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オタク転生令嬢は今日も魔法研究に没頭中~恋愛フラグ?そんなの知りません!~  作者: 真木くるみ


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17/25

17.開き始めた扉と新たな一歩

魔法史の授業が終わりに近づく頃、私は机の下でそっと拳を握りしめていた。


放課後は生徒会へ向かわなければならない――けれど、その前にどうしても片づけておきたいことがある。


隣の席へ視線を滑らせる。


ロイデル・カウスト。

魔法道具の名門にして、私がどうしても仲良くなりたい相手。


昨日、生徒会に入るとアーシャへ伝えた時、彼女は目をひん剥いて驚いていた。

理由を説明すると納得してくれたけれど、最後に「色々気をつけなさいよ」と念を押された。


……何に気をつけるのかは、結局教えてくれなかったけれど。


そんなことを考えていると、チャイムが鳴り響き、教室が一気にざわめきに包まれた。


私は椅子に座ったまま、意を決して身体をロイデルの方へ向ける。


「あの……昨日はいきなり変なことを言ってすみませんでした」


深々と頭を下げると、彼は視線を向けぬまま短く答えた。


「あぁ、別に」


相変わらずの素っ気なさ。

でも、無視されなかっただけで少し安心する。


「弁解するようで恐縮なんですが、本当にカウスト家に取り入ろうとか、そういう意図はなくて……。その証拠に、今日これを持ってきました。少しだけ見ていただけませんか?」


私は鞄の中を探り、小さなコンパクトケースを取り出した。


「……あんた、一体なんなんだ?」


呆れたように溜息をつきながらも、彼はちゃんとこちらを向いてくれた。

よかった。完全無視されていたら立ち直れなかった。


「ありがとうございます。これ、開いてみてください」


ロイデルは眉をひそめながらも、ケースを受け取り、カチリと開く。


「この鏡がどうした?」


「下の赤いボタンを押しながら、何か話してみてください」


「……あー、俺はロイデル・カウスト」


「では赤いボタンから指を離して、次に青いボタンを押してください」


青いボタンが押されると、鏡から先ほどの声が流れた。


『あー、俺はロイデル・カウスト』


よし、成功。


「これは……音声記憶か?」


「はい。最大二十件まで記録できます。メモがない時に便利ですし、鏡としても使えます」


「へぇ……。シンプルだが悪くない。なにより素材もいい。王研でも俺の家でも作ってないし……外国製か?」


思った以上に興味を持ってくれたようで、胸が高鳴る。


「……その、恥ずかしながら私が作りました」


言った瞬間、急に恥ずかしくなって俯いた。

天下のカウスト家に見せるなんて、無謀だったかもしれない。


「は? お前が? 本当にか?」


「……はい。実は私、魔法道具を作るのが趣味でして……」


周囲に聞こえないよう、そっと耳元で囁く。


「こ、こら! そんなに近寄るな!」


ロイデルは耳を真っ赤にしてのけぞった。

しまった……距離が近すぎた。


「お前、それ本当なのか?」


彼はコンパクトを手に取り、真剣な眼差しで観察し始めた。


その横顔は、さすが名門の跡取りらしく鋭く、どこか職人のような集中が宿っている。


「軽量でコンパクトにまとめてあって……何度も言うが素材が特にいい」


「あはは……えっーっと、ありがとうございます」


素材については、前世で有機化学を専攻していたおかげだ。

魔力に耐える素材を研究した結果、この形に落ち着いた。


もちろん、それを説明するわけにはいかないので曖昧に笑ってごまかす。


その態度が逆に怪しく見えたのか、ロイデルは鋭い目を向けた。


「……俺に近づくための嘘じゃないだろうな?」


「ち、違います! 本当に魔法道具作りが好きなんです!」


私はこくこくと必死に頷いた。


「魔法道具作り仲間として……友人になっていただけませんか?」


回りくどいのは性に合わない。

だから、もう一度、真正面から言った。


ロイデルはしばらく黙り込み――やがて、ふっと息を吐いた。


「……いいだろう。今度、お前が作業しているところを見せてみろ。それが本当なら……友人になってやらんこともない」


そう言うと、ロイデルはコンパクトを私に突き返した。


「ほ、本当ですか!?」


彼からコンパクトを受け取った瞬間、胸の奥がぱっと明るくなる。


嬉しさが一気に込み上げて、つい声が大きくなってしまった。


やった……! 本当に一歩前進だ。


今作りかけの道具も見てもらおう。

何かアイデアをもらえたりするだろうか――そんな期待が胸の中でふくらんでいく。


私がうきうきしていると――


「……俺が言うのも可笑しいが、そこは“疑われたこと”に対して怒るところではないのか?」


「怒る……とは?」


「……いや、いい。……そうだ、箱入りのご令嬢がそんな技術を持っているわけがない。化けの皮を剥がしてやる」


最後の方は小声で聞き取れなかったが、友人になれる可能性が見えただけで十分だ。


「では、今度ぜひ見てくださいね! アドバイスいただけると嬉しいです!」


私は急いで教室を出た。

生徒会室へ行く時間が迫っている。


――が。


(……生徒会室ってどこ?)


聞いてない。

私のバカ。


誰かに聞こうとしたその時。


「クレヴェルト嬢、生徒会室へ行くのだろう? 私が案内するよ」


声の方へ振り返ると、

廊下の壁にもたれ、静かに待っていたルイス殿下の姿が目に入った。


まるで私が出てくるのをずっと見守っていたかのように。


「ル、ルイス殿下……?」


慌てて淑女の礼を取ると、殿下は苦笑して手を上げた。


「あぁ、学園内ではあまりかしこまらないでくれ」


「は、はい……」


「副会長が言っていたよ。君、かなり方向音痴なんだってね。案内役を頼まれたんだ」


方向音痴だなんて……わざわざ殿下に言わなくてもいいのに。

恥ずかしさで顔が熱くなる。


「ということは……ずっとここで待っていてくださったのですか?」


「まぁね。君達、何やら話し込んでいたし。割って入るのも悪いだろう?」


殿下は肩を竦めた。


「ロイデル君と仲がいいんだね?」


「も、申し訳ございません! お声掛けくだされば……殿下を廊下で待たせるなんて……!」


王族への不敬で退学とか……ないよね。

いや、ないはず……。


「ふっ、何を想像しているのか分からないけど、怒ってないよ。さぁ行こうか」


殿下は歩き出した。


「は、はい! よろしくお願いします!」


私は慌てて殿下の後に続いた。


怒っていなかったようで、なんとか一安心だ。


王族の方と話すなんて初めてで緊張していたけれど……殿下は案外気さくな方なのね。


廊下を歩くと、何人かの令嬢たちがすれ違いざまに殿下へ視線を向け、

うっとりとした表情を浮かべている。


そんな(きら)びやかな人と、私は並んで歩いていいのだろうか――

そんなことを思っていると、殿下がふと口を開いた。


「副会長から聞いたよ。君、推薦状目当てに生徒会へ入ることを決意したんだってね」


うっ……。


私は思わず足を止めた。

殿下も立ち止まり、じっとこちらを見る。


「……はい。推薦状に釣られたのは事実です。でも、やると決めたからには全力で務めます」


軽蔑されても仕方ない。

でも、安請け合いしたつもりはない。


誠心誠意働くのは、それに見合うだけの対価――王研への道が待っているからだ。


そこだけは、どうしても誤魔化したくなかった。


私の言葉を聞いた殿下は、ほんの一瞬だけ目を細め――

ふっと、柔らかく笑った。


長いまつ毛がわずかに揺れ、穏やかな光を宿した瞳がこちらを和ませる。


その柔らかな表情に、胸の緊張が少しずつほどけていく。


「別にいいんじゃないかな? どんな理由であれ、役員が増えるのは助かる。後でも先でも、入ってくれて嬉しいよ」


「……ありがとうございます」


良かった。特に何とも思っていないようだ。


「それに、副会長は何が何でも君を入れたいみたいだったしね。あの気迫といったら……まぁ、君が入るのは想像通りだよね」


「え?」


「さぁ、着いたよ」


言葉の意味を尋ねる間もなく、生徒会室へ到着した。


扉の前に立つと、自然と背筋が伸びる。


ここだけ空気が少し違う気がして、胸の奥がそわっと落ち着かない。


でも――逃げるつもりはない。


小さく息を吸い込む。


ここから、私の新しい一歩が始まる。

17話を読んでくださりありがとうございます。

ロイデルとの距離がようやく一歩縮まり、そしてルイスに案内されながら生徒会室へ向かうフローラ。

人間関係も進路も、大きく動き始めた回でした。


次話では、いよいよ生徒会との本格的な対面が描かれます。

新しい環境でフローラがどんな一歩を踏み出すのか、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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