第16話 ドラゴンのブレスより熱いキス
リユの頭から、ドラゴンの角が生えてくる。ドレスアーマーから大きく露出した背中からは、翼まで。ここは天井の低いダンジョンだから、飛翔のためではない。ブレス発動の際、龍の翼は外気に浮遊する魔素を取り込むのだ。
まさか、リユの正体が、ドラゴンだったとは。
キヴァ家が辺境を守っているのは、ドラゴンの家系だったからかもしれない。普通人としては、生きられないから。
だとすれば、短時間で東洋から海を渡ってこんな辺境まで来た理由も、納得がいく。ドラゴンの腕力で船を漕いでいたのだろう。空を飛んでは各国から敵とみなされて、攻撃される危険があるからだ。まして寂れたシンクレーグになぞ行こうものなら、そこを巣にして近隣諸国を滅ぼすと思われかねない。彼女は合理的観点から、海路を選んだのだ。
リユは冷静であれば、そこまで思考を巡らせることができる。
なのに、このキレっぷり。
グレーターデーモンでさえ、怯えるほど。
「なになになに!? マジヤバイんだけど!?」
デーモンサークルの姫であるペカディアでさえ、へたり込んだ。足がすくんで、その場から動けないらしい。
「お前たちなんとかしなさいよ!」
ペカディアが、配下のデーモンをムチで縛って、引き寄せた。盾にするつもりである。
「ダメなのだ怖いのだ」
「なにをビビってんのよ! あんた上位のデーモンでしょ! 私を守りなさいよ!」
半狂乱になりながら、ペカディアが身勝手な要求をしている。
たしかにヤバイ。これでは、ダンジョンごとふっとばしてしまう。
「ヘニー、助けたドワーフの王族は頼んだ。僕はリユを止めてみる」
「はい、ディータさま!」
僕の指示で、ヘニーが回復魔法をドワーフたちにかける。
怒り狂っているリユに、僕は歩み寄った。
「落ち着くんだリユ、このままだと、ダンジョンに取り残されている人たちまで巻き込みかねねな……」
ダメだ。完全に我を忘れている。
考えるんだ。どうすれば、リユを止められる?
僕は、リユの特徴を考えてみた。
リユは言動こそ荒っぽいが、子どもたちに慕われている。よくシンクレーグの街で、子どもたちの遊び相手をしているのを見かけた。お嬢様なのに、全然偉そうではない。
僕は確信した。やはり世界は僕のような合理主義者ではなく、民の視点に立てる人間でなければ。
「リユ、キミは世界に、なくてはならない存在だ」
思い切って、僕は打ち明けてみた。
「あれ?」
世界への貢献度が高いことを、全力でアピールしてみたのだが。
僕にブレスを直撃させかねないくらいだ。
「お言葉ですがディータさま、女の子は『愛されている感』がないとなびかないかと」
ヘニーが、アドバイスを飛ばしてくる。
つまり、一人の異性として意識させよと。なるほど。僕たちは夫婦だから、愛情を持てば呼び覚ませるだろう。
「たしかにボクは、リユと夫婦の間柄だ。でも、どうやって証明を?」
「それは……」
僕とヘニーが、答えを求めているときだった。
「キ……」
ドワーフの姫様が目を開けて、リユに指をさす。
「キスしろ。ソイツに」
「え!?」
「夫婦なんだろ? キスできるはず」
ドワーフの意見はもっともだ。が、偽装結婚の身でそんなことをするのか?
「愛しているなら、できる」
……うん。それは問題ない。
僕は、リユに口づけをした。
「ホントに、ためらいなくいった!」
ヘニーが、驚いている。
ドワーフたちも、ビックリした顔に。
だが、一番驚愕していたのは、リユだった。
「正気に戻ったか?」
口を離し、語りかける。
「あ、お前、なに、を」
「黙ってろ」
ダメだ。さらにしたくなってきた。
ん、んんちゅ、ちゅっ。
口が触れるだけの軽いキスを数回、ねちっこく舌を絡ませるキスを一回かます。
相手はドラゴンなのに、キスの味が甘い。ブレスを吐く直前だというのに、熱くなんてなかった。
身体が熱いのは、ブレスのせいじゃない。
僕の心が昂ぶっているからだろう。




