培ってきた知恵と新たな常識は誰かの為に活かして、未来を繋げる道標を築くこと。


 終わりのない人生の荒波を乗り越える糧は、絶対に裏切らない。

 いつか、役に立てると信じて。


 そんな弥彦が心掛ける信条を知らずに、第三者から見れば窓際の転校生。しかし余裕を含ませた貫禄と目線を引き寄せるカリスマ性、複雑化した噂の波が重なることで、注目を集めることは容易だった。


 食堂に集う学生達に空白の席が徐々に無くなる。

 昼食を済ませようとして相席ばかりが増えていく中で、弥彦以外に空いている席を見付けた二人の学生は、人物像を承知した上で恐る恐ると尋ねてきた。


 もちろん、弥彦の方でも目に入る。


「……あの~、すみません。どうしても空いている席が全然見付からなくて、相席になっちゃうんですけど、大丈夫ですかね……?」


 尋ねてきたのは桃色に染めたツインテールの少女だった。

 それも二人組。新品の制服を着た彼女達はどうやら後輩らしく、休める場所を探した結果、弥彦の所に辿り着いた様子だ。


 ここは良心として相席を進める弥彦。

 逆に迷惑がないよう、先輩としての配慮を尽くす。


「問題ないよ。是非利用してくれ」

「ありがとうございますー! あ、ちなみに私の名前は早乙女愛花ですー!」


 ご機嫌良く感謝の言葉を告げるツインテールの少女、早乙女(さおとめ)愛花(あいか)。早速空いている椅子に腰掛けている途中で、トレイを持ちながら弥彦の反応を伺う、もう一人の黒髪の少女と偶然にも目が合う。


 何処かで見掛けた覚えがある。


「あれ、確か君は……」

「有馬涼華です」


 思い出した。

 購買の時にレジカウンターの前で会計をしていたあの少女だ。


 有馬(ありま)涼華(りょうか)

 紺色掛かったセミロング。サファイアみたいな深い青色の瞳。華奢な体躯と透き通った白い肌は水粒を弾きそうに。都会の喧騒よりも静かな自然が似合う彼女は、縮こまりながら上目遣いで話した。


「あ、の……。覚えています、か? 購買の時に見かけた……」


「そうだな。あの時は覚えているよ。俺の場合では逆に知られているようだけど」


「はい。新藤弥彦さんですよね」


「えええ、もしかして、ほ、本当に新藤先輩なんですか!?」


 今更気付いたのかテーブルを乗り上げるような姿勢を取るツインテール少女。

 流石に苦笑い。


「あ、ああ。そうか、もしも嫌だったら、俺がここから離れるよ」


「あーいえいえ! そんな気にしないで下さい! ただの噂話ですよ。私達は信じてませんから、先輩逃げないで!」


「逃げないからせめて制服引っ張らないでくれないか……」


 押しに弱かった弥彦。

 華やかな後輩達が囲うテーブルに居座ることに。

 改めて昼食を続行することになったが、どうしても二人の興味を示した目線が気になって仕方がない。


「何か用?」

「いいえいいえ、何でもないです。新藤先輩はこのまま自然と食べてて下さい!」

「……実は先輩の噂話について、気になる部分があるんです」

「涼華ちゃん……ッ!?」


 相容れぬ両者の意見が対立した。

 え? そんな話聞いてないよ、みたいな反応で首を傾げる落ち着いた少女。一方で本題に突っ込んでしまった時の裏切られた感に思い出がないのか、ツインテールの少女は驚愕して何度も瞬きをしてしまう。


 そして悲しい事に。

 スポットライトを当てられているハズの弥彦は等閑視されていた。

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