表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/66

3話  挨拶は大事

 サスペンスの話題は教室中に広がるばかり。


 それは拡散するように行き渡り、隣の人に感染していく。恐怖という純粋な刺激に虜となったクラスメイト達は話題を大袈裟に豹変させ、本来の原型を留めなくさせている事を知らない。


 吹き零れた鍋に蓋をする行為に一体何の意味があるのか。

 弥彦はその真相を知りたくなった。


(感覚に囚われるほどの話題。それほど刺激的に見えてしまうぐらいに、強烈で眠気を覚ますサプライズが転がっていたのか。なんか釈然としないな……)


 孤立無援で考える。

 腕を組み静かに前を見据える弥彦。伊達メガネを掛けながらも視界に支障は来さず、他人を寄せ付けない雰囲気を放つ。


 この世は不条理に出来ている。

 人と対して妥協を交わしても、裏側の顔はそうではない。

 何処かで侮辱しているのだ。無意識に。無自覚に。知らない間に自身は他人を貶している事実を。耳元に囁く悪魔の助言に従い、無味の人間関係を狂い寄せる。それは陽気に心を踊らせて。


 争いが絶えないのは相手が同じ人間だから。

 些細なキッカケで小さな喧嘩が勃発するのは優劣を感じてしまうから。


 強者を批難し、弱者を弾圧する。


 あってはならない案件が当たり前のように仕組んでいるこのご時世。残念ながら誰も改善する余地はなく、解決策は闇雲に隠されて依然不透明なままだ。


 むしろ、誰も改善したくないと言うべきか。

 黒歴史は掘り下げたくはない、と。


(本当は見たくないのに何故か見たくなる。対抗恐怖が働いているワケではないし、他人をネタにして哄笑するだけなら、……それはそれで怖すぎる)


 集団が行動する一致したエゴイズムに弥彦は理解できない。


(ネットの晒し者。それが人間の新しい冷戦なのかもしれない……)


 世間が注目するストーカーよりも。

 騒動を起こす人達の心境が末恐ろしい。どうして人の反応を愉悦として楽しむのか意味不明だ。全く理解出来ない。匿名を装った愉快犯の犯行は決して許されず、ただただ規律を乱すだけだというのに。


 常識が歪んだ実態は実に奇妙である。


(うーん、動画を見るのは遠慮しとこう)


 興味から払拭する弥彦は携帯端末を手元から離す。中途半端な知識で知った呪いの動画から解放されるがために。知らない方が幸せな瞬間を取り戻すべく、いつものように、机に踞ろうとした。


「おはよう。彦くん」


 そこで聞き覚えのある声が聞こえたではないか。

 気まずい雰囲気が唐突に立ち込める中、微妙な反応を示す弥彦は見上げる。


 視界に映る人物。

 気になって声を掛けていたのはボブカットの髪型をした黒髪の少女。

 上品さを振る舞う仕草と可憐と清楚を両立する容姿を兼ね備えたクラスメイトであり、異性を問わず注目を集める有名人。美少女という言葉が相応しいほどの彼女は、転校生でもある弥彦を知っていた。


 恋路部の正式メンバー、相澤(あいざわ)(ちぎり)

 トップカーストに君臨するみんなのヒロインが挨拶してきたのだ。


「おはよう。彦くん」


 今度は親しみを込めて笑顔に。

 机の向こうに側立ちなから、両手を後ろに回した彼女の姿を見て弥彦は、


「ああ、おはよう。……いや、いやいや、これはちょっとまて」


 一人勝手に教室を出た。難しそうな顔をしてこの場から去る。

 しかし契はその背中姿を追ってみせる。もちろん、笑顔を崩さずに。鴨の親子の列になって歩く二人はある程度教室から離れた廊下で会話は続行した。


「なぜあの場面で挨拶なんてしたし」

「え? 普通のことだよ?」

「それは分かってる。でも教室で挨拶する必要があったのか」


 後に気付けば自然と挨拶を交わす。

 今まで沈黙を押し通していたのに、契の挨拶だけで意図も簡単に破られてしまうのは、弥彦側として腑に落ちない結果だった。


「うん? 教室で挨拶しちゃ駄目なの? それは決まりごと?」

「別に何も」


 手を振って否定する弥彦に「へぇー、そうなんだー」みたいな呑気な反応をする契。話が噛み合っていない気がする。


「……つーかどうして相澤は他の女子じゃなく俺に話掛けた。暇か」

「違うよ。そこに彦くんが居たからだよ」


 すると弥彦は冴えない表情を浮かべながらも目線をずらし、微笑を返す。

 取り分け乗り気がしない少年はあくまでも消極的。


「相澤のような美少女が何の脈絡もない男子に気楽に挨拶してくれるのがどうも可笑しいんだ。分かる? 現実なら非モテ野郎に声を掛ける女子は存在しない」


「分からないし、ちょっと何言ってるのか分かんない」


「要は理想は幻想なんだ。現実に存在しないものは全部空想ってことだ」


 有りもしない理想を図るのは現実逃避でしかない。だったら、世の中の悪い部分を受け入れて前に進むしか道は開かれない。


 その分、対義となるフィクションはあらゆるものを具現化する。夢のような最高のシステムは誰もが憧れる主役になれるだろう。


 だがしかし、物語に必要不可欠な存在を忘れてはならない。

 答えは自分自身の周辺で踊っている。


「つまり、彦くんは空想ってことなの?」

「まあ、そうなる。だから、なるべく人前では話し掛けないようにして貰えると、自分的には高ポイントなんですけど……」

「違うよ。彦くんはね、ちょっとだけ影が薄いだけなんだよ?」


 然り気無く、しかも堂々とディスられた。

 そして規模が違う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ