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2話  青春とは何ぞや?

 今日も退屈な高校生活が始まった。


「美雨おはよー。昨日のチャット見た? あの動画の事なんだけどさー」

「見た見た。ストーカーの奴でしょ。本当にあるなんて怖いよね。小説とかドラマの話だけだと思っていたんだけど、もしも近くに潜んでいたら、……なんてね」

「流石に居ないでしょ」

「心配し過ぎ」


 朝からサスペンス。

 背後から聞こえてくる恐怖を含ませた噂話。

 それを笑い話に変えるギャラリー達は冗談を噛ます。他人事のように済まされる会話の駒は徐々に奇妙に変わり、更に信憑性を募らせていくのだ。


 犯人は、主人公の直ぐ側に潜んでいる事を。


(……少しは他人に遠慮しろよ)


 現在読んでいたサスペンス物の小説が華麗にネタバレされた。

 幻滅する弥彦はページを捲るのを遠慮してしまう。


 人が真剣に時間を潰していたのに。

 それをクラスを率いる女王と愉快な仲間達によって見事に砕かれる。頭部を殴打している犯人が残した決定的なミスを取りこぼさずに。


 積年の恨みは最悪の結果をもたらす災い。執着した人間は誰よりも恐ろしい。

 例えば恋愛沙汰とか。


「でも、この人って私達と同じ高校生なんだよね。しかも同学年くらい?」

「いや学生服が違うから……」


 どの部分に否定してるのかよく分からない。

 小さな可能性に思索する鈴ヶ森美雨。胆が据わっているのか、冷静な風格は崩さない様子を見受ける。対して話題を拒むように自身を抱きながら防御姿勢の冴嶋香子は顔を真っ青にしてしまう。少し意外。綺羅びやかな見た目に反して怖がりで乙女らしい仕草であった。


 というか話題を振ってきたのは彼女の方ではないだろうか……。


「もしかしたら本当にこの学校にいたりして!」

「ちょっと、それはやめて」


 新キャラ。

 名前は知らないが女王のグループに溶け込んでいる様子。茶髪でロングの少女は両耳に十字架のイヤリングを付けており制服のボタンを外すタイプらしく、余計なからかいに香子は頑なに拒否する。


 思わず、嫌な性格の持ち主であると余計に見えてしまう。

 自分が可愛いキャラと分かっている女子ほど、本来の姿を隠している事が多い。


「実はあの人物がストーカーの件について! 積年の恨みによって弱音を握った犯人は隙だらけのこーちゃんに背後から刃物を突き刺すことを望んでいるのだ!」

「私はそんなこと望んでないけど!?」


 そもそも女同士の友達は理想より奇妙だ。


「うーん。私的には気になる部分はあるんだけどなぁ」

「な、なにが!?」


 困った顔をして呟きを吐いた美雨。この人本当にクラスの女王ですか。終始浮き足で話に左右されている金髪JKは強面の赴きも近寄りにくい雰囲気が台無しに。


(高校生活自体がホラーなんだけどね、トップカーストさん)


 あくまでも他人事の噂話。

 正真正銘の幽霊なのではと考えてしまう弥彦は誰にも声を掛けられることが無い日が圧倒している。その戦犯として秦村先生の発言だと転校初日で真実を見付けようが、他人の関わりは限りなく絶望的だ。


 しかし、以前の高校で経験した苦悩よりはまとも。まだ可愛らしい方だ。

 青春を折るキッカケは思い出したくもない。


(全否定されるよりはまだ幸せなんだろうか。自分が一番悪いんだろうけど)


 周辺の話題に興味を持たない。

 ただの通り風のように、過ぎ去るだけのシルエットは霞に消えていく。

 まさしく一人ダイ・ハード。高い技術を持ちながら環境や人間関係も不運扱いにされる可哀想な転校生。居場所も選べないこの世界は不条理に出来ていた。


(あーあ、あの頃描いていた青春ってなんだっけ……)


 過去の思い出は全て黒歴史。ブラックボックスは隠した。

 帰国子女の転校生という稀有なポテンシャルを計って近寄る輩は今や蔑んだ視線を返す。数少ない親友を残して、新天地に辿り着いても地獄は変わらない。


 人は不愉快と言うが、弥彦は違う。

 正しい人間ほど真実に囚われ、囚われた事実に周到と執着し続けていく。


 ため息は不幸の証拠だ。

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