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オタク転生令嬢は今日も魔法研究に没頭中~恋愛フラグ?そんなの知りません!~  作者: 真木くるみ


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22/25

22.厄介な隣人②(ロイデル視点)

試験が終わった翌日、思わぬところで“あの令嬢”と再会した。


Aクラスの教室に入り、席を確認して腰を下ろそうとした瞬間――

昨日、俺を医務室へ運んだ張本人が、よりによって“隣の席”に座っていたのだ。


だが、彼女はこちらに気づく様子もなく、後ろの席の令嬢と楽しげに談笑している。

笑うたびに揺れるハニーブロンドの髪、柔らかく綻ぶ横顔。


(……可愛い、などと思った俺はどうかしている)


慌てて頭を振る。

貴族令嬢なんて、どいつもこいつも同じだ。

俺を“カウスト家の跡継ぎ”としてしか見ない。

容姿や家柄に群がる令嬢達には、もううんざりしている。


――警戒心を緩めるな。


そう自分に言い聞かせているうちに、教師が入ってきた。

彼女はこちらを一度も見ず、授業の説明が始まる。


気づいてほしかった、なんて……そんなこと、思っていない。

……思っていない。


学校説明と自己紹介が終わり、本日は解散となった。


(礼を言うだけだ。礼を言えば終わりだ)


面倒だが、隣の席へ身体を向ける。

俺から令嬢に話しかけるなど滅多にないことで、妙に緊張する。


覚悟を決めて声をかけた。


「おい……」


もっと他に言い方があっただろうが、つい乱暴な口調になってしまった。


「えっと……はい、私でしょうか?」


彼女は首を傾げ、まったく気分を害した様子もない。


「昨日は……その、ありがとな。頼んだ覚えはないが、一応言っておく。助かった」


一気にまくし立てるように言い切る。

これで礼は言った。満足だろう。


だが返ってきたのは予想外の反応だった。


「昨日……とは?」


困ったように眉を寄せる。


「は? 俺を医務室まで運んだだろ! しかもかなり強引に。覚えてないのか?」


すると彼女は目を丸くし――


「あっ! あなたでしたか! マスクでよく顔が見えなかったもので……すみません」


と、申し訳なさそうに謝った。


(……まぁ、確かにマスクしてたしな)


「体調はもう大丈夫ですか?」


「薬を飲んで寝たら治った」


そう答えると、彼女はほっとしたように笑った。


(……俺の風邪が治って、何でそんなに嬉しそうなんだ)


こいつは、どうやら相当なお人好しらしい。

今まで令嬢に対して抱いていた嫌悪感が、彼女には不思議と湧いてこない。


「それは良かったです。あの……申し訳ないのですが、自己紹介でぼーっとしていて聞きそびれたので、お名前を教えていただけませんか? 私はフローラ・クレヴェルトと言います」


(聞いてなかったのかよ……抜けてるな)


「俺はロイデル・カウストだ。まぁ、よろしく」


名乗った瞬間、彼女の瞳の色が変わった。


(……あぁ、やっぱりこいつも同じか)


胸の奥が冷めていく。

同時に、ほんの少しだけ残念だと思った自分に驚く。


――なぜ残念なのだ。


「えっと……カウスト家って、数々の魔法道具を世に生み出している、あのカウスト家ですか?」


「まぁ、そうだが……」


「カウスト家の方と会えて感激しています……とても。カウスト様も制作に携われるのですか?」


(……やっぱりか)


もう聞きたくなかった。

彼女が他の令嬢と同じだと思うと、胸の奥がざらつく。


ちょうどその時、彼女が誰かに呼ばれた。


「じゃ、俺はこれで」


逃げるようにその場を離れた。

カウスト家の名に飛びつく令嬢達には、もううんざりだ。


だが――


俺が名乗った日を境に、フローラは事あるごとに俺と友人になりたがった。

冷たくあしらっても、めげる気配がない。

魔法道具まで持ってきて「私が作った」などと嘘をつく始末。


(そろそろ堪忍袋の緒が切れる……)


そう思っていたところ、


「魔法道具を作っているのが本当なら友人になる」


という約束を、つい口にしてしまった。


どうせ嘘だ。

これ以上何か言ってくることもないだろう。


……そう思っていた。


だが数日後、彼女は諦めるどころか“自分の部屋に来い”と言い出した。


(……は?)


流石の俺も驚いた。

俺だって一応、年頃の男だ。

こいつが嫌いとはいえ、見た目がいいのは事実。


ブルーの瞳は宝石のように輝き、

ハニーブロンドの髪は光を受けて柔らかく揺れる。


――いやいやいやいや。


これは思春期特有の生理現象だ。

仕方がない。そういうことにしておく。


話を戻すと――

これは誘われているのか?

俗に言う“色仕掛け”というやつか?

それとも単に馬鹿なのか?


パニックになりかけた頭を叩き起こし、

俺は「友人を連れていく」という条件で了承した。


向こうも友人を連れてくるらしい。

カウスト家の跡継ぎとして、

この詐欺師の嘘を暴いてやらなければならない。


(ついに決着をつける時が来た)


俺はそう意気込んでいた。


――まさか、あんな結果になるとは知らずに。



幼馴染のダニエルに事情を話すと、


「貸し、一つね」


と、腹黒い笑みを浮かべた。


(……性悪男め。あとで何を要求されるか分かったもんじゃない)


ため息をつきながら女子寮へ向かうと、こちらへ歩いてくる女子生徒がいた。


「あ、フォスターさんだね。ほら、クレヴェルトさんといつも一緒にいる」


ダニエルが耳打ちしてくる。


「知らん。そうなのか」


ということは、フローラが連れてくると言っていた友人がこのフォスターらしい。


ダニエルが声をかけると、彼女はにこやかに頷いた。

軽く挨拶を交わし、三人でフローラの部屋へ向かう。


(……女性の部屋に入るのは初めてだ。なんで俺がこんなことで緊張してるんだ)


今さらながら後悔が押し寄せる。


ダニエルが代表してドアをノックし、入室した瞬間――

ふわりと甘い香りが漂い、思わずよろめきそうになる。


(これが……女性の部屋の匂い……?母上や妹の部屋とも違う……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない)


気を引き締め直す。


フローラがお茶を勧めてきたが、俺は「早く魔法道具を見せろ」と強めの口調で返した。

ダニエルが苦笑していたが、無視する。


だがフローラは、そんな俺の態度を気にする様子もなく、

「どうぞ」と奥へ案内した。


そして、布を外した瞬間――

俺は息を呑んだ。


磨き上げられた道具類。

丁寧に描き込まれたスケッチ。

独創的な魔法道具の数々。


(……なんだ、これは)


宝の山と言ってもいい。

趣味の域を超えている。


「わぁ、すごいね……」


ダニエルも素直に感嘆の声を漏らした。


「これは何?」


俺が言葉を失っている間に、ダニエルが代わりに尋ねる。


「これは“歌う時計”です。一時、二時……と順番に歌い出します。こちらは“飛行カーペット”で――」


フローラは淡々と説明していく。


発想が面白い。

実用化にはまだ課題があるが、精巧に作られている。


フォスターも同じ趣味を持っているらしい。

俺の中の“貴族令嬢像”が、音を立てて崩れていく。


フォスターが苦笑しながら言った。


「ふふ、皆さん同じ顔をされますわ。意外でしょう?」


図星すぎて返す言葉もない。


気まずい沈黙を破ったのは、フローラの声だった。


「あのー、カウスト様。信じていただけましたか?」


はっと我に返る。


(……そうだ。何か言わなければ)


深呼吸し、素直に頭を下げた。


「悪かった。疑うようなことを言って」


疑う理由は、もうどこにもなかった。

魔法道具に関する説明は的確で、嘘をついている気配は微塵もない。

ここまで周到に偽装するのは不可能だ。


胸の奥にあったモヤモヤが、すっと消えていく。


フォスターの提案で、お茶会が始まった。


(……怒りもしないし、責めもしない。どういう性格なんだこいつは)


気まずさを抱えながら紅茶を一口飲む。


「ん……美味い」


ふんわりと甘い香りが広がり、気持ちが落ち着く。


「ありがとうございます。クレヴェルト領産の茶葉なんです。お菓子もどうぞ」


フローラは嬉しそうに微笑み、俺の皿に次々と菓子を乗せてくる。


(いや、そんなに食えん…………って、その笑顔は心臓に悪いからやめろ)


俺は話題を変えるように切り出した。


「例の約束についてなんだが……」


「約束ってなんでしたっけ?」


(……は?)


「魔法道具を作っているのが本当なら、友人になるという話だろ。まさか忘れたのか?」


お前から言い出したんだろうが。


フローラは慌てて謝罪した。


「もういい。約束は約束だ。了承してやる」


そう言うと、彼女はぱっと顔を輝かせた。


(……なんでこんなにイライラするんだ)


イライラなのかどうかも分からない。

ダニエルは横で茶々を入れてくるし、鬱陶しい。


するとフローラが、とんでもない爆弾を投下した。


「ありがとうございます。では、友人に隠し事はしたくないので……正直に話しますね。友人になりたかったのは、その……始めは下心があったからなんです……」


……は?


「なっ……お前!? は?」


俺の思考は完全に停止した。


下心?

つまり、それって――


「ん? どうしたのみんなそんなに慌てて。でもちゃんと説明しますね」


フローラは悪びれもせず、研究会の話を説明し始めた。


(……紛らわしい言い方をするな!)


勘違いした恥ずかしさ、ほんの少しの残念さ、

そしてフローラへの怒り――


頭の中がぐちゃぐちゃになる。


だが、なんとか冷静さを取り戻し、研究会への参加を了承した。


魔法道具の研究は俺も好きだ。

同世代で研究会を作るのは、カウスト家の跡継ぎとしても良い経験になる。


「ありがとうございます! う、嬉しいです!」


フローラが満面の笑みを浮かべた瞬間――


(……っ! だからその笑顔はやめろっての……)


調子が狂う。

だが、悪い気はしない。


最初は、カウスト家に近づく令嬢の一人だと思っていた。

だが違った。


彼女はただ魔法道具が好きで、カウスト家の魔法道具と技術に興味があって、俺や仲間と研究会を作りたかっただけ。


――それが分かった今、胸の奥が妙に温かい。


理由は分からない。

だが確かに、俺は“嬉しい”と感じていた。

22話を読んでくださりありがとうございます。

今回は、ロイデル視点で“フローラへの印象が大きく揺れ動く回”でした。

最初は警戒と嫌悪しかなかった彼が、

彼女の行動や魔法、そして真っ直ぐな気持ちに触れることで、

少しずつ心の壁が崩れていく様子を描きました。


次話では、楽しい研究室の詳細がさらに見えてくる予定です。

楽しみにしていただけたら嬉しいです。

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