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Beyond of Cosmos =星巡りの物語=リゲル・ラナ編  作者: 詩紡まりん
『光と影の闘い』=オセロ作戦始動= リゲル歴4045年

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ブルーフォレスト城 からシュヴァーネンフリューゲル城へ

帝国西側の三辺境領地とその城


挿絵(By みてみん)


ブルーフォレスト城 (ブルーフォレスト辺境伯領)

シュヴァーネンフリューゲル城 (ラングレー領)

ルフ・ロイスベリー城 (シルバー・ベイリー領)



 ブルーフォレスト辺境伯領の最東部にある帝国軍駐屯地を飛び立った一行は、午前中に飛んで来た時よりもさらに高い高度を目指した。

 途中、厚い雲の中を切り抜け、少し濡れながらも上昇気流に乗り、ブルーフォレスト城へ向かう気流を上手く捉えて乗ることができた。

 これに失敗すると竜達に頑張って貰わなければならなくなり、かなり疲弊させることとなる。

 雨雲の接近度合いによっては、竜達に羽ばたいて貰わないと切り抜けられなくなる。

 可能な限り気流に乗って飛びたかった。

 高度を上げると、気温もさらに寒くなり空気も薄くなっていた。


「全員、空気のコントロールは自分たちで出来ているか?」

 と、オスカーが確認した。


 Holy Mageクラスの者たちは問題なく魔法でコントロール出来ていた。

 ノアも、この時の為に練習して来たので、上手く魔法を使うことが出来て自分でも軽く感動していた。

 アイラとリリアーナは、まだひとりでは上手く出来なかったが、オスカーとポリアンナがコントロールしてくれいたので問題なかった。


 間もなく雲の厚さが増し、足元の雲の中で電気が走り出した。

 落雷は基本、上から地上に向かって落ちるが、接近しすぎると上にいても電気が走ることもある。

 足元の雷に巻き込まれぬように、さらに高度を上げ、この雲塊からの脱出を試みた。


「雷雲を振り切るために高度を上げて加速する。みんな加速の魔法はできるか?」

 と、いうオスカーの言葉を聞いてノアは戸惑っていた。


 騎馬術の授業の時に加速の魔法について勉強したが、実際に使ったことが無かった。

 しかも、空中で竜に使うことなど予想もしていなかったからだ。

 ノアが戸惑っているとオスカーが、ノアの頭の中に話しかけて来た。


「ノア、聞こえるか?」

 ノアは、自分自身で精神感応(テレパシー)を使ったことがなかったが、オスカーからの声を受け止めることができた。


「はい、聞こえています」

 と、ノアが答えると、オスカーから

「こちらから、アクセスすればテレパシーでの会話も可能みたいだな」

 と、オスカーの声が戻って来たのでノアも安心した。


「ノアは、加速の魔法は使ったことはあるか?」

 と、オスカーが尋ねるとノアは答えて言った。

「騎馬術の授業の時に教わりましたが、まだ使ったことはありません」


 ノアの返事を聞いてオスカーは言った。

「授業で教わったことを思い出して、俺について行くつもりで加速の魔法を使ってみてくれ。できなかった時には俺がフォローする」


 ノアは自信ないがやって見る価値はあるなと思った。


 オスカーは、テレパシーで全員に語りかけた。

「これから全員で加速の魔法を使って、雨雲を振り切る。各自、魔法を使って自分の竜を加速させて雨雲を振り切っるように。ポリアンナは荷物を積んでいる二匹をフォローできるか?俺はノアをフォローする」


 クレイブとクロエは同じ金鱗竜だがHoly Mageの使徒として神聖力(Holy Power)で加速できるので、魔法を必要としない。

 オスカーとポリアンナは。その分の力を他の竜に使える。


 するとポリアンナが、兄に答えて言った。

「お兄様、私がノア君のフォローをするので、荷積竜二匹はお兄様がフォローして頂けませんか?」

 と、ポリアンナが兄に提案した。


 オスカーも確かに、自分が二頭の加速を担当し妹がノアをフォローする方が良いと思って答えた。


「そうだな、その方が良いな。ポリアンナとクロエが一番騎竜ポジに移動してくれ、俺がしんがりに回る」


 そして、再度オスカーは、パイロットの皆にテレパシーで話しかけた。

「私が、荷積竜二匹の加速を担当する。ポジションチェンジをしてノアのフォローにポリアンナが回る。準備が出来次第加速するので、みんな準備してくれ」

 と、言うとオスカーは後ろに回り、ポリアンナとリリアーナを乗せたクロエが先頭へ移動した。


「お兄様、みんな!これから加速上昇します!いいですか?」

 と、ポリアンナが言うと、ノアが言った。

「僕も自分で加速の魔法にチャレンジしてみます。遅れたらフォローお願い!」


「了解!では、みなさん行きますよ?」

 と、先頭のクロエが加速しながら上昇した。


 ノアは授業で教わった詠唱を思い出し、加速するイメージ頭の中で思描きながらポリアンナとリリアーナを乗せたクロエの姿を目で追った。

 すると詠唱を唱え終えるよりも前にノアの竜が加速した。

 ポリアンナがフォローしてくれたのだろうか?

 と、加速上昇するだけに必死で、空気をコントロールする魔法がおろそかになっていた。

 思わず呼吸困難になりかけ、ノアは慌てて空気操作の魔法を使った。


 全員で雷雲を振り切り高度を上げ、再び全ての竜が気流を捕えた。

 すると竜達は羽ばたきを止め、翼を大きく広げ、雲間を滑るように飛んだ。


「ノア君、凄いじゃない!上手くできてたわよ?」

 と、ポリアンナがノアに話しかけると


「え?ポリアンナ嬢が助けてくれたんじゃないの?」

 と驚くように答えた。


「ううん、私は何もしてないもよ?」


「ほんとに?」

 ノアは、信じられないというように答えた。


 詠唱を唱え終える前に加速しだしたのはなんだったんだろう?

 とりあえず、加速の魔法を馬より前に竜に使えたことにホッとしていた。

 ポリアンナとオスカーは、安定した所でポジションチェンジし元の編隊に戻った。

 しばらく飛行していると足元の雲の量が減り出し、雲の合間の遥か下に山並が見えた。


「うわぁ~、山の上を飛んでいる。しかも、ずっと下に見える」

 と、リリアーナがポリアンナに言った。


「そうよ、さっきよりだいぶ高いところを飛んでいるもの。リリアちゃん怖くない?」


「ここまで来たら、もう怖さも飛んでいっちゃったわ」

 と、リリアーナはケロリとしたように答えた。


「雲も薄くなって来たし、この山を越えたら高度を下げよう」

 オスカーは、パイロットの皆に伝えてからアイラに向かって言った。


「アイラ嬢、大丈夫かい?あと小一時間で到着だから、もうしばらくの辛抱だよ」

 アイラは、急な上昇と加速に目が回るような気分だったが、後ろで支えてくれているオスカーの存在にすっかり安心していた。

 そして、まもなく到着すると聞いて逆に寂しい気分にすらなっていた。


「オスカー様、お気遣いありがとうござます。でも、オスカー様のおかげで私も空の旅に慣れて来みたいです」

 と、まっすぐ前を向いたまま答えた。


 まだ、オスカーの顔を見て話すのはハードルが高いすぎるのだ。

 今は、前を向いたまま話せるので、アイラにはちょうど良かった。


 すると、オスカーは妹と同じ年齢のアイラの頭を撫でて言った。

「アイラ嬢、空の高さへの恐怖を克服したのかな?今日一日で成長したね、偉いぞ!」

 アイラは、オスカーに子ども扱いされているとは思ったが、褒めて貰えたことが嬉しかった。

 だがしかし、その言葉に返すことばが思い浮かばず、ただ小さく前に首を振って頷くことしか出来なかった。


 山を越え高度を下げると空は青空だった。

 ブルーフォレスト辺境伯領は北西部位置していたが、ブルーフォレスト城はその南部に位置している。

 その風土は、冬に雪は降ることはあっても極寒の寒さは無かった。


 ブルーフォレスト城は、辺境伯領に相応しく辺境地を守る砦の役割を担っている。

 城は小高い丘の上に建っており、そこに至るまでには緑の牧場がなだらかに続いていた。

 城の後ろには、ブルーコルティナール山脈が連なっており敵の侵入を阻んでいた。

 城へ続く道を行くと橋が架けられており、山から注ぐ清らかな川が流れていた。

 その川の水は城を囲うように造られた人工の崖に注がれていた。

 正面から見ると、優雅な居城に見えるが、両サイドの守りは堅固な城壁がそびえており、この城が単なる貴族の城では無いことを物語っていた。

 さらに、城の裏手には広大な森が広がっており、ブルーフォレスト辺境伯家が誇る(ゴールド)(スケール)(ドラゴン)の繁殖地になっていた。

 広大な森の一角に伝説の『魔の森』がる。

 そのむこうのブロッサン国との国境にはデスベアルフ山脈が横たわっていた。

 城の中には、竜の飼育施設と訓練場もあった。


「リリアちゃん。あれが私たちブルーフォレスト辺境伯家の城よ」

 と、ポリアンナが遠くに見える自分の家の城であるブルーフォレスト城を指さして言った。


 ポリアンナの肩越しに顔を出してリリアーナも前方を見ると、その城がどんどん近づいて来る。

 初めて見る山城を見てリリアーナは驚いていた。

 それは、単なる居城としての城では無く、闘いを予期して作られた城塞だった。

 レッドリオン公国のグランドリオンパレスにも隣接したマリオン城という砦を兼ねた城がある。

 リリアーナは帝都に来る前にしばらくマリオン城で侍女として働いていたことがあったが、宮殿も城も広すぎて全貌はよくわからなかった。

 だが、今ブルーフォレスト城の全貌を空から見ることができている。


 ちょうど、陽が傾き出し森の向こうへ沈もうとしている時刻で、西の空が赤く染まっていた。

 そのオレンジの光に包まれブルーフォレストのシルエットが荘厳に浮かび上がっていた。


 リリアーナその景色に感動して言った。

「なんて立派で美しいお城なんでしょう!でも、お城ってただ大きくて立派で美しいだけじゃないのねぇ」

 と、リリアーナは改めて城が担う役割を感じていた。


 目を輝やかせて、陽の光に顔を真っ赤に染めたリリアーナにポリアンナも嬉しそうに言った。

「着いたら、お城の中を案内するわね」

 と、ポリアンナもオレンジの燃えるような光を受けながら、これからの休暇にワクワクしながら言った。


 ブルーフォレスト家の(ゴールド)(スケール)(ドラゴン)たちも、故郷に戻って来て嬉しそうだった。

 ブルーフォレスト城の上に着くと旋回し、城の裏手のいつもの竜のための着陸場を目指して降下し順番に着陸した。


 地上には既に、出迎えの準備をしたブルーフォレスト家の家臣の騎士たちが待ち構えていた。

 騎士達は、次々と着陸して来る竜に駆け寄ると、竜達の手綱を取って誘導。

 竜が止まると、別の騎士たちが素早く昇降台を置いていくという手際の良さだった。


 今度はアイラも迷うことなく、オスカーに手をとられて昇降台のステップを使ってクレイプから降りた。

 ポリアンナとリリアーナも飛び降りることなく優雅にステップを降りた。

 ノア、キース、アンナ、クリストファーも、それぞれの担当の者に竜の手綱を任せて地面に降り立った。

 クロエとクレイブは使徒なので、他の竜達とは異なり、城内の専用の施設で世話を受けた後に主人の元へ行くことになっていた。


「では、裏門からの入城になってしまうが、今日のところはこちらから入ってくれ」

 一同は、オスカーを先頭にブルーフォレスト城の中に入って行った。


 いつもは、帝都の邸宅に居るオスカーとポリアンナの母アンネット・ポーリー・ブルーフォレスト辺境伯夫人も領地へ戻って来ており、娘の学友たちを迎えてくれた。

 ブルーフォレスト辺境伯夫妻は、娘に初めて出来た学友を嬉しそうに出迎えてくれた。


「ようこそ、ブルーフォレスト城へ」


 オスカーとポリアンナの父である辺境伯は、ポリアンナが帝都へ行って以来もこの城を離れておらず、娘に会うのは久しぶりだった。

 すぐにでも、娘を抱きかかえたいところだったが、その気持ちをグッと堪えていた。


 ポリアンナの母アンネットとは、帝都の邸宅で会っているが、父であるプルース・カイザー・ブルーフォレスト辺境伯と会うのは初めてであった。


 ブルーフォレスト辺境伯は、帝国神聖魔術士養成大学の先生であるイーサン・バルナバーシュ・ブルーフォレスト先生の父であるが、ずっと優しい雰囲気である。

 リリアーナ、ポリアンナは、帝都の邸宅に続き、再びブルーフォレスト辺境伯家に世話になることになる。


「リリアーナちゃん、アイラちゃん、いらっしゃい。ゆっくり楽しんで行ってね」

 帝都の邸宅でリリアーナとアイラには会っているブルーフォレスト城辺境伯夫人が優しくふたりを出迎えって言った。


「ご招待ありがとうございます」

「お世話になります」

 リリアーナとアイラは、教わった貴族の挨拶をして言った。


 ノア、クリストファー、アンナは、キースのシュヴァーネンフリューゲル城へ行く途中だが、今夜はこのブルーフォレスト城に一泊して、明日ラングレー領へ向かうこととなる。


「辺境伯、クライ・ラス・インディゴ・ラングレーです。この度は(ゴールド)(スケール)(ドラゴン)をお貸しくださり感謝申し上げます」

 と、キースが挨拶をすると、ブルーフォレスト辺境伯も

「君が、ラングレー家のご子息か!これから何かと世話になることもあろう。隣接嶺地の者同士、これからも協力し合おう」

 と、言いながらキースに手を差し伸べて握手を求めた。


 キースは、辺境伯から差し出された手を取り言った。

「はい!やっと大学を卒業しHoly Mage騎士として帝国のお役に立てる身となりましたので、今後共ご指導の程を宜しくお願い致します」


「父から聞いていたが、君は優等生の好青年だから期待している。今夜はゆっくり晩餐を楽しんでくれ。 他のみんなも、まずは中に入ってゆっくり休んでくれたまえ。挨拶は、その時しよう」


 ブルーフォレスト辺境伯は。空の旅を終えた若者たちの疲れを労い、まずは城の中へと招き入れ、家臣たちにそれぞれの部屋へ案内させた。


 小一時間の休憩タイムを挟み、ブルーフォレスト辺境伯家の晩餐会が催された。

 辺境伯夫妻は娘の学友たちを快く迎え、十分なくらいにもてなしてくれた。

 娘のポリアンナは、去年まで同年代の友人もおらず、帝都のような都会は性に合わないと、領地から出ようともしなかった。

 それが今は、友人と楽しそうにはしゃいでいる。

 そんな生き生きとしている娘の姿を見るのは、両親にとってこの上なく嬉しいことなのである。


 全員の自己紹介を終え、それぞれとまんべんなく歓談し、食卓を囲み晩餐を楽しむと辺境伯は言った。

「それでは、私はそろそろ席を外させて頂こうかな。あとは、若者たちで楽しみなさい」


 すると、アンネット辺境伯婦人が言った。

「あら、私は若者の仲間でいいかしら?」


「お母様は、お若いですもの、ここにいらして」

 と、ポリアンナが言ったので辺境伯も

「アンネットの好きにしなさい。若者の邪魔はしないようにね」

 と、言って食堂から退室して行った。


 辺境伯が去ってからしばらくすると、オスカーもそっと席を外して食堂から出て行った。

 そして、オスカーと父の辺境伯は、辺境伯の部屋で話をしていた。


「オスカー、お前までこちらへ戻って来たのは、何か理由があるのだろう?単に妹たちのエスコートの為だけに戻って来たわけではあるまい」

 と、辺境伯が問うと息子のオスカーは

「さすが、父上です、お察しが良い」

 と、言った。


「実は、軍からの密命を受けてこちらへ参りました。父上もレッドリオン公が密かにパドラルへ作戦遂行の為に赴かれておられることはご存じでしょう?」


 アラン達がパドラル攻略の為に潜入していることは極秘事項となっている。

 だが、パドラルと隣接している地域とその周辺の領主たちには、その内容が伝えられていた。

 そして、いずれの領主たちもいざという時には、応援部隊として駆けつける覚悟でいた。

「もちろんだ。いつでも駆けつける準備は出来ている」


「さすが、父上です。父上もブロッサン国内の『大黒主神教』教会討伐の命は受けられていると思うのですが、現在、そこに居たBlack(ブラック) Mage( マギ )は、パドラルに移動しているとのことです」


 オスカーは、軍の最高指揮者であるウィリウム元帥(皇太子)から、アランと連携してパドラルへ突入するように命令を受けて来ていた。


「それは聞いておる。だから、冬場は動きが無いだろうということで、指令が出るまで監視体制を緩めずに居るところだ」

 と、父のブルーフォレスト辺境伯が答えた。


「はい。ただ、アランさま達の『オセロ作戦』の進行具合に合わせて、ブロッサン国の教会の動きを早めに止めるようにとの指示を受けたのです」


「早めにとは?近々にという意味か?それとも春を待たずにということか?」

 辺境伯は息子の言葉に気を引き締めて問いかけた。


「それは、わかりません。アラン様か、シオン参謀からの指示を待てと言われております」

 オスカーもそのタイミングがいつなのかは知らなかった。


 だが、『オセロ作戦』の難しさは、オスカーも辺境伯も理解していたので、現地でのアランたち次第であることの予想はついている。

 Black Mage達の方の動きは予想が出来ないが、情報網と伝達の早さは帝国軍の方が勝っている。

 今は、GOサインが出次第いつでも突入できるように準備しておくことである。


「そうか、それならわざわざお前をこちらへよこす必要も無かったのではないか?私とこのブルーフォレスト辺境伯城の騎士達で充分だと思うのだが」

 と、辺境伯は息子の派遣に疑問を持った。


「そうなんです。私もそう思ったのですが…ウィリアム殿下、いや元帥の勅命でしたので素直に従うしかありませんでした」

 父と同じくオスカーも、近衛騎士団所属の自分が、師団も連れずに派遣される意味が理解できなかった。


「ウィリアム殿下の命令ならば、きっと何か意味があるのであろう。陛下と殿下は、近未来の予知をされる方たちだからな」


 父の言葉にオスカーは頷いた。

「はい。私もそう思います。私にそれだけの価値があるのかわかりませんが、是非とも出向いて欲しいと、ご使命頂きましたからには、帝国と殿下のお役に立てるよう精一杯出来ることを行います」


 オスカーの強い決意に満ちた瞳を見た父は、息子の肩に手を置いて大きく頷きながら言った。

「オスカーも、立派に我が辺境伯家の血を受け継いでおるな!それでこそブルーフォレスト辺境伯の長男だ。共に力を尽くしてこの辺境を死守していこうぞ」


 オスカーは、父のその言葉に笑顔で答えた。

「はい。必ず」


 オスカー・エンドリケ・ブルーフォレスト帝国防衛近衛騎士団長 23歳。

 この時は、予想もつかない未来が自分を待っていることも知らず、使命に燃えていた。



 翌朝、キースのラングレー領から迎えに来た四頭の馬に乗り、アンナ、クリス、ノアと共にシュヴァーネンフリューゲル城に向けて出発した。


 ポリアンナは、ノアがキース達と行ってしまうことが、ちょっと不満だったが引き留める勇気はなかった。

 ここで、ノアがブルーフォレスト城に残っていたらどうなっていのだろう?

 運命とは、「もし…」「…たら」「…れば」は。存在しないのかもしれない。

 未来は、その都度の過去の自分の選択で決まるものであるが、時には抗えない力も加わると言えるのかもしれない。


 ノアが、ラングレー家の馬の手綱を取り馬に

「よろしくね」と、声をかけている元にポリアンナが近づいて言った。

「ノア君、うちの城にももっと居て欲しかったわ。色々、案内してあげたいところもあったから…」

 これがポリアンナの精一杯の引き留めの言葉だった。


 ノアも、実は後ろ髪を引かれるものがあった。

「うん。僕も歴史に何度も登場するブルーフォレスト城のことは、もっと知りたいと思っていたんだ。だから、ブルーフォレスト城にもまた呼んで貰えたら嬉しいな。その時は、エディとクロエで来たいな」

 と、ノアが答えた。


 ポリアンナも無理に引き留める理由もみつから無いので、

「そうね。次回はエディも来れるといいわね。その時が楽しみ」

 と、言うのが精一杯だった。

 しかし、これが後々ノアを救うことになるとは、ノアもポリアンナ自身も知らずにいた。


 クリストファーとアンナもラングレー家の馬に跨り出発の準備は出来ていた。

 ブルーフォレスト辺境伯領とラングレー領は、領地の境界が隣接しており、 ブルーフォレスト城からシュヴァーネンフリューゲル城までは、馬でも一日かからずに到着できる。

 ブルーフォレスト領よりも南に位置するので雪は積もらないが、エド・ロアとの国境に聳えるハイコルティナール山脈の雪景色が美しい土地であった。


 その領地こそ、キースの父クライ・ラス・インディゴ・ラングレーがアランの父であるラファエル全皇帝から拝領された領地であった。

 キースの父は、レッドリオン領内でのインディゴ事件で活躍した勇敢なWhite (ホワイト)Mage( マギ )騎士であった。

 今は、帝国軍人として軍に籍を置いていないが、国境のラングレー領をしっかりと守っている。


 ラングレー家には、ブルーフォレスト辺境伯家のように古い家では無いので、ブルーフォレスト辺境伯家のように先祖代々使えている臣下はいない。

 だが、勇敢なWhite Mage騎士として歴史に名を刻むラングレー男爵を慕う者も多く、その結束力は強い。


 ラングレー家はまだ一代目であるが、二代目のキースがまもなくHoly Mage騎士となるのは確実である。

 今回のキースの帰郷は、そんな家臣達にとって、ラングレー家の若様がご学友を連れての凱旋帰郷のようなものである。

 それゆえに臣下一同は盛り上がっている。

 しかし、キース本人は、全くそんな意識は無い。

 ただ、自分の心が折れそうな時に自分を支えてくれて学友を連れの帰郷であり、そんな学友たちに休暇を楽しんで欲しいと思っていた。


 ラングレー家の自慢は、帝国内でも美しいと有名のシュヴァーネンフリューゲル城である。

 白鳥が翼を広げたように白く美しい城と、その周りの庭園の調和が、なんともいえず美しいと貴族間では有名だった。

 前領主が皇帝に領地を返領し、一時的に帝国直轄領となっていた。


 帝国直轄領の時期も含め、その美しさゆえに古き良きその城には専属の管理者が置かれ維持管理されて来た。

 領地を皇帝から賜ったラングレー家は、領地だけでなく城もしっかりと受け継ぎ守っている。


 その領主の息子であるキースは、今、ブルーフォレスト城経由の道で学友と共に馬に乗って自領を目指していた。

 特に急ぐ旅でも無いが、念のため朝食後すぐにブルーフォレスト城を出発していたので、友との会話を楽しみながら馬を進めていた。


 ラングレー領に入った小高い丘の上で一行は昼食をとることにした。

 ブルーフォレスト家の料理長が腕を振るってくたれたお弁当を広げ、ピクニック気分である。


「こんなふうに皆と過ごせるなんて想像もしていなかったよ」

 と、キースがミートサンドを片手に感慨深く言った。


「私もよ。なんだか色々不思議だわ…。う~ん、このサラダ最高」

 自分のお好みに合わせて作って貰ったサラダを左手に、フォーク右手に持ったアンナが空を見上げながら言った。

 その横には、使徒(しと)のノエルが自分用に用意して貰った水と餌のお皿を前に、主人(マスター)の嬉しそうな顔を見上げていた。


 同じものを用意して貰ったマエルの隣のクリストファーも

「本当だよね。竜に乗って空を飛び、ブルーフォレスト城に一泊して、ピクニックみたいにランチしてるのだからな」

 大きな鳥の骨付き肉にかぶりついていたクリストファーも満足げに答えていった。

 クリストファーの使徒のマエルも、ご主人様と一緒にお肉にがぶりついていた。


「ぼくは、怒涛の一年でした。でも、本当に恵まれていると思ってます。先輩たちと一緒に年末をこんなふうに過せるなんて想像もしてませんでした」

 と、ノアもしみじみと自分の一年を振り返っていた。


 地球人である自分が、アレキサンダー先生のおかげで帝国のための神聖魔術士養成大学の魔導士クラスに入学出来、魔法を覚えられたうえ、帝国のエリートともいえるHoly Mageクラスの先輩たちと共に過ごしている自分に驚くばかりである。

 そして、昨年は、必死でパドラルから逃げだして帝都へ向っていたのに、今は再びパドラルに近い帝国の国境領のラングレー領に居るのだから、未来とはわからぬものだ。


 ピクニックランチを終え、再び出発した四人が丘を越え、少し大きな村に差し掛かかった。

 シュヴァーネンフリューゲル城へ向かうには村の中を通り抜けるのが最短となる。


 キースは、村の視察も兼ねその村の中を通り抜けることにした。


「ここからは村の中の道になるので、村人が歩いているが気にせず通り抜けてくれ」

 と、キースは三人に言って、先頭に立ち一列になって馬を進めた。


 村人たちは一行の馬の馬具の飾り金具に刻まれた紋章を見て、領主だと気づいて一様に頭を下げた。

 そんな村人たちの列の中から、小さな男の子の手を引いてキースに駆け寄って来た母親らしき者が

「キース様!!」と、駆け寄って来た。


 キースが馬の歩みを止めて、母子を見ると母親が息子の頭を押しながら言った。

「先日は息子が馬に蹴られて怪我をしたのを助けて頂きありがとうござました」


「ああ、あの時の子か」

 キースは馬を降りてその少年の目線の高さまでしゃがんで顔を覗き込んで言った。


「すっかり元気そうだな?少し背も伸びたかな?」

 と、言いながらキースは少年の頭をなでた。


 少年は「えっと…ありがとうございました」

 と、小さな声で言うと、恥ずかしそうに母親の後ろに隠れた。


 母親は、もうしわけなさそうに

「すみません、恥ずかしがり屋で…」

 と、言う母親の後ろに隠れた少年は顔だけ出してキースを見ていた。


「いや、ちゃんとお礼も言えたもんな?偉いぞ!」

 と、言うと馬に跨りながら言った。


「お母さんのお手伝いをしてあげるんだよ、またな」

 キースは、少年に手を振りながら再び馬の歩を進めた。


 後ろから着いて行く、クリストファー、アンナ、ノアは、キースがご領主の若様として、領民に慕われているんだなと実感した。

 時々、キースが領民に声をかけられ馬の歩みが遅くなったり、止まったりしつつその村を抜けるとキースが言った。

「ごめんね、みんな。思ったより村を抜けるのに手間取った」


 そんなキースに、同じく貴族であるクリストファーが答えた。

「いや、これは我々領地を預かる貴族にとっては大切な仕事だよ。領主の跡取りとして、滅多に領地に戻れないからこそ、折を見て視察も兼ねて触れ合う機会を持つキースは素晴らしいと思うよ」

 そんなクリスの言葉にキースは照れながら、そういえばと思ってクリストファーに言った。


「クリスも貴族の息子だろ?領地には戻らなくて良かったのかい?」


「俺は、次男だから兄に任せているので問題ない」

 クリストファーは、男爵家の次男なので跡取り息子としての責務はいなかった。

「しかも、兄とは歳も離れているので僕は、帝国軍のHoly(ホーリー) Mage( マギ )騎士になって、帝国の為に尽くすのが目標なんだ」


「そうなのか!俺も跡取りではあるが、まだまだ父ひとりで頑張れるから、それまではHoly Mage騎士として帝国の為に尽くすつもりだよ。一緒に頑張ろうな」

 帝国神聖魔術士養成大学を卒業したばかりのキースはその未来への期待に満ちていた。


 四人は村を抜けると馬の歩を早め、いくつかの丘といくつかの林を抜けた。

 そして、再び小高い丘を進んでいると、先頭を走っていた馬上のキースが馬の歩を緩め前方を指さして言った。

「ほら、あれがシュヴァーネンフリューゲル城だよ」


 キースの指先に聳える白く美しい城。

 シュヴァーネンフリューゲル城。

 文字通り白い鳥が大きな翼を広げたように優美な美しさを持つ城だった。


「うわ~、綺麗なお城」

 アンナは感動し、ため息まじりに言った。


 クリストファーもノアも同じく、その美しさに感動していた。

「おとぎ話に出て来るお城でも、これほどは美しくないだろな」と、ノアは思った。


 一行は、その丘の上で止まり、馬上からのその美しい城を眺めた。


「ここまでとは思わなかったなぁ」

 と、クリストファーが言った。


「俺のところの城もそこそこ手をかけているけれど。完敗というか、恥ずかしくて見せられないな。うちは城というより館だな」

 クリストファー・アキュラ・オレンジリバーは、帝国神聖魔術士養成大学に入学以降、ほぼ帰郷したことのない自分の故郷の城を思いだしていた。


「そうなのかい?見た目はともかく、住み心地はクリスの家の方が良いかもしれないぞ?シュヴァーネンフリューゲル城は、見た目は美しいが古いだけあって、城の中は旧式なので覚悟しといてくれ」


「ミラ・ローズも、それなりに由緒ある宮殿を改築して大学寮にしているんでしょ?どちらが古いんだろ?」

 ノアは、地球人なのでお城も宮殿も、リゲル・ラナに来るまでは写真や映像でしたが見たことがなかったので、どこを見ても口を開けたまま見上げてしまう建物ばかりである。

「俺にとっては、いずれも修学旅行だな」と、思っていた。


「どうだろうな?我が家も父の代に拝領されて住むようになったから、歴史は受け継いでないからなぁ。まあ、着いてからのお楽しみってことで。ここから城までは一本道ただ!」

 そう言うと、キースは丘を一気に駆け下りて言った。


 三人もその後を追った。

 誰も、競争だとは言っていないのに競うように馬を走らせた。

 四人は、学友と丘を馬で駆け下りるという些細なことなのに、友と同じ時間を共有しているこの瞬間が、なぜかたまらなく楽しいと感じていた。


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