面接試験会場は、帝国軍本部?
ノアは、帝国神聖魔術士養成大学に戻りすぐにトゥルリー先生に相談した。
「ネオくんは、おそらくパドラルの教会から逃げて来たんだと思うんですが…一緒に居る者が敵なのか?味方なのかわからないんです」
ノアは、トゥルリー先生には包み隠さずに自分が思うこと、感じることを話そうと思っていた。
「ネオという者は、君と一緒に地球という異星から来た者に間違いないんだな?」
トゥルリーは、ノアの話を聞いてこれは重要な事だと直感的に感じていた。
アランがノアをKey Personと呼んだように、ネオと言うもうひとりの異星人も重要人物に違いないはずだと。
「はい。ネオくんは僕と一緒に地球から転移して来た地球人です。僕よりも長く『大黒主神教』の人たちと一緒に居たから、彼らには詳しいはずです。僕はまだよく知らぬ間に逃げ出したましたが、ネオ君はブロッサン国の教会へも同行していました」
「そんな彼がなぜ、今になって君に会いに来たのだろうか?」
トゥルリー先生はノアが思ったのと同じ疑問を持って尋ねた。
「僕もそう思ってネオくんに聞いてみました」
「そしたら?彼はなんて?」
「ネオくんも大黒主神教を薄々おかしい宗教だってことを感じていたそうです。でも、ここで生きる為には見て見ぬふりをする事を選択したらしいです。そうやって、この星に慣れて来て色々な事を体験しているうちに、現状について真剣に考えるようになって考えが変わったのだそうです。そしたら、無性に僕に会いたくなったと言っていました。先に逃げ出した僕が正しかったと思ったのだそうです」
ノアは、ネオの言ったことを伝えた。
それでトゥルリー先生が納得してくれる答えになっているとは思えなかった。
自分で伝えていても、それが先生の質問の的を射た答えになっているとは思えない。
それでも、ノアはネオを信じられると思った。
なぜなのだろう?
「一度彼と会って話してみたいな」
と、トゥルリー先生が言うのを聞いてノアは、やっぱり先生は思った通りの方だと思っていた。
「ありがとうございます、先生。実は、ネオに帝国神聖力術士養成大学を受験するように勧めたんです。デイブスから引き離す意味もあったのですが、彼も独学で勉強して魔法が使えるようになってました。でも、攻撃的な黒魔術より人を助ける魔法を学びたいと言っていました。なので、面接してあげて欲しいんです」
ノアは、頑張ってネオのプレゼンをした。
ノアはネオを救いたいと思っていた。
ネオはノアに救いを求めて来たとは言ってなかったが、ノアはネオを救わなければと必死だった。
そのノアの気持ちをHoly Mageであるトゥルリー先生は汲み取っていた。
そして、ノアに言った。
「わかった。でも、これは私のひとりの一存で決められることではない。持ち帰って他の先生方と話し合って結論を出すから、しばらく待っていてくれ」
ノアはトゥルリー先生の言葉の意味を十分に理解していた。
ただ、なぜか心の隅に焦りのようなものが存在していた。
あまり時間が無いような、急がなければならないような気分になっていた。
「はい、検討して頂けるだけでも有難いです。よろしくお願いいたします」
そんなノアにトゥルリー先生はノアの肩に優しく手を置いて言った。
「心配するな。きっと悪い方には転がらない。君の気持ちは彼を救うさ!きっとね?」
「はい!」
ノアは、先生のこの言葉を信じて元気に返事をした。
数日後、ノアはネオの元を訪れた。
ネオは、ちょうど夕食をとりに食堂へ降りて来たところだった。
「ネオくん、お受験させて貰えることになったよ」
「ほんとか?」
ネオは、椅子から立ち上がってノアに歩み寄って言った。
いつもの平日ならこの場所はダイニングバーとなっており、宿泊客以外の一般客も居るのだが今は宿泊客だけで満席状態だった。
ノアはネオに落ち着けと促すように、ネオの両肩に手を添えて自分も隣の席に座った。
デイブスは向かいの席で、食前酒を飲んでいた。
「明日、大学に行って手続きをして受験票を受け取るように!って。まずは、魔導士クラスの受験になるから間違えず行ってね?」
「魔導士クラスかぁ。他にもクラスがあるのか?」
ネオは、帝国神聖魔術士養成大学について知っていることはふたつ。
魔法を教えて来る学校であること、合格すれば学費が無料だということ。
ノアが在籍しているという以外に知っているのは、この二つのみだった。
ノアもネオに大学について詳しく話してあげたいと思っていた。
だが、デイブスを完全に信用しきれないノアは、彼の前で多くを語りたく無いと思っていた。
「うん、その上にWhite Mageクラスがあるよ。ネオくん、ひとりで行ける?迷いそうなら、僕が一緒に行ってあげるよ」
ノアがそういうと、デイブスが酒を飲みながら言った。
「付き添いなら俺が居るから心配ないぞ?まぁ、俺も帝国内には詳しくないが、宿の人に聞けば道くらい間違えないだろ?」
やはり、ネオとデイブスを引き離すのは難しそうだった。
「そうだね。デイブスに任せておけば道には迷わないかな?」
「迷うとしたら、大学の中でかも?」
と、ネオが笑って言った。
「帝国神聖魔術士養成大学のセキュリティはかなり厳しいって聞いてる。どうやったらノアに会えるかと色々調べたが、お手上げだった」
確かに帝国神聖魔術士養成大学の警護は完璧だ。
帝国軍から派遣されている専属の騎士が警護している。
騎士の多くは魔導士かWhite Mageである。
その上、先生方は元帝国軍人か現役の軍人でHoly Mageときている。
ありんこ一匹入り込む隙は無い。
とにかくネオを帝国神聖力術士養成大学の中に入れてしまえば安全だ。
「じゃあ、明日午前に帝国神聖魔術士養成大学の魔導士クラス受付まで行ってね。検討を祈っているよ。ネオくんならきっと合格できる」
と、ノアはうっかり口が滑ってしまった。
「えっ?明日は受験票を受け取りに行くだけだよね?」
ネオは、ちょっとノアの言葉に疑問を持って尋ねた。
ノアは、ここで慌ててはいけないと落ち着いて答えた。
「そうだよ。明日は受験票の受け取り。でも、僕の時はその翌日すぐに試験だったんだ。16歳は、受験資格ギリギリの年齢だからだと思う。今度ネオ君に僕が会う時までには、合否判定が出ていると思うんだ」
「そんなに早いのか!焦るな」
と、ネオはお受験にドキドキしている様子だった。
ノアは、ちょっと心が痛んだ。
「じゃあ、僕は今度の週末にまた来るね」
ノアは、そう言って宿の食堂を出て行った。
「なんか、やけにドキドキするなぁ」
ネオがそういうとデイブスは少し酔ったような赤い顔で言った。
「だいじょうぶだろう、お前なら。それよりも合格してノアを説得して来いよ」
「うん」
ネオは、ここに来た理由を思い出しいた。
ノアとまた共に暮らし、共に魔法を学べることワクワクしていたのだが、それは一瞬で終わることなのだ。
ノアに事情を説明してパドラルに連れ戻さなければならない。
それは、せっかく合格したとしても、その大学で学べなくなることを意味する。
ネオは、さっきまでのウキウキした気分が、風船がしぼむようにしおれて行くのを感じていた。
夕食が運ばれて来たが、なんだか食欲も半減するようだった。
デイブスはそんなネオには構わず食事に食らいついていた。
「うまいぞ!こんな旨いもん、食えるうちに食っておかないとな?パドラルに戻ったら、こんな旨いもんは食えねえぞ?」
「そうだね」
ネオは、なんだかすべてが憂鬱に思えた。
とりあえず、明日はノアの顔に泥を塗らないようにだけはしたいと思っていた。
翌日、ネオは帝国神聖力術士養成大学の前にいた。
大学とは名ばかりで、完全に宮殿である。
塀と垣根で囲われている城壁は、いったどこまで続いているのかわからないほどだった。
正門と言われる場所に行ったら、ここは違うと言われて別の門に案内された。
どうやら、魔導士クラスとWhite Mageクラスでは門が違うらしい。
ネオは、魔導士クラスになるので、そちらへ行くように言われ、やっとその門の前まで移動して来た。
門のところで門番の騎士に要件を伝えると、中の受付に行って手続きをするように言われた。
「ここからは受験生しから入れませんので、付き添いの方はお帰り下さい」
と、門番に言われた。
「手続きはどれくらいかかるのですか?」
と、デイブスが聞くと
「今回は、そのまま試験になるかもしれないと伺っております。夕方になるかもしれません」
と、門番が答えた。
なんだか、変だとな?と、思わなくもなかったが、帝国神聖力術士養成大学の規定はよくわからない。
ノアも年齢ぎりぎりなので試験も早くなる可能性があると言っていた。
デイブスもここは素直に受け入れることにし宿へ帰戻って待つことにした。
「じゃあ、頑張れよ!ネオ」
そう言ってデイブスは、宿の方角へ戻って行った。
デイブスの後姿を見送ったネオは、その大きな門が開かれると中に居た騎士がネオに言った。
「ネオ・クロスダ様ですね」
ネオは、名前を問われて一瞬焦った。
だが、すぐにノアが伝えておいてくれたからだろうと思い「はい」と、答えた。
「ご案内致しますので、こちらの馬車にお乗りください」
ネオは、言われるままその馬車に乗った。
ネオは、パドラルでも帝国内に入国してからも、荷馬車にしか乗ったことが無かったので、あまりに立派な馬車で気が引けてしまった。
ノアに魔法で作った外套を着て来るように言われたが、馬車の中は快適で外套を着て居なくてもちょうど良い温度に保たれているようだった。
門の間を抜け、馬車が暫く走って行くとまた門があった。
ネオは、庭園の中を走る馬車の車窓から外を見ているとあまりにも美しすぎてて、ここは天国なのか?と錯覚してしまいそうになった。
そして、再び門を潜り抜け、そろそろ眠気が襲って来そうだと思ったら馬車が止まった。
「やっと、ついたか?」
と、外から開けられたドアから馬車を降りると、前に別の馬車が停まっていた。
馬車の扉を開けてくれた騎士がネオに言った。
「もうしわけございませんが一旦降りていただき、こちらの馬車にお乗り換え下さい」
と、言いながら目の前に停まっている馬車の扉を開いた。
扉を開いてくれた騎士が、頭を下げたままネオが新しい馬車に乗るのを待ってくれている。
ネオは、もう馬車に乗るのはうんざりだなぁと思いながらも、その馬車のタラップに足をかけた。
すると、中に人の気配があった。
どうやら、馬車の中に先客が居るようなのである。
「やあ、ネオくん」
その先客は、ひょっこりと顔だけ出して親しげにネオに声をかけて来た。
「ノア!」
ネオは驚いてすっかり眠気が覚めてしまった。
「これは、どういうことなんだい?ノア?」
「ごめんね、ネオくん。これから僕と一緒に帝国軍本部に一緒に行くんだよ」
ノアのその言葉にネオは一瞬、ノアに自分は売られたのか?と驚愕した。
するとノアは、慌てて言った。
「違うよ、心配しないでネオくん。僕とネオくんが地球から来た異星人だと知っていて、僕らをBlack Mageから保護してくれる人に会いに行くんだよ。だから安心して座って」
ネオは、一瞬頭の中が真っ白になったが、目の前のノアの笑顔を見て我に返った。
そうだ、俺はノアを信じるって、今度はノアに着いて行くって決めてここまで来たんだった。
ノアは、いつでも正しかった。
そのノアが俺をだまし討ちにするわけがない。
そう思い直して、黙ってノアの向かい側の席に座った。
ふたりが着席したのを確認した騎士が外から扉を閉めると、馬車は静かに動き出した。
「まずは、だまし討ちっぽくしちゃった事をお詫びするよ。デイブスから君を引き離したくて君に詳しい話ができなかったんだ」
ノアは、デイブスを信用しているように思えたが、やはり疑っていたのかとネオは思った。
「これからネオ君と会いに行く人は、僕がこの帝国で最も尊敬していて憧れている人なんだ。その人は、帝国軍総司令官でもあり元皇帝の息子で、年齢は200歳を超えているのに全然若いんだ!」
「その人は、Black Mageより強いのか?」
ネオは、まずは200歳越えの男を想像していたが、その直後に大黒主神教の者に聞いた噂のGrate Mageという者を思い出した。
「もちろんだよ。当代最強だもの。でも、その人の凄い所は武力攻撃をせずに相手を制圧するとこさ。僕は、その人がヒーリング魔法を使っているところを見て白魔術を身につけたいと思ったんだ」
ネオも、今は攻撃的な黒魔術よりも人を助ける白魔術を学びたいと思っていた。
「なぁ、ノア。俺が受験するってことは嘘なんだろ?ってことは、おまえと一緒に帝国の大学で学べないってことだよな?」
ネオは、ちょっとガッカリしたように言った。
ネオの気持ちを察したノアは、横に首を振って言った。
「違うよ、ネオ君。帝国神聖魔術士養成大学には、文字が読み書きできれば、誰でも入れる魔導士クラスの他に、魔力の素質次第で入れる別のクラスがあるんだよ。ネオくんは、今回はその別クラスの試験も兼ねているんだよ」
ノアの言葉に少し希望を持ち直してネオはノアの顔をみた。
「僕を信じて心配しないで!この帝国の人達はみんな優しかったでしょ?なぜなら、皇帝の一族もその家臣の貴族の人たちも、みんな本気で人生を掛けて帝国を守っているから。だから、みんな皇帝や領主の貴族を尊敬していて信頼しているんだよ」
ネオはノアの話を聞いているうちにこれから会うという人物に興味がわいていた。
ノアが、こんなにもその人物の素晴らしさを力説するGrate Mageとは、どんな人物なのだろう。
そうだ。
俺はパドラルをジャコバン村の人々をBlack Mageから救いたくてここに来たんだった。
でも、その方法が皆目見当がつかず、ただノアに会えばなんとかなるのでは無いかという漠然とした思いでノアに会いに来たんだった。
帝国神聖魔術士養成大学に入るためではない。
ということは、これは自分が望んだ展開になっているのではないか?とネオは思い直していた。
「ノア。デイブスは…ガニバランという黒魔術師の手先だ」
「えっ?」
ネオの突然の言葉に一瞬言葉を失ったノアだったが、やっぱりいう気持ちもあった。
「そっか、俺をパドラルの教会から逃がしてくれたのには裏があったんだね」
ネオは、ノアが良い人だと思っていたデイブスの裏の顔を知って、ショックを受けているのでは無いかと思ったが、やはり真実を伝えねばと思い切った。
「そうらしい。パドリアヌスというBlack Mageの命令でノアをこの帝国神聖魔術士養成大学へ送り込んで魔法を身に付けさせたかったらしい」
「そっか。じゃあ、今のところ奴らの思うつぼ?」
と、おどけながら言うノアは、あまりショックを受けている様子はなかった。
だが、内心はやっぱり薄々気づいていた事とはいえガッカリしていた。
「でも、奴らは僕に魔法を身に付けさせてどうするつもりなのだろ?」
ネオは、ちょっと躊躇いながら言った。
「そこなんだが…俺に、お前をパドラルに連れ戻せと命じて来た」
ノアにとって、この言葉が一番ショッキングだった。
ふいに横から頭を殴られて頭がクラクラするような気持ちになった。
「もちろん、俺はそんなつもりはないが…」
と、ネオが言葉を途中で止めたことでネオも複雑な立場に立たされてることをノアは察した。
「が?」
「俺が戻らないと、ディアネ達が危ないかもしれない。そう脅された」
「ディアネ?…ああ、マッキンリーさんのところの?」
ノアがまだパドラルの大黒主神教教会に居た頃、市場に野菜や工芸品を売りに行かされていた時によくお世話になった一家だった。
誰にでも優しく、世話好きな一家だった。
きっと、ノアの代わりに市場に行くようになったネオにも同じように優しくしてくれていたのだろういう事は想像に難くない。
「卑怯だな」
ノアは、いいしれぬ怒りの気持ちが込み上げて来た。
「そうなんだ。それでどうすれば良いかノアに相談したかったんだ」
ネオは、やっとノアに言いたいことが伝えられて肩の荷が降りたように思えた。
「ネオくんも大変だったね。きっと、レッドリオン公爵様に相談すれば。ネオくんが苦労してここまで来てくれた事は無駄にならないと思うよ」
ノアは、レッドリオン公爵様なら絶対になんとかしてくれると確信していた。
「レッドリオン公爵?」
別の門から帝国神聖魔術士養成大学を出た馬車は、ルデ・トロア宮殿内の一角にある帝国陸海軍総本部へ向っていた。
帝国軍の建物は一見、宮殿の他の建物と変わらぬ様相を呈しており、東館と西館に分かれて宮殿を守るよう建っていた。
馬車は、ちょうどノアとネオが、レッドリオン公爵の話に至った頃に軍本部の正門に到着した。
初めて訪れるネオは、まだそこが宮殿内の軍本部前であることをさっぱり理解できていなかった。
ただ、広大でどこまでも続く建物と美しい庭園に驚くばかりだった。
この国は、どこへ行っても美しい。
宮殿という宮殿の庭園は、冬だというのに花が咲き乱れていることにも驚く。
馬車が止まり、外側からドアが開けられると、そこには数人の騎士達が並んで立敬礼していた。
ノアが先に馬車から降りると、騎士達の間からひとりの軍人らしき男が、にこやかに進み出てノアに声をかけた。
「ようこそ、ノアくん待っていたよ」
「はい、ここへ来るのは三回目ですね?トゥルリー先生」
と、ノアが言うとトゥルリー先生は
「ここでは、先生ではなく大佐だけどね?」
と、ノアの耳元で囁きながらウィンクした。
その様子を後ろから見ていたネオと目が合うと、トゥルリー先生、もといトゥルリー大佐は手を差し伸べながらネオに歩み寄って言った。
「ネオ・クロスダ君だね。初めまして、私は、トゥルリー・アンソニー・イエローバレーだ。ここでは、大佐だが、日頃は帝国神聖魔術士養成大学に出向して教師をしている。ノアの先生だ。よろしく」
ネオは、ノアの先生と聞いて安心して差し出された手を握った。
「ネオ・クロスダです。ノアとこの星に転移して来ました。よろしくお願いします」
「では、案内しよう。ついて来てくれたまえ」
と、言うとトゥルリー大佐は軍本部の中に入って行った。
ネオは、思っていた。
「俺の受験会場は、帝国軍本部総司令官室なのか?」




