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Beyond of Cosmos =星巡りの物語=リゲル・ラナ編  作者: 詩紡まりん
『光と影の闘い』=オセロ作戦始動= リゲル歴4045年

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若者たちの空の旅 =ブルーフォレスト辺境領へ=

挿絵(By みてみん)


帝国神聖魔術士養成大学のある帝都から

ブルーフォレスト辺境伯領

ラングレー領のある

スチュアートリア帝国の西部の地図です。



 帝国神聖魔術士養成大学の今年最後の授業が終わり、年に一度の長期休暇期間が始まる。


 大学の寮「ミラ・ローズ宮」に残る生徒もいるが、ほとんどの生徒は実家や自邸、自領に戻る。

 ノアは、当初、飼育と訓練を担当する(スティール)(ドラゴン)のエディの世話の為に寮に残って世話に通うつもりでいたが、休暇中はエディ達が空軍の騎竜飼育施設預かりとなった。

 その為、ノアもキース・ウェスリー・インディゴ・ラングレーの誘いを受け、クリストファーとアンナと共に、休暇を「シュヴァーネンフリューゲル城」で過ごすことにした。


 ブルーフォレスト辺境伯領へ戻るポリアンナと共にリリアーナとアイラは、「ブルーフォレスト城」へ、ノアとクリストファーとアンナは、キースと共に「シュヴァーネンフリューゲル城」向かうこととなった。

 移動は、ポリアンナの兄であるオスカーを加えた八人で、ブルーフォレスト家の(ゴールド)(スケール)(ドラゴン)に乗ってブルーフォレスト領地まで移動、そこから「シュヴァーネンフリューゲル城」向かう、キース、ノア、クリストファー、アンナの四人は、ラングレーから手配された馬で移動することとなっている。

 ブルーフォレスト辺境伯領地とラングレー領は隣り合っているので、馬でも一日で移動可能なのである。

 また、オスカーは、帝国軍の秘密指令を受け、一旦自領に戻ることとなっていた。


 リリアーナとアイラは、単独での騎竜訓練は受けていないので、リリアーナはポリアンナと、アイラはオスカーと一緒に騎竜する。

 それに対して、キース、クリストファー・アンナは、騎竜パイロット訓練の授業を受けており、ノアもエディの訓練も兼ねて騎竜訓練をしているので、それぞれ単独で乗って飛ぶ。

 帝国軍所属の近衛騎士団長であるオスカー・エンドリケ・ブルーフォレストをリーダーとして騎竜部隊としての移動は、生徒たちにとっても良い訓練となる。

 特に、次世代の騎竜パイロット訓練の指導を託される予定のキースも、Holy Mage騎士を目指すクリストファーとアンナも良い経験となると考えていた。


 White Mageクラスであるポリアンナとアイラは、まだ騎竜パイロット訓練は先のことだと思っていたが、ノアはエディを訓練する上で訓練の入ってる金鱗竜での長距離飛行は、かなり勉強になると考えていた。


 そんな生徒それぞれの思いの生徒達だったが、いよいよ全員で飛び立つこととなった。

 アイラとリリアーナは、アンナに教わって作ったスリングにふくろうのライナスとロザリーを入れ一緒に空の旅をする。

 アンナも自分の使徒(しと)のノエルとクリストファーの使徒のマエルの為にスリングを作った。

 こちらの2匹は、姿は猫であるが、使徒なのでスリングの必要はなさそうだったが、主人(マスター)手作りスリングに入って満足そうにしていた。


 ポリアンナの騎竜は使徒のクロエであり、オスカーの騎竜も使徒のクレイブだった。

 ノアは、自分だけ使徒も使い魔もペットも居ないので、みんながちょっと羨ましかった。

 そして、前日に担当騎士に空軍施設に連れて行かれたエディのことを思いだしていた。


「ノア、そろそろ出発するが大丈夫か?」

 キースが浮かない顔をしているノア見て声をかけて来た。


「はい、大丈夫です。ちょっとエディのことを思い出してました」


 ノアが感傷的になっているのを感じたキースは

「次にシュヴァーネンフリューゲル城へ来るときは、エディと来てくれ。それまでにエディがノアの使徒になっていると良いな」

 と、言ってノアを励ました。


 ノアは、キースの思いやりが嬉しかった。

「はい、頑張ります!」


 竜達の状態を確認し終えたオスカーが

「じゃあ、俺とクレイブを一番騎にして、V字編隊を組んで飛行する。二番、三番はノア、三番アンナ、四番クリストファー、五番、六番は積荷竜、七番キース・八番しんがりはポリアンナとクロエの順で、良いな?」

 と、編隊の飛行順を確認しすると、全員は大きな声で「はい」と返事をした。


「じゃあ、アイラ嬢は私とクレイブに、リリアーナ嬢はポリアンナ乗って下さい」  

 と、オスカーに言われリリアーナは、少し体を小さくしたクロエにポリアンナと共に飛び乗った。

 片からかけた手作りスリングに入ったライナスがリリアーナの胸元で目をパチクリさせていた。

 クロエは、金鱗竜であるがポリアンナの使徒なので他の竜とは違いライナスも怯えることが無い様子だった。


 アイラは、憧れのオスカーと一緒に乗るということで、ドキドキでぁった。 

 随分前から決まっていたことなので、覚悟はしていたものの思春期の乙女にはとっては、口から心臓が飛び出るかと思うほどの緊張と発熱並みの体の火照りで、どうにかなりそうだった。

 そんなアイラの乙女心を知ってか知らずか、オスカーはアイラを抱きかかえ、ひょいとクレイブの背に乗せると、自分もひらりとアイラの後ろに乗り手綱を取った。

 そして、後ろを振り返り全員の搭乗完了を待った。

 アイラも自分の手作りスリングに居れたふくろうのロザリーの様子を気遣った。


 オスカーは、全員の搭乗を確認すると、声と精神感応(テレパシー)の両方で全員へ指示を出した。

「では、進路を西北西取り、最初は10 時30分の方向にとって飛ぶ。全員V時編隊を崩さぬように飛んでくれ。ノアは、何かあれば私に合図をするように。アンナ、クリス、キース、ポリアンナは精神感応(テレパシー)で連絡を取り合ってくれ」


 騎竜パイロットにそう声をかけてから胸元のアイラにも声をかけた。

「アイラ嬢、これから上昇する。気流が安定するまでは風圧がかかるが、空気をコントロールする魔法を使うので息苦しくはならないはずだが、上昇する勢いに恐怖感があるかもしれないので、ちょっとだけ覚悟しておいてくれ。怖かったら、遠慮なく私にしがみついてくれて良いからな」


 アイラは、オスカーと近距離での搭乗によるドキドキなのか、竜に乗って飛ぶことへのドキドキなのか、どちらなのか全くわからないまま、ふわりと体が宙に浮かんぶのを感じた。

 続く竜の羽ばたき音と共に、みるみる体が地面から離れる感覚を覚えたが、なるべく下を見ないようにしようとオスカーの胸に頭をつけて下を向いていた。


 アイラの胸に掛けたスリリングから、ロザリーがひょっこりと顔だけだしてアイラを見つめていた。

 アイラは、自分が怯えていたらロザリーも怯えてしまうと気遣っているうちに、オスカーを意識する気持ちも、空の高さへの恐怖も薄れていた。


 リリアーナもポリアンナの後ろに乗って

「ライナス、大丈夫?」

 と、スリリングを抱えてライナスを気遣っていた。


 そんなリリアーナにポリアンナが声をかけた。

「リリアちゃん、急上昇するので、私にしがみついててね。遠距離を飛ぶのから、でるだけ高く上がって流れの早い気流を捕まえて乗らないとならないの。一旦、気流に乗ってしまえば安定するので、それまではちょっと揺れると思うので、それまでは下を見ずに目をつぶってて」


 先祖代々、金鱗竜を育て調教して騎竜訓練をしてきたブルーフォレスト家の娘であるポリアンナにとっては、騎竜で飛ぶことには慣れている。

 だが、帝都とブルーフォレスト領間には高い山々や山脈も横たわっており、毎回、風の流れは同じではないので、その都度周囲の状況を把握しながら飛ばなければならない。

 今回は兄のオスカーが編隊長となって飛んでくれるので安心であるが、気流を捕えるまでは個々で注意しなければならない。

 特に、リリアーナを乗せているので、ポリアンナもいつもより緊張感があった。


 個々に訓練されている竜達なので、ノア達新米パイロット達でも、竜の本能に任せて飛べば問題なく上昇することができる。

 問題は、その風圧に耐えられるよう魔法で自分の周囲の空気をコントロールすることである。

 また、竜達は群れで飛ぶ性質があるので、よほど下手な手綱さばきさえしなければ、問題なく編隊を維持して飛んでくれるはずである。

 それでも、初の遠距離飛行となるノアにとってはドキドキのチャレンジであった。


 オスカーの合図とともに、ノアは自分の竜に「頼むよ」と声をかけてクレイブの後について空へ舞い上がった。

 ノアの竜は、「任せて」というように翼を広げ、リーダーのクレイブを追うように飛び立った。


 上昇気流に乗ってぐんぐん空高く舞い上った竜は、西北西の方向に向かって流れる気流を上手く捕まえた。

 気流に乗ると竜達は羽ばたく無く、水面を滑るように泳ぐ水鳥のように勢いよく前へと飛ぶことが出来た。

 気流に乗ると揺れが安定し、竜の乗り心地は良くなる。

 だが、それとは反対に高度が高くなるにつれて、空気が薄くなり、気温も低くなる。

 今は、冬ということもあり上空の気温はかなり低い。

 厚い鱗で覆われている金鱗竜達にはダメージはないが、人間には耐えがたい寒さである。

 いくら冬用の外套を着ているとはいえ、通常であれば震えてしまうところである。

 が、そこはHoly MageとWhite Mageの彼らなので、空の旅を快適にできるように周囲の空気を魔法によりコントロールしていた。

 また、外套やスリングにも外気温を遮断して一定に保つ魔法をかけあった。


 アンナは、竜に乗りながら肩にかけたスリングに入ったノエルに声をかけた。

「ノエル、もうちょっとで安定した気流に乗れると思うから、我慢しててね」


「ご主人様。ボク、だいじょうぶです。ご主人様が作って下さったこの袋の中は快適ですから」

 ノエルは、アンナの手作りスリングから顔だけだして答えた。

 ノエルの大きな瞳がキラキラと輝いていた。

 使徒は、主人と共にその経験に合わせて成長するとされている。

 ノエルは、主人であるアンナと共に旅が出来ることが嬉しいのであった。


 クリストファーも片手で手綱を持ち、もう一方の手でマエルが入ったスリングのお尻を支えながら言った。

「マエル、竜の乗り心地はどうだ?」


「はい、ご主人様。ボク、気分上々で、わくわくです!」

 と、マエルもスリングから顔を出し、その顔の下に両手を添えクリスの顔を見上げて答えた。

 こちらの使徒も主人との旅を楽しんでいた。

 竜に乗って空を飛ぶことも、主人(マスター)と一緒なら怖くも無いという様子だった。


 ふくろうのライナスとロザリーは鳥だが、ノエルとマエルは猫なので、空を飛ぶことには慣れていないはずだが、二匹は使徒なので主人と一緒であれば怖いもの無しなのである。

 アンナとクリストファーはそんな自分たちの使徒が可愛くて仕方なかった。

 今回の旅も、きっと彼らの自分たちの成長に繋がる経験になるだろうと期待していた。


 オスカーとアイラを乗せたクレイブをリーダーとしてV時編隊を維持したままブルーフォレスト家の金鱗竜部隊は、帝都の帝国神聖魔術士養成大学からブルーフォレスト辺境伯領地を目指し、順調に飛んでいた。

 金鱗竜のような大型の竜にとって、スチュア・トロア大陸西部に天敵は存在しない。

 時折、大型の魔鳥の群れに遭遇することがあるが、群れで移動する竜を襲うことは無い。

 金鱗竜に乗って移動する際に最も危険となるのは急な天候の変化なのである。


 Holy Mageの中には、天候を予測する能力を持つ者が存在するのだが、ブルーフォレスト家の者は、その才能を持つ者が多かった。

 オスカーの父もそうであったし、オスカー自身もその能力を受け継いでいた。

 ポリアンナも血筋的には受け継いでいると思われたが、まだHoly Mageとして成長過程にあるので、オスカーほどの能力は開花していなかった。

 オスカーは、雲と気流の流れ湿度を読み、帝都を出発する日と時間を決めたので、彼らの空の旅は順調そのものだった。


 ある程度飛んでいるうちに、怖くて下を見ないようにしていたアイラとリリアーナも、下を見る余裕が出て来ていた。

「凄い、凄い!雲が下に浮いているわ~」

 リリアーナは、生まれて初めて空から見る地上を目にして驚いていた。

「あそこに見えるのは、牧場でしょ?家畜が白や黒の点に見えるわ。家や建物もミニチュアみたい」


「小さくてビックリでしょ?鳥や竜達はこんな世界を上から見ているのよね」

 と、ポリアンナは長い髪をなびかせながら笑った。


「私は、小さい時からクロエに乗せて貰って空を飛んでいたから、空を飛んでいる時が一番私らしい気分になるの。そういう時だけは、ブルーフォレスト辺境伯家の娘に生まれて良かった、って思うのよ」

 と、そう嬉しそうに言うポリアンナの背中に顔を付けてリリアーナは言った。


「そんなポリアンナちゃんとお友達になれて良かったって私は思っているわ」


 リリアーナのそんな言葉を聞いてポリアンナは、手綱から片手を離して

「もちろん私もよ!」

 と、自分の腰に抱きついているリリアーナの手に、自分の手を合わせて言った。


 先頭を飛ぶオスカーも、自分の胸下に乗っているアイラに声をかけて言った。

「アイラ嬢、少しは慣れましたか?」


 小柄なアイラは自分を抱えるように手綱を持って飛ぶオスカーを見上げて言った。

「はい、だいぶ慣れました」


 オスカーは、ちらりとアイラを見て言った。

「これから、天候が少し変わるかもしれません。少し揺れることもあるかもしれないので、怖くなったらいつでも遠慮なく私にしがみついて下さいね」


 アイラは、まだドキドキしていたが、このドキドキは高さへの恐怖のドキドキではなく、オスカーとの近距離の態勢へのドキドキであると悟っていた。

 アイラは、オスカーの言葉に小さい声で「はい」と返事をした。

 そして、上空の空気はかなり冷たく寒かったが、魔法で保温されているだけでなく、自分の体温が高すぎて寒くないのだろうと思っていた。


 帝都からブルーフォレスト辺境伯領までの空の旅は、まる一日かかるらしい。

 アイラは、この気まずい雰囲気に一日耐えられるかしら?と思っていた。

 でも、こんな機会は二度と無いかもしれないとも思っていた。

 そんな自分の状況をオスカーに悟られていないかと不安に思ったり、自分が怖がっているせいだと思われているだろうなと思ったり、乙女心を持て余すアイラであった。


 アンナとクリストファーは、精神感応テレパシーで、語り合っていた。

「騎竜パイロット訓練で何度も飛んではいるけれど、またそれとは違うわね」


「そうだな。やっぱりマエルも一緒に乗っているだけで随分違うな」

 クリストファーが手綱を持つ両手で挟むようにして、スリングに入ったまま座っているマエルの顔を見ながらアンナに答えて思念を送った。


 アンナもノエルと見つめ合って

「本当に、ノエルと一緒に飛べる日が来るとは思わなかったわ」


 そんなアンナとクリストファーの様子を遠くから見ていたノアは

「やっぱり、使徒っていいなぁ」

 と、羨ましさでいっぱいになっていた。


 今頃、エディは空軍の騎士に面倒を見て貰っているのだろう。

 俺よりその騎士に懐いたりするのかなぁ?などとちょっとヤキモチの気持ちが浮かんだりもした。

 いやいや、エディが寂しい思いをするくらいなら、世話をしてくれる騎士に懐いている方が良いのかもしれないと思い直していた。


「レッドリオン公爵が、俺がWhite Mageになれたらエディを使い魔にしても良いと言ってくれたんだ。今は、余計なことを考えず、勉強し、自分の魂を磨いて、White Mageなれるように頑張ろう。万が一Holy Mageになれたら、ポリアンナのクロエみたいにエディを使徒にすることもできるのだから」

 そう思うと急に勇気が湧いてきた。


 そして、今パドラルで頑張っているレッドリオン公爵とトゥルリー先生、マリア先生たちのことを思い出していた。

 公爵や先生たちが命がけで闘っている時に、自分は呑気に休暇を楽しんでいても良いのかと申し訳なくも思っていた。


 半日ほど飛んだ頃、オスカーが皆に言った。

「竜達を休ませるためと、我々の昼食をとるために一度下に降りる」


 そう言って、降下態勢に入った。


「アイラ嬢、降下しますので、かなり斜めになります。私にしっかりとしがみついててください」

 と、言うとオスカーは手綱でクレイブ合図をして一気に降下させた。


 それは直角に近い角度で、斜めになって滑り落ちるのではないかという恐怖心の方が勝り、気になる人にしがみつくことのアイラの羞恥心をふっとばしてしまっていた。

「きゃ~」と心の中で叫びながらオスカーにしがみついていた。

 それでも、自分の胸元のスリングに入っているロザリーを潰さないように気をつけながら。


 ポリアンナとリリアーナの方も群れのしんがりから、他の竜に続いて降下態勢に入った。

「リリアちゃん、しっかり私にしがみついててね。絶対に落ちることはないから怖かったら目をつぶって叫んでて良いからね」

 と、ポリアンナがリリアーナに言うとリリアーナは、黙ってポリアンナにしがみついた。

 リリアーナは、だんだん竜に乗ることが楽しくなっていた。


 騎竜パイロット訓練を受けているノア、アンナ、クリストファーは難なく着陸態勢に入り、人を乗せていない荷物だけを載せた竜達も群れについて下降した。


 全員を乗せた竜たちが無事に着陸した場所は、ブルーフォレスト辺境伯領の最東部にある帝国軍駐屯地だった。


「お帰りなさいませ、若様、お嬢様」

 と、ブルーフォレスト辺境伯家の騎士が、ブルーフォレスト辺境伯の子息と令嬢を迎えた。


「竜達を休ませて、水と餌をやってくれ。我々の昼食の用意はできているか?」

 と、オスカーは領主の息子らしく指示を出した。

 そのテキパキと指示する姿を見て、アイラはオスカーが本当にブルーフォレスト辺境伯家の跡取り息子なんだなと実感した。


 そんなクレイブに乗ったままキョトンとしているアイラを見て、オスカーが

「アイラ嬢、昇降台を用意しましょうか?私に飛びついて降りてくれても良いのですが、どちらにしますか?」

 と、声をかけた。


 アイラは、自分ひとりで飛び降りるには高すぎるなと迷っていたら、クレイブが気をきかせて体を少し小さくしてくれた。

 クレイブは使徒なので体の大きさを変えることが可能なんである。


「おや、レイプ気が利くな。どうぞアイラ嬢、お手をどうぞ」

 と、オスカーがアイラに手をさしのべたので、アイラはオスカーの手をとりクレイブの背から降りた。


「あ、ありがとうございます」

 アイラは、頬を染めながら小さく礼を言った。


 半日、ピッタリ接近して居た相手なのに手をとってだけで顔が熱くなるとは。

 空を飛んでいる時は、背の高いオスカーの胸元に顔が来るのでオスカーの顔が見えないのだが、こうして面と向かうとやはり照れてしまうのである。


 アイラをクレイブから降ろし、皆をつれて駐屯地の建物内に入って行った。

 この駐屯地は帝国陸軍の駐屯地であるが、ブルーフォレスト辺境伯家内の領地あるので責任者はブルーフォレスト辺境伯家の家臣であった。


「オスカー様、ポリアンナ様、お待ちいたしておりました。昼食の準備はあちらにできております」

 騎士のひとりが彼らを食堂に案内した。


「すまないな。ここの者たちの昼食の邪魔にならないようにしてくれ」

 と、オスカーが言と

「はい、駐屯地の者は既に食事を終えておりますので、お気遣いなさらずとも大丈夫でございます」

 と騎士が答えたのでオスカーも他の者も安心した。


 特に、キース、アンナ、クリストファーのようにこれから帝国所属騎士になる予定の者たちにとっては、いくらオスカーの家臣であっても、いずれ先輩となる軍の騎士の方に迷惑になるようなことは避けたいところである。

 アイラ、リリアーナのように平民出身のふたりとっては、軍関係施設に入ることすら初体験であるので、ついキョロキョロしてしまう。

 軍事施設とはいえ、駐屯地なのでそれほど規模は大きくない。

 ただ、ブルーフォレスト辺境伯家の駐屯地だけあって、騎竜としての金鱗竜のしっかりした飼育施設があるので、帝都からの休憩地として活用されることが多かった。

 オスカーとポリアンナは、いつものことなので何の躊躇もなかったが、他の者たちは少し恐縮していた。


 昼食をしながらオスカーは言った。

「ここまでは天気が良かったのだが、午後からは天候が崩れるかもしれない。私とポリアンナだけなら多少の雨天でも飛ぶのだが、使徒では無い竜を連れているので、天候によっては、今夜はここに泊まることになるかもしれない」


「お兄様、雨雲を避けて飛べる状況ではないのですか?」

 と、ポリアンナが兄に尋ねた。


「これから状況確認する。我々の力で雨雲を避けられるレベルならそのまま飛んで行くことも可能だが…初めての者も居るので無理はしたくない」

 アイラとリリアーナは、明らかに自分たちに気を使ってくれているのだと思っていたが「大丈夫です」とは言えなかった。


 ポリアンナもふたりが、騎竜することに慣れるために努力し、卿も頑張って恐怖に打ち勝ってくれていることを知っているので、無理をして予定通り決行を兄に進言することは出来ないと思っていた。


 すると、キースがアンナとクリストファーを見ながら

「多少の雨雲を飛ばす魔法でしたら、我々も使えますので、もしもの時は協力しますよ」

 と、言った。


「そうか、君らももう立派なHoly Mage候補だったな。我々の力でなんとかなりそうなレベルであれば、協力をお願いしよう。まずは、しっかり食べて、昼寝をして後半の旅に備えてくれ」

 と、オスカーが言った。


 一行は、自分たちの食事を終えると、自分たちの使徒と、ふくろう達に餌を与えた。


 休息を終えたオスカーは、曇天の空を見上げながら使徒のクレイブに話しかけていた。

「クレイブ、どうだ?飛べそうか?」

「はい、ご主人様。風がかなり湿っていますので下の方は雨になりますが、その上はまだ晴れていると思われます」

「さっきよりも高い高度で飛べば雨雲は避けられそうだが、微妙な線だな?」

 主人のオスカーの言葉にクレイブは頷いた。


 そこへポリアンナがクロエを抱いて現れた。

「お兄様、行けそうですか?」


「下の方は完全に雨雲に覆われるだろうが、先程よりもう少し高度を上げれば雨雲を避けられるかもしれない。クロエはどう思う?」


「はい、オスカー様の読みと同じです。ただ、お城付近での着陸時の雨は避けられないかもしれません」

 と、クロエが答えた。


「それは、仕方ないわよね?お兄様」

 と、クロエの頭を撫でながらポリアンナが言った。


「そうだな。その時は、皆で力を合わせて自分たちの周囲の雲をけちらすか!」

 と、めずらしく兄がいたすずらっぽい顔をして言ったので、ポリアンナもちょっと嬉しくなって言った。

「みんなで協力魔法!なんか楽しみ~」


 ブルーフォレスト辺境伯家兄妹の意見が一致したので、そのことを他の者たちに告げると、みな一様にそれも旅の醍醐味だと言って賛成した。


 目指すブルーフォレスト辺境伯家のブルーフォレスト城までは、普通の馬車だと二日、神聖力(Holy Power)を使った馬で一日弱であるが、騎竜なのであと数時間。

 一行の気持ちは逸っていた。



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