「Holy Mage対Black Mage」アランの決意
アレクサンドル皇帝は重臣たちを集め「大黒主神教掃討作戦」後に残された課題を解決すべく、内密で会議を行っていた。
「捕縛した黒魔術師や関係者から聞き出した情報によると、大黒主神教の教祖は、バドネリアスというBlack Mageだと判明した」
「残る大黒主神教の教会は、ブロサン国内に1か所、パドラル内に1か所の計二か所のみとのことだ」
「スチュアートリア帝国内にあった関連施設の数と比べれば、僅か二か所ではあるが、問題はいずれも帝国外にあるということだ」
皇帝の言葉に、その場に会した一同もそれがどれだけ問題であるかを理解していた。
「ブロッサン国に対しては、外交アプローチで大黒主神教の脅威を伝えれば、協力を得るのは簡単だろう」
ブロッサン国は、過去二回のエド・ブロ戦争時にBlack Mageに振り回された苦い経験がある。
そのいずれもの戦いでもスチュアートリア帝国皇帝の力添えがなければ、国ごとBlack Mageに乗っ取られていた可能性が高い。
今は、隣国であるエド・ロア王国とスチュアートリア帝国のそれぞれと、友好平和条約を締結し以後は大きな争いも無く平和に交流している。
ブロッサン国がBlack Mageに牛耳られていた時代からは、既に200年以上の時を経ているとはいえ、禍の種を早めに摘むことに躊躇することは無いと思われた。
「問題は、パドラルだ」
ブロッサン国やエド・ロア王国と異なり、パドラルには、いまだ国全体をまとめる統治者がおらず、ひとつの国として外交窓口となる権力者が見当たらないのである。
「陛下、この際ですからパドラルを征服して、スチュアートリア帝国の属国としてしまうのは如何でしょうか?」
と、武闘派として知られる海軍所属の貴族ブリサドル男爵が言った。
パドラルからブロッサンにかけてのエードリア海には、頻繁に海賊が出没する海域がある。
海軍としては、パドラル周辺海域まで管理下に置くことで、さらに海の安全を守りやすくなるのだ。
「ブリサドル男爵の意見もわからなくは無い」
「長年、地域間抗争が絶えず、不安定なパドラルを帝国の支配下に置いてから、その国の自治を認めるというやり方もある」
「だが、一度そのようなことをすれば、スチュアートリア帝国は、勢力拡大のために戦争をしかけて来る国というイメージがついてしまう」
「どんな理由があろうと、我が帝国から侵略行為はしてはならんのだ」
「歴史的にそのような前例を作れば、敵に大義名分を与えることになる」
と、アレクサンドル皇帝は、毅然とした態度で侵略戦争に踏み込むことを断固拒否した。
すると、
「陛下!」
と、アランが椅子から立ち上がって言った。
「おお、レッドリオン公爵、何かあるか?」
と、皇帝は待っていたとばかりにアランの名を呼んだ。
「これは、帝国軍総司令官としての意見ではなく、私レッドリオン公爵一個人の意見としてお聞きいただきたい」
と、アランは前置きをして言った。
「我々Holy Mageの闘いは、なるべく少人数で人知れず短期決戦で決めるのが鉄則です」
「今回もスチュアートリア帝国として闘うのではなく、Holy Mage対Black Mageの闘いとして捉えるのがよろしいかと」
皇帝は、アランがそう言うだろうと思っていた。
「確かに、相手はたった一人のBlack Mageと数人の黒魔術師とのことだったな」
「まずは、パドラルとブロッサンの両方へWhite Mageの密偵に探らせてから、Black Mageが居る方に私が出向きましょう」
と、アランは、Black Mage討伐に自ら望む覚悟を語った。
アランは、当代切っての強力な神聖力をもつHoly Mageである。
彼の力を疑う者はひとりも居なかった。
しかも、彼は皇帝直系の一族ではあるが、皇位継承権を放棄しレッドリオン公国公子となっている。
万が一アランの身に何かあったとしても、ウィリアム皇太子が居るので帝国への打撃は無い。
実際には、アランの帝国への貢献度は高いので大きな損失ではあるが、帝国を維持するうえで表面上の問題とはならない。
「おそらく、それが一番帝国へのデメリットが少ないやり方だと思われます」
と、アランが淡々と語ると
「うーむ。確かにそうだが…」
と、皇帝は心の中でアランの叔父としての想いと闘っていた。
皇帝の予知では、アランがこの帝国を背負い大きな渦に巻き込まれて行く未来が見えていた。
それは、誰が何をどうしても変えることの出来ない確定未来だった。
同じく、アランの不穏な未来を予知している者がいた。
それは皇太子のウィリアムだった。
「レッドリオン公爵。そなたひとりで行くのは流石に無理が有ろう。私も同行させて欲しい」
と、ウィリアムは言った。
予知した確定未来を変えることが出来ないと十分に理解しているウィリアムだったが、やはり黙ってそれを見守ることが出来ず、何かせずにはいられなかった。
そんな皇太子の言葉に、アランはきっぱりとした口調で言った。
「殿下、それはなりません!」
「帝国総司令官の私が帝国を不在にする間、殿下には帝国軍元帥として任務を果たして頂かねばなりません」
と、言うレッドリオン帝国軍総司令官の言葉に皇帝も含む一同が大きく頷いていた。
ウィリアムは、初めからわかってはいたことであったが無念そうにうつむいた。
アランにも従兄であるウィリアムの気持ちは嬉しかったが、お互いに皇帝の一族であり、それぞれが帝国を担う立場のある身である。
ここで公私混同することも、情けや情で動くことは許されなかった。
すると、重臣たちの末席に控えていたトゥルリーとマリアがすっと手を挙げて
「陛下、我々に公爵のお供をさせて下さい」
と、言った。
皇帝は、こちらも予想通りという顔をしながら言った。
「トゥルリー・アンソニー・イエローバレー大佐、マリア・エバー・グリーンフィールド少佐」
「レッドリオン公爵と一心同体で育って来たHoly Mageの君らなら、公爵と共に任務を遂行するには適任だろう」
皇帝の予知は日々更新されるのだが、最近になって皇帝の予知にアランと共にこのふたりの陰が現れるようになっていたのだ。
こちらも、確定未来の予知だったので抗うことは出来ないと思っていた。
「細かい作戦については、ブロッサン、パドラル両国で情報収集に当たっているHoly Mage達からの報告を待ってから参謀室と詰めようと思う」
「みなの者、良いな?」
と、皇帝が言うと一同意義なく賛同し、会議は散会となった。
会議後すぐにアランは、ブリサドル男爵(軍官位は大佐)に近寄って彼を呼び止めた。
「ブリサドル大佐」
ブリサドル男爵は、軍の総司令官であるアランに急に呼び止められてドギマギしていた。
そんなブリサドル男爵の気持ちを気にするそぶりも見せずアランは言った。
「いつも海軍の務めに真摯に向き合ってくれていてありがとう大佐」
「確かにエードリア海の海賊問題は頭が痛いな」
と、アランににこやかに問われ大佐は慌てて返答した。
「閣下!さきほどは出過ぎた意見を申し上げました」
「誠にすみません」
と、ブリサドル男爵は敬礼しつつレッドリオン総司令官頭を下げた。
アランは、ブリサドル男爵の両肩に手を置いて頭をあげさせてから
「いやいや、現場の貴重な意見だ」
「いずれは、パドラル領海も安全に航海できるようにしような」
と、男爵に微笑みかけながら言った。
ブリサドル男爵は、真っ赤な顔をして「はっ!」と、答えるのが精一杯だった。
そんなアランの様子を見ていたトゥルリー、マリア、ウィリアム皇太子は、笑いながらアランに近寄って来た。
「相変わらず、人たらしだなぁアラン」
と、トゥルリーがアランの肩を叩くと
「これが通常運転なのよね?」
と、マリアが肘でアランをつつき
「俺だけのけ者かぁ」
と、両手を腰につけ首を傾けながら拗ねたようにウィリアム皇太子が言った。
そんな幼馴染の三人からの言葉を受けたアランは、ひとりずつ顔を見つめてから言った。
「三人ともありがとう」
「いよいよ、皆で力を合わせてBlack Mageと決着をつける時だ」
「ウィリアムは、帝国をたのむ」
ウィリアム皇太子は、自分も三人と共にパドラルに乗り込みたかったが、自分の立場を十分に理解していた。
また、皇帝同様に予知能力に秀でた彼もまた、この三人の確定未来を予知しており、そこに自分の姿が無いことも知っていた。
それだけに寂しさも、ひとしおだった。
そして、これからアランを待ち受けている未来を予知しているだけに、何も出来ない自分の不甲斐なさを呪うしかないウィリアム皇太子だった。
幼い頃からアランを実の兄のようにと慕い、困った時にはいつでも頼りにしてきた。
そんなアランの双肩にこの帝国の未来を背負わせる運命を恨みつつも、彼ならどんな苦難でもそれを乗り越えてくれると確信していた。
「これが解決したら、盛大に祝勝会を開くぞ!」
と、カラ元気を出してウィリアムが言うと
「その時は、レッドリオン領から父上と母上も招待してやって下さい」
と、アランが言った。
四人は、それは名案だと言って、楽しげに笑い合っていた。
これから迎えるだろう、先の見えない不安を感じさせないように、お互いの気持ちを和ませようと気遣い合う四人だった。
この日からほどなくして、ブロッサン国に潜入しているWhite Mageから報告が入った。
教祖と思われるBlack Mageは、ブロッサン国の大黒主神教教会からパドラルの教会へ移動し、現在ブロッサンの教会に残っている者は、黒魔術師数名と魔術で洗脳された信者のみとのことだった。
ブロッサン国内に潜入しているWhite Mage達だけで対応できる規模であるとのことだった。
それから間もなく、パドラルのWhite Mageからも同様の報告がもたらされた。
どうやら、パドラルの大黒主神教教会に教祖であるパドリアヌスというBlack Mageが居るらしいとのことだった。
また、彼の腹心である黒魔術師の姿が見当たらないので、なにやら画策しているのではないかと言うことだった。
アランは、トゥルリーとマリア、シオンと共にブロッサンとパドラルの大黒主神教教会に踏み込むタイミングを話し合っていた。
「ブロッサンとパドラルとの気温差が一番ある時期になります」
「ブロッサンは真冬の寒さですがパドラルは常夏です。どちらから先に攻め込むかですね」
と、シオン参謀は作戦決行の順番と時期を見計らっていた。
「参謀の君の作戦に乗っかるつもりではいるが、情報は充分に集まっているのか?」
と、アランが答えると
「ある程度の情報は集まっているのですが、バドネリアスの腹心のガニバランという黒魔術師と、ノアと共に地球から来たという者がここ数週間見当たらないそうなのです。この動きが気になるところです」
と、シオンが答えた。
「ブロッサン国の冬は厳しいと聞く」
「数ヶ月はたいした動きは無いだろうが、常夏のパドラルの方の気になるところだな」
「バドネリアスもそちらに居るとのことだから、ガニバランという黒魔術師は何か企んで動いていると見て間違いないだろう」
アランは、ピートやダボシムに指示を与えていた黒魔術師がガニバランだと、彼らから聞いているので、ガニバランの動きが非常に気になっていた。
「まもなく、15の月。大学も休みになって生徒たちのほとんどが自宅に戻る}
「この間に全てを終わらせるのが、ベストかと思うがどろだろうか?」
と、トゥルリーが言った。
それに対して、同じ教師であるマリアが言った。
「生徒たちが狙われているわけでは無い限り、一か所に集まっているよりは分散している方が安心のような気もするけれど…それも相手の狙いによりけりだわ」
トゥルリーとマリアは、まずは生徒の安全を第一に考えていた。
「もちろん、休暇中の方が教師としての仕事に支障も出ないでしょう」
「あなた達が寮を留守にする場合は、極力、生徒たちを寮に残さない方が良いかもしれません」
と、シオンが付け加えた。
「もちろん、寮を空けるのは気になるところではある」
「我々教師の代わりはいくらでもいるから、そこは心配してはいない」
と、トゥルリーが答えた。
すると
「そんなことは無いぞ?お前に憧れている生徒もいると聞くぞ?」
と、トゥルリーが照れるのを予測したアランが笑いながら言ったが、トゥルリーに照れる間を与えず、すぐに軍の総司令官らしく
「ただ、君たちの本職は軍のHoly Mage騎士だからな。今回はそちらを優先して貰う」
と、言った。
「もちろんだ」
「もちろんよ」
と、トゥルリーとマリアは当然だと言うように答えた。
「どちらにしても、ガニバランの動きと行方を含めて、もう少し情報を集めてから詳細な計画を立てたいと思います」
「もうしばらく、参謀室に時間を下さい」
と、シオンがアランに頭を下げた。
「苦労をかけるが、よろしく頼む」
と、シオンに対してアランが答えた。
その頃、疲労と貧血で倒れたネオの体力がやっと回復し、帝都に向けて旅立っていた。
当初は、病み上がりネオのことを考え、宿の者に頼んで隣村までの馬車を用立てて貰った。
その後は、帝都方面に向かう荷馬車を見つけて交渉し途中まで乗せて貰う、を繰り返していた。
ネオは、この星に転移してからは、「大黒主神教」関係者以外の者と接触する機会はほとんどなかった。
あるとしたらジェイコブ村の市場の人たちくらいだった。
だが、今回、スチュアートリア帝国を旅しながら帝国の人たちと触れ合う機会を得て、リゲル・ラナ人と地球人の違いを感じていた。
基本的に、この国の者は温厚な者が多くむやみに争いを好む好戦的な者が少ない印象だった。
それは、この帝国が平和で安全で比較的豊かだとうこともあるのだろう。
しかし、それなら自分が居た地球の日本という国も同じく、平和で安全で貧しい国と比べれば豊かだったはず。
でも、この帝国の人と比べるとギスギスしている感じもあり、妬みや嫉み疑心暗鬼が横行していた。
そういえば、日本は、ストレス社会と言われて久しいと言われていた気がする。
この帝国の人達からは、そのストレスというものがあまり感じられない。
ネオには、それが大きな違いなのように感じていた。
地球と比べて不便なことも多いが、その分、時間がゆったりと流れており時に追われている印象がない。
ここに来てからは、時計を見るということがない。
もちろん、スマホのように突然、気持ち割り込んでくるような物もない。
日が昇れば目覚めて朝食をとり、お日様が頭上に来たら昼食を食べる。
陽が暮れたら夕食をとって寝る。
この自然に合わせた生活になってから、体調もすこぶる良く頭も冴えるようになった。
今から、地球の元の生活に戻ったら、あっという間に病んでしまいそうな気がする。
ネオは、今が一番人間らしい生活をし、人間らしく、自分らしく生きているような気がしていた。
リゲル・ラナに来た当初に農業や狩猟を教わり、生まれて初めて額に汗する肉期待労働を経験した。
初めは辛いと思うこともあったが、しだいにそうした労働も悪く無いと思えるようになってたいた。
ディアネ達マッキンリー一家とゆったりと暮らせたら、どんなに幸せだろうなと思っていた。
そんな思いにふけりつつ荷馬車に揺られる旅を続けるネオと、デイブス。
ネオは、旅の合間にも持参した本や魔術書を読んで勉強を続けていた。
旅の途中で大きな市場の立っている場所に立ち寄った際には、本を売っている店を見つけては、自分が知らない魔術が載っている魔術書や魔導書を買うこともあった。
最近知った魔法の中に、重力をコントロールして荷物を軽くするものが在ったので、重い本でも気にせず購入できるのが嬉しいネオだった。
あんなに勉強嫌いで勉強から逃げていて、本を読むことも有り得ないと思っていた自分の変化に驚いていた。
今は、本がネオの唯一の財産である。
そんなネオと共に旅をしているデイブスがネオを見ながら言った。
「ネオ、このまま逃げ出したいと思ったりしていないのか?」
荷馬車の荷台に進行方向とは後ろ向きに座って景色を見ていたネオはデイブスの不意の質問に驚いたように答えた。
「えっ?」
「俺は、ノアに会いたいから…ノアに会うにはこのままデイブスと居た方がいいじゃん?」
「だから、そんな事は考えないよ」
と、答えた。
「やけに、素直にストレートに答えるんだな」
と、デイブスは予想外のネオの返答に戸惑いを見せていた。
「うん。デイブスは悪いやつじゃないって思ってるから」
「俺さ。地球に居る時は、人を信じられなくなっていたし、俺自身ひねくれた人間だったんだよな」
「でも、こっちに来て、人間ってそんなに悪いもんじゃないのかもな?って思うようになった」
と、ネオは馬車に揺られ気持ちよさげに足をブラブラさせながら両手をついて空を見上げて言った。
空は快晴だった。
「もちろん、大黒主神教みたいに人を騙したり、利用したりする人もいるけど…、それでも、みんな自分の為じゃなくて誰かの為に頑張ってるんだなって思ってね」
「俺の前の世界では、自分の欲求不満を人にぶつけたり、嫉妬や妬みが原動力だったり、自分の欲望のためだけに人を踏みつけたり、そんな人が多かったからさ…」
「この星の人は、ちゃんと大義があって動いている気がするんだ」
と、ネオは、この星に来て見聞きした感想をデイブスに述べた。
「そうか…」
デイブスは、ネオの話を聞きながら何かを考えている様子だった。
「デイブスもさ…誰かのために動いているんだろ?」
と、反対にネオがデイブスに尋ねた。
デイブスは、戸惑いつつも
「そうだな。俺はガニバラン様の恩に報いたいと思っている」
と、答えた。
「偉いな」
「俺は、ここに来てノアとふたりで戸惑っている時に、ハンスとジェイコブ神父に救われたけど、恩に報いたいとは思っていない」
「なんでだろ?人情味の無い人間なのかな?俺…」
と、言いながらネオはちょっと自分が情けない人間に思えた。
するとデイスプスがそれを否定するように言った。
「それは違うぞ、ネオ」
「お前は、直感的に悟っているだけだ」
「悟っている?俺が、何を?」
と、ネオはデイブスの言葉に疑問を感じた。
「上手く言えないが、お前たちがここに来る事になったのは奴らも関係している」
「おまえとノアは、利用されたんだ。だから恩なんて感じる必要は無い」
と、デイブスは力を込めて言った。
「俺たちが転移することになった原因が、ジェイコブ神父たちにあるってこと?」
と、ネオは驚いたように言った。
デイブスは、首を横に振りながら
「俺にも詳しくはわからんが、パドリアヌス様の指示もあったとは思う」
「彼らが、何かをしようとしていて、お前たちがその時に現れたのは確かだ」
と、言った。
「そうなのか…、最初から俺たちを利用しようとしていたのか」
ネオは、薄々そのことは感じてはいた。
自分たちが、大黒主神教の教会付近に現れたことに、ジェイコブ神父はあまり驚いていなかったからだ。
ただ、予想外に俺たちが何も出来なかったのでガッカリしたのだろう。
なのに、今さら、ノアを引き戻して何をしようとしているのだろう?
そこが非常に不気味だった。
「デイブスは、パドリアヌスが、ノアを引き戻して何をしようとしているのか知っている?」
と、ネオが聞くと、デイブスはそのまま黙って首を横に振った。
デイブスは、ノアとパドラルの大黒主神教教会から出て以来、教会へは戻って来ていないから、本当に知らないのかもしれない。
幼馴染のジェフリーもデイブスに裏切られたと誤解したままだった。
デイブスも苦しいところなのかもしれないと思い、ネオはそれ以上のことは聞かなかった。
パドラルのジャコバン村、デイブスやジェフリーの故郷であるマニ・トバールをこの帝国のように平和で安全な場所にすることは出来ないのだろうか?
ネオは空を見上げながら考えていた。
既に年の瀬の風は、冷たく肌を刺すようだったが、魔術で冷気を遮断する外套を着ているネオには寒さも感じなかった。
それとは対照的に、普通の外套を着ているデイブスが寒そうにくしゃみをした。
その様子を見たネオが
「ちょっとだけ寒いかもしれないけれど、ちょっとの間、その上着を脱いで俺に貸してくれないか?」
と、デイブスに声をかけた。
デイブスは言われるまま外套を脱ぐと、ネオはその外套と魔導書の両方に手を置いて詠唱を唱えた。
すると外套全体がオレンジ色の光で包まれて、一瞬ふわりと空を泳ぐように動いて元の姿に戻っていた。
それをネオがデイブスに渡して言った。
「これで、この服を着ていれば、ある程度の暑さ寒さは感じなくて済むよ」
デイブスは、ノアからその外套を受け取って袖を通すと
「ほんとだ!寒くない」
と、驚いたように言ってネオに感謝した。
「ネオ、ありがとう」
「それにしても、いつの間にこんな魔法を使えるようになったんだ?」
「ガニバランに貰った魔導書にやり方が書いてあったんだ」
「でも、これって黒魔術じゃないんだよな」
「魔法には、黒でも白でも無いものあるんだよな」
と、ネオは不思議そうに言った。
世の中、白黒つけられないものが沢山あるものだ。
魔術も同じらしい。
ダークエナジーとライトエナジーのどちらも使える魔法もあるらしい。
それを神聖力という事をネオは知らなかった。
ネオもリゲル・ラナに来て、少しずつ魂を磨くことを体が自然と覚えて来ていた。
そのことにネオ本人は、気づいていなかった。




