表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタク転生令嬢は今日も魔法研究に没頭中~恋愛フラグ?そんなの知りません!~  作者: 真木くるみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/25

8. 面倒な舞踏会

キエド王国では、十五歳になると魔力を持つ者は三年間、魔法学園へ通うことが義務付けられている。

そして毎年、入学前の顔合わせとして――新入生と上級生が一堂に会する大規模な舞踏会が開かれる。


……正直、面倒でしかない。

胸の奥がじんわり重くなる。足取りまで鈍りそうだ。

華やかな場より魔法陣の前の方が、よほど落ち着くのに。


入学式があるのだから、舞踏会など必要ないのでは――と、私は本気で思っている。

そう思えば思うほど、胸の重さは増していく。


だが、王族の厚意で王宮が貸し出されている以上、粗相は許されない。

お母様とカイトからのプレッシャーは、もはや拷問レベルだ。

胸の奥がじわじわと重くなる。


しかも今年は、王太子殿下や公爵家の子息たちも入学するらしく、社交界では例年以上に注目が集まっているという。

十五歳から正式に婚約が可能になるため、令嬢たちはこぞって“未来の旦那様候補”を探しに来るらしい。


「あなたも頑張りなさい!」

お母様はそう言ったが、私は笑って誤魔化した。


――そんな戦場に巻き込まれてたまるものか。

これは舞踏会ではなく、令嬢たちの“婚活戦線”だ。

生半可な気持ちで踏み込める場所じゃない。


私にとっての舞踏会は、初めての王宮で“美味しい料理を食べる日”である。

そうでも思わなければ、気持ちが折れてしまいそうだった。



「フローラ! 待ってたわよ!」

会場に入ると、アーシャが小走りでやってきた。

令嬢の“走り”なので、優雅な早歩き程度だが――その姿を見た瞬間、張りつめていた肩の力がふっと抜けた。


この子は、数少ない“私の素を知っても離れない友達”だ。

今日ほど、その存在が心強く感じたことはない。


「あなた……びっくりよ。とっても素敵ね! こんなにドレス映えするのに、普段は引きこもりだなんて勿体ないわ〜」


「ありがとう。でも一言多いわよ。私は社交より魔法研究第一なの!」


「えー? 褒めてるのに〜」


アーシャは扇で口元を隠しながら笑う。

深紅のドレスが彼女の美貌とスタイルを引き立て、十五歳とは思えない色気を放っていた。


……この子、黙っていれば完璧な令嬢なのに。


そう思った瞬間、アーシャが鋭い視線を向けてきた。


「今、失礼なこと考えたでしょ?」


「まさか〜」


誤魔化すと、アーシャは気にした様子もなく言った。


「お腹すいちゃった。何か食べに行かない?」


「行く!」


元からそのつもりだった私は、即答した。

アーシャも 婚約者探しより食と魔法研究の仲間である。

本当に、良い友達を持ったものだ。



「あ〜美味しかった!」

王宮の料理は、どれも絶品だった。

サラダ、メイン、デザート……すべてが完璧。

胃も心も満たされていくのが分かる。


「本当ね。家の料理も好きだけど、王宮はやっぱり格が違うわ」

アーシャも満足そうに答える。


満腹になった私たちは、壁際の休憩用の椅子に腰掛けた。


「それにしても……王宮の舞踏会広間って、豪華すぎない? キラキラしすぎて目が痛いわ」


私が言うとアーシャも周りを見渡して同意する。


「ふふ、本当よね。調度品(ちょうどひん)も一級品ばかりで、近づくのも怖いわ」


確かに、壊したら人生が終わる気がする。

できるだけ距離を置こう。


「そういえば、玄関ホール横に展示コーナーがあるらしいわよ。何が展示されているか知ってる?」


「え? フローラ見てないの? 私は早めに来たから見たけど……とっても素晴らしかったわ。王族に伝わる宝石や魔法道具が展示されていたの」


「……魔法道具?」


私は目を見開いた。


胸の奥で何かが弾けた。

心臓が跳ね、指先がじんと熱を帯びる。

その単語だけで、頭の中の優先順位が一瞬で塗り替わる。


「ええ。火・水・土・風、すべての力が込められた伝説のSS級魔法道具よ」


――知ってるなんてもんじゃない。

文献で読み、死ぬまでに一度は見たいと思っていた国宝だ。


心臓が跳ねる。息が熱くなる。


「なんでもっと早く言ってくれなかったの!? 私行ってくる!」


「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


アーシャの制止も聞かず、私は立ち上がり、展示コーナーへ走り出した。



会場は広く、ドレスでは走りづらい。

さらに、やたらと声をかけられるのでイライラが募る。


……いや、違う。

ここは顔合わせの場なのだから、会話するのが普通なのだ。

可笑しいのは私の方だ。


ダンスの誘いもやんわり断りながら進んでいると、また一人の男性が近づいてきた。


「はじめまして。ハワード侯爵家嫡男、エリック・ハワードと申します。少々お時間よろしいでしょうか?」


逃げられない。

私は礼を取った。


「はじめまして、ハワード様。クレヴェルト伯爵家長女、フローラ・クレヴェルトと申します」


「クレヴェルト家のご令嬢でしたか。かの有名な深窓(しんそう)の令嬢とお会いできて嬉しいです」


……有名? 深窓?

誰よ、それ。私の知らない“別のフローラ”でも存在しているのかしら。


胸の奥がざわつく。妙な誤解が広まっている気がする。


訂正しようとした瞬間、彼は手を差し出した。


「宜しければダンスを。美しい貴方と踊る名誉を、私に」


周囲から黄色い悲鳴が上がる。


――なるほど、モテるタイプね。


だが私は丁寧に微笑んだ。


「お声がけいただきありがとうございます。あいにく体調が優れないため、休憩しようと思っておりました。また機会がありましたら、ぜひ」


「そうでしたか。では、私が休憩所まで――」


「お気遣いなく。ひとりで大丈夫です」


さすがに諦めたのか、彼は手の甲にキスをして去っていった。


……気障(きざ)な人だ。

でも、悪い人ではなさそう。

ただ、今はそれどころじゃない。


ようやくダンスホール中央に辿り着くと、そこは人で溢れていた。

輪の中心には、王族の紋章(もんしょう)を纏った男性――恐らく王太子殿下。

令嬢たちが群がり、彼は笑顔ながらも明らかに疲れていた。


――お気の毒様。


通り過ぎようとした瞬間、王太子殿下と目が合った。

ロイヤルブルーの瞳。

視線が触れた瞬間、空気が一瞬だけ揺れた気がした。


一瞬、あの少年の顔が脳裏をよぎる。

……違う。

彼は黒髪だった。それに男爵家の出だ。


それでも、胸の奥がわずかにざわついた理由は分からない。


私は軽く会釈し、同情の視線を送って通り過ぎた。


そこからは人も減り、スムーズに展示コーナーへ辿り着いた。


「こ、これが……伝説の魔法道具……」


目が潤む。

何百年も前に作られたとは思えないほど、輝きは失われていない。

精巧(せいこう)で、美しく、圧倒的だった。


その美しさに胸の奥がじんと熱くなり、言葉が出ない。

ただ見惚れるしかなかった。

息をすることさえ忘れそうになる。


しばらくその場に立ち尽くし、ただ輝きに見惚れていた。


――どれほど時間が経ったのだろう。


ようやく周囲の気配が耳に戻ってきた頃、

同じく魔法道具好きらしい男性と少し話したが……正直、内容は覚えていない。

魔法道具に夢中で、失礼な態度を取っていないかだけが心配だ。


結局、私は舞踏会が終わるまで展示コーナーに居座り、

痺れを切らしたアーシャに引きずられて帰ることになった。

8話を読んでくださり、ありがとうございます。

今回は、フローラが“舞踏会”という華やかな場に放り込まれながらも、

結局は 魔法道具への情熱がすべてを上書きしてしまう回 でした。


社交より研究、恋より魔法──

そんな彼女らしさが強く出た一話だったと思います。


次回は、今回の舞踏会で出会った人々が、

フローラの学園生活にどう影響していくのかが動き始めます。

引き続き見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ