第41話 北バリナン
「そう。彼はソラドロアと交易を結ぶことで、北にある魔王の領土と調節接触できるようになった。一方ソラドロアも、ボニファティウスに対抗する手段が欲しい」
それで、自分たちの子どもを婚約させたわけか。
「ディータとの婚約破棄も、脅されたんかものう」
「それはないだろう。あれは本心だよ」
「優しいのう、おめえは」
僕の甘さに、リユが呆れる。
「まあ。ソラドロアの姫とカイムーンの王子は、相思相愛だったわけで、ちょうどよかったのよね」
でも、その関係を親に利用された、と。
「しかもね、滅びたキルリーズの領土を、カイムーンは買い取るって言い出したの」
キルリーズが手に入れば、直接ボニファティウスに接触できる。
「だから、怪しいと?」
「うん。なので先手を打って、ウチで難民を引き取っているわ」
一応、キルリーズはバリナンでも手を出す予定はないという。復興後にまた攻撃されたら、たまったものではないからだ。
「姉さん。彼らの狙いって、なんでしょう?」
「北バリナンって場所があったのは、知ってる?」
バリナンの中で、放置された地帯だ。
「旧シンクレーグ国と争って、ほとんど何も残らなかった国だ。もう、忘れられている」
父が、会話に参加した。
北バリナンの荒れ具合は、シンクレーグを凌ぐ。相当、激しい戦争があったようだ。
「大昔のバリナンって、元々は今より大きかったの。でも魔族の力を利用しようと、もっと領土を拡大しようとしたのね」
南北バリナンで、魔族に対する考え方が全く違ったらしい。南は魔族との戦争を避けて、穏健派だけで発展しようとした国だ。対して北側は戦好きで、民の犠牲もいとわない国家だったという。そのため国家内で意見が対立して、南北に分断されたそうだ。
北バリナン、シンクレーグ、魔族領と三つ巴の戦闘になって、北バリナンは壊滅したらしい。おまけに「魔族とムダな争いをして、国民を危険な目に遭わせた」と、南バリナンの王が北バリナンとの国交を断絶した。
「ただでさえ、仲が悪かったらしいんだけどね」とは、姉の弁である。
「そんな国が、カイムーンとどんな関係があるんです?」
「カイムーンは、南バリナンから逃げ延びた北バリナンの民で構成されているらしいのだ」
バリナンも取り戻せず、魔族の力も手にできなかった北バリナンの生き残りがいるという説があるのだ。
「眉唾だけどな」
「それで生き残ったシンクレーグも、たいがいですが」
「彼らは魔族領土への侵攻を、あきらめていないようだ。自分たちが神であると信じて疑っていないらしい」
「根拠はありますか? 情報提供者は?」
僕が問いかけると、王はため息をつく。
「……カイムーンの王子だ」
国王たる父親の暴君ぶりに、嫌気が差したらしい。彼は廃嫡・亡命すら辞さない姿勢だとか。いっそカイムーンを撃滅してくれとさえ。
「では、カイムーンに協力している側の魔族がいると」
「そう考えていいだろう」
魔族側も、クーデターを企てているとは。
「やはり、穏健派つぶしが目的で」
「だろうな。魔族の間でも、未だに旧シンクレーグ派は多いという。人と手を組めるはずだと」
皮肉にも、人と手を組んでいる側が、世界征服しようと企んでいる。
「カイムーン王は、北バリナンを奪還し、ボニファティウス・南バリナンの両国とも攻撃しようとしている」
二つの国をはさみうちにしようと、考えていたのか。だから海賊でバリナンの領海を取り囲んで、弱体化を狙ったと。バリナンは海に囲まれているから、海域を制御されると国力が下がる。
「だが、失敗した。キルリーズは報復でやられたのだろう」
「キルリーズを滅ぼしたのは、カイムーンと見て間違いはないと?」
「ああ。一連の動きから見て、奴らは魔族の穏健派も始末しているだろう。もう手加減はできん。向こうも切り札だった海賊を潰されている。もっと厳しい戦いになるぞ、ディータ」
「わかりました」
戦争は激化する。もっと力が必要だ。
「シンクレーグの遺跡を当たってみろ。なにかを、先祖が遺しているかもしれない」
「はい!」




