第17話 グレーターデーモン姫の最期
「ん、あほ。あほお。んちゅう……」
リユも、抵抗しない。彼女の方から、口づけを求めてきた。
「いやいや違う違う! アホかって!」
ようやく、リユが夢心地から目覚めたようである。頭の角も、すっかり消えていた。
「戦闘中やぞ! なにをあんたは!」
「でも、あのままだったら魔族は倒せても、こっちだって全滅していた」
せっかく助けたドワーフも、彼らを助けた僕たちも、ドラゴンのブレスに焼かれていただろう。
「なにより、僕は奥さんが正気を失うのは嫌だ。大事な人が、無差別殺人マシーンになるなんて、耐えられない」
「ディータ、お前……ホンマにアホや。でも、んふふ」
名残惜しそうに、リユが口づけをしてきた。
「そういうとこ好きじゃけん」
リユが、「さて」と僕の肩に手を置く。
「それはそうと、ディータ。あんなの、ドラゴンのブレスでないと倒せんぞ。どないするんじゃ?」
「いや。やっつけられるよ」
僕は、ペカディアを睨む。
「ラ、ラブコメは済んだ? こっちは退屈していたんだけど?」
ペカディアが、落ち着きを取り戻していた。
さっきまで、ビビり倒していたくせに。
「ドワーフの王女さん、ドワーフの犠牲はどれくらいだ?」
僕は、ドワーフの王女に声をかける。
王と王妃は、衰弱が激しい。リユとヘニーに、それぞれおぶってもらっていた。
「兵士の六割ほどが、あのデーモン女のせいで犠牲になった」
「そうか」
だったら、容赦する必要はないな。
「せっかくの切り札を、その場の感情で抑え込んでしまうなんて。シンクレーグの領主サマって合理的だって聞いたけど、案外ヘタレなのね!」
「言いたいことは、それだけか?」
横目で、僕はペカディアを睨む。
「なんですってグヘエ!?」
ペカディアがしゃべっている間に、僕はペカディアの腹へ「幻の腕」を叩き込む。
大きくバウンドして、ペカディアは後ろに吹っ飛んだ。しかし、すぐに体勢を立て直す。
「なによ、今の攻撃は? ちっとも痛くないじゃない! アハハ! シンクレーグの王子様って、特殊能力がある割に、ひ弱なのね!」
ペカディアが勝ち誇る。
「後ろ」
僕は、ペカディアの後方を指差す。
「え、なによあなたたち?」
のっしのっしと巨体を揺らしながら、グレーターデーモンがペカディアに歩み寄る。その評定は、姫をいたわるような感情がない。明らかに、エサを前にした様子である。
「ニンゲンなのだ」「それもメスなのだ」「おいしそうなのだ」
あれだけペカディアを慕っていたグレーターデーモンが、今は彼女を人間の女としか見ていない。
「なにがあったの!? 魔族になったあたしの命令は、絶対のはずなのに!?」
「キミから、魔素を取り除いてやったんだ。キミはもう、ただの人間だよ」
僕はヘニーやドワーフたちを助け出すときに、一体化している魔族から切り離すことができる。
これを敵に叩き込んだことで、ペカディアは魔族としての力を失ったのだ。
「やめなさい! やめてお願いああああああ!」
グレーターデーモンの手によって、ペカディアが腕を引きちぎられる。
魔族たちは、ペカディアンの腕や足をムシャムシャと食いちぎった。
「たすけて」
動けなくなったペカディアが、助けを求めてくる。
「なぜ?」
見届けることもせず、僕はその場から離れた。
ダンジョンにペカディア姫の罵声や悲鳴が聞こえるが、誰も耳を貸さない。
僕たちは、ダンジョンの入口まで戻ってきた。
「どうもありがとう。私はテッシム王国の第一王女で――」
テッシムか。魔族のいる領地のさらに北の山岳地帯だな。
「シンクレーグの領主、ディータだ。細かい話は後で。やることがある。皆さんはシンクレーグまで逃げてくれ。このリユが先導する」
「あなたは?」
「僕はダンジョンへ戻る」
デーモンの脅威が、まだ残っているから。




