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オタク転生令嬢は今日も魔法研究に没頭中~恋愛フラグ?そんなの知りません!~  作者: 真木くるみ


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11.夢の学園、走り出す初日

「ついに……ついに来たんだわ!」


胸の奥が震え、息が少しだけ詰まる。


ずっと夢見ていた光景が、今こうして目の前に広がっている。


私は――魔法学園の門前に立っていた。


門越しに見えるのは、悠然(ゆうぜん)とそびえる校舎。


庭には色とりどりの花が咲き誇り、東屋(あずまや)やベンチが点在している。


その奥には、荘厳(そうごん)な時計塔を備えた校舎が堂々と構えていた。


――あれが、私の夢の場所。


さらに横には、小さな宮殿のような建物。


事前情報によれば、あれが図書館らしい。


「はぁ……早く授業が始まらないかしら!」


胸の高鳴りが抑えきれず、思わず声が漏れたその瞬間――


「お嬢様、落ち着いてください。周囲の方々が変な目で見ています」


背後からローズの冷静な声が降ってきた。


「へっ?」


慌てて周囲を見ると、同じ新入生らしき制服の胸に青い花の刺繍をつけた学生たちが、“あの子大丈夫?”という視線をこちらに向けていた。


私は姿勢を正し、真新しい制服の裾を整える。


「わ、分かってるわよローズ。つい……ついよ」


「その“つい”が積み重なると白い目で見られます。お気をつけください」


ローズの指摘は相変わらず容赦ない。


でも、長年そばにいてくれた彼女だからこそ、私の浮かれ具合も、夢への想いも、全部分かってくれている。


「でもねローズ。私がどれだけ今日を楽しみにしていたか、あなたも知ってるでしょう? 少しくらい余韻に浸らせてよ」


「余韻はご自由に。ただし入寮手続きを済ませてからにしてください。お部屋の中でなら、どれほど奇怪な行動をされても文句は言いません」


奇怪な行動って何よ……。


「じゃあ、早く入寮手続きを済ませましょう!」


御者(ぎょしゃ)に礼を言い、私はついに魔法学園の門をくぐった。


ローズが手際よく入寮手続きを済ませ、私たちは女子寮へ向かった。


鍵を受け取り、扉を開けた瞬間――息が止まる。


天井には上品なシャンデリアが煌めき、部屋全体が柔らかな光に包まれていた。


「一人部屋って聞いていたから期待してなかったけど……素晴らしいわね」


「魔法学園は国内外から多額の寄付が集まっていると聞きますし、この程度は普通では?」


ローズは淡々と言うが、私には十分すぎるほど豪華だ。


前世の“学生の一人部屋”といえば狭くて汚いワンルーム。

それを思い出すと、この部屋はまるで夢のようだった。


寝室は別、ベッドはふかふか。

飾り棚や本棚、勉強机まで完備されている。


――こんな素敵な部屋で三年間も暮らせるなんて。


胸が高鳴り、思わず頬が緩む。


「荷ほどきは私がしますので、お嬢様は試験の準備を」


「ええ、お願いね」


私は鞄から教本とノートを取り出した。


今日の午後から入学前試験がある。


試験結果によって、明日の入学式後にクラスが発表される。


成績順にA・B・Cの三クラス。


そして私は、絶対にAクラスに入りたかった。


理由はただひとつ。


Aクラスだけが、1年生から上級魔法を学べるからだ。


――私は私の夢のために生きる。


あの日、彼が言ってくれた言葉のように。


アーシャはもう着いているだろうか。

試験が終わったら一緒にディナーでも食べよう。


私は気持ちを切り替え、最後の復習に取りかかった。


「ほんっと勘弁して〜!」


私は令嬢らしからぬ速度で、学園の敷地内を全力疾走していた。


理由は単純――試験に遅れそうだからである。


寮を出たまでは良かった。

だが、広大すぎる学園で案の定迷子になり、気づけば試験会場とは真逆の方向へ進んでいたのだ。


「途中であの方に教えてもらわなかったら、危なかったわ……」


偶然声をかけてくれた上級生らしき女子生徒が、丁寧に道を教えてくれた。


白百合(しらゆり)のように美しい人で、名前を聞きそびれたのが悔やまれる。

また会えたら必ずお礼を言わなければ。


そんなことを考えながら走っていると、前方で男子生徒が困ったようにうろうろしているのが見えた。


「どうかされましたか?」


足を止めて声をかけると、彼は顔を上げた。


「いや、探し物をしているだけだ。君も新入生だろ? 試験に遅れるぞ。早く行け」


灰色の瞳が、どこか不機嫌そうに私を見つめる。

その瞳の奥に、微かな焦りが揺れていた。


「“君も”ということは、あなたも新入生ですよね? 遅れてはまずいのでは?」


胸元の青い花の刺繍――新入生で間違いない。


「ギリギリまで探して、見つからなければ後で来る。試験には間に合う」


そう言って、しっしと手を振り、再び探し始めた。


――後回しにできないほど大事な物なのだろう。


「では、私も探します。特徴を教えてください!」


制服を腕まくりした私に、彼は驚いたように目を瞬かせた。


「しかし……」


「早く! 時間がありません!」


押し切られた彼は、渋々口を開いた。


「……紫のひし形で、中央が赤い小さなブローチだ」


「分かりました!」


私たちは無言で地面を探し続け――


「ありました! これで合っていますか?」


差し出したブローチを見た瞬間、

彼の灰色の瞳がふっと柔らかくなった。


「これだ……。本当に助かった。母の形見なんだ。ありがとう」


笑うと案外可愛い人だ。


「さぁ、試験会場まで急ぎましょう!」


私が走り出すと――


「試験会場はこっちだぞ?」


「…………」


逆方向を指差され、私は顔が熱くなるのを感じた。


「では参りましょう!」


「お、おい、待て!」


先ほどの恥をなかったことにする勢いで、私は再び走り出した。


その後、私たちは走りに走り、

なんとか試験開始ギリギリで教室に滑り込んだ。


入学前試験は噂通り過酷だった。


魔法基礎、魔力理論、教養、マナー……合計六科目。


夕方まで続き、私は完全にクタクタだ。


手応えは――ある。

特に魔法関連はかなり良い点が取れたはずだ。


ただ、試験中ずっと気になっていたことがある。


右斜め前の男子生徒が、明らかに体調不良だったのだ。


咳をし、顔は真っ赤。

高熱があるのは一目で分かった。


周囲の生徒たちは距離を取り、彼は孤立していた。


試験終了後、皆が帰っていく中、彼は机に突っ伏しそうなほどフラフラしていた。


「風邪ですよね? 寮まで歩けますか?」


「……問題ない。近寄ると移るぞ」


迷惑そうに目を細める。


――ここで引いたら女が廃る。


「肩、貸しますよ」


「本当に大丈夫だ」


拒否されても、彼の様子は明らかに限界だ。


「……分かりました。お大事に」


しつこくするのも悪いので、一度はその場を離れた。


……が。


歩きながら考えていると、胸がざわついた。


(いやいや。あの状態で一人で帰れるわけないじゃない……)


気づけば私は(きびす)を返し、走っていた。


案の定、彼はまだ教室にいた。


息を荒げ、今にも倒れそうだ。


「やっぱり! 来てよかった!」


駆け寄ると、彼はぐったりしたまま呟いた。


「また……あんたか……」


「さぁ、医務室へ行きますよ!」


私は彼の肩を担ぎ――


「お、おい! 女のお前には無理だ!」


焦る声を無視し、小さく呟いた。


「身体よ、軽くなれ」


魔法陣が展開し、彼の身体がふわりと浮く。


「う、うわっ!」


「手荒でごめんなさい。でも急いだ方がいいです!」


さらに私はハンカチを取り出し、呪文を唱える。


「いでよ水! ハンカチよ貼り付け!」


冷えたハンカチが彼の額にぴたりと貼り付いた。


「つ、冷たっ!」


抗議の声を上げるが、振り払う力は残っていない。


私は彼を支えながら医務室へ向かった。


途中、また道に迷ったりもしたが……なんとか到着した。


医師に彼を託し、私はようやく寮へ戻った。


――魔法学園初日から、なんて濃い一日なのだろう。


疲労と達成感が同時に押し寄せ、私はベッドに倒れ込んだ。


胸の奥で、明日への期待が静かに膨らんでいく。

11話を読んでくださり、ありがとうございます。

魔法学園での初日がようやく幕を開け、主人公の世界も一気に広がりました。

迷子になったり、見知らぬ生徒を助けたり、試験に駆け込みで滑り込んだり……

“らしさ”全開のスタートになったと思います。


次回は、入学前試験の結果と、いよいよ始まる学園生活。

どんな出会いが待っているのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。

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