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オタク転生令嬢は今日も魔法研究に没頭中~恋愛フラグ?そんなの知りません!~  作者: 真木くるみ


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3/6

3.初めての友達は、嵐の前触れ

前世の記憶を取り戻してから、もう二年が経った。

私は十歳になり、ついに社交界デビューを果たした。


本音を言えば、社交界など興味はない。

部屋に籠もって魔法の勉強をしていたかった。

だが――お母様の前でそんなことを言えるはずもなく。


デビューまでの二週間、魔法の勉強は禁止。

代わりに、お母様直々の“淑女教育”が朝から晩まで続いた。

姿勢、歩き方、笑い方、言葉遣い……。

魔法陣の解析より難しいのでは、と本気で思った。


そして迎えた当日。

お父様にエスコートされ、私は無事にデビューを終えた。

お母様の厳しい指導のおかげで、粗相(そそう)もなく、(つつが)なく。


「これでようやく魔法の勉強に戻れる……!」

そう喜んだ矢先――。


「お茶会……ですか?」

朝食の席で、お母様の言葉を思わず復唱してしまった。


「ええ。高位貴族の御子息やご令嬢が集まるお茶会ですわ。最近デビューした若者ばかりですから、気兼ねなく楽しめますよ」


お母様は優雅に微笑み、お父様も満足げに頷く。


「同世代ばかりのお茶会なんて楽しそうじゃないか。友達もできるかもしれんぞ、フローラ」


「そ、そうですわね……」


――これは、断れないやつだ。


友達。

確かに、魔法の勉強ばかりで友達を作る暇などなかった。

欲しくないと言えば嘘になる。

できれば、魔法好きの友達が欲しい。


「姉さんだけで大丈夫でしょうか? 一人で参加するのでしょう?」


九歳のカイトはまだ社交界デビュー前。

当然、お茶会には参加できない。

けれど最近は礼儀作法も板につき、背筋もすっと伸びてきた。

この調子なら、デビューの頃には立派に場をこなしてしまいそうだ――

そんな成長ぶりを思うと、少し誇らしくなる。


カイトの問いかけに、お母様は少しだけ眉を寄せた。


「しっかり者のカイトが一緒なら安心なのだけれど……。でも、同世代の軽い集まりですし、多少の粗相なら問題ありませんわ」


お母様の微笑みは完璧だった。

けれど、その目だけは少しも笑っていない。

“淑女として失敗は許しませんよ”という圧が、静かに突き刺さる。


「フローラなら大丈夫さ! お母様に習ったことを思い出して頑張るんだぞ?」


能天気なお父様がウインクを飛ばす。

私は引きつった笑みで頷くしかなかった。



ローズとメイドたちに完璧に仕上げてもらった私は、重たいドレスに辟易(へきえき)しながら会場へと到着した。


噴水の水音が遠くで静かに響き、金糸の刺繍が施されたテーブルクロスが陽光を受けてきらめく。

華やかさと緊張が入り混じった空気が、肌にまとわりついた。


庭園には花々が咲き誇り、いくつものテーブルと椅子が整然と並べられている。


主催者の挨拶が終わると、参加者たちは思い思いに会話を楽しみ始めた。


私はというと――。


「みんな慣れてるわね……。できるだけ目立たないようにしよっと」


庭の隅で、そっと様子を窺っていた。

人の輪に入る勇気がまだ出なくて、気づけば足が勝手に端へ逃げてしまう。


けれど、今日は“友達が欲しい”という小さな願いが胸の奥でくすぶっていた。


そのとき、数メートル先に、私と同じように隅でおどおどしている少女がいた。


肩をすくめ、周囲の視線を気にしている様子が、自分を見ているようで胸がきゅっとなる。


目が合う。

ぱちん、と。


――もしかして、友達になるチャンス……?


心臓がひとつ跳ねた。

逃げたい気持ちと、踏み出したい気持ちが胸の中でせめぎ合う。


ほんの一瞬の逡巡(しゅんじゅん)のあと、私は小さく息を吸い込んだ。

意を決して歩み寄る。


「ご、御機嫌よう。クレヴェルト伯爵家の長女、フローラ・クレヴェルトと申します」


緊張で声が震える。

だが、彼女も同じだった。


「は、初めまして。サーデル侯爵家の次女、レイチェル・サーデルと申します……」


か細い声で礼を返してくれる。

そのぎこちなさに、私は少し安心した。


「レイチェル様は、あちらに行かれないのですか?」


中央の(にぎ)やかなテーブルをちらりと見る。


「はい……。私、思ったことをすぐ口にしてしまうタイプで……。母から社交の場では“淑やかに静かに”と言われておりますの。ですので、誰とも話さずに時が過ぎるのを待っているのですわ」


遠い目をするレイチェル。


――なんと、私と同じだ。


「私もです! 社交界って相手の胸の内が見えないことも多くて、どうにも億劫(おっくう)で」


(本当は、魔法の時間を削られるのが何より堪えるのだけれど……)


心の中でそっと付け加える。


その瞬間、レイチェルは突然、私の両手をぎゅっと握りしめた。

握られた手に、ほんの一瞬だけ妙な力がこもった気がする。

けれど、胸に広がった嬉しさの方が勝って、その違和感はすぐに沈んでいった。


「そ、そうですわよね! 本当に良く分かりますわ! 良かった……私だけじゃなかったのですね! 私たち、友達になれそうですわ!」


手をブンブン振られ、私は思わずたじろぐ。


「そ、そうですね……。ぜひ、お友達に……」


胸の奥がふわりとほどけていくような感覚が広がる。

こんなふうに誰かから“友達になりたい”と言われるなんて、思ってもみなかった。


私たちは手を取り合って近くの席に着き、お茶や菓子を楽しみながら、趣味や家族の話で盛り上がった。


(このティーカップ……底に魔力加工が施されている?いや、ただの装飾かしら……)


つい魔法のことばかり考えてしまう自分に、苦笑が漏れる。


嬉しさのあまり、私はつい口が滑った。

――魔法の研究が好きで、部屋に籠もって魔法の勉強ばかりしていること。


レイチェルはにこりと微笑んだ。

その笑顔が、一瞬だけ固まったように見えたのは……気のせいだと思った。


レイチェルがその笑顔の裏に何を隠しているのか、その時の私はまだ気づいていなかった。



お茶会も後半に差し掛かった頃、レイチェルがそっと私の袖を引いた。


「フローラ様……あちらの輪に入ってみませんか? フローラ様と一緒なら、私……大丈夫な気がしますの」


彼女が視線を向けた先には、中央で談笑する大きな人だかりがあった。


「しかし……」


気後れする私に、レイチェルはさらに言葉を重ねる。


「場の雰囲気にも慣れてきましたし、本日話した相手がフローラ様お一人だけとなると……流石に母に叱られてしまいますわ」


確かに、私も“できるだけ交流してきなさい”と言われていた。


本音を言えば、知らない人と話すのは得意ではないし、できればレイチェルとだけ静かに過ごしていたい。


けれど、まったく誰とも話さずに帰るのは、さすがにまずい――。

そんな義務感が、胸の奥でじわりと顔を出す。


気は進まないが、このまま逃げ腰で終わるわけにもいかない。


「……分かりました。レイチェル様と一緒なら、安心です。いざ、戦場へ飛び込みましょう!」


試験より緊張するなんて、思ってもみなかった。

けれど――レイチェルが隣にいるなら、きっと大丈夫。


私は小さく拳を握り、そっと覚悟を固める。

その仕草に、レイチェルがくすりと笑った。


「ふふ……本当に面白い方ですわね。では、参りましょう」


――この日、私は“初めての友達”を得た。

けれど同時に、

この出会いが後に大きな嵐を呼ぶことになるとは、まだ知らなかった。

第3話を読んでくださり、ありがとうございます。

今回は、幼いフローラが“初めての友達”と出会う大切な回でした。


魔法の勉強ばかりだった彼女にとって、

レイチェルとの出会いは小さな一歩であり、

同時に、後の物語に大きく影響する出来事でもあります。


この先、二人の関係がどのように変化していくのか、

ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。


次回も 火曜・木曜の21時頃 に更新予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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