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Beyond of Cosmos =星巡りの物語=リゲル・ラナ編  作者: 詩紡まりん
『淀む光と影』=若者たちの選択= リゲル歴4045年

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人々の想いが、歯車を回す

 

 リゲル歴4045年15ノ末月。


 いよいよ今年も最終月となり、新年を祝う祭りの期間が近づいてきた。

 帝国神聖魔術士養成大学も、15ノ月の後半から新年初月の半ばまでの約1か月間、長期休暇となる。

 毎年この期間は、ほとんどの生徒が実家に帰省し寮に残る者は僅かだった。


 当初、パイロット訓練用の(ゴールド)(スケール)(ドラゴン)の世話や、帝国から飼育と訓練を委託されいる(スティール)(ドラゴン)の為に、担当生徒たちは寮に残る予定であった。

 だが、その期間は騎竜部隊をブルーフォレスト辺境伯領に戻し、鋼竜は帝国空軍部隊に移されて飼育訓練が続行されることとなった。


 ノアは、その知らせを聞いて複雑な気持ちになっていた。

 休みの期間のエディたち鋼竜の飼育や訓練について心配する必要は無くなったのは有難い。

 だが、そのままエディたちが空軍基地所属となってしまうのではないか?

 そうなるとエディとは、もう会えなくなるのではないか?

 そんな不安がノアにはあった。


 既にノアとエディの間には、お互いへの信頼感と愛情が芽生えていた。

 ただ、犬猫とは異なり、エディは成長すれば体長10メートルにもなる(ドラゴン)だ。

 個人が簡単に飼える生き物では無い。


 ノアは、そんな複雑な思いを抱えながらエディに餌を与えていた。

 するとノアの気持ちを察したかのように、エディは餌を食べるのを止めてノアの顔をじっと見つめた。

「エディ、心配しなくていいから、ちゃんとお食べ」

 と、ノアはエディの頬を撫でながら言った。


 そのエディの頭には、鋼竜の雄の証でもある角が生えかかっていた。

 真ん中に長い角が一本、両脇それより短い角が一本ずつ。

 雌の鋼竜には短い角が三本生えるだけで、真ん中の角が長くなるのは雄だけだった。


 ノアとエディの様子を見ていたポリアンナがノアに声をかけた。

「エディたちも、うちのブルーフォレス辺境伯領に連れて行ければ良いんだけれど」


 そういうポリアンナの言葉にノアは静かに首を振りながら静かに答えた。

「もともと、エディ達は新しく創設される空軍から預かっている竜達だ」

「いつかは、返却することになるって分かってたから」

 なんだか、そう言っているうちにノアは、目に熱いものが込み上げて来そうになった。

 だが、ポリアンナにそれを察せられまいとぐっと堪えた。


 ポリアンナは、ノアの傍らに立ってエディを撫でながら言った。

「ノア君、前にお兄様もおっしゃっていたじゃない?」

「アラン様は、相性が合ったら使徒(しと)にする学生が居ても良いと考えて、この大学の生徒に飼育を任せることにしたって」

「エディがノア君の使徒になるかどうは、ノア君次第なんだと思う」

「だから、ずっとのお別れになることは無いと思うわ」

 と、ポリアンナがノアを励ますように言った。


「そうかな?」

 と、ノアが言うと

「少なくとも、アラン様はそういうお方だと思うわ」

 と、ポリアンナが言うと、ノアもアランの姿と言葉を思い出して

「そうかもしれない」と思った。


「それより、ノア君!」

「エディのお世話をしなくて済むようになったから、新年の休暇はブルーフォレス城に来ない?」

「ご招待するわ」

 と、ポリアンナが言った。

「リリアーナちゃんとアイラちゃんもご招待したので、三人でいらして」


「えっ?いいの?」

 と、ノアは戸惑いながら答えた。

 それと同時に歴史的にも名城と言われているブルーフォレス城に行けることにワクワクを覚えた。



 その頃、クリストファー、アンナ、キースの三人も新年の休暇について話し合っていた。

 キースの実家であるラングレー領に招待されたクリストファーとアンナは、どのようにしてラングレー家に移動しようかと相談していた。


「ラングレー領は、ポリアンナ嬢のブルーフォレス辺境伯領と、シルバー・ベイリー伯爵領の中間に位置するってことよね?」

 アンナは平民出身なので貴族社会の細かいことには精通していなかったが、ブルーフォレス辺境伯とシルバー・ベイリー伯爵については知っていた。


 むしろ、この帝国民で、この二大貴族を知らぬ者はいないと思われるほど有名だった。

 どちらも先祖代々、西の国境を守っている騎士であり、ブルーフォレス辺境伯は言わずと知れた皇帝の右腕として闘って来た歴戦の猛者であったし、ベイリー伯は、アランやウィリアム皇太子の侍従長として50年近く宮廷で使えていた重臣である。


「そんな重要な領地を任されているなんて知らずに、呑気にキースに(スパイン)(ドラゴン)で手紙を出していたのね、私たち」

 と、アンナは、自領に戻ったまま戻らないキースを心配していた時のことを思い出していた。


 [もし、キースの領地がそのような重要地点にあると知っていたら…]

 [きっと、もっと心配していたのかもしれない]と、思っていた。


「キースの領地までは、帝都からどれくらいかかるの?」

「みんなで馬車?それとも、各自、馬で行った方が良いのかしら?」

 と、アンナが尋ねると、キースは少し考えながら

「みんなで行くとしたら、馬車で行くのが良いかと思うんだが…今、ちょっと考えていることがあって…、プルーフォレスト先生とトゥルリー先生に相談してみようかと思っているんだ」

 と、キースが答えた。


「それなら、しばらく待っていた方が良いね。僕たちはお邪魔する側だ」

 と、クリストファーが言った。


「それと、ちょっと調べてみたんだけれど、ラングレー家が住んでいる城『シュヴァーネンフリューゲル城』って凄く綺麗な城で有名らしいね?」

「図書館でシュヴァーネンフリューゲル城の絵を見たんだけれど、本当に綺麗な城だった」

 と、クリストファーは、キースからラングレー領について聞いてから興味を持って調べてみたことを口にした。


「そうなんだよ」

「母もシュヴァーネンフリューゲル城を気に入って、嫁いで来たようなものだと笑っていたよ」

「病弱だったけれど、美しい城と庭園があるから毎日幸せだと言っていた」

「それだけが母の救いだったな」

 と、キースは懐かしむように言った。


 アンナとクリストファーは、悲しい想い出を思い出させてしまったかと後悔していた。

 そして、このままこの話題を続けることに躊躇していたが、キースは全く気にせず続けた。

「母は、魔法は全く使えなかったけれど、たぶん神聖力(Holy Power)を持っていた人なんだと思う」

「僕が子供の頃に、母が領地の動物たちを集めては僕を喜ばせてくれたり、珍しい花を見つけてきて庭園に移植して、いつの間にか花園を作ったりしていて、子供の僕には魔法にしか思えなかった」

 と、母の想い出を楽しそうに続けて語った。

「母も僕のように帝国神聖大で学べていたら、Mageになってもっと長生きできたのかもしれない」

「僕はおかげさまで、こうしてHoly(ホーリー) Mage( マギ )になれたから、母の分も頑張ろうと思っているんだ」

 と、キースは自分で自分に言い聞かせるかのように決意を語った。


「そうね。私も両親は魔術師じゃないけれど、Holy Mageクラスで勉強出来る事に感謝しているわ」

「この幸運を無駄にせず、帝国に尽くせるMageにならなくちゃ」

 と、アンナも言った。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ロス・トロア宮殿 

  内政執務大臣室


 宮殿内の執務大臣室にトゥルリーとマリアのふたりがテーブルを囲んで座っている。

 その机の上には、検閲と裁決を待つ書類、陳情書、調査報告書が山積みになっており、その山の向こうにアランが座っていた。

 アランは、帝国軍総司令官であると同時に帝国執務大臣の役割を担っている。

 平時は、帝国軍総司令官としての仕事よりも、皇帝の右腕である執務大臣としての仕事が多いアランだが、大黒主神教による帝都内の不穏な動きを察知して以来、軍のトップとしての仕事の方が多くなっていた。

 それが、大黒主神教一掃作戦の完遂により、やっと執務の仕事に戻る時間ができ、山のように溜まった仕事を部下と手分けして精力的に片づけているところだった。


「裁決が必要な案件は、私を飛ばしてウィリアム殿下に回わすようにしていたが、細かな諸々の案件がまだこんなに山積みだよ」

 と、山積みされた書類の山の隙間からアランがうんざりした顔をのぞかせて言った。

 無敵のHoly Mageであるアランでも流石に音を上げたくなるほどの量である。


「アランが弱音を吐くなんてめずらしいわね」

 と、マリアが言うとトゥルリーも

「ほんとだな。アランの弱音など滅多に聞かないのにな」

 と、トゥルリーが言った。


 アランは、ふたりの親友の言葉を耳にしながら、頭を左右にゆっくり振りながら言った。

「いやいや、ここのところ君たちに弱音を吐いてばかりで自分でも情けないよ」

 アランは、いつぞやの自分の不安を親友たちに打ち明けた時のことを思い出していた。


 そんなアランの気持ちを汲み取りつつマリアが言った。

「あら、言ったじゃない?私たちは、アランに頼られるのは嬉しいって!それに、平常時は良いけれど、軍事的有事に兼務するのはアランでも無理だと思うわ。これは、軍の部下としてではなく、友人としての意見なんだけど、執務に関しては、部下の官僚とウィリアム殿下にお任せして、アランは帝国軍総司令官の仕事に専念した方が良い気がするけれど」

 と、言うマリアの意見を聞いてアランが言った。


「そうだな。俺たちが軍務についてから200年くらい平和な時代が続いていたから、軍と内政執務の仕事と兼務も容易だったが、有事となると、そうも行かないことを身に染みて感じたよ」


 トゥルリーもアランのことを心配するように言った。

Grate(グレート) Holy(ホーリー) Mage( マギ )といえど、所詮は生身の人間だからな。陛下やウィルとも相談してアランの負担を分担して貰った方がいいと俺も思うぞ。アランひとりで帝国の全てを背負っているわけじゃないんだ。優秀な部下もいるんだから仕事を分け与える事も必要だぞ」


 トゥルリー自身、もっとアランに頼って欲しいと思っていた。


「ありがとう。そういう事を俺に言えるのは、親族以外では君たちだけだ。実は、父のレッドリオン大公からも言われている。『ひとりで全てを背負おうとするな』と。そして『有能な若い部下を育成することは帝国の財産を作ることになる』から、優秀な人材の育成に力を入れるようにとも言われている」


 アランの父であるラファエル前スチュアートリア帝国皇帝、現レッドリオン公国大公も人材の育成の大切さを痛感していた。

 また、Holy Mage、 White Mageを育成する帝国神聖魔術士養成大学を創立したのもラファエル前皇帝なのである。


「そういう意味でも、帝国神聖大の生徒たちの育成を任されている俺たちの役目も重要だと思っている」

 と、トゥルリーが言うとマリアも隣で頷いていた。


「そうだ!」

「キース・ウェスリー・インディゴ・ラングレーから聞いて欲しいと頼まれていたことがあったんだ」

 と、トゥルリーがアランに言った。


「キースか、彼も今年で卒業だったな」

「卒業後も大学に残って後輩の指導をしながら帝国空軍の所属のパイロット訓練を続けるようにと言っておいたよ」

 キースの実家であるラングレー家について父ラファエル大公から「インディゴ事件」の英雄でありレッドリオン公国設立にも多大な貢献をしてくれたと聞いているので、アランもキースには一目置いていた。


 トゥルリーは、キースから受けていた相談についてアランに話した。

「そうえば、そのキースだが…」

「今年の新年の休暇は、竜の世話の為に寮に残るつもりだったらしいが、休暇中は、(ゴールド)(スケール)(ドラゴン)をブルーフォレス辺境伯へ連れて帰ることになったので、ラングレー領に帰省することになったらしい」

「同じく騎竜パイロット訓練生のクリスとアンナもラングレー家へ行くことになったので、騎竜を辺境伯へ連れてく時にパイロットとして乗って行き、そこからラングレー領へ帰る許可を得ることができるだろうか?と相談されたんだ」

 と、トゥルリーが言うとアランは不思議そうな顔をして言った。


「なぜ、俺の許可が必要なんだい?」

「金鱗竜部隊は、元々ブルーフォレス辺境伯領の独自の騎竜部隊だから、イーサン先生の許可が出れば良いと思うが…」

 と、言うアランに対してトゥルリーは

「キースとしては、金鱗竜部隊は帝国軍が辺境伯家から借りている部隊だし、自分も空軍所属騎士候補なので、アラン総司令の許可を貰っておきたいんじゃないか?」

 と、笑みを浮かべながら言った。


「アランは、若い騎士たちの憧れのHoly Mageだもんね?」

 と、マリアもにこやかな笑顔で言った。


 アランは、こういうたぐいの言葉は何度言われても照れてしまうらしく

「そうなのか、俺としてはイーサン先生に一任しているから問題ないよ」

 と、山積みの書類に埋もれるように姿勢を低くして顔を隠すように言った。


 トゥルリーと、マリアは、そんなアランだからこそ、ついついからかいたくなるのであった。


 そんな三人の居る執務室のドアをノックする者がいた。

 アランの執務大臣室は、一般の執務官たちが執務を行う執務室をいくつか通り過ぎた奥に有り、限られた者しか入室を許されていない。

 今は、さらに結界も張られている状態だった。

 そんな時に入室しようとするのは、アランの使徒ルークかあの男しかいない。


「閣下、失礼いたします」

 と、結界を破って入って来たのは、参謀室長のシオン・ミッシェル・ヴァイオレット・フィールドだった。


「おいおいシオン。いつも言っているだろ?」

「結界をぶち破って入って来るなと」

 と、アランは笑いながら、もうひとりの幼馴染を部屋に招き入れた。


「すみません。急ぎお耳に入れたいことがございまして」

「結界が張られていることを気にしておりませんでした」

 と、シオンは片膝を付き、片手を胸に当てアランに敬礼をしながら非礼を詫びた。


 アランの張る結界は協力なので、並の魔術者に破ることなど出来ない。

 だが、シオンくらのHoly Mageになると防音の為に張られた一重の結界くらいは、ベニヤ板を破るがごとくだった。


「それでシオン、急ぎの報告とは?」

 と、アランは山積みの書類の間から顔を出して尋ねた。


「はい、パドラルに居る諜報部位からの報告です」

「ジャコバン村にある大黒主神教に居るBlack Mageが周囲の部族を支配下におこうと動き出しているとのことです」

 と、言ってシオンは、いつの間にか手に敷いたパドラルの地図をテーブルに広げて言った。

「現在パドラルには、大小二十数個の部族がそれぞれの地域を支配しています」

「ですが、隣接する地域との小競り合いが絶えないようで、住民も疲弊し、土地も痩せ、みな貧しい暮らしをしています」

「その状況を利用し、それぞれの隙をついてBlack Mageがその地域を乗っ取ろうとしているようなのです」

 シオンの報告を受けて、三人はいよいよかと思った。


 スチュア・トロア大陸に残る『大黒主神教』の拠点は、パドラルとブロッサンの二か所のみ。

 どちらから、どう攻略するかタイミングを見計らっていたが、Black Mage側が動き出したとなると、こちらも戦略を考えて動かねばない。


「それで、パドラル人に被害は出ているのか?」

 と、アランはまずは人命の心配をしていた。


「報告によりますと、Black Mage側の戦力の中心は現地の信者です」

「例のごとく黒魔術により洗脳されているらしく、本人の意思とは関係なく戦闘に加わっているようです」

「基本的にBlack Mage側が先制攻撃をかけており、洗脳により恐怖心が無いのか無謀に闘っているらしく、多少の死傷者が出ているようです」

「また…」

 と、シオンはパドラルに潜入しているHoly Mage達からの報告をアラン達に細かく報告した。


 アランも書類の山が積まれている自分の机から離れて、トゥルリー達の座っているテーブル席へ回った。


「それで、シオンの作戦は決まったのか?」

「俺たち三人は、いつでも行ける」

「帝国空軍の為にブルーフォレス辺境伯から提供して貰った騎竜が使えるから、二日で現地まで行ける」

 と、アランがシオンに言った。


「まだ、報告が入ったばかりですので、細かいところまでは決まっておりませんが…」

 と、前置きをしてシオン参謀は、パドラルの地図を示しながら戦略の大枠を三人に語って聞かせた。


 シオンの作戦はこうだ。

 まずは、パドラルに一番近いルイスガードナー帝国陸海軍基地を前線基地としてパドラルを攻略する。

 パドラルの各部族は長年の部族間抗争で物資も乏しく疲弊している村も多い。   

 今は、パドラル人の多くは、なんでも良いから争いから解放されたいと思っているらしい。

 そこで、Black Mageに襲われた村から順に奪還し、部族長をこちらの味方に付ける

 ある程度奪還した段階で、部族長同士に話し合いをさせて国としてのルールを作らせる。

 場合によっては、Black Mageに支配される国か、帝国の属国となるか、自分たちの国を作るかの選択を迫る。

 ほぼ第三の選択をするだろうから、その際には物資や技術援助を約束し、しばらくは帝国主導で国家作りを援助する。

 理想は、パドラルを大人の国家に成長させ帝国の友好国にするというものだ。


 まずは、Black Mageが侵略した地域を後から奪還していくという彼らの侵略を逆手に取る「オセロゲーム」のような作戦だ。

 その為には、Black Mage達の侵略具合を見極めながら作戦を進める必要がある。


 アラン達は、ルイスガードナー帝国陸海軍基地に留まり、タイミング見計らい流動的に作戦を立てながら突入することになる。

 あくまでもスチュアートリア帝国軍として動くのではなく、個人として動かなければならない。

 ルイスガードナー基地の司令官のフレデリック・コンティ・シルバー・ベイリー大佐は、アランとウィリアムの侍従長だったシルバー・ベイリー伯爵の息子である。

 地方軍基地に帝国軍総司令官が長期滞在しているとなると、基地関係者的にはあまり嬉しいことでは無いだろうが、気心の知れている相手なら、例え、長期滞在になったとしてもアラン達も気兼ねなく居られるので有難かった。


「シルバー・ベイリー伯爵と司令官には、私の方で連絡しておきます」

「ブロッサン国の方は、冬の間は動きが無いと思われますが、引き続き見張らせておきます」

「パドラル攻略と並行して作戦を勧めましょう」

 と、シオン参謀室長が言った。


 シオンの作戦は、いつでも緻密で完璧である。

 ただ、今回は相手の動きに合わせて作戦を変えなければならない。

 現地の諜報部員からの情報と、それに応じたい機動力と、タイミングを見損ねない事が大切である。

 機動力という面では、竜部隊導入は大いに役立ちそうだった。



 さて、トゥルリーはミラ・ローズ宮に戻ると、キース達を呼んでアランから許可が出たことを告げた。

 ブルーフォレスト先生からも許可は貰っている。

 辺境伯領の金鱗竜部隊は訓練された騎竜達なので、騎竜パイロットを乗せなくてもリーダーとなる竜に従って、編隊を組んで飛ぶことが出来る。

 しかし、どうせ移動するのであるから、騎竜訓練生徒を乗せて飛ぶことは問題にならない。

 ちょうど、ポリアンナもアイラとリリアーナを連れてブルーフォレス城に帰省するタイミングなので、皆で仲良く空の旅をするのも悪く無かろうと思ったイーサン・バルナバーシュ・ブルーフォレスト先生であった。

 強面の武闘派で知られ、日頃は厳しいブルーフォレスト先生だが、孫娘のポリアンナが喜ぶならと、ついつい甘くなってしまう祖父なのである。


 帝都では年末に向けて人々が浮足立っている頃、帝都トロアに向かっていたネオがついに帝都の隣村まで辿りついていた。


「やっと、ここまで来たな」

 デイブスがネオに声を掛けると、ネオは黙って頷いた。


 ネオは、ノアに会うことだけを目標にここまで来た。

 しかし、会ってどうするつもりか全くのノープランだった。


 ガニバランには、ノアをパドラルに連れ戻すように言われている。

 だが、ノアが素直に付いてきてくれるとも思えない。

 優しいノアのことだから、もしノアが戻らなければ、ディアネやマッキンリー夫妻に危険が及ぶかもしれないと知れば一緒に来てくれるかもしれない。

 とはいえ、例えノアがパドラルに戻ったとしても、みすみすパドネリアス達の思い通りにノアを利用させるわけにはいない。

 とすると、どうすれば良いのか?


 ネオには、なぜかノアに会えば良い方向に事が動くような根拠のない自信のようなものがあった。

 どうしてそう思えるのか自分でも全くわからなかったが、そう思えてならなかった。


「帝都に入ったらどうするんだい?」

 と、ネオがデイブスに聞くとデイブスは、

「レイマーシャル地区に『大黒主神教』の施設があったから、とりあえずそこへ行ってみよう」

 と、言った。


 デイブス達は、まだスチュアートリア帝国内で、「黒い害虫掃討作戦」が一斉に実施されたことを知らなかった。

 その関連施設の近くに住んでいる帝国民ですら、いつの間にか空き家になっていると思ったほど、それは、風が通り過ぎるがこどく、ほとんど音も無く速やかに遂行された作戦だった。


 帝都に到着して、それとなく大黒主神教について聞いてみたが、「そんな怪しい宗教について聞いてどうする…」と言って、人々はあまり話したがらなかった。


 また、関連施設も見当たらなかった。

 デイブスは、レイマーシャロル地区に寄って、ガニバランの腹心であるダボシムという黒魔術師を捜すように言われていたが、レイマーシャロル地区の大黒主神教施設は見当たらなかった。

 裏通りまで行って聞き込んでみると、ある人が

「以前はそのあたりにあったらしいけれど、いつの間にか無くなっていたよ」

 と、その場所を教えてくれた。


 だが、そこには人の気配のない新しい建物が建っているだけだった。


 実は、「黒い害虫掃討作戦」では、洗脳された信者達が解呪後に思い出すきっかけにならぬよう徹底的に痕跡が消されていた。

 その為、施設内部の家具や調理器具まで一切の備品が撤去され、建物の内装も外観も一新されていた。

 立地条件の良い場所のものは既に、新しい店や住人の住まいとなっていたりする所もあった。


「こりゃ~、やられたな」

 と、デイブスはネオに言った。

「やられた?」


「ああ、帝国に内の『大黒主神教』施設は全部排除されて、黒魔術師や関係者は逮捕されたのだろう」

 と、デイブスは身震いするように体を震わせて言った。

 その震えは寒さからなのか、恐怖心からなのかはわからなかったが、魔法の外套を着ているから寒さからではないだろうとネオは思った。


「どうする?まだノアを捜すかい?」

 と、ネオが言うとデイブスは

「もちろんだ」

 と、気を取り直して言った。


 デイブスもネオと同じで、先の事は全く考えてないのかもしれない。

 ネオは、ただノアに会えば未来が開ける気がしているように、デイブスもノアをガニバランの元に連れて行けば次の指示を得られると思っているようだった。


 年の瀬に向いそれぞれの人の想いが、「時の歯車」を回していく。

 大小様々な大きさの歯車の、ひとつひとつの歯がかみ合いながら、大きな大きな「時の歯車」を回していく。


『時』を征する者は、全てを征すると誰かが言っていた。

 それでは、『時の扉』とは…?

 その問いをあざ笑うかのように「時の歯車」が回っている。



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