ネオ、ついにノアと再会する
週末の、しかも年末の宿屋の朝は忙しい。
ノアは、久しぶりに鳥小屋に入ってから卵を集めていると、牧場から搾りたての乳が届いた。
この世界にも地球と同じく卵と牛乳があるのだが、鶏の卵と牛の乳ではなく、鶏に似た鳥の卵と牛に似た動物の乳なのである。
味はほとんど変わりないのだが、ちょっとだけ違うのが不思議なところである。
同じ地球でも、地域が変わると生息生物が微妙に変わるように、星が変わると生物も似ているようだが変わるのだなと思った。
そして、星が変わっても、さほど人間に代わりが無いのだなと改めて思った。
だって、俺って異星人?宇宙人なわけで…。
でも、この星の人たちとは、異星人同士というより異邦人同士くらいの違いしかない。
これって、他の星でも同じなのだろうか?
などと考えながら、厨房の手伝いをしていたら思わず火傷をしそうになった。
「あっちぃ!」
温めていたスープの鍋の取っ手を、うっかり素手で握ろうとしてしまったのだ。
「だいじょうぶかノア?」
ティムが心配して飛んできてくれた。
「ごめん。親父さん大丈夫だよ、ちょっと火傷しただけ」
火傷をした両手の指先を広げて見せた。
指先の皮膚が赤くただれ、そのままにしていれば水ぶくれになりそうレベルだった。
「火傷したって?!呑気に言ってないで、すぐに流水で冷やさないと」
ティムは、当然、井戸で手を冷やすだろうと先に裏庭に出て井戸の水を出そうとした。
だが、火傷した当の本人のノアは動こうとせずにカマドの前に立っていた。
ティムは、一向にノアが出てこないので
「おい!ノア?」
と、言いながら厨房に戻って来た。
ノアは、カマドの前で両掌を上に向け、ぶつぶつと何かをつぶやいていた。
ティムが黙ってその様子を見ていると、ノアの掌の周りが水色の光で輝きだした。
その光がノアの指先をなぞるよう這うと、赤く火脹れになりかけていた箇所で止まった。
すると、指先がみるみるうちに元の皮膚に戻って光が消えた。
口を半開きにしたままその様子を見ていたティムがやっとのことで口を開いた。
「ノア…、そんなことも出来るようになったのか」
と、言いながら治ったばかりのノアの手を握ってまじまじと見つめていた。
「うん。これくらいはなんとか…」
ノアは自分の両手の指先を開いたり握ったりと動かして、火傷の治り具合を確かめていた。
ヒーリング魔法は治験者が居る場合は試すことが出来るが、いない場合は自ら傷ついて試すしか無い。
多くの場合は、知識として覚え、実際に遭遇した場合に初めて試すことになる。
つまり経験こそが実力となるわけだ。
ノアは、火傷を治癒する魔法を初めて使ってみたので、ちょっと感動していた。
どうやら成功したようである。
「自分の体の怪我や体力の回復の魔法はある程度使えるようになったかな?でも、他の人を治すほどのヒーリング魔法はまだまだ修行が必要だけどね」
「それでも凄いぞ!ノア」
と、ティムは感動していた。
「ありがとう。もっと勉強して人の役に立てるような魔導士になれるように頑張るよ。それまでは。親父さんも体に気をつけてくれよ?」
「俺は、お前みたいに、ぼーっとして火傷なんてしないさ」
ティムが、ノアを茶化すように言った。
「そう願うよ、親父さんにはずっと元気で健康でいて欲しい」
ヒーリング魔法は、他人に使う時は本人の回復力を助力する為にしか使えない。
生命を左右する状況での使用範囲の判断は難しいのだ。
助けられるのには、助けてはならない領域もある。
きっと、そんな瀬戸際に直面したら俺も悩むんだろうなと思いつつ親父さんにそんな時が来ない事を心から願うノアだった。
そして、宿泊客たちが起きて来る時間前には、すっかり朝食の支度も整った。
ノアは、いつも通り給仕を手伝おうとしたがティムに止められた。
年末の繁忙期に向けてティムが使用人を雇ったので彼らの仕事を奪わぬようにとのことだった。
仕方なく今回は洗い場の手伝いに徹することにした。
洗い物をしていると、いつもより宿泊客が多いことがわかる。
「親父さん、今年も年末年始は大繁盛そうだね」
山のように積まれた汚れた食器を洗いながらノアがティムに言った。
ティムはノアが洗った食器を拭いては戸棚に片付ける、を繰り返していた。
「ああ、お陰様で座る間も無いくらい大忙しだ」
「ごめんな。俺、今回は手伝えなくて…」
と、ノアがすまなそうに言うと、ティムは慌ててノアに言った。
「そんなことを気にするな。今年は、使用人の人数も増やしてあるし、お前は勉強だけしいてれば良い」
ノアは腕まくりした服の袖で、自分の額にとんだ泡をぬぐいながら言った。
「この年末は、ブルーフォレスト辺境伯のお嬢さんに誘われてブルーフォレスト城に行くことにしたんだよ。移動も辺境伯家の騎竜に乗って行くんだ」
ティムは、驚いたようにノアを見た。
「え?俺まだ泡ついてる?」
と、言うノアに向かってティムは「Grate!」と叫びながら抱き着いた。
ノアは、何が起こったかわからないという顔でティムに言った。
「どうした?親父さん?」
「ノア!お前はただ者じゃないと思っていたが、凄いな!あの辺境伯のお嬢さんに城に招待されただって?!しかも竜に乗って空を飛んで行く?俺たち庶民には考えられないことだよ!」
ティムは、ノアが魔法を身に付けていくだけでなく、高貴な身分の者と親しくなって行く様子を知り、息子が出世していくようで嬉しかったのだ。
「そうかな?まあ、俺も驚くことばかりなんだけれど、せっかくだから色々体験したいと思って。だから今年の新年祭は、あっちで過ごすことになりそうなので手伝えなくて、ごめんな」
ティムは、本当の実家のようにノアが自分のところへ戻って来てくれるだけで嬉しいのに、こうして当たり前のように手伝いをしてくれるノアを心から愛おしく思っていた。
「ノア、お前はお前の思う通りに生きろ。俺の事は気にすることはないからな。ただ、時々思い出してくれるだけで良いからな」
ノアもそんなティムの気持ちがたまらなく嬉しかった。
「ありがとう親父さん」
そう言って、汚れた食器の山を黙々と洗うノアだった。
ノアがやっと洗い物を終え、自分の部屋に戻ろうとするとティムがノアに声をかけた。
「ノア、悪いがお前の部屋も客室に使っているんだ。休憩するなら俺の部屋か使用人の休憩室を使ってくれ」
「すでに部屋が満室になるほど今年は繁盛しているんだね。オッケー!」
と、言ってノアは階段を上がって行った。
確かに、どの客室も人の気配がする。
ノアが使用していた部屋も元は客室だったので、繁盛期は客室として使われる。
「俺は滅多に戻らないんだから、一部屋開けておいて貰うわけにはいないもんな」
と、言いながらも少しだけ寂しい気持ちもあった。
その元ノアの部屋の中から、男たちが話す声が聞こえて来た。
「今日はどうする?」
「むやみに歩き回っても意味が無いもんなぁ」
ドア越しの声だがなんだか聞き覚えあるような声に聞こえた。
話し声は続く。
「やっぱり、正攻法で面会を申し込むのが一番なんじゃないか?」
「身分を聞かれたら?理由を聞かれたら?」
「俺はノアの友達だ!理由は単に会いたいから!…じゃ…ダメか?」
確かに、「ノア」と聞こえた。
この声は…
ノアは思わずその部屋の扉をノックしてしまった。
自分の勘違いだったら、スタッフのふりをして部屋の掃除について聞きに来たと言えば良い。
「なんだ?」
部屋の中から声がしてドアがガチャリと開いた。
扉を開いた男は、扉の向こうにノアの顔を見て、まるで妖怪でも見たかのように驚いて声をあげた。
「わあ~!」
男の背中で、ノアの顔が見えなかったもうひとりの若い男が、急いで駆け寄った。
「どうした?デイブス」
デイブスの大きな背中の向こうに見えた顔に同じく叫びそうになった。
そして、デイブスを押しのけてノアに飛びついた。
「ノア!ノアじゃないか!どうしてここがわかった?」
ネオは、ノアが自分を捜しに来てくれたものと思って喜んでいた。
一方のノアの方は、なぜネオがここ?
しかも、デイブスと一緒?どうして?
と、頭が混乱してわけがわからず呆気に取られていた。
「ネオくん?本当にネオくんなの?」
我に返ったノアが言うとネオは満面の笑みで答えた。
「そうだよ、ノア!捜したぜ!お前に会いたくてパドラルから旅した来た」
「僕を捜しに?わざわざ?それにしても、どうしてデイブスまで一緒なの?なんだか、頭が混乱して来たよ」
ノアは、ネオとデイブスが一緒に居る意味もわからなかったし、なぜネオがノアを捜しに来たのかもわからなかった。
ふたりは、久しぶりの再会を喜んでからお互いの状況を語るべく、まずは落ち着いて話し合うことにした。
ノアは、たまたま休暇でこの宿の賄の手伝いに来たことを話した。
が、この宿の主人が自分の親代わりである事は話さなかった。
なぜなら、このふたりが『大黒主神教』の回し者では無いという確信が持てなかったからだ。
万が一にでもティムに被害が及ぶことを恐れたのだった。
ネオは、パドラルやブロッサン国で見聞きした経験から、やはり大黒主神教や黒魔術に不信を持ったこと。
マッキンリー一家たちジャンバラン村の人たちの話を聞いてるうちに自分も大黒主神教から逃げたいと思ったことを語った。
ただ、デイブスが大黒主神教の黒魔術師の腹心であることは、本人の目の前では語れなかった。
「デイブスは、あれからどうしていたの?」
ノアは、デイブスに対しては悪い印象も無く、パドラルの教会から連れ出して船に乗せて帝都連れて来てくれた恩人だと思っていたので、全く怪しんではいなかった。
「あのまま船に乗って、船乗りとして働いていたよ」
デイブスは、何をどう話せば良いのか迷っていた。
恩人の黒魔術師ガニバランには、ノアを連れ帰るように言われている。
いずれ、自分がガニバランの手下だとノアにもわかる日は来る。
このまま黙って、ノアを船に乗せてしまえばあとはガニバラン様がなんとかしてくれるだろうと思っていた。
ただ、ネオはきっと黙っていないだろう。
デイブスはどう駆け引きするか悩んだ。
「ノアは、あれからどうしていたんだ?」
デイブスは、まずノアの状況を聞くことにした。
横に居るネオもまた、どうノアに今の状況と自分の真意を伝えれば良いか悩んでいた。
「デイブスに貰ったお金で、辻馬車に乗ってこのレイマーシャロル地区に来たんだ。ここが、港から一番近いマルシェがあるから腹ごしらえもできて宿も探せるからと聞いてね。しばらく、宿でバイトさせて貰ってから帝国神聖力術士養成大学の受験をしたんだ。そしたら、合格できたので、今はその寮に居るんだ」
と、デイブスと別れてからのことを簡単に説明した。
「ノア、本当に帝国神聖魔術士養成大学ってところで勉強しているんだな」
と、ネオは半分驚いたように、半分羨ましそうに言った。
「うん。そこでHoly Mageを目指して白魔術の勉強をしている。地球の頃の学校とは違って先生方も人格者ばかりだし、友達や先輩も良い人ばかりだから毎日が楽しいよ」
ノアの言葉を聞いてネオは、ここからノアを連れ出すことの難しさを再認識していた。
それはデイブスも同じだった。
ネオは、少し話題を変えようと自分も独学で勉強してることを語った。
「俺もトロア文字はもちろん、マジュ文字も読めるようになったんだ」
「独学で?ネオくん頑張ったね!じゃあ、魔法も使えるようになったんだね」
ネオが以前、会得しようしていた魔術は攻撃的なものが多くノアはあまり好まないものだった。
「うん、でも黒魔術はあんまり、今はどちらでもないものを研究している。
例えば、この外套なんだけど…外気温を遮断してくれる魔法をかけてあるんだ」
と、言ってネオが魔法で作った外套をノアに見せた。
それを見てノアは驚いていた。
その魔法は、黒魔術でも白魔術でもなく神聖力を使っているものだったかたらだ。「ネオ君、こんな魔法どこで覚えたの?」
「ある人から貰った魔導書に書いてあったものを自分なりにアレンジしてみたんだ。何度も失敗したけれど、時間だけはたっぷりあったからね」
ネオは、自分が使った魔法の凄さに気づいていない様子だった。
帝国神聖大でその魔法の理を学んでいるノアにはネオの力がどんなものなのか脅威でもあった。
「ネオくん、他に使える魔法はどんなみのがあるの?」
「うーん、黒魔術って、魔道具や贄やら使わないとならないものが多いし、生活に役立つのはジェイコブ神父が使っていたものくらいなんだよね。だから、俺も白魔術を学びたいんだけれど、パドラルには本が無くてさ。だから、あまり使える魔法はないんだ」
ネオの返答を聞いてノアは、ネオが自分本当のことを言っているのか、出来るのに隠しているのか、判断に迷っていた。
「僕は、大学で色々学んだけれど、物体をコントロールする魔法は一番気に入っているかな?あと、簡単なヒーリング魔法」
ノアは、多くは語らず、相手がのって来そうなものだけを言ってみた。
するとネオは、ヒーリング魔法に食いついてた来た。
「ヒーリング魔法?それって病気や怪我を名前魔法のこと?」
ノアは、やっぱり食いついてきたなと思いながら答えた。
「そうだよ。僕は未熟者だから、まだそんなには使えないけれど、簡単な傷や痛みを軽くするくらいは出来るよ。さっき、厨房で火傷したんだけど、魔法で治した」
と、手のひらを広げてネオ達に見せた。
「へえ~。俺もそういう魔法が使えるようになりたい。やっぱり魔法は攻撃するよりも人を助けるために使うべきだよ」
ネオのその言葉を聞いて、ノアの心の中で何がパチンと弾けるような気がした。
「ネオくん、久しぶりに会ったら、なんか前のネオくんと違う気がする」
ネオは、ノアの驚いた顔を見ながら言った。
「俺さ、ここに来たばかりの頃は、見るもの聞くものが新鮮でワクワクして、地球に居た頃の延長戦でなんも考えずに過ごしてたんだよな。でも、大黒主神教の人たちや、ジャンバラヤ村の人達と過ごしているうちに、『生きる』ってことに前向きになったというか、もっと真剣に考えられるようになったんだと思う。そしたらさ、無性にノアに会いたくなった」
ネオは、満面の笑みを浮かべてノアの両肩を叩いた。
ノアにも、ネオが言っていることが嘘とは思えなかった。
「俺も大黒主神教か薄々おかしな宗教だってことには気づいてたんだけれど、見て見ぬふりをしていた。でも、やっぱり逃げ出したくなってノアが正しかったんだなと思った」
ネオは、ちょっとだけうつ向き続けていった。
「最初はさ、パドラルに戻ってノアが居なかった時、ノアに裏切られたような気分になってたんだ。でも、あの時の俺はなんもわかってなかったから」
「あの、ネオくん…ごめんね…」
と、ノアが何かをいいかけたがネオがその言葉を遮るように言った。
「ノアは、何も悪くない。いつも悪いのは俺だ。わかってるんだ。だから、今度は全部ノアに従う。お前はいつも正しい」
「そんなこと無いよ。俺はいつも優柔不断で弱くて、ネオくんの勇気ある行動に助けられていたよ」
ノアは、ネオの弱気な発言など聞いたことが無かったので、逆に信じられない気持ちになっていた反面、ネオが自分に救いを求めているような気もしていた。
「それにしてもネオくん…」
ノアは、扉の外で立ち聞きしていた事を知られたくなかったので自分を捜しに来たことを知っていたが敢えてそれには触れずに尋ねた。
「スチュアートリア帝国には何しに来ていたの?」
「ノア、おまえを捜しに会いに来たんだよ」
ネオは、包み隠さずストレートに答えた。
ノアは、あまりにもストレートな答えにどぎまぎしつつも
「なぜ?」
と、こちらもストレートな質問を投げかけた。
「それは…」
と、ネオはチラリとデイブスの方を見てから続けて言った。
「さっき言っただろ?今度は全部ノアに従う為に会いに来たんだ」
ネオの言葉には嘘が感じられなかった。
「デイブスも?」
ノアは、そんなネオとデイブスが一緒なことに疑問を感じていた。
もちろん、デイブスは悪い人とは思っていないが、今のネオとの組み合わせに違和を感じてしまうのだった。
デイブスもまた悩んでいた。
彼の悩みは複雑だった。
ノアとネオを見ていると、自分の恩人であるガニバランやパドリアヌス達がしている事の正当性に疑問を感じてしまう。
自分の生まれたマニ・トバールやパドラルに比べると、スチュアートリア帝国は平和で豊かで、人々はみな幸せそうに見える。
そんな平和な国をわざわざ混乱させる必要があるのか?
ノアやネオの純粋な想いの方が遥かにデイブスの心に刺さって来る。
だが、恩人のガニバランや幼馴染のジェフリーを裏切れない。
ノアとネオを見ていると、デイブス自身も幼馴染のジェフリーを思い出してしまう。
デイブスは首を横に振った。
「俺は、ネオの付き添いだ。帝都に入るのは大変だったんだぞ」
と、言ってパドラルからここまでの苦労を語って聞かせた。
「ネオ君、貧血で倒れたの?」
「もう、全然、大丈夫だよ。今はふかふかのベッドに三食美味しいメシが食べられているから、健康そのものさ」
と、ネオが椅子から立ち上がった。
「あれ?ノア随分大きくなったんじゃないか?俺と変わらない」
ネオと別れる前はネオよりかなり低かった身長もほとんど変わらないくらいになっていた。
「しかも、逞しくなってるじゃないか!」
ネオは、ノアがしばらく会わぬ間に男として外見も成長していることに驚いていた。
「大学では、騎馬戦闘術や柔術も習うので、体を鍛えないとならないんだ。魔法は小手先の術ではなく、その人間の全てから発せられる力だからね」
ネオは、ノアの言葉に納得させられると同時に羨ましくて仕方なかった。
「俺もその大学で学びたかったなぁ」
と、ネオがつぶやいたのを聞いてノアは良い事を思いついた。
「ネオくんも、帝国神聖魔術士養成大学受験する?」
「へっ?」
ネオは、突然のノアの思い付きにちょっとだけ驚いた。
「帝国神聖魔術士養成大学の募集は、年末に行われるんだよ。もしかしたら、締めきっちゃっているかもしれないんだけど、先生に相談してみれば、お受験できるかもしれないよ?」
ノアには、考えがあった。
ノアよりもずっと長く大黒主神教に居て、神父達と行動を共にしていたネオがパドラルを抜け出して来るのは容易なことでは無いはずだ。
多くを知っているネオを簡単に手放すはずは無い。
ネオひとりで来たなら別だが、デイブスが一緒なのがひっかかる。
なんとか、デイブスとネオを引き離し、ネオとふたりきりで話したいと思った。
ネオもノアと腹を割ってふたりきりで話すチャンスを狙っていた。
自分の目的はノアを連れ帰ることだが、いつまで戻れとは言われていない。
情報もが発達していないこの世界で、外国に居る者同士の連絡は容易ではない。
しかも、この帝国の大黒主神教施設は帝国側に抑えられ、関係者も逮捕されている様子なので、ガニバランやパドリアヌスもそう簡単に接触することは出来ない。
ディアネ達のことは気になるが、俺たちが戻らないのに手を出すこともない気がする。
なぜなら、ガニバランもパドリアヌスも自分たちの志の為なら、人を踏み台にすることはあっても無駄な殺生をすることはなかったからだ。
そして、自分もノアと共に帝国神聖魔術士養成大学というところで学べるのなら学んでみたいという気持ちも大きかった。
「お受験かぁ~。何年ぶりだろ?」
と、ネオが言うとノアがちょっと意味ありげに含み笑いしながら言った。
「でもね。ネオ君、16歳くらいって言ってね。この国では俺たち出生不明、年齢不詳だからさ。帝国神聖魔術士養成大学の受験資格は16歳までなんだよ」
「うーん。マジでここに来てからどれくらい時が経ったかわかないし、月日も違うから誕生日もわからないし、年齢不明だよな?」
ネオは、スチュアートリア帝国よりもずっと文化的に遅れたパドラルに居たので日付感覚がすっかり狂っていた。
「でもね。俺も去年16歳ギリギリってことで合格したから、ネオくんは、僕の後輩になるよ?」
と、ノアは嬉しそうに笑った。
「えっ!地球では俺の方が一学年上だったじゃん!」
ネオは、ふざけたように答えた。
「つまり、俺は浪人生だな」
こうして、ノアとネオの再会が実現した。
そして、ノアは早速大学へ戻りネオのことをトゥルリー先生に相談した。
いよいよ、新年の幕開けと共に時の歯車はシフトチェンジする。
そして、ウィリアム皇太子とアレクサンドル皇帝の予知が現実のものとなる時が、刻一刻と近づいて来る。




