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20.問題山積

 リューズの手を引いて、ユージアは足元の絵を指差した。三つの点に触れ、首を振る。場所も何もわからない。伝わるだろうか。

 リューズが眉を寄せた。三つの点を見つめ、それからユージアの表情を見て頷いた。

「Vi ne scias kie ili estas.」

 それからジェドを振り返った。

「Ĵedo. Ĉu vi havas ideojn?」

 ジェドが前に出た。しゃがみ込んで、地面の絵を凝視する。細めた目が忙しなく動いた。

「La bariero havas tri eksterajn kojnojn...」

 ジェドは指で絵を叩き、まるでパズルを解くような口調で言葉を紡いだ。

「Atentu. La norda pordego ne estas simpla enirejo, ĝi estas la origino, la nulpunkto de nia koordinatsistemo. La bariero funkcias per ekvilibra magia premo.」

 ジェドの指が、ユージアが描いた円の上をぐるっと走る。

「Sed... simple dirite, la pordego estas malfermo. Tie la premo estas malalta. La tri kojnoj kompensas tion. Je 90 gradoj. Oriento, sudo, okcidento. Kruco, kiu subtenas la tuton. Ni vizitos ĉiun, unu post la alia. Tio estas la situacio, ĉu ne, ŝafido?」

 地面の三つの点を消して場所を変えて書き直し、ユージアを見て、最後に現在地の門を軽く叩いた。

 ユージアは目がぐるぐるしそうになった。専門家のように語るジェドの言葉はユージアには難しすぎる。でもジェドの声には確かな自信が滲んでいた。

 絵の横に、ジェドは自分の地図を広げた。結界の円を指で辿る。

「Tio signifas...」

 地図上に三つの点を打った。北の石柱から等間隔に。一つは東の丘陵地帯。一つは南の川沿い。最後の一つは……。

「Unu estas la orienta monteto. La dua estas apud la suda rivero. La tria punkto estas probable en Velgrata, okcidente.」

 ジェドの指が地図上の町の名前を叩いた。リューズの表情が少し険しくなった。

「...Velgrata.」

「La urbo estas plena de homoj... kaj ili estos rimarkitaj, ĉu ne?」

 ラティアがカシューとミルアを見た。外套に覆われた二人の背中を見て眉を上げた。

「……ユージア、あの黒髪の人が地図を見せてる。何か見つけたの?」

 ミルアがジェドの地図を覗き込もうとしている。

「読めねえだろ、ニンゲンの文字だぞ」

「地形は読めるわ」

 ミルアが目を細めた。山の稜線と川の流れを指で辿り、最後の点で止まる。

「……町の近くね。厄介だわ」

 ミルアが険しい顔のリューズを見た。リューズの視線の先にある自身の外套の裾を見て、同じように眉を寄せる。少し動くたびに、翼の先がのぞき、房のある尾が揺れている。

「ぼくは町でも大丈夫だったけど、二人は絶対目立つと思う……」

 カシューがユージアの言葉にぎろりと睨み返し、ユージアの巻き角を覆うフードを乱暴に整えた。

「お前だって大丈夫じゃなかっただろ。ほら、角見えてんぞ」

「ユージアの角ならフードを深くかぶっていれば大丈夫。問題はわたしたちよ、カシュー」

 ミルアがため息をつきながら、自分の外套の膨らみを直そうと身をよじる。しかし、布地が張ってしまい、膨張したようなシルエットは誤魔化せそうになかった。

「わたしは翼と尾。カシューは角と翼と尾……こんな薄手の布じゃ、近づくだけで気づかれるわ」

「だからオレは町に入んなくていいだろ。外で待ってる」

「楔の修復には魔力が要るのよ。待ってるだけじゃ意味がないでしょう」

 カシューが舌打ちした。正論には勝てない。

 ラティアが二人のやり取りを聞きながら、ふと思いついたように、ぱんと手を打った。

「Rjuzu! Mi havas ideon!」

 ラティアがカシューとミルアを交互に指差して、早口で説明を始める。

「Nur kaŝi ilin ne sufiĉas. Ni bezonas ian aŭtoritaton, kiu deturnas la atenton de homoj kaj tenas ilin for.」

 リューズが腕を組んで聞いている。

「La sanktejo havas longajn robojn kun kapuĉoj. Se mi diras, ke ili estas pilgrimantoj sub votoj de silento... neniu demandos!」

「...Pilgrimantoj kun kornoj kaj vosto?」

「Neniu vidas sub la robo!」

 ラティアが自信満々に胸を張った。ジェドが懐疑的な目をしている。

「Hmm. Ĝi povus funkcii. Latia havas la aŭtoritaton de la sanktejo.」

 リューズがユージアを見た。それからカシューとミルアに目を向けて、自分の体を手で覆う仕草をした。

「Kaŝi. En la urbo.」

 全身を覆うような何かが必要なんだ。

「……何か被り物を用意してくれるってこと?」

 ミルアがリューズの仕草を読み取って頷いた。それからラティアを見た。

「あの水色の髪の子、何か心当たりがあるみたい。姿を誤魔化せるなら、あとは言葉ね」

「……黙ってればいいんだろ」

「あなたが黙ってるのが一番難しいでしょうけどね」

「……」

 否定できなかったらしい。外套から飛び出した尾が暴れている。

 とにかく、なんとかなりそうで良かった。

「Rjuzu, dankon.」

 ユージアはリューズの腰にしがみついた。革鎧の硬い感触。汗と土と鉄の匂い。ニンゲンの匂いだ。でも、どこか安心する。

 リューズが笑い、大きな手をぽんとユージアの頭に乗せた。巻き角の間を、不器用に撫でる。

「Heh. Ne dankinde, malgranda.」

 低い声が頭の上から降ってきた。穏やかで温かい。

「……っ」

 カシューの唸り声が背中に刺さった。ユージアが振り返ると、金色の瞳がリューズの手を射殺さんばかりに睨んでいる。翼のシルエットが膨らみ、尾がピンと伸びた。

「おい。離れろ」

「カシュー」

「何だよ。あいつ今ユージアの頭触っただろ。角の近く触っただろ」

「ニンゲンだって頭を撫でるの。悪意はないわ」

「知るか。角は……角は大事だろ」

 カシューがずかずかと歩み寄り、ユージアの肩を掴んでリューズから引き剥がした。リューズが片眉を上げた。怒っている様子はない。むしろ、少し面白そうだ。

「Li estas protektema, ĉu ne?」

「Tre!」

 ラティアがくすくす笑った。カシューがぎろりとラティアを睨む。ラティアは怯まない。にこにこしている。

「...Bone, bone. Se ni finis la salutojn, ni diskutu la planon.」

 ジェドが地図上の東の点を指で叩く。

「La plej proksima punkto estas la orienta monteto. Dutaga marŝo. Ni komencu tie.」

「Konsentite. Ni moviĝu.」

 リューズが地図から顔を上げてユージアに向き直り、南東を指差した。

「Iru.」

 行こう。短い一言。でもその声には冒険の始まりの響きがあった。

「……ユージア。何て?」

 ミルアが外套のフードを直しながら囁いた。

「何だよ。おい。ユージア、説明しろ」

 カシューがユージアの外套の裾を掴んでいる。離さない。子供みたいに。でも目は真剣だ。

「一つ目に向かうって」

 ユージアの説明に、カシューの眉がぴくりと動いた。

「一つ目……あの東の丘か」

「何日か歩くみたいね。地図の感じだと」

 ミルアがジェドの地図をちらりと横目で見た。ジェドがそれに気づいて、少し地図をミルアの方に傾けた。言葉は通じなくても、視線の意味は伝わったらしい。

「ありがとう」

 ミルアが小さく頷いた。ジェドが一瞬きょとんとして、それから無言で頷き返した。

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