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Beyond of Cosmos =星巡りの物語=リゲル・ラナ編  作者: 詩紡まりん
『光と影の闘い』=オセロ作戦始動= リゲル歴4045年

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「オセロ作戦」準備!アラン出陣の時迫る。


 ネオと、ノアが、帝国軍の馬車に送られてレイマーシャロル地区に戻った頃には、あたりは夕暮れに染まっていた。

 沈む日と反対側の空には、レモンのような形の月のひとつが暮れかけた紅色と下にネイビーの布を敷きかけた空に浮かんでいた。


 ノアとネオは、宿アフィニティに戻った。

 まさかは有り得ないと思いつつもドキドキしながら宿の扉を開いた。

 受け付けには宿の主人であるティム・ランダーが居た。


「ノア!」

 と、言うティムの言葉の勢いで、彼の言いたいことの察しがついた。


「ごめんよ、親父さん!親父さんにも詳しいことは話せなかったから驚いただろ?」


 ティムは、そう言って頭を下げるノアの横のネオを見てさらに驚いていた。

「あれ?この人は、さっき逮捕されて行った客のお連れさんでは?」


「そうです。ネオ・クロスダと言います。ノアとパドラルで一緒だったものです。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

 ネオも深々と頭を下げてティムに謝罪した。


 ティムは、ネオがノアと同じ境遇の者だと聞いて、なんとなく察しがついた。

「とりあえず、中で話そうか。お前たちお腹も空いているだろ?まずは食堂で腹を満たしてこい」


「ありがとう親父さん」

 ノアは笑顔でティムに言った。

 ティムは、そんなノアの笑顔を見て安心していた。

 さっきの客と帝国軍の逮捕劇は、彼らには何ら影響はないのだろうと。


 食事を終えて、お腹がいっぱいになったふたりは、ティム・ランダーに再度頭を下げて言った。

「今日は、宿にご迷惑をおかけしてすみませんでした。


 突然、宿に帝国軍の騎士が来て、ティムがさぞかし驚いただろうと思ったからだ。


 するとティムは笑顔で言った。

「いや、それが全く静かなもんだったよ。帝国軍の騎士という人がふたり来て、そちらのネオ君の帝国神聖魔術士養成大学の受験のことで話があると言って来たんだよ。それを客人に伝えたら、初めは大人しくついて行ったんだ。ところが、馬車に乗せられたとたん暴れ出してね。でも、すぐに取り押えられて連れて行かれたよ。後から軍関係者から事情をこっそり聞かされて、驚いたってわけさ」


「じゃあ、宿泊者や周囲の街の人には迷惑はかかってない?」

 ノアが心配そうに尋ねるとティムは首を横にふりながら言った。

「ぜんぜんさ。気づかなかった人の方が多いんじゃないか?」


 ティムの話を聞いてノアは、逮捕に来た騎士はWhite (ホワイト)Mage( マギ )だったのだろうと思った。

 それでデイブスも何かを感じて逃げようとしたけれど、白魔術でおとなしくさせられて連行されて行ったのだろうなと思った。


「ところで。ネオ君は、なんでそんな相手と一緒にいたんだい?」

 ティムは、ネオがノアの友達であることはわかったが、なぜノアの友達が逮捕されるような男と一緒に居たのか理解できなかった。


「親父さんに、前に話したよね?俺がパドラルの大黒主神教教会から逃げ出して来たってこと。あの時、俺を教会から逃がしてくれたのが彼、デイブスだったんだよ。そして、今回も彼がネオを逃がしてくれたのだけれど、彼はまだ黒魔術師の手先だったんだ。俺とネオをパドラルに連れ戻そうとしていた」

 と、ノアが簡単にノアとネオ、デイブスの関係を話した。


「ネオも帝国神聖魔術士養成大学に入学させて貰えそうなんだけれど、時期が時期だろ?新年祭の休暇が明けるまでネオをここに置いてやって欲しいんだ。俺みたいに住み込みの従業員として…ダメかな?」

 と、ノアがティムに頼むと、ネオも頭を下げた。

「よろしくお願いします。一生懸命働きます」


 ティムは、そんなふたりに頭を下げられて、少し恐縮しながら言った。

「もちろんだよ。ノアの友達なら俺の息子の友達だろ?断る理由は無いよ。年末年始は、猫の手も借りたいくらい忙しいから助かるよ。部屋は、あのままノアの部屋を使ってくれれば良いよ」


 快く受け入れてくたれティムにふたりは心から感謝した。


 そして、ふたりは久しぶりに、並んだベッドで夜を過ごした。

 お互いに会えなかったそれぞれの日々の出来事を、リゲル・ラナの長い夜が更けるまで語り合った。


 思えば地球では、オンラインゲームの仲間でしかなかったふたり。

 ネオが、ネットで見つけた高額バイトが闇バイトで、たまたま誘ったのがノアだったという縁のふたり。

 だが、ネオが誘ったのはノアだけだった。

 なぜノアを誘ったのか?

 今となっては、ネオ自身もわからない。

 でも、もしかしたら、それは偶然では無かったのかもしれない。

 何か見えない力で引き寄せられるように、出会うべくして出会ったように思える。


 ネオはつぶやくように言った。

「やっぱり、ノアに会えばなんとかなると思ったが、その通りだった」


「えっ?」

 ベッドに横になりながらノアはネオの方を見た。

 灯りの消えた部屋は真っ暗だったが窓から差し込むふたつの月の光で部屋はほんのり明るかった。


「ノアの言った通り、凄い人だったな」

「レッドリオン公爵のこと?」

「うん。200歳を超えてるとは思えないほど若々しくてカッコよくて魅力的な人だった。ノアが憧れるのも納得だ」

 ネオは、ノアが言った以上に魅力的な人物だったし、あの人なら頼れると思っていた。


「あのさ、ネオくんは、絶対秘密は守れるよね?」


 ノアの質問にネオは、何を今さらと思ってノアに向き合って言った。

「もちろんだよ。ノアと俺は運命共同体じゃん!まぁ、ノアが俺を信じられないのは仕方ないれどさ。俺はそういう人間だったから…」

 そういうとネオは布団をかぶってノアに背を向けた。


 ノアは、そんなつもりはなかったのにと思いながらしばらく沈黙していた。

 そして、魔法を使って部屋の天井に星空を作って見せた。


 ノアは、その天井のプラネタリウムを見つめて言った。

「僕らの星、地球があるのは天の川銀河だったよね?リゲル・ラナのあるK302アデレル銀河とはどれくらい離れているんだろうね?」


「リゲル・ラナって、K302アデレル銀河にあると言われているのか」

 ネオもノアが天井に作った星空を見ながら初めて聞いたというように答えた。


「いいなぁノアは、そんなことも学べる環境で」

 ネオは、本一冊手に入れるのも大変なパドラルだった自分の環境との差を感じていた。


「ネオ君も来年からは一緒に学べるよ。地球人と違って、みんな自分に厳しくて優しい人たちばかりだから。さっき、秘密を守れるかと聞いた理由はね、帝国神聖魔術士養成大学そのものが帝国の最高気密でもあるからなんだよ」


 と、ノアは帝国神聖魔術士養成大学には、魔導士クラスと、White (ホワイト)Mage( マギ )クラスに分かれていること、学生寮も全く別で基本的にはお互いが顔を合わせることも無いことと、その理由を説明した。

 そして、帝国の最高気密である神聖力(Holy Power)Holy(ホーリー) Mage( マギ )について説明した。


 そして、ノアはネオに言った。

「ネオ君が作ったあの外套の魔法、あれって黒魔術でも白魔術でも無いと思う」


「えっ?どういうこと?」

 ネオはノアの唐突な言葉に驚いて、すっかり目が覚めてしまっていた。


「あれは、Holy Mage達が使う神聖力(Holy Power)だよ。偶然使えたのかもしれないけれど、ネオ君の魂に宿っているHoly Powerが発動したんだと思う」

 ネオは、まだノアの言っている意味がよくわからなかった。

 自分にそんな力があるとは到底、思えない。

 しかしノアは続けて言う。


「リゲル・ラナは、地球より星としての神聖力(Holy Power)のレベルが高いから、この星に生まれた時点で、魂のレベルは地球人より高めらしい。だから、魂を磨くことで神聖力(Holy Power)を身につけやすいらしいんだ。俺たちも、魂を磨くことで神聖力(Holy Power)を身に付けやすくなっているのかもしれない」

 ノアの説明によると、ネオもしっかり魂とやらを磨いているらしい。

 確かにあの時は、ノアに会いたくて極寒の中、決死の覚悟でブロッサンの教会から脱走しようとして頑張っていた。

 あの時の俺は、自分のことよりもディアネやジャンバラン村の人たちを助けようと必死だった。


神聖力(Holy Power)を身に付けると、Holy Mageになれるのか?」

 と、ネオが尋ねると

「そんなに簡単にはなれないけれど、努力次第だと思う。その勉強をしているのがHoly Mageクラスなんだよ」

 と、ノアが答えた。


「そうか、だから一般の魔導士クラスとは遮断されているんだな」


 ネオも帝国の最公機密とされている、その不思議なパワーについて、なんとなく分かったような気がした。


「ノアもHoly Mageクラスなのか?」

「いや、僕は魔導士クラスからWhite Mageクラスへ編入したばかり」

「そうか我々地球人には、ハードルが高いのかもしれないな」

「でも、White Mageでも充分凄いと思うよ?」

「そうだな、Black Mageに対抗できるだけの力があるのだから凄いよな」


 ネオとノアは話をしている間に、いつの間にかふたりとも眠りについていた。



 =======================



 アランは、軍本部内の総司令官室でシオン、トゥルリー、マリアと話し合っていた。


「では、そのネオという少年の話では、パドリアヌスの右腕と噂のガニバランが、シルクガードの沖合に居る可能性が高いということですね?」

 シオンは参謀室所属の諜報部員たちが集めた資料を片手に言った。


 そのシオンの資料を覗き込みながら、少し疑問を持っているような口調でマリアが言った。

「そのデイブスという者と船の黒魔術師は、どうやって連絡を取り合っていたのかしら?魔鳥?でもそれは、帝国内の大黒主神教関連施設にいた黒魔術師達を捉えた時点で、消滅させたのよね?」


「確かに…、連絡が来なくなった時点で、やつらも自分たちの策略が失敗した事に気づくはずだな」

 と、トゥルリーもシオンの資料を覗き込もうとしたが、シオンに資料を閉じられてしまった。


 トゥルリーは、シオンの意地悪に舌打ちをしたが、シオンはそしらぬ顔でアランの横に立って言った。

「Black Mageの手先は多くありません。しかも黒魔術師はわずかです。その沖合に居るガニバランという男はパドリアヌスの右腕と言われているほどの黒魔術師です。ここで敵を一気に叩くには今がチャンスです。ただ、それですとパドラルの『オセロ作戦』は、中途半端に終わることになります」


「そうだな…」

 アランはシオンのその言葉を聞き、片手を肘に当て、もう方の手の甲を顎に当ててしばらく思案していた。

 その間、三人はじっとアランの判断を待っていた。


 そして、アランが決断したように言った。

「とりあえず、黒魔術師は泳がせよう。俺はルイスガードナー基地へ行く。そこでパドラルの詳細な情報を聞いてから、現地へ行って実際にこの目で確認して来る。」


「実際に現地へ行くって、パドラルへ?か?」

 トゥルリーは、いつもながら大胆な行動に出るこの元皇太子の決断に呆れるように言った。


「そうだ。まず既にやつらが抑えたという地域の様子を見てから、奪還可能か確認して来る」


「そんなことは、現地のWhite Mageに確認させればよろしいのでは?」

 と、シオンが心配そうに言ったがアランは頑として聞き入れようとせず


「奪還した後に、その部族の部族長達を説得して調整するのは、私の役目。相手を知らねばできん」

 と、言い張った。

 こうなるとアランは、自分の意見を曲げない事を、彼らは良く知っていた。

 そして、それが大抵正しい判断であることも。

 危険が伴う事は間違いないが、当代切っての最強Holy Mageのアランなら大丈夫だろうとも思ったし、自分たちも、もちろん付き従うつもりでいた。


「仕方ありませんね。我々もお供します」

 と、トゥルリーとマリアが共にルイスガードナー基地へ行くこととなった。

 共に行きたい気持ちは山々なシオン参謀室長であったが、軍本部の参謀室を離れて他の基地へ行くことも出来ず、しぶしぶ本部で軍師としての役目を果たすこととなった。


「いざという時は、ウィリアム元帥とシオンの指揮を仰ぐように皆には言っておくからな。後は頼むぞ?シオン」


「かしこまりました!」

 と、アランに敬礼をするシオンが、総司令官の留守の間の軍を任されることとなった。


 そして、アランは叔父であるアレクサンドル皇帝と、ウィリアム皇太子に報告を兼ねて挨拶をしにルデ・トロア宮殿の皇帝の執務室へ向った。

 いつもは、内々の話はウィリアム皇太子の執務室で行うのだが、今回は実質的にスチュアートリア帝国の公的な作戦でもあるので、皇帝の元で行われることにした。


 既に、参謀室からの報告を受けている軍の元帥の立場でもあるウィリアム皇太子とアレクサンドル皇帝は、アランの訪問を察してふたり揃って待っていた。

 皇帝の執務室は、一般の謁見の間を挟んだ範囲側に有り、大臣たちの会議室の隣に位置している。

 執務室も広い第一執務室と、こじんまりした憩室も兼ねた第二執務室、その奥に皇帝の一族しか知らない各扉の奥に秘密の第三執務室があった。

 その部屋は、二重にも三重にも強力な結界が張り巡らされて強固に守られていた。

 そして、この部屋の結界の扉は、皇帝の血筋と神聖力(Holy Power)が鍵となっていた。


 アランは秘密の扉を開き、その後ろから現れた扉のノブに手をかざすと扉がアランのオーブカラーである赤色に優しく包まれ、扉の鍵が開いた。

 部屋の中では、アレクサンドル皇帝と息子のウィリアム皇太子が彼を待っていた。


「陛下、シオンからのご報告で既にご存じかと思いますが、ついに作戦に着手します。おそらく、今回は時間を要することになると思いますので、帝国内の職務に関しては、陛下や、ウィリアム殿下にお願いすることになると思います」


 アランは部屋に入るなり皇帝に一礼してすぐに要件を切り出した。


「アラン、まぁ腰を下ろしてくれ」

 皇帝は、自分たちの前のソファーに座るようアランに勧めた。


 アランは、この作戦の長期化と危険性を予期していた。

 だが、予知能力のあるアレクサンドル皇帝陛下とウィリアム皇太子殿下は、それ以上にはっきりと、アランを待ち受けている混沌たる未来を予知していた。


「いよいよこの時が到来してしまったか」

 アレクサンドル皇帝は、自分の予知が変わることを願っていたが、確定未来の予知は変わることはなかった。


 なぜ、アランなのだろう?


 本来はアランの父あるラファエル前皇帝が、弟であるアレクサンドル皇帝に帝位を譲位して退位さえしなければ、アランが皇太子でありいずれは皇帝になったはずである。

 ラファエルがレッドリオン公国を建国し大公となった後でもアランは、レッドリオン公国の公子に甘んぜず、スチュアートリア帝国のレッドリオン公爵として内政執務大臣と帝国陸海軍総司令官として帝国の為に働いている。

 ラファエル大公が元気な間は、帝国為に尽力をする覚悟で、皇帝の片腕として日々頑張ってくれている。

 生まれながらに地位も名誉も、底知れぬ能力も持ち合わせているのアランには自己欲というものが皆無なのである。

 帝国の平和と国民の幸せを守ること、そのために動くことが彼の幸せなのである。


 そんな愛おしい甥の危険を予知しながらも回避できない事にアレクサンドル皇帝は、己の不甲斐なさを思い知らされていた。


「アラン、なぜそなたなのだろう?本来なら私かウィリアムが担うべき役目だと思うのに…」


 兄ラファエル大公が皇帝を続けており、アランが皇太子であったなら、きっとそうなっていたはずである。


 しかし、そんな叔父の懸念も気にせずアランは笑顔で答えた。

「きっと、これは私の為に用意された魂を磨くための試練なのでしょう。せっかくのチャンスです。頑張って魂を磨いてきます」


「アラン、何かあればいつでも俺も呼んでくれよ?すぐに竜に乗って飛んで行く、そのための騎竜部隊だろ?」

 と、ウィリアムも父アレクサンドル皇帝と同じく、アランの未来を予知し不安でいっぱいになっていた。

 一番の不安は、アランに予測のつかない危険な未来が待っているとしかわからないことだった。


「ありがとうウィル。でも、俺が留守の間を頼めるのはお前しかない。頼んだぞ?そして、作戦が良い方に進んだ時は、パドラルの部族長達との調整役として活躍して貰うからシオンとその準備をしておいてくれ」


 アランの言葉にウィルは、自分の役目の重要性を再認識していた。

 そうだ、自分には皇太子の自分にしか出来ないことがあると。


「ブロッサン国の方は、私に任せてくれ。ブロッサン王には既に打診をし、許可も得ている。いつでも大黒主神教教会に突入して一掃する準備はできている」


 アレクサンドル皇帝も公式な外交ルートを使って、ブロッサン国ならびエド・プロ王国から、Black Mage一掃作戦への協力の了承を得ていた。

 それぞれが、この帝国を守るために自分に出来ることに全力を尽くしていた。

 国を統べる者は、己の利よりも国民福祉を優先してこそ国は安定するのである。

 自国の利益とは、己の国のことのみを考えるのでなく周辺の国の福祉を含めて総合的に判断しなければならない。

 それは、膨大な時間と労力を必要とすることであり、権力者こそ犠牲を払う必要がある。

 その全てをスチュアートリア帝国皇帝一族は心得ていた。


「叔父上、いえ陛下ありがとうございます。パドラルの状況に合わせてそちらの方の作戦も遂行しますので、決行の際にはよろしくお願いい致します」


「任せてくれ、そちらの手配は万全だ」

 と、アレクサンドル皇帝とアランが作戦についての話しているといつの間にかウィリアムの姿が消えていた。


 今回の「パドラルオセロ作戦」については、状況に合わせてプランA、プランB…というように臨機応変に作戦を変えていくことを確認し、話を終えた。

 すると、ウィリアムが、ある人を伴って再びやって来た。


「アラン」

 と、優しく彼の名を呼ぶその人は、アランの母の実の妹でもあり、アレクサンドル皇帝の后でもあるアリーチェ・グレース・ローディア・スチュアートリア皇后だった。


「伯母上!」


 アランは、突然のアリーチェ皇后の登場に驚いていた。

 アリーチェは、アランに近づいてアランを抱きしめて言った。

「相変わらず忙しく動き回っているわね、アラン」


 アランがアリーチェ皇后と会うのは、トリリノール離宮でツイン・レイの話をして以来だった。

「伯母上、トリリノール離宮の庭園は伯母上好みに仕上がりましたか?」


「ええ、陛下のおかげで素敵な庭になったから、春が楽しみよ?あなたも春には見にいらしてね」

 と、笑顔で答えた。

 アリーチェも皇后も、アレクサンドル皇帝とウィリアムのアランに関する予知について知っていたが、そんな不安な気持ちを顔に出さず、ただ優しく微笑んでいた。


「はい、伯母上。今回は、シルバー・ベイリー伯爵のルイスガードナー基地を本部として作戦を決行します。ベイリー伯爵の領地からトリリアーノ離宮も遠くは無いので、それまでに片付けて帰りには寄らせていただけるように頑張ります」


 ベンジャミン・コンティ・シルバー・ベイリー伯爵は、アランとウィリアムの世話係侍従として宮廷で使えていたことがあるので、アリーチェにとっても懐かしい人物である。


「ベイリー伯爵も現役騎士として頑張っておられる様子。私からも、よろしくお伝えくださいね」

 アリーチェ皇后も懐かしくベイリー伯の顔を思い出していた。

「きっと、マリエッタお姉さまもベイリー伯爵のお名前を聞いたら、懐かしく思われるわね。お姉さまにはご連絡したの?アラン」


 アランは、母の名前を出されてちょっと戸惑っていたが、彼の揺ぎ無い決意は変わらず、しっかりとした声で答えた。

「いえ、母上には、何も。私が戻りましたら、ウィルが祝賀会を開いてくれるそうなので、その際には父上と共にこの宮殿にお越しいただくつもりでおります」


「そうね。あなたにとっては、いちいちお姉さま達のお耳に入れるほどでは無いのですね。私も祝賀会で、みなと会えるのを楽しみにしておりますから、すぐに任務を終えて戻って来下さいね」

 そう言うと、アリーチェ皇后は再びアランを抱き寄せて

「必ず元気に戻って来るのですよ」

 と、言った。


 叔母として、ひとりの母として、息子を案じていることであろう姉の想いも込めてアランを抱きしめた。


「はい、皇后陛下のお心を煩わせることの無いようにします!私の留守の帝国軍の全権はウィリアム元帥に託しました。私は懇意の任務の遂行だけを考えて全力で頑張って来ます」


 アランには、叔母であるアリーチェ皇后の気持ちも、母マリエッタ大公妃の気持ちも痛いほどわかっていた。

 ただ、彼に躊躇をしている暇もあと退りする余裕も残されてはいなかった。


 そして、スチュアートリア帝国皇帝の秘密の執務室に集まっている4人には、この任務がそう簡単に終わるものでは無いことを知っていた。


 まもなく、アランにとって一瞬のようで無限のような、果てしない闘いが始まるのである。


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