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Beyond of Cosmos =星巡りの物語=リゲル・ラナ編  作者: 詩紡まりん
『光と影の闘い』=聖なる白と闇の黒= リゲル歴4046年

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リゲル歴4046年の幕開け = ギョンサザ族村 =

 リゲル・ラナ星の年明け、新年の初日。

 星、国問わず、新年は喜ばしいものだろうか?

 自然と祝賀ムードとなる。

 リゲル・ラナ星で一番大きな大陸の大半を支配しているスチュアートリア帝国でも、新年は盛大に祝われている。


 初代スチュアートリア帝国皇帝フランドルの即位した1500年以降2545年間続く帝国の平和は、アラン達Holy(ホーリー) Mage( マギ )達の活躍にあるのは間違いない。

 しかも、Holy Mage騎士もそれに次ぐWhite (ホワイト)Mage( マギ )騎士たちも表舞台での活躍できなく、人知れず任務をひたむきに果たしている。

 一度、戦争や争いが起きれば、日を選ぶこと無く続くのが常である。

 リゲル歴4046年の幕開けの喜ばしい日も、アラン達にとっては「オセロ作戦」という任務の遂行中の一日でしかなかった。

 しかも、パドラルではリゲル歴とは別の暦が使われているようで、パドラルの者にとってこの日は新しい年の始まりではなかった。

 ゆえに、「オセロ作戦」の速やかな遂行を図る帝国側も、ここで手を緩めることなく突き進むこととなる。


 まずは、マリアが朝早くに出発し、ギョンサザ部族のリ・リシェリー卿の元に戻った。

 その後にアランとトゥルリーがそれぞれの使徒を伴い竜でギョンサザ村近くのナチョック山の麓の森で待機していた。

 場合によっては、ここで野営を張る覚悟だった。

 真常夏のパドラルは湿度も高く冬でも寒くはならないが、北部ともなると夜はそれなりに低い気温となるので、そうした準備もして来ていた。


「新年早々、お前とふたりで野営になるかもしれんな」

 と、トゥルリーが言うとアランもそれに答え笑いながら言った。

「子供の頃を思い出すな」

「ああ、シオンも加えて三人で城の庭で野営ごっこをしたな」

「だが、食事をベイリー伯爵が用意してくれてから、あれじゃ単なるキャンプだった」

「それでも、楽しかったな」


 アランとトゥルリーは、子供の頃を懐かしく思い出しながらマリアからの連絡を待っていた。

 もちろん、今後の作戦に関しての資料内容は、ふたりともしっかり頭に入っていたので綿密な打ち合わせもしていた。


 一方、マリアはギョンサザ部族の村のリ・リシェリー卿の元に戻り、レッドリオン総司令官からの指令を伝えた。

「さすが、レッドリオン閣下です。もうエゾフ、カチヤック、テックカンを味方に引き入れたのですね。確かに、ケチャ教にはメメチャンバという救世主の伝説があります。ただ、ここギョンサザでは、部族の男たちこそが村を守る救世主的存在なので、その伝説を強調することはありません。でも、信じられていないわけでは無いです」

 と、言うリ・リシェリー卿の返事を聞いてマリアは少しだけ安心した。


 アランの作戦が無駄になることは無さそうだからだ。

 ただ、もう一点確認しておかねばならないことがある。

 それは、女族長ギーシカと男性リーダーの関係性とそれぞれの考えについてである。

 マリアは、アランの作戦や考えを把握し出来たので、まずは自分がギーシカと面会することにして、そのことをリ・リシェリー卿に話した。


「実は、ギーシカ族長にマリア少佐のことが耳に入ったらしく、その新しい巫女に会いたいと言って来ていたのです」


「そうだったのね。アンジェラには間に入って貰う事になって苦労掛けます」

 と、マリアは彼女の立場を思いやって言った。


「いえ、私がこの村に潜入していたのは、この時のためです。マリア少佐はお気になさらず任務を遂行なさって下さい。私は全力でサポートさせて頂きます」


 この地にたった一人で潜入し、村人にも受け入れら信頼され、頼りにされているアンジェラ・リ・シェリー卿。

 きっと想像以上の苦労をして来たことだろうとマリアは思っていた。


「ありがとうアンジェラ。必ず作戦を成功させてギョンサンザ村と、パドラルを平和で安全な国にしましょう」

 ふたりの女性騎士は「オセロ作戦」の成功を固く誓った。


 そして、マリアとアンジェラは、ギョンサザ部族の族長が居る村の中心にある部落に向かった。

 アンジェラは、この村では部族長に次ぐ巫女として崇められているので、家には数人の巫女見習いと女性従者が在中していた。

 ふたりは、その従者に馬を引かれて部落前に着くと馬から降りて、ギーシカ族長の家に歩いて行った。

 部落の人たちは、アンジェラにお辞儀をしながらマリアを観察していた。

 巫女の格好はしているが、村人に見慣れない顔の人間だからか、それとも先日の女の子の目を治した事が伝わっているからなのだろうか?


 部族長の家に入ると、そこには数人の女性と女の子たちが居た。

 みんなで、何か作っているようだった。

「族長、私の知り合いの巫女を連れて参りました」

 と、アンジェラがマリアを紹介した。


「マリアと申します。お隣のスチュアートリア帝国から参りました」

 マリアは、下手に素性を隠すことなく女部族長に自己紹介した。


 ギョンサザ部族の女部族長は、中年というよりは少し年配の女性だった。

 アンジェラが来るまでは、村で一番の魔術師ということでWhite Mageレベルには及ばないが白魔術の使い手だった。

 ギーシカはマリアを見るなり、にこやかに手を広げて招き入れて言った。


「お待ちしておりました。カナニナの目を治してくれたそうですね。感謝します。どうぞそこに座って下さい」

 と、一段高くなったところに絨毯が敷かれた居間のような場所を指して言った。

 真ん中には囲炉裏のようなものがある。


「ありがとうございます」

 マリアは、女族長に礼を言ってから、アンジェラに続いてその居間スペースに座った。


 すると、ギーシカは、その部屋に居た者たちに何か指示すると、全員が部屋の外へ出て行った。

 マリアは、ちょっと不安がよぎったが、アンジェラの表情に変化が無いのを見て安心した。


「アンジェラから聞いています。あなたはパドラルをひとつの国にとしてまとめる為に来たということですね」

 ギーシカのその言葉にマリアは驚きつつアンジェラの顔を見た。


 まさか、アンジェラが自分の立場が危うくなるかもしれない危険を顧みず、そこまで根回ししてくれていたとは!

 マリアは、腹を決めて自分がスチュアートリア帝国の皇帝から派遣された者であること、一般的に言われているGrate(グレート) Mage( マギ )であることを伝えた。

 そして、今このパドラルはBlack(ブラック) Mage( マギ )の侵略の危機にあり、それを阻止する為に自分たちが動いていること、パドラルの国民の為には、部族間の争いを止めてひとつの国としてまとまるべきであることを力説した。

 すると、ギーシカはしばらく目を閉じて考えていた。


「もちろん、私ひとりの力でなんとかなるものではありません。私の後ろにはスチュアートリア帝国の皇帝がいますし、帝国はパドラルの領土を狙っているわけでもありません。ただ、パドラル統一の為に協力して欲しいのです」

 と、マリアは畳みかけるようにギーシカに訴えた。


 ギーシカは、静かに目を開くと囲炉裏のような場所に魔法で火をつけた。

「まずは、お茶でも一緒に飲みましょう」


 マリアには彼女の意図が読めなかったが、隣のアンジェラがにこやかに

「そうですね。まずは一杯いただきたいです」

 と、答えたので様子を見守ることにした。


 ギーシカは、火に鍋をかけて湯を沸かし、そこに茶葉を入れて煮立たせると、おもむろに立ち上がり陶器のコップを三つ持ってきた。

 それは、スチュアートリア帝国でも見ないような美しいものだった。


「素敵な器ですね」

 と、マリアが言うとギーシカは嬉しそうに言った。

「そうでしょ?ギョンサンザ村の土で作って焼き上げたものなんです。村の自慢です」


 その器に出来上がったお茶を入れてギーシカがマリアに渡した。


 マリアは、その器を手に取ると、ゆっくり眺めながら言った。

「スチュアートリア帝国でも見たことが無いほど美しくて素敵です。帝都で売ったら飛ぶように売れるでしょう」


「それは良いですね。ギョンサンザや奥の村なので他国との交易もありません。また、常にブドレールの侵略に備えていなければならず、このように女だけの村になっており、決して人間らしい豊かな生活とは言えません」


 マリアは、ギーシカがこの村をなんとか豊かで平和な村にしたいと願っていることを察した。

 これは、きっといけるとマリアが確信した瞬間だった。


 そして、マリアは続けて言った。

「それと、この村の屋根に使っている魔樹の資材ですか、あれもスチュアートリア帝国には無いので、きっと重宝される地域もあると思います。パドラルが統一された暁には、是非スチュアートリア帝国との交易も行いましょう」


「それは素晴らしい提案ですね。それが出来たら村も豊かになりますね」

 と、アンジェラが言った。


「そんな夢みたいことが実現するでしょうか?」

 ギーシカ期待したい気持ちを持ちつつも、夢みたいな話だと思って現実感が持てずにいた。


「あの…族長は、メメチャンバという伝説をご存じですか?」

 マリアは、いよいよアランとトゥルリーの出番だと思ってメメチャンバについて女族長に尋ねた。


「ええ、ケチャの伝説の救世主です。パドラルで知らぬ者はいないでしょう」

 と、答えるギーシカにマリアは尋ねた。

「ギーシカ族長は、メメチャンバを信じておられますか?」


 マリアの問いにギーシカは迷わず「もちろんです」と、答えた。


 これで決まった。

 詰めの交渉は、メメチャンバのアランにやって貰おう。


「では、メメチャンバをここに呼んでもいいですか?できれば男性リーダーにも立ち会って頂きたいのですが…」

 マリアの突然の言葉にギーシカも開いた口がふさがらないようだったが、パドラルを統一して平和にするというメメチャンバの伝説と彼女の言うことに差異は無い。


 ギーシカは、本物のメメチャンバという意味ではなく、メメチャンバになぞらえて言っているものだろうと解釈した。

 彼女は長らく、女の身で部族をまとめあげて率いて来た部族長である。

 やはり、それなりの器を持ち合わせていた。

 そして、男性リーダーである部族長補佐は彼女の夫であった。

 ギーシカは、マリアの言うメメチャンバをこの部落に呼ぶことを了承した。


「では、明日の昼に部族長補佐をここに呼んで同席させます。そこにメメチャンバを呼んで下さい」

 と、ギーシカ部族長が言った。


 マリアは、役目を見事に果たしたのである。

 そして、翌日の昼にアランとトゥルリーをここに呼ぶこととなった。


 一旦、アンジェラの自宅に戻ったマリアは、使徒のメロディをアラン達の元に送った。


 メロディから報告を受けたふたりは、

「やはり今夜は、ここで野営だな」と、言いながらふたりきりのキャンプを楽しんだ。

 いや、ふたりの使徒のルーク、ビショップに加えて二頭の竜も一緒なので、なかなか賑やかなキャンプだった。


 翌日、アランの使徒のルークが、メロディと共にマリアの元へ行き事前の打ち合わせをした。

 アランとトゥルリーが竜で登場する前に、ルークが人間の姿でマリアに伴って挨拶し、その後

 鷹の姿に戻ってアランとトゥルリーを呼び戻ることとなった。


 ある程度は演出、パフォーマンスとなる。

 アランとトゥルリーがメメチャンバでは無いにしても、Grate(グレート) Mage( マギ )てであることを印象づけてギョンサザ部族の人の信頼を得たいと考えていた。

 民の心を掴むには、民が望むことの実現、願望を叶えることの重要性を皇帝の一族であるアランはよく理解していた。

 ひとりひとりを説得するわけではなく、集団としての国民、民を動かすには、その流れを作る必要がある。

 地球では、それを世論と呼ぶが、メディアが発達していないここでは、その空気と流れを作ることが重要だった。


 予定通り、昼に再びギーシカ族長の家がある中央部落に行くと、ギーシカと族長補佐であるギーシカの夫が待っていた。


「はじめましてスチュアートリア帝国のマリアです。これから帝国からのふたりの騎士を召喚します。よろしいでしょうか?」

 と、マリアが言うとギーシカの隣に立っていた大男が妻のギーシカの顔を見た。

 ギーシカは、了承したというよう頷いたので、マリアが「では!」と、ルークに合図をした。


 するとマリアの隣に立っていた青年が、(イーグル)の姿になって空に舞い上がり、あっという間にナッチョック山が(そび)えるに東の空に飛び立っていった。

 その場に居合わせた人々は、一斉に驚きの声をあげた。


 村には部族長補佐と共に屈強な男たちが数名、久しぶりに村に戻って来ていた。

 やはり、異国の男が村に来ると聞いたからには、何かあっては一大事である。


 しばらくすると、さっきの鷹の青年が飛び去った方向から、三羽の鳥のようなものがこちらに向かって来るのが見えた。

 先頭の一羽に比べ、後ろの二羽はかなり大きい。

 その姿を確認しようと目を凝らして見ていると、間もなくそれが鳥では無く竜であることがわかり、人々がどよめいた。


 ほどなく、先頭の鷹が先に地上に舞い降りて再び青年の姿なった。

 続いて後ろから飛んで来た二頭の竜も、羽音を立ててその場に降り立った。

 人々は、初めて間近で見る本物の竜に驚くばかりであった。

 子供の中には、その姿に怯えて泣き出す者さえいた。


 その竜の背には、若い男がふたり乗っている。

 そのふたりの姿を見た人々はすぐに、それがメメチャンバそのものであると感じていた。

 なぜなら、彼らは伝説通り竜に乗って現れ、その容姿は伝説そのままだったからである。

 さきほどまて泣いていた子供も、

「メメチャンバだ!」と、いう周囲の大人の声に泣き止んで、その男たちをじっと見つめていた。


 アランとトゥルリーは、どよめく村人の間にマリアとルークの姿を見つけて竜の背から降りたち彼女たちの元へ歩み寄った。

 村人は口々に「メメチャンバだ!竜に乗って現れた!本物だ!」と言ってその場にひれ伏した。

 ギーシカとその夫は自ら、アランとトゥルリーの元に歩み寄ると片膝をついて挨拶をした。

「メメチャンバ様、ようこそおいで下さいました」


 アランとトゥルリーは心の中で

「効果絶大だなぁ」と思いながらも、そこは能面のように表情を崩さずに挨拶した。


「突然の空からの訪問で失礼する。ギーシカ族長でらっしゃいますか?」

 アランは、すぐに女族長の傍に歩み寄り、膝を折って騎士の挨拶をした。


 次に夫である族長補佐に手を差し伸べ「よろしく」と言った。


 族長補佐は、大きな体を小さくして腰を折るようにアランの手をとって挨拶した。

「メメチャンバ様にお会いできて光栄です」


 かなり緊張しているのが伝わって来る。

 すっかり度肝を抜かれている族長と補佐に、マリアとアンジェラが声をかけ、族長の家に入ることとなった。


 広場に取り残された村人が、遠巻きに竜に群がっていた。

 すると、ルークが人間の姿のまま一頭の竜の背に乗り空に舞い上がった。

 残りの一頭もルークたちに続いて空に舞い上がり、ナチョック山の方へ飛び去って行った。

 そこに残ったのは、女性の姿をしたトゥルリーの使徒のビショップだけだったが、彼女もまた人々に気づかれぬように白い鳩の姿に戻って空に飛び立っていた。


 ケチャ教の教えは、旅人は持て成すという精神だったので、ギーシカ族長とその夫は、メメチャンバとして舞い降りた客人をもてなすべく、家の中にアラン達を招き入れた。

 ギーシカ族長と、その夫の後について族長の家に入って行ったアラン、トゥルリー、マリア、リ・リシェリー卿を待っていたのは、テーブルの上に所狭しに料理が並ぶ食卓だった。

 それは現地で調達できる素朴な料理ばかりだったが、この村で用意できる精一杯のもてなしの料理だった。

 アランとトゥルリーは、エゾフ族の時に学んだケチャ教の風習をしっかり理解していたので、何も食べずに訪れていた。


 トゥルリーは、マリアに精神感応(テレパシー)を使って

「ケチャの伝説では、メメチャンバはたらふく食べることになってぃるらしい。だから今朝はふたりとも朝飯抜きさ」

 と、話しかけた。


 それを受けてマリアは

「そうなのね。どうりでお腹の音が聞こえたはずだわ」

 と、返しながら目で合図をしながらクスリと笑った。


 やはり、ひとりで現地に居るよりも幼馴染たちと一緒だと安心する。

 ここからは、アランのお手並み拝見と言いたいところだが、既に族長夫妻の心はメメチャンバのふたりに掴まれているようだった。


 アランとトゥルリーは、パドラルに侵入したBlack Mageと黒魔術師達が『大黒主神教』という宗教を使い、人々を洗脳した上で自分たちの国を作ろうとしていること、スチュアートリア帝国での彼らの策略、それを阻止した経緯を語ってから

「我々の目的は、Black(ブラック) Mage( マギ )達からパドラルを守り、パドラルの平和統一することだ。決して侵略することも属国とすることもしないと約束する。だから、我々に協力して欲しい」

 と、ギョンサザ族の協力を求めた。


「既にエゾフ、カチヤック、テックカンの三部族の族長からの協力は取り付けている。いずれの部族もみなパドラルの平和を願っている」


 アランの申し出に対して族長ギーシカが言った。

「我々、ギョンサザ族も平和を望んでいます。我がギョンサザの者は、家族や部族のみなを守る為なら勇ましく立ち向かい、命を懸けて闘う覚悟です。しかし、自ら敵に挑んで相手の命を奪うような闘いは好むところではありません」


 ギーシカ族長の隣で黙って寄り添っている彼女の夫を見ながらアランが言った。

「ギョンサザは、女性優位の部族と耳にしていましたが、全く逆でした。女性や子供たちを守る為に男性が矢面に立ち、厳しい仕事は全て担っている。ギョンサザの男性は真の意味で男らしい方たちだとお見受けしました」


「本当に見るからに屈強な男性陣で驚きました」

 と、トゥルリーも言った。


 すると、それまで無言でギーシカ族長を見守っていた彼女の夫が言った。

「あなた方は、伝説のメメチャンバとしか思えないが、それでもまだ信じられない私がいます。あな達は、魔法は使えるのですか?」


 ギョンサザでは魔法が使える者が指導者となるという伝統がある。

 族長のギーシカは、魔法が使えるので女族長として認められているが、その夫である彼も多少の魔法が使えた。


「ええ、使えます。でも必要な時以外は使いません」

 と、アランが答えた。


「私と勝負することはできませんか?」

 と、言う族長補佐の言葉に対してアランは

「勝負ですか?闘うことは無意味ですので技の勝負でしたら受けて立ちます」

 と、答えた。


 すると、男は家の外に出て従者に何やら伝えて戻って来て言った。

「今から、枯木の鉢をふたつ持って来させます。その枯れた木を再生させられたらあなたの勝ちです」


「わかりました。勝負しましょう」

 と、アランは快く答えた。


 White Mageのリ・リシュリー卿は白魔術が使えるので、しおたれ花を復活させることは容易だが、完全に枯れた木の再生は、難しく時間を要する。

 族長補佐は、いつもは部族両地境の村に居て、滅多に会うことが無いので彼の魔力については良く知らなかった。

 マリアに関しては、アランの力を熟知していたので勝負に関しては全く心配していなかっったが、むしろ族長補佐の男の魔力に興味津々だった。


 まもなく、族長の家の者がふたつの枯れた木の鉢を持って来た。

 それぞれ、二人がかりで運ばないと持てないほどの大きな鉢植えだったが、どちらもすっかり葉が落ち、枯れてしまっていた。

 一見、どちらも同じように枯れている鉢植えの木に見えた。


 アランは、そのふたつの鉢に近づいて、それぞれの木の様子を観察して言った。

「こちらの木は、枯れているが幹は生きているので、再生は容易そうだが、こちらは、ほぼ幹も駄目になっているが辛うじて根にまだ生気がある。私はこの根だけ生きている鉢を選ぼう」


 男は、アランがすぐにふたつの木の状態を見抜いたことに驚いていた。

「不利な方で良いのですか?」


「ええ、もちろんです。あなたからやってみて下さい」

 アランは、にこやかな笑顔で男に先鋒を譲った。


 男は、自分から言い出した上に、条件が異なる鉢を用意した上にそれを見抜かれてバツが悪そうだったが、気を取り直して呪文を唱え始めた。

 妻のギーシカや族長の家の者の見守る中、族長補佐は必至で呪文を唱えていた。

 すると、枯れてしおれていた木に潤いが満ちて、細い木の枝から新芽が芽吹きだした。

 ギーシカとその家族も安心したように笑顔を見せて拍手した。


 男もホッとしたように額の汗をぬぐいながら呪文を止めて、アランに向かって言った。

「次は、あなたの番です」


「ええ、わかりました」

 アランは、そう言って立ち上がると指をパチンと弾いた。

 その弾かれた指先から赤い光のオーブが現れ枯れ木の周りに向かうとその木全体を優しく包んだ。

 すると、さきほどまで、すっかり枯れて死んだように見えた木の枝が延び、葉が生え、根が鉢を破って伸び、そのままどんどん延びて天井につくまでの大木になってしまった。


 人々があまりの出来事に驚いたまま呆然としていると

「こりゃまた、やり過ぎたたな。トゥルリー、イイ感じに戻しくれるか?」

 とトゥルリーに言った。


「これじゃ、部屋が狭くて仕方ないからな」

 トゥルリーは、アランの丸投げに答え、同じように指を弾いて、木をちょうど良い大きさに戻した。


「ありがとうトゥルリー、でも天井に穴が開いてしまったな。こちらは自分で修理しよう」

 と言って、アランは右手人差し指を天井に向け、頭の横でくるりと一回転させた。

 すると、空が見えてしまうほどの天井の大きな穴を、アランの赤いオーブの光が向かいその穴を覆い元通りの天井に戻っていた。


 マリアは、トゥルリーに

「アランったら、やり過ぎパフォーマンスを楽しんじゃってるみたい?」

 と、テレパシーで言うとトゥルリーは

「俺の力も皆に見せたかったんだろうが、やり過ぎだな」

 と、返事をした。


 アランとトゥルリーの一連のパフォーマンスを見たギーシカとその夫は、もう彼らの力を疑う余地は無かった。

 木をここまで復活させられるということは、再生の魔法が使えるということで、それは人間にも適応できるという事だ。

 天井を破壊し修復してみせたのは、破壊も修復も出来ることの証だった。


「御見それしましたメメチャンバ様。私にはあなた方に太刀打ちできません」

 と、男はアランとトゥルリーの前にひれ伏して言った。


 ギーシカも夫と共にひれ伏して言った。

「ギョンサザ部族は、喜んでメメチャンバ様に協力させて頂きます。どうぞ、パドラルに平和をお与え下さい」


「ありがとう。一日も早くギョンサザ部族のみんなが、家族と共に安心して暮らせる日が来るようしよう」

 と、アランは床に片膝を付いてふたりの肩に手を置いて言った。


 こうして、ギョンサザ部族もみごとスチュアートリア帝国側に付けることに成功した。


 アランは、ギーシカとその夫から、ブレドール族について、さらにはケアニスクス山脈を挟んで西側のニードン、ホルスポ、ヒボス、ジャーアス、ケケドラについて、ふたりが知る限りの情報を得ることが出来た。

 一番の朗報は、どの部族もケチャの神を信じ信仰深い部族であるということだった。

 リゲル・ラナ星の年明け、新年の二日目は順調に過ぎて行った。

「オセロ作戦」第二局序盤は順調であった。


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