第97話 キースの騎士任命式。ノア、パドラルへ戻る
オスカー、キース、アンナ、クリストファー、ノアの五人は、シュヴァーネンフリューゲル城から金鱗竜に乗ってパドラルのジャンバラン村の砦へ向っていた。
アランの使徒のルークは、竜よりも早く飛ぶことが出来るので、先にアランの元へ戻っていた。
「そうか、あのふたりとノアも一緒に来るのか」
と、トゥルリーはキースと共に他の三人が同行することに驚きを見せずに言った。
アランもまた本来なら正式な騎士に任命されていないキースだけでなく、まだ学生のクリストファーとアンナ、さらにはWhite Mageにも満たないノアの同行を許可したことに我らながら不思議に思っていた。
「なぜか彼らも来ることに同意してしまった」
使徒のルークは主人であるアランの意思と同期しているので、ルークの判断は全てアランの意思である。
彼らの同行を許可したのは紛れもなくアラン自身である。
「アレクサンドル陛下が、アラン様の未来には不変のものがあるとおっしゃっていました。きっと、今回のアラン様のご判断も神のご意志なのでしょう。ここに来て陛下とウィリアム殿下の予知が明瞭になって来られたそうです」
と、シオンが言った。
「して、その内容は?」
アランは、叔父であるアレクサンドル皇帝から詳しい予知の内容を知らされてはいなかった。
「陛下は、アラン様とスチュアートリア帝国の未来はひとつだとおっしゃっておられました。アラン様は選ばれし者だとも。そして、それは誰かに指示されるべきことでも、我々が手出しするべきことでもなく、アラン様が自ら考え進むべき道を進むしかない、とのことでした」
「そうか。では、俺の判断に間違いは無いと思って良いのかな?」
と、アランが言うと
「例え、アランの判断に間違いがあったとしても、その時は、そこから修正して行けば良いのではないか?」
と、トゥルリーが言った。
トゥルリーは、皇帝から直接その予言について聞いていた。
それは、アランに対する予言と同時に自分にも関係するものだったが、皇帝はそれを敢えてアランには伝える事はしないと、言っていた。
それは、アランに迷いを与え判断を鈍らせる原因になり得るとし、アラン自身の判断に全てを委ねるとしていた。
そして、トゥルリーもそのアランの判断に全てを委ね、どこまでも自分の運命をアランと共にする覚悟だった。
「我々には手出しできなくも、助けることはできるのだろ?シオン?」
トゥルリーがそうシオンに尋ねるとシオンも力強く答えた。
「もちろんです!アラン様がどう判断しようと、必ず付き従うのが我々の使命です!どこまでだってお供する覚悟です」
そう熱弁するシオンに対して、トゥルリーが言った。
「残念ながら、それは俺の仕事だ。シオンは軍の頭脳、参謀長官として作戦本部に居なければならんだろ?」
トゥルリーもシオンの気持ちは充分理解していたが、皇帝の予言はアランと自分に対するものだったので、シオンには自分の役目を全うして欲しいと考えていた。
シオンは紛れもなく帝国の頭脳と呼ばれる男だったからだ。
「確かに、シオンには作戦本部で、その明晰な頭脳を働かして貰わないとならない。でも、シオンの気持ちにはいつも感謝している」
トゥルリーの言葉にちょっとムッとしていたシオンだったが、アランのこの言葉に溜飲が下がったらしく、大人しく自分の席について今後の作戦について話し始めた。
アランは、シオンの作戦を聞きながら叔父と従兄の予知について考えていた。
叔父のアレクサンドル皇帝の予知能力はスチュアートリア帝国一である。
おそらく、随分前からアランについての未来予知をしていたはずだった。
だが、それをアラン本人に伝えて来ることはなかった。
それは、その予知が確定未来であり、変えることの出来ない未来だからだろう。
その上で、敢えてパドラル統一の大仕事をアランに託したのには何か意味があるに違いない。
そして、その難題に臨む自分には、トゥルリー、シオン、マリアという子供の頃からの仲間が常に寄り添ってくれている。
他にも自分を慕い、力を貸してくれる大勢の部下や臣下が居る。
自分とスチュアートリア帝国の未来はひとつだと言うのなら、帝国の未来の為に迷うことなく前進あるのみ。
アランは、今一度この作戦の完遂を心に誓った。
ルークの帰還から遅れること数時間。
オスカー、キース、アンナ、クリストファー、ノアを乗せた五頭の金鱗竜がジャンバラン砦に到着した。
「ようこそジャンバラン砦へ」
と、トゥルリーが竜たち用の牧場まで5人を出迎えに来て言った。
その竜用の牧場には、ブルーフォレスト家から派遣されている竜専門の調教師兼飼育係の者が辺境伯より派遣されており、彼らはすぐに領主の長男であるオスカー卿の姿を見ると、嬉しそうに駆け寄って来て敬礼をした。
「みんなご苦労、新年祭の時期に異国まで来ての仕事を頼んで申し訳ない」
と、オスカーが言うとブルーフォレスト家の騎士達は
「ブルーフォレスト家だけでなく帝国のお役に立ててる仕事が出来て光栄です。オスカー様のお顔も見られたので元気100倍です」
と、パドラルの地で自分たちの主君の顔を見ることが出来て、辺境伯家の騎士達はみな一様に嬉しそうだった。
ブルーフォレスト辺境伯家は代々金鱗竜を使徒とし、また竜を飼育訓練して帝国唯一の竜部隊を持っていた。
それゆえに、先祖代々、辺境伯家に使え、竜専属の訓練と飼育をする家臣が数多くいた。
彼らは幾世代もの長きに渡り、そのノウハウを受け継いだプロフェッショナルである。
昨年、帝国軍にも空軍部隊を創設する案が浮上し、急にブルーフォレスト家の竜部隊の需要が増えた。
と、同時にその訓練と世話をする者たちも注目されるようになった。
ブルーフォレスト辺境伯家内だけの仕事だったものが、帝国軍全体の仕事として注目されるようになり、ブルーフォレスト辺境伯家の名声も上がると、彼らは彼なりに遣り甲斐を感じていた。
特にこれ以上の名声を望んではいないブルーフォレスト辺境伯家ではあったが、忠臣たちの気持ちを嬉しく思い感謝していた。
もちろん、息子のオスカーも同様だった。
平時は、帝国近衛騎士団長として帝都トロアで働いているオスカーなので、ブルーフォレスト城で働いている彼らは、滅多にオスカーに会うことが出来ない。
それだけに、異国の地で自分の主家の者に会え、労いの言葉をかけられることは、彼にとって何よりも嬉しいことだった。
オスカーが家臣たちに囲まれている横で、他の四人は恩師であるトゥルリー大佐に迎えられていた。
「みんなよく来たな。こんなところで君たちと会えるとは想像もしていなかったぞ」
と、トゥルリーは竜から降りて来たひとりひとりの生徒を出迎えて握手した。
最後にキースの手をとり固く握手をしながら
「よく来てくれた。今回は君にとっては初の実戦になる。騎士としての任命式はまだだが、このジャンバラン砦でやってしまおう。ちょうど総司令官のレッドリオン閣下も、ヴァイオレット・フィールド参謀長官もいるからな」
と、言ってキースの肩を叩いた。
「はい!宜しくお願い致します」
キースは、トゥルリー先生、いやトゥルリー大佐の顔をまっすぐ見て言った。
その後ろで、クリストファーとアンナ、ノアの三人が、ちょっとバツが悪そうに立っていた。
クリストファーとアンナの足元には心配そうに主人を見上げる使徒のマエルとノエルが寄り添っていた。
三人は、勝手にキースに着いて来てしまったので叱られるかもしれないと思っていたのである。
クリストファーが思い切って口を開いた。
「トゥルリー先生すみません。まだ学生の身分で付いて来てしまって…」
アンナとノアもクリストファーと一緒に深々と頭を下げた。
マエルとノエルも主人の足元で一緒にお辞儀をしていた。
トゥルリーは、そんな三人と二匹を見て、笑いそうになるのを必死に堪えて無表情を装って言った。
「これは、私の判断ではない。総司令官であるレッドリオン閣下が決めたことだから、私からは何も言うことは無い。あとは、レッドリオン閣下とヴァイオレット・フィールド参謀の指示に従うように」
そう言ってトゥルリーは、くるりと三人に背を向けて砦の施設の中に向かって歩いて行った。
なんとか笑わずに乗り切った自分を褒めながら。
しかし、そうとは知らない三人は、やはりトゥルリー先生は怒っているのだろうと思っていた。
トゥルリー大佐の後に続いてキースが歩いて行ったので、三人もすごすごとその後に続いた。
久しぶり会ったブルーフォレスト辺境伯家の臣下と話していたオスカーも、連れて来た竜の世話を彼らに頼んで、皆の後を追って施設の中に入って行った。
施設内を歩きながらノアは、そこが以前住んでいた大黒主神教の教会施設とは思えない変化に驚いていた。
以前は、なんとなく不衛生で暗い建物だった宿泊施設も教会の建物があった場所にも清潔で綺麗な建物に立て直されていた。
建物の周囲にも農場が作られており、清潔な飼育舎や牧場が広がっていた。
ノアは、建物中をキョロキョロしながら進み、時折り窓の外に見える外の施設の風景も見ながら、
「同じ場所とは思えないなぁ。ネオくんにも見せてあげたいな」と、思っていた。
トゥルリーに案内されて到着した部屋の前には護衛の騎士が立っており、トゥルリーの姿を見るとその騎士が一礼をして部屋の扉を開けてくれた。
扉が開かれたその部屋は、大きな窓がいくつもある横に広い明るい部屋だった。
開かれた扉から見て真っすぐ前には、大きな窓が有りその前には執務用のデスク、その横には書棚、その手前には大きなテーブルと数人が座れる椅子がありテーブルの上には沢山の資料と地図が整然と置かれていた。
また、テーブルとは反対の奥の方には、カーテンで仕切られるようになったベッドルームが有り、壁には剣や楯が掛けられていた。
入り口からはかなり離れた位置にあるそのベッドルームの手前に置かれた止まり木には、確かにアランの使徒の鷲のルークが止まっていた。
どうやらその部屋は、この砦の司令官であるレッドリオン総司令官室のようだった。
一行がトゥルリー大佐に付いて部屋の中に入ると、レッドリオン総司令官が執務用デスクに向って座って待っていた。
後ろの大きな窓から光が差し込んでおり、まるで後光が射しているように見えた。
ノアは、「あれ?この雰囲気は…アレキサンダー先生と初めて会った時のようだな」と、思っていた。
その横には、寄り添うようにしてヴァイオレット・フィールド参謀が立っていた。
「ブルーフォレスト卿、キース・ウェスリー・インディゴ・ラングレー君、突然の招集に駆けつけてくれたことに感謝する」
と、出征命令書を出した参謀長官のシオンが前に進み出て言った。
名前を呼ばれたふたりは、すぐにシオンの前に歩み寄り床に片膝を付け跪いた。
「はい、ヴァイオレット・フィールド参謀長からブルーフォレスト城で待機するように言われておりましたので、すぐに駆けつけて参りました」
と、オスカーが言うとキースも
「私のような、また正式な騎士としての任命前の者を呼んで頂けて嬉しく思います」
と、出征命令を受け取ったことに感謝した。
アランもふたりの言葉を受けて椅子から立ち上がり、ふたりの騎士の前に立った。
そして、スチュアートリア帝国軍総司令官として言った。
「新年早々、ふたりを巻き込んで申し訳ないが、君たちの力を借りたい。オスカー卿、命がけの仕事になると思うが協力して貰えるだろうか?」
「もちろんです。呼んでいただけて光栄です」
と、オスカーは床に跪いたまま胸に手を当てて騎士の敬礼をして答えた。
「キース・ウェスリー・インディゴ・ラングレー君。君の父上には、私の父が皇帝時代に世話になったと聞いている。父子でまた力を貸して貰えるだろうか?」
「はい、そう言って頂けて光栄です。帝国神聖魔術士養成大学時代には、私の心の迷いで二の足を踏んでおり、卒業が遅くなりました。今は、その分を取り戻すべく全身全霊で帝国の為に尽くす所存です」
と、キースも跪き騎士の敬礼をして答えた。
「本来なら、皇帝陛下もご参列頂いて、司祭の祈祷をして貰ってから騎士の任命をするところだが…今回は特別にそれを省略して、我々のみで簡略的に任命式をするが、宜しいか?ラングレー君」
と、アランが言うと、キースはアランの目をまっすぐ見て
「もちろんです。レッドリオン総司令官に任命して頂けて光栄の極みです」
と、答えて再び敬礼をした。
「そちらの三名も、キース・ウェスリー・インディゴ・ラングレーの任命式に立ち会ってやってくれ。もちろん、使徒の君たちもね」
と、アランは、部屋の入口付近に立ち尽くしたままのクリストファー、アンナ、ノアの三人と二匹の使徒を見て言った。
場違いなところへ勢いで付いて来てしまった事を半分後悔していた三人は、アランのその言葉に救われた気分で、「はい!」と、答えた。
もちろん、ノエルとマエルも同じく可愛らしく敬礼していた。
そして、一同は、祭壇のある部屋に移動し、急遽キース・ウェスリー・インディゴ・ラングレーの騎士としての任命式が行われた。
スチュアートリア帝国では、神聖力を司る宇宙の神を崇拝しており、その神に感謝する『聖トロア教会』なるものが存在した。
聖トロア教会には司祭もおり、教会もあったが、それは帝国から独立したもので、直接帝国に属するものではなかった。
過去には、Holy Mageの力こそが神の力に準ずるものとして、聖トロア教会内で皇帝を生きた神として崇拝する者も居たが、今はHoly Mageの存在も神聖力も帝国の秘密とされたため、聖トロア教会との関係も微妙なものとなり、その聖トロア教会の教義も皇帝やHoly Mageとの認識とは少しずれていた。
また、スチュアートリア帝国の皇帝は、自らを神として崇められることを善しとせず、あくまでも神聖力は、神から与えられた自らの魂に宿る力であり、その力も己の魂が汚れれば力を失うことを良く理解していた。
ゆえに皇帝の立場としては、信教の自由を認め、独立した宗教組織である聖トロア教会に関しては、事実が多少真実ずれた教義を教えていようと、大きく逸脱しているものでない限りは、一切口を出すことしないという立ち位置だった。
皇帝の戴冠式や騎士の任命式は、スチュアートリア帝国建国時以前のトロア王国時代からの歴史的な慣例として形式的に聖トロア教会の司祭が列席して行われるものとなっていた。
聖トロア教会としては、そうした儀式を取り仕切ることで、教会としての権威を維持するという目的があるので、皇帝も無視するわけにはいかないのであった。
しかし、ここジャンバラン砦には司祭は同行していない。
新年祭のこの時期は、信徒の新年の願いを聞くので司祭も大忙しなのである。
「今回は、司祭の同席は無いが、皇帝の血筋であらせられるHoly Mageのアラン・クレオ・ハイデルベルト・スチュアートリア・レッドリオン公爵閣下が任命して下さる。よろしいな?」
と、シオン・ミッシェル・ヴァイオレット・フィールドヴァイオレット・フィールド帝国軍参謀室長官が厳かに言った。
「はい。有難き幸せと存じます」
と、キースが答え騎士の正装をしたアランの前に進み出て跪き、両手を合わせて頭を垂れた。
アランは、腰の聖剣を抜き、キースの頭上に掲げて言った。
「汝、キース・ウェスリー・インディゴ・ラングレーは、スチュアートリア帝国の騎士として、帝国の為に命を賭して尽くすと神聖力を司る宇宙の神の前に誓うか?」
「はい。誓います!」
と、キースが答えると、アランの聖剣が赤く輝きキースを包んだ。
すると、キースの合わせた両手から青い光が現れてアランの光と交わると、金色の光に変わって消えた。
「宇宙の神に認められたようだ。ここにキース・ウェスリー・インディゴ・ラングレーをスチュアートリア帝国騎士として正式に認める。帝国の為にしっかり働いてくれラングレー卿」
「はい!必ず!!」
キースは、嬉しそうにアランの顔を見て答え、再び深く頭を垂れた。
その様子を見ていたクリストファー、アンナ、ノアの三人は、キースが羨ましく思えた。
キースの任命式が終わると、シオンはオスカーとキースを連れて会議室へと消えた。
残されたクリストファー、アンナ、ノアの三人は、初めて見た騎士の任命式に感動しつつも、改めて自分たちが置かれた状況を思い出し、アランに叱られるのではないかと思いながら、部屋の隅でシュンとして立ち尽くしていた。
そんな三人に近づいたアランは、おかしそうに笑いながら言った。
「なんだ?三人とも。いたずらが見つかった子供のような顔をして」
アランは、若い三人の情けない顔を見て気の毒に思いながら言った。
「君らが来ることをルークは否定しなかっただろ?私が許可したからだ」
アランの言葉を聞いて三人の顔が、ぱっと明るくなった。
「でも、今ここは砦であり、この国は戦場だ。軍の騎士でもない君らがここに来ても命の保証は無いぞ?帰るなら今だ。今なら、竜を使ってブルーフォレスト城に戻れる。そこから、帝国神聖魔術士養成大学へ戻れるように手配するから遠慮なく言ってくれて良いぞ」
勢いでキースに付いて来た三人に、アランはこの砦に残ることの覚悟を確かめるように言った。
すると、一番初めに口を開いたのはノアだった。
ノアは、この砦に来てから、ほとんど言葉を発することなくずっと考えていた。
自分が地球から突然飛ばされて来たこの地から逃れてスチュアートリア帝国に行き、再びこの地に戻ることになった今の状況に思いを巡らせていた。
ノアは、地球で生きていた頃も、ずっと居心地は良くない感じがしていた。
この星に来てからは、パドラルでの生活はもの珍しく、地球で生きていた頃より生きている実感が沸いていたが、大黒主神教での暮らしは危ういと感じていた。
そして、スチュアートリア帝国へ渡り、ついに自分に合った場所を見つけたと思った。
毎日が新鮮で、人にも恵まれ、人を信じ、学ぶことにも生きることにも前向きになれた。
そんな自分が、なぜか再びこの地に戻って来てしまった。
逃げ出したはずのこの地に、自ら戻って来てしまったのだ。
「すみません。レッドリオン総司令官。キース先輩に便乗して、ここへ戻って来てしまいました。自ら逃げ出したはずのこの場所へ」
と、ノアが言うと、アランはノアに近づいてそっと言った。
「言ったじゃないか!君と私は、Key Personなのかもしれないと。神が我々をここに呼んだのかもしれない」
ノアは、アランの言葉にハッとして、アランと対面した帝国軍本部でのことを思い出していた。
初めて面会したあの時、ノアに対してアランは確かに「ウィリアム皇太子殿下が言っていた通り、君と私が帝国の未来の鍵を握っているKey Personなのかもしれないな」と、言っていた。
あの時は、ノアも初めて会うレッドリオン総司令官に緊張して聞き流してしまっていた。
だが、アランが帝国の未来を担うKey Personであることには納得できるが、自分もそうだとはとても思えない。
「でも…僕は、ここに戻って来ても何もできません。お荷物になるだけかと…」
と、ノアは、我ながら馬鹿なことをしていると反省しながら言った。
「君は、異星から来た者であり、バドネリアス達が必死でパドラルへ連れ帰ろうとしていた者だというだけで特別な存在だ。きっと、君がここへ来たことにも意味があるのだろう。ただ、やはり彼らに利用される可能性は拭えないから、私が許可するまではこの施設から出ず、常にシオンの指示に従ってくれ」
と、アランに言われてノアは、なぜか泣きそうになっていた。
否定されるかと思っていた自分の愚かな行動が肯定されたという安心感もあったが、アランが変わらずに自分の存在の意義を認めてくれている事が嬉しかったのだ。
それを聞いていたクリストファーも、トゥルリーからノアが異星から来たこともパドラルの黒魔術師の元から逃げて来たことも聞いて知っていたので、アランの言ってる意味がよく分かった。
ただ、だからと言って自分たちの行動が肯定されるとは思えず、アランからの言葉を待つしかなかった。
そして、自分たちがしでかした僭越な行為に今更ながら部屋の隅で怯えているアンナの元に戻ったクリストファーだった。
そして、ついにアランの視線がふたりに注がれた。
ふたりは、アランが、前皇帝の息子であり、レッドリオン公国の公子でどれだれ偉大なHoly Mageか良く知っていたし、心から尊敬していたので、その視線が自分たち注がれたことに冷や汗が出る思いだった。
ただ、帝国の役に立ちたい一心で衝動的にキースに着いて来てしまったが、自分たちの身の程知らずの行動に心から反省していた。
「す、すみません」
と、クリストファーは思わずアランに頭を下げて謝ってしまっていた。
「なぜ謝る?君は私に何か悪いことでもしたのかね?」
アランは、優しくクリストファーに問いかけた。
「はい、呼ばれてもいないのに勝手にラングレー卿に付いて来てしまいました。まだ、学生の身分で僭越極まり無い行動だと、心から反省しています」
「では、今からスチュアートリア帝国へ戻るかい?」
と、アランが問いかけると、クリストファーは返答に苦慮して言葉を詰まらせた。
「君たちは、どうしてラングレー卿に着いて来たのかな?」
アランは、表情を変えることなく静かにふたりに尋ねた。
「はい。Holy Mage騎士が足りないという話を聞いて、私達はまだ学生ですがHoly Mageとして、お役に立てることがあるのではないかと思い、着いて来てしまいました」
と、クリストファーが言うと、それまで黙っていたアンナも
「はい、私も帝国と閣下のお役に立ちたくて来てしまいました」と、言った。
「そうか、ふたりの気持ちはわかった。君たちはHoly Mageとして働く自信があるということだね?」
と、アランに尋ねられたふたりは、「はい」とも「いいえ」とも言えず言葉を詰まらせたまま黙ってアランを見つめていた。
すると、アラン続けてふたりに質問をした。
「君たちは、黒魔術師にかけられた呪いの解呪は出来るかい?」
その質問に対する答えを持ち合わせていたアンナが口を開いて言った。
「はい、実際に呪われた者の解呪経験はありませんが、大学でマリア先生の授業で勉強し、実習で何度かやりました」
そう答えたアンナの横で、クリストファーも大きく頷いていた。
「そうか、それなら役に立ちそうだ。会議室へ行って作戦会議に加わって貰おう」
アランは、そう言って同じ司令棟内にある会議室へ向った。
「僕もいいのかな?」
と、言うノアの背を軽く抱いてクリストファーが横を通り過ぎた。
ノエルとマエルがノアの背を押すようにして主人たちの後を追った。




