「オセロ作戦」第二局会議 =ルフ・ロイスベリー城=
帝国神聖魔術士養成大学の学生たちが、それぞれの休暇を楽しんでいる頃、アランは、パドラルに戻りWhite Mageのグライデン卿と共にジャンバラン族の部族長のメドゥーに会いに行くことにした。
一次的とはいえ、ジャンバラン村にスチュアートリア帝国の砦を築くことになり、帝国軍の騎士を常駐させることになるので、誤解が生じぬように事前に、しっかり話し合っておくべきだと考えたからである。
「アラン、俺も同行しよう!」
と、トゥルリーが言ったがアランはきっぱりと断った。
「今回は、現地のグライデン卿と合流して行くので心配は無い。大勢で行って威圧感を与えたくないのだ。ジャンバラン族長家にもグライデン卿とふたりで行く」
トゥルリーはアランの身を案じていたが、軍人としての彼はアランの部下である。
不本意でも素直に従うしかない。
もちろん、本当にアランの身に危険が生じる可能性大であれば、押し切ってでも着いて行くところだが、アランは当代最強のHoly Mageである。
また、アランは、闘いに行くわけではなく交渉に行くのである。
きっと、この場にシオンが居たらニヤついただろうなと、トゥルリー思いつつ今回は素直に折れた。
そんなトゥルリーを見てマリアは、陰でくすりと笑った。
アランは、再びパドラルの砦候補地である元大黒主神教教会へ竜に乗って向かった。
砦の建築はまだ始まってはいなかったが、現地のグライデン卿の配下の者と、帝国軍の騎士数名が常駐していた。
彼らは、一見騎士には見えず農夫のような恰好をしており、これからのジャンバラン村とパドラルの未来に期待を持って仲良く働いていた。
アランは、砦候補地の元『大黒主神教』教会へ降り立ち、常駐してくれている騎士達とグライデン卿の配下の者たちを労って言った。
「みな、この場を管理してくれてありがとう。これからここを砦に改築するための建築部隊が来ると思うので、協力してやってくれ。それと、これはこの農場で栽培する穀物や野菜の種と、果実樹の苗だ。この地からパドラルを実り豊かな国にしようではないか!」
と、アランが言うと、現地のグライデン卿の配下の者を中心に、天に拳を上げ「おー!」という掛け声が響いた。
「これは、君たちへのレッドリオン閣下からの差し入れだ」
と、グライデン卿が、アランの竜から降ろした荷物の中の穀物と果実の山を見せた。
彼らから再び歓喜の声があがった。
その風景をアランも満足げに眺めてから言った。
「これから、この地での収穫で賄えるようになるまでは定期的に物資を届けさせるので、皆も安心して頑張ってくれ」
と、言うレッドリオン閣下の言葉に、グライデン卿の配下の者たちの中には目を潤ませる者もいた。
そして、アランは竜を砦の候補地に待機させ、グライデン卿と合流して再びジャンバラン族メドゥー族長の元を訪れた。
ジャンバラン族長の家は、元『大黒主神教』教会からほど近いところにあった。
この村人として暮らしていたグライデン卿が部族長の家の者に声をかけた。
現地の者として長らく暮らしているグライデン卿には、族長の家の者も心を許している。
すると、すぐに族長の息子の嫁らしき者が出て来て、先日、大黒主神教を追い出し、部族長一族にかけられていた呪いを解いてくれた感謝を述べた。
「今日は、族長とお話をしたくて参りました。面会は可能ですか?それと、みなさんにお土産を持って来ました。みなさんで分け合って下さい」
と、自分の後ろの荷車に積んだスチュアートリア帝国産の穀物の袋と荷台いっぱいの果実を指しながらアランが言った。
族長の家人は驚きながら感謝の言葉を述べた。
「えっ、こんなにたくさん?あ、ありがとうございます」
ジャンバラン村は、貧しい村なのに今まで『大黒主神教』に牛耳られていたため食べる物も少なくなっていたのだ。
アランとグライデン卿は、荷車とそれを引いてきた馬を族長の家人たちに託して、族長の家の中に入って行った。
「グライデンありがとう。わしもすっかり良くなったよ。今日は土産まで貰ったようで…。今は村の食べ物が乏しい時期だから助かるよ」
と、メドゥーはグライデン卿の方へにじり寄って来て卿の手を取った。
「いえ、あれは私では無く、こちらの方からです」
と、グライデン卿が言うとメドゥーは、卿の後ろに立っていた背の高い美しい男の姿を見てハッとした。
また、あの方が来てくれるとは予想もしていなかったからだ。
族長はその者が、自分を黒魔術の呪いから完全解放してくれたスチュアートリア帝国の皇帝の一族のGrate Mageのレッドリオン公爵だと気づき、慌ててその場にひれ伏して言った。
「先日は、ありがとうございました」
周囲に居た者たちも、族長に合わせて全員が地面にひれ伏した。
アランは、静まり返ったその中を族長の前まで歩み寄った。
そして、高齢の族長を気遣うように自分も片膝を床に付けるようにしてしゃがみ、族長の肩に手を置いて言った。
「いえ、お元気になられたようで良かったです。どうぞ顔を上げて、今日は、事前にご了承いただきたいことがあって参りました」
族長のメドゥーは顔を上げてまじまじとアランの顔を見た。
先日は、黒魔術の影響が残ったボンヤリした状態で見ていた、自分よりも高齢のはずのその男の若々しさと美しさに改めて驚愕の思いでアランを見つめた。
アランは、メドゥーが完全に自分を受け入れていると察し、単刀直入本題から話し出した。
「先日、族長が私におっしゃって下さいましたが、私もパドラルを救いたいと思っています。ですが、今のように常に部族同士が小競り合い繰り返しているようでは、例え今回Black Mage達を撃退したとしても、この国は幸せな国には成らないと思っています」
アランの言葉にメドゥーも同意して言った。
「わたしもそう思っています。このジャンバラン村はパドラルの南の端のちっぽけな村だから、なんとか生き延びていますが、いつか強い部族に襲われるのではないかと、ずっとヒヤヒヤしています。だから、『大黒主神教』なんて怪しい宗教に付け込まれたんだと思っております」
メドゥーは、この先の村の未来に悲観していた。
「帝国としても隣のパドラルが不安定でBlack Mage支配されるようなことがあれば、脅威でしかありません。そうなる前にパドラルを統一したひとつの国家にして自己防衛できる国になって欲しいと考えています」
「そうなれば、どんなら良いかと思いますが…もう長年ずっとこんな国がひとつにまとまると未来は想像できません」
と、メドゥーはアランの言葉に対し、長く続いた戦国時代から抜け出せるとは思えない気持ちを吐露した。
「わがスチュアートリア帝国も、且つてはちっぽけな一国家でした。今や広大な領土を持つ帝国になり、長年平和を維持しています。そのノウハウをパドラルに活かし国造りのお手伝いをしたいと皇帝陛下も考えておられます」
と、言うアランの説明を聞いてメドゥーは目を輝かせた。
確かに、スチュアートリア帝国も、かつては帝都周辺を領土とするトロア国という小さな国だったと聞いている。
そして、羨ましいほど豊かで平和な国を長年維持している。
さらに、Black Mageよりも優れた魔法が使えるこの人なら、それも可能なのかもしれないと思える。
「それが本当ならば是非お願いしたい。我々に協力できることがあれば何でもします」
と、メドゥーが言った。
横でふたりの話を黙って聞いていたグライデン卿は、上手くこの言葉を引き出したアランに感心していた。
「ありがとうございます族長。まずは、パドラルにスチュアートリア帝国砦を作りそこから、こちらに協力してくれるよう各部族を回りたいと思います。但し、交渉だけで帝国側の考えを受け入れてくれる部族ばかりでは無いでしょうし、攻撃的な部族もいると思います。その時は、ジャンバラン村ごとスチュアートリア帝国軍が守りますので安心して下さい」
と、アランは今回の族長訪問の本題を告げた。
「砦ですか?」
と、メドゥーが不安そうに言った。
「例の大黒主神教教会を改築して砦にてそこをパドラルでの帝国軍の拠点とします。砦と言っても見た目は広い農園のように見えるものです。ただ、牛の代わりに竜が居るかもしれませんが」
と、アランが笑うとメドゥーはアランが冗談を言ったのかと思いつられて愛想笑いをした。
「パドラルが安定し我々が撤退した時は、村の施設として使って下さい。一日も早く、そうなるように心がけます」
メドゥーは、今までのことを考えると、アランの言っていることが現実となる日が来るとは到底想像できなかったが、なぜか彼なら実現してくれるように思えた。
「わかりました。その日を楽しみにしています」
すると、今まで黙っていたグライデン卿が口を開いた。
「砦の建築の為に帝国軍の建設部隊が来ますが、村人に迷惑にならぬようにさせます。見た目も軍人のように見えない格好ですので、仲良くしてやってください。何かあれば、このグライデンが窓口になりますので、クレームでも何でも言って下さい」
こうして、アランとジャンバラン村の族長との会談は終わった。
交渉成立である。
部族長の家を出ると、人間の青年に化身したアランの使徒のルークが、アランの馬を伴い待っていた。
アランは、ルークから馬の手綱を受け取って言った。
「では、グライデン卿。今日のところはここで失礼する。引き続きジャンバラン村のことをよろしく頼む」
「かしこまりました。お任せ下さい」
グライデン卿は、騎士の立礼をしてアランに敬意を示した。
アランは、ひらりと馬に跨ると、
「感謝している。グライデン卿」
と、言う言葉を残してアランが馬を走らせると、その後を追うようにアランの使徒のルークが鷲の姿に戻って飛び立って行った。
そんなアランの姿を見送りながらグランデン卿は呟いていた。
「アラン様は、いつも感謝の言葉をくれる。決して上から目線で語ることもない。これが皇帝一族なのだろうな」
アランは、竜を待機させてある砦候補地へと馬を走らせた。
そして、次の一手について考えていた。
このジャンバラン村を拠点にしてパドラル内の部族をひとつずつ味方につけなければならない。
今日のところは、砦の建築許可が出たということで、拠点となる基地としての砦建設の計画を心置きなく進めることができる。
次は「オセロ作戦」第二局の一手をどこに打つかである。
アランは砦候補地に着くと、馬から竜に乗り換えてルイスガードナー基地へ戻った。
「首尾は上場だと、シオンに連絡してくれ。今回は、田舎の村での仕事になるから建築部隊には民間の大工の格好で行くように、しっかり指示してくれよ」
アランは、基地に戻るなりトゥルリーに命令した。
これは、トゥルリーとマリアへの報告でもある。
軍の総司令官と、大佐、少佐の関係であるので、公の場では幼馴染同士でいることは出来ない。
「御意!ご無事でなによりでした」
マリアがそう答えて、シオンへの伝令に自分の使徒のメロディを送った。
メロディは、大型のインコのような美しい鳥である。
そして、トゥルリーが「オセロ作戦」の地図を広げてアランに言った。
「閣下がパドラルへ行かれている間にシオン参謀から提案がありました」
「ほう、シオンから?」
「はい」
トゥルリーは、「オセロ作戦」の地図に指さしながら、その内容をアランに説明した。
「先日の作戦会議通り、北部の部族から交渉に赴くには、竜を使うとしてもこの基地からでは不便です。ジャンバラン村の砦も建築中になりますし、その間はシルバー・ベイリー伯爵家のルフ・ロイスベリー城に移られてはどうか?とのことでした。」
地図上で見ると、マニ・トバールとの国境沿いの部族の土地と、ルフ・ロイスベリー城は、シルバーコルティナール山脈を挟んだ対極に位置していた。
「ベイリー伯爵の城か…。久しぶりだな」
と、アランが言うとベイリー大佐が嬉しそうに
「是非、我がルフ・ロイスベリー城をお使い下さい。この基地もそれなりに快適ですが、おもてなしは出来ませんし、父も喜ぶと思います」
と、言った。
シルバー・ベイリー伯爵は、アランとウィリアム皇太子が子供の頃の侍従長だった。
気心も知れているし、交渉先の部族の土地へは、竜に乗って山を越えればすぐに行ける距離である。
特に拒否する理由は無かった。
シオンのことなので、きっとベイリー伯の許可は得ているに違いなかった。
ということで、ルフ・ロイスベリー城へ三人は移動した。
そこでは、周囲に気を使うことなく幼馴染三人としての会話も可能である。
アランとしても、ふたりに命令口調で話さなくて済む方が気楽だった。
ルフ・ロイスベリー城へ到着すると、案の定シルバー・ベイリー伯爵が嬉しそうにアランを出迎えてくれた。
「若~!!お待ちしておりましたぞ。おふたりもようこそ」
トゥルリーとマリアも当然アランの侍従長であるベイリー伯爵の世話にはなっている。
アランとまとめて叱られたことも、片手では済まない。
そんな苦い思い出も、もう200年以上前のことである。
三人は、ベイリー伯爵のルフ・ロイスベリー城で快適に過しつつ、パドラルへ行くタイミングを見計らっていた。
今回、交渉を持ちかけたい部族は、ケアニスクス山脈を挟んで西側のホルスポ・ヒポス・ニードン・ギョサンザと東側のカチヤック・テッカン・エゾフのマニ・トバール国境沿いの7部族である。
できればここに西の側のジャーアスとケケドラの2部族も加えたいところなのだが、ここは手強そうなので、現地で様子を見てから考えることにした。
西側のニードン部族にエイディオス卿というWhite Mageが、東側には、リ・シェリー卿というWhite Mageがギョンサザ部族に潜入していた。
彼らが潜入している部族は、どちらも平和主義で穏やかな部族であるということなので、交渉も難しくはなさそうである。
しかも、純粋で信仰心が厚い気質の民族らしいので、『大黒主神教』が進出して来る前に手を打っておきたいところだった。
「さて、北西部から行くか、北東部から行くかだな。パドリアヌス達に気づかれぬうちに進めたいし、できればその地域だけでも結束させたいが…迷うところだな」
と、アランはシオン参謀からの追加の詳しい情報を待ちながら、現地への行くタイミングと場所を試案していた。
「まもなく年末だが、パドラルでも年の終わりや、新年に祝祭は行うのだろうか?」
と、アランがつぶやくと
「もし、何かあればそれを上手く利用したいところだな。下手に動くと逆効果になる可能性もあるし、いつも以上にタイミングが重要な時期だ」
と、トゥルリーもその点には注意が必要だと考えていた。
トゥルリーとマリアは、いつもなら新年祭の祭りの際には、各地区を回り広場の聖火の管理をしていた。
今年は、「オセロ作戦」遂行の為にアランに随行することとなり、祭りの仕事を部下に引き継いで来たので、心の隅で気にしていた。
そんなふたりだからこそ、新年祭に掛ける街の人や村の人の熱量を何よりも知っているだけに気になる点であった。
「パドラルには土着の宗教があったわよね?ケチャ教だったかしら?原始的なコミュニティをまとめるには、やはり宗教って必要なものになるから、必ず何かしらあるはずよね?我々も部族の習慣や信仰を勉強してから現地に向かった方が良く無いかしら?」
と、帝国神聖魔術士養成大学で、「心理学・倫理・宗教論」を教えていたマリアが言った。
「確かにな。それは交渉する上でも礼儀として知っておくべき基礎知識だな。俺は帝国とエド・ロア、ブロッサン国内の宗教に関しての知識はあるが、パドラルに関しての知識はほとんど無い」
と、トゥルリーが言うとアランも同意して言った。
「そうだな。俺の知識も似たようなレベルだ。その点についての情報もシオンに頼んでおこう」
アランのそんな要請に対し、翌日にはシオンからの資料が届いた。
「さすが、シオンだな。既に情報はまとめられていたらしい」
と、アランが言うと
「それなら、早くよこせって感じだな」
と、トゥルリーが言ったのを聞いてマリアは笑った。
「シオンには参謀しての考えがあるのでしょう。情報収集も大変でしょうし、たまたまこのタイミングになったのかもしれないわよ?」
「そうだな。今回は『大黒主神教』という宗教がらみの闘いでもある。宗教を無視して交渉は成立しないことをシオンも熟知しているはずだからな。しかも、この資料の量だ。苦労が見える」
と、アランは分厚い資料の山の中から『パドラル北東部の民族の歴史と風習』というタイトルの資料の束を手に取って言った。
いつも感情を表情に現わさないトゥルリーだが、ちょっと面白くなさそうだなと、その些細な表情の変化を汲み取ったマリアの口角が上がっていた。
トゥルリーとシオンは、子供の頃からアランを挟んでライバルなのである。
だが、ふたりは自分に無ものを持っている相手をそれぞれリスペクトしている。
そんなふたりの関係性がマリアには面白くて仕方なかった。
『パドラル北東部の民族の歴史と風習』に続き『パドラル北西部の民族の歴史と風習』の資料に目を通していたアランがマリアに言った。
「マリア、これを読んでおいてくれ、北東部は君に活躍して貰うことになりそうだ」
ち、言って『パドラル北東部の民族の歴史と風習』という資料をマリアに手渡した。
三人はしばらく、それぞれの資料を読み込むことにした。
White Mageとはいえ、これだけの資料を読み頭に入れるには時間を要する。
彼らは三日をかけ全ての資料を読み込んだ。
三日目の朝、食事をしながらマリアが言った。
「アランが言った意味がよくわかっわ。東部の四部族は、このギョサンザ族がポイントになりそうね。しかも部族長が女性だということだし、派遣されているWhite Mageも女性騎士。ということは…、そういうことよね?」
「いわゆるアマゾネス的な部族らしいな?宗教的にも巫女を敬って大切にしているらしいから、交渉役は俺たちよりマリアが適任のようだ。」
と、トゥルリーも朝食のパンを食べて口に付いたパンくずをナプキンでぬぐいながら、納得するように言った。
「ああ、敢えて女性のWhite Mageを送り込んでいることをみると、女尊男卑の信仰宗教のようだから我々では相手にして貰えない可能性もある。ここはマリアに任せたいと思う」
と、朝食の手を止めて窓の外を見ながらアランが言った。
アランの視線の先の窓の向こうの空に、何か飛行する生き物が見えていた。
それは。ぐんぐん近づいて来て閉まった窓を通り抜けて入って来た。
魔鳥のプラッタである。
グライデン卿の使い魔のハリソンではなさそうだった。
「魔鳥?」
マリアとリシュリーは使い魔のプラッタを見てつぶやいた。
「君はだれの使い魔かな?」
と、アランがプラッタに語りかけると、プラッタは一通の封筒をアランに渡した。
アランはその封筒を受け取るとすぐに、朝食用のナイフで封を切って中の手紙に目を通した。
そして、読み終わった手紙をマリアに渡してから、自分の使徒のルークに手紙を書く道具を持って来させた。
「リ・リシュリー卿からだ。シオンからの連絡を受けて交渉の根回しをしてくれている。やはり、我々よりもマリアが部族長と会談した方が良さそうだ。その前に、我々でギョサンザ以外の部族との交渉を成立させた方が良さそうだ。マリアの出番はそれからだ。それまで、マリアはギョサンザへ行ってリ・リシュリー卿と合流し、タイミング見計らっておいてくれないか?」
と、言うアランの言葉に答えてマリアは言った。
「閣下!あなたは最高司令官です。軍の作戦遂行の指令は、遠慮なくしっかり出して下さい。もちろん、仰せのままにです」
二歳年上のマリアは、いつもアランの姉のようにアランを窘めるが、忠実な部下なのである。
アランは、ふたりとは兄姉弟のように育って来たので、ついつい気遣ってしまう。
マリアもトゥルリーも、年下のアランを弟のように思ってはいるが、有能なHoly Mageとして、皇帝の甥として、軍の総司令官のアランを尊敬し心からの忠誠を誓っていた。
「オセロ作戦」は、皇帝自ら軍を率いて闘える作戦では無い。
隣国内での作戦遂行になり、侵略行為と誤解されない為にも極秘遂行が望まれる。
そんな難しい作戦を指揮するアランの補佐に選ばれたふたりは、全力でアラン支えたいと思っていた。
もちろん、シオンも同じ気持ちだったが、軍の参謀室を離れることはできなかった。
アランは、手紙を書き終えると封蝋をしてリ・リシュリー卿の使い魔に渡して言った。
「リ・リシュリー卿によろしく伝えてくれ」
「私がグリーンフィールド少佐よ。私が伺うことになるのでよろしく伝えてね」
と、マリアが言うとリ・リシュリー卿の使い魔は、おじぎをするように頭を下げた。
動物の言葉がわかるマリアは
「あなたは、ダンドリーと言うのね。よろしくダンドリー」
と、言って使い魔に手を振った。
リ・リシュリー卿の使い魔のダンドリーは、主人が女性のせいか嬉しそうに翼を広げ、西の空に飛び立って行った。
パドラルの東部地区には、年末年始という暦の感覚は無いらしく、この時期に訪問しても問題ないらしいということで、彼らは「オセロ作戦」第二局を決行することにした。
リゲル歴4045年15月の年の瀬であった。




