時が巡り、距離が縮まり出すときに…
スチュアートリア帝国のシルクガート近く、とある漁村に到着したネオとデイブス。
短期間に繰り返された船旅で溜まった疲労と貧血で、ついにネオは倒れてしまった。
常夏のパドラルから寒冷地のブロッサン国への帆船での長期の船旅。
やっと到着したと思ったら、すぐにパドラルにとんぼ返り。
その後、休む間もなく今度はスチュアートリア帝国への移動。
現世地球の豪華客船やフェリーでの船旅とは違い、常に波の揺れの影響を受けつつの生活である。
その中で睡眠を取り、少ない食料と水で乗り切るのだから体力も奪われてしまう。
いくらネオが若いとはいえ、疲労は溜まるのも無理はない。
ましてや、ここ数日、十分な栄養を摂取してこなかったのだから貧血で倒れるのも当前である。
ネオは、その場で倒れたままピクリとも動かなくなってしまった。
それから三日間眠り続けたネオが目を覚ましたのは、見慣れない部屋のベッドの上だった。
窓からは、明るい日差しが差し込んでくる。
小鳥のさえずりも聞こえて来る気がした。
つい数か月前に居た、極寒のブロッサンとは別世界だった。
すると、そこに明るい髪をした気のよさそうな女がやって来た。
「あら、やっとお目覚め?だいじょうぶ?あなた三日間も寝ていたのよ」
と、言いながら、女はネオの額に手を当てて言った。
「熱は下がったようね。何か食べた方がいいわ。ちょっと待っててね」
そう言うと女は、部屋を出て行った。
ネオは、ベッドから上半身を起こしてベッドから降りようと足を床につけた。
そして、立ち上がろうと足に力を入れたが、よろけて再びベッドの上に転がってしまった。
「なんだかすっかり体力が無くなっちまったなぁ」
と、額に手を当てながら天井を見つめた。
思えば、こんな快適なベッドで寝るのは久しぶりだった。
船の中ではハンモックか、木の板の上に布を敷いたような寝床で寝ていた。
常夏の蒸し暑いパドラルの教会では、竹を編んだようなベッドに寝ていた。
ふかふかの布団と枕で寝るなんて、どれぐらいぶりだろう?
そんな事をぼんやりと、まだ良く回らない頭で考えていたら再び眠りについてしまっていた。
次にネオが目覚めた時は日も暮れ、すっかり夜になっていた。
ネオは、底知れぬ空腹感を覚えていた。
暗さに目が慣れぬまま部屋の中を見回すと、テーブルの上に置かれたランプ光が目に刺さった。
徐々に慣れて来た目を凝らしてテーブル周辺を見ると、ランプの灯りに照らし出された大きな影が見えた。
それはテーブルの前の椅子に座り腕を組んで居眠りをしているデイブスだった。
彼の前のテーブルの上には、布をかけた食事を置いたトレーが用意されているようだった。
ネオは、ベッドの上からデイブスに声をかけた。
「デイブス」
すると、デイブスが目を覚ました。
「おお、ネオ!やっと目を覚ましたか!」
デイブスは、ホッとしたようにネオのベッドに駆け寄って来た。
「ごめん。俺、だいぶ寝てたみたいだな」
と、ネオが言うと
「ああ、朝まで目が覚めなかったらまる四日寝ていたことになるとこだったぞ」
と、デイブスが答えた。
「そうか、そんなに寝ていたのかぁ。寝心地良かったもんな」
「でも、さすがに腹減った」
と、ネオが言うと
「おお、食事も用意して貰ったぞ」
と、デイブスがテーブルの上のトレーの布を取って見せた。
用意されてから時間が経過してしまっていたので、スープもおかゆも冷めてしまっていた。
だが、お腹と背中がくっつく程に空腹だったネオにとっては充分なごちそうだった。
何日も食べずに眠り続けていたネオの胃には、おかゆとスープが丁度良かった。
「ここはどこ?」
と、ネオは、おかゆをすすりながらデイブスに聞いた。
するとデイブスが、ネオの倒れた後の事を話し始めた。
「ここは、帝都トロアとシルクガートの中間地点だ」
「お前が倒れた後、俺がお前を抱えて元来た漁師村に戻ろうとしていた時に、たまたま商人の馬車が通りかかって乗せて貰ったんだ」
「帝都に向かっていると言ったら、一緒に乗せてってくれると言ったんだがな、お前が起きる気配が無いから、この宿まで連れてきて貰って泊めて貰ったってわけだ」
デイブスの話を聞いてネオは、宿屋だから寝心地の良いベッドなんだなと思った。
「迷惑かけて悪かったな、デイブス」
と、ネオが言うと、デイブスは優しい口調で言った。
「いいや、お前は倒れるほど無理してたってことだから、この際ゆっくり休め」
「お前といいノアといい、他の星から来たヤツは無理をするのが好きなのかな?」
と、言った。
「えっ?デイブスは、ノアと俺が異星人だって知ってたのか?」
と、ネオは驚いたように聞き返した。
「ああ、知っている。だからノアとお前をパドラルに呼び戻したいのだろう」
と、デイブスが言うのでネオはもっと聞いてみたくなった。
「パドリアヌスは、俺とノアをどうしたいんだ?」
と、ネオが身を乗り出す勢いで尋ねたが、デイブスは静かに頭を振って言った。
「それは俺にもわからん」
「だよな、ごめん」
ネオは、デイブスもノアを連れ戻すことに乗り気ではないような気はしていた。
「いいや、俺はガニバランさんの言う通りにすることしか出来なくて、お前やノアの助けになれなくてすまんな」
と、言った。
ランプの灯りの下でデイブスの表情を見て取ることは出来なかった。
だが、ネオにはなんとなく、デイブスが悲し気な顔をしている感じがしていた。
デイブスは、きっと優しい心の持ち主なのだろうなと思った。
ただ、人は置かれた環境や、それぞれの人間関係で立場が変わる。
そして立場が変われば、優先順位や正義すら変わる。
リゲル・ラナに来た二年間でネオは、そうした現実を思い知らされた。
自分にとっての正義とは、優先すべきものとは、何なのだろうか?
俺にとっての正義とは?
ネオには、はっきりとした基準が無いことがもどかしくもあった。
ただ、ノアならその答えを持っていて、ネオに教えてくれるような気がしていた。
闇バイトで共に窮地に陥った時にもノアは、迷わず前に進んでいた。
今思えば、ノアの選択は全て正しかったような気がする。
だからこそ、ノアに会いたい。
唯一、同じ星からこの世界に来た者同士だからこそ、分かり合えることもある。
そして、きっと彼なりの正義を教えてくれるだろう。
それがどうであろうと、今度こそ着いて行きたい。
ネオは、そんな気持ちが強くなっていた。
「どうだ?ネオ」
と、言うデイブスの言葉にネオはハッと我に返って
「あ、うん…」
と、デイブスの話を聞いていなかった事をごまかすように答えた。
「お前の体調が良くなるまで、ここでしばらく居てから、歩いて帝都に向かう方がいいだろう?」
と、デイブスが言うのでネオは、今後の話をしているのだと悟った。
「もう十分に寝たから、明日にも出発できるよ」
と、ネオが答えると
「いや、まだお粥をすする程度しか食べてないんだからそれは無理だ」
「せめてしっかり食事をとって体力を回復させてからでないと」
と、デイブスがネオの体調をして言った。
「それと、途中まで馬車を拾って乗せて貰おうと思う」
「金を払って、駅馬車を使ってもいいんだが、それより通りすがりの馬車に乗せて貰った方が怪しまれなくて良いかもしれん」
と、言うデイブスの提案を聞いてネオは尋ねた。
「それは、金の節約のため?」
と、ネオが言うとデイブスはきっぱりと否定した。
「そうではない。資金はたっぷり貰ってあるからネオは、金の心配はするな」
「お前は、帝都に着くまでは自分の体のことだけを考えていれば良い」
「帝都に着いたら、ノアを捜して説得することが出来るのはお前だけだからな」
と、さっきまでの口調とは異なり、デイブスの言葉には力がこもっていた。
その言葉にネオも頷いてから
「わかった。とりあえず今夜は寝て、明日はモリモリ食べる」
と、両手で力こぶを作るような仕草をして見せた。
デイブスの頬も緩んだ。
ネオとノアの距離が少しずつ縮まり出す。
はたして、ネオは無事にノアに再会することができるのだろうか?
ネオが、ノアに会うべく奮闘している頃、ノアは帝国神聖力術士養成大学で白魔術の勉強をしながら、鋼竜の飼育と調教を頑張っていた。
鋼竜の子供は生後5~6ヶ月くらいになると、親竜と共に繁殖地から海の向こうの生息地に向けて飛び立つという。
ノアが飼育を担当しているエディも、飛び立つ事が出来る時期に近づいて来ていた。
体は大人の竜に近づいて来たものの、まだまだ子供の竜である。
また、鋼竜は群れで生息しているので、群れとしての意識を持たせることも重要である。
そこで、大切な役目を担っているのがポリアンナの使徒のクロエである。
クロエは、金鱗竜であるが、エディたち鋼竜が孵化した時から母親代わりになっている。
クロエをリーダーとしたひとつの群れとすることで、エディ達も違和感なく飛行訓練することができる。
自然の鋼竜の子供は、孵化してから親たちがもう大丈夫と判断したタイミングで、海の向こうの繁殖地へ飛んで行く。
初飛行で海を越える長距離飛行をするのである。
エディ達もそれだけのポテンシャルを持っているということだ。
しかし、エディ達の場合は、騎竜としての調教も兼ねての飛行訓練なので、短距離から始めることにした。
エディはノアに懐いていたので、すぐにノアを背に乗せてくれた。
だが、初めての飛行で人を乗せて飛ぶのは難しい。
まずは、ポリアンナが自分の使徒のクロエに乗り、一匹ずつ初飛行に挑ませた。
流石、初飛行で海を越える長距離飛行をする鋼竜である。
どの子も一度のチャレンジで大空に舞い上がることができた。
但し、竜達が空を飛ぶ時は、目的地に向かって真っすぐ飛ぶだけである。
急上昇や急降下、急転回、方向転換をすることはほとんど無い。
しかし、空軍部隊として活用するには、そうした訓練も必要となる。
こうした、騎竜訓練は人を乗せて行わなければ出来ない。
当面は人を背に乗せて、クロエと共にまっすぐ飛ぶ訓練をすることから始める事となった。
ノアは背に乗ってエディに話しかけた。
「エディ、俺重くない?」
ノアは、動物の言葉を理解する能力を身に付けていた。
エディは、大丈夫だとノアに答えて顔を前後に振った。
「エディ、俺を空に連れてって!よろしくね」
と、ノアがエディの顔を撫でながら言うと、エディは大きな翼を広げた。
ポリアンナもクロエに乗り
「ノア君、エディ行くわよ!準備はいい?」
と、言いながら振り返ると、大空に向かって飛び立った。
ポリアンナを乗せたクロエが、あっという間に空高く舞い上がった。
そして「待っているよ~」と、いうようにノアとエディの頭上で旋回していた。
ノアもエディの手綱を引いて
「エディ、Go!」
と、言うとエディも力強く羽ばたいて空に舞い上がって行った。
ノアは「そういえば…俺、飛行機にも乗ったことなかったかも?」
と、思ってぃるうちにあっという間に地上の物がミニチュアサイズになっていた。
下を向いたら、目が回ってしまいそうな高さでクロエに乗って待っていたポリアンナが
「ノア君、だいじょうぶ?」
と、声をかけてくれたが、ノアは声が出なかった。
心臓がバクバクして口から出そうになりながら、
「俺、高所恐怖症だったっけか?」
と、思いつつノアは焦っていた。
ポリアンナは、そんなノアの様子を見てすぐに言った。
「ノア君、まずは落ち着いて、思い出して!」
「空では空気が薄くなるから呼吸に気をつけること」
「空気を操る魔法を使うのよ!」
ポリアンナの言葉を聞いて、ノアは飛行についての講義を思い出していた。
飛行中は、深く息を吸ってはいけないこと。
気温も低くなり、空気も薄くなる。
魔法で自分の周りの空気の温度や濃度を変えなければならないこと。
万が一落ちそうになったら、物体移動の魔法を使って自分の体を固定すること…等々。
ノアは、ひとつひとつを思い出して落ち着きを取り戻した。
「ポリアンナありがとう」
と、落ち着きを取り戻したノアは、ポリアンナに感謝した。
「良かったわ」
「私も最初の飛行の時は、父と二人乗りだったんだけれど、呼吸ができなくなるほど焦ったわ」
そう言ってポリアンナが、クロエと共にエディとノアの前を飛んだ。
エディとノアは、その後に続いてしばらくタンデム飛行をし、グリーンエバリスト山脈の手前で旋回して戻り帰着した。
「お疲れ様。初飛行はどうだった?ノアくん」
と、ポリアンナはクロエから降りるとノアに尋ねた。
「うん、最初はパニックっちゃったけれど、ポリアンナのおかげで学んだことを思い出したから大丈夫だったよ」
「それにエディは、本当に優秀だった」
と、エディの頭を撫でながらノアが答えた。
「本当にエディは優秀だったわ」
「全くブレることなくクロエに付いて上手に飛んでたし、降下着陸する時も背中のノア君のことを気にしながら上手に着陸していて感心したわ」
と、エディをポリアンナに褒められて
「うん。エディは良い子なんだ」
と、嬉しそうなに答えるノアだった。
「それにしても…あの時」
と、ポリアンナが思い出したように言った。
「いつか一緒に馬で遠乗りをしたいねと言ってたけど、竜で遠乗りをする事になるとはね。あの時は、想像もしていなかったわ」
と、ポリアンナが嬉しそうに言うと、ノアも「そう言えばそうだった」と、思い出して言った。
「ほんとだね。まさか、僕も竜に乗れるようになるとは思ってもみなかったから。あの時は、竜を見たことすらなかったし…本当に先のことはわからないね」
と、ノアはしみじみと言った。
そして、地球に居たら、竜はもちろん、馬にすら乗ることもなかったろうなと思っていた。
ノア達が担当する鋼竜の訓練と並行して、キース達Holy Mageクラスの金鱗竜によるパイロット訓練も行われていた。
こちらの指導をするのは、オスカーとその使徒のクレイブである。
クレイブは雄の大人の竜なので、ポリアンナの使徒のクロエよりも一回り大きい。
こちらの竜部隊は、訓練も入ってるブルーフォレス辺境伯家の竜達なので竜の訓練は必要ない。
むしろ、訓練が必要なのはパイロットとなる生徒たちの方である。
オスカーを乗せたクレイブを先頭にして、横に三頭ずつV時編隊を組んで飛んでいた。
オスカーが全員にテレパシーで話しかけた。
「高所で大きく息を吸い込む事は危険だから注意せよ!声を出す時は自分の周りの空気を魔法で固定」
「できれば、空での会話はテレパシーを使うように」
全員がHoly Mageクラスの生徒たちなので、精神感応能力を持ち合わせていた。
「Roger!」
オスカーの言葉に全員がテレパシーで答えた。
まずは、 基本的な陣形を覚えて、機微に編隊を変える練習。
竜達の方が覚えているので、指示を出せばすぐに対応してくれるがタイミングを間違えると竜同士がぶつかるという事故に繋がる。
パイロット達は、そうした事を覚えなければならない。
最終的には竜に乗っての戦闘もできなければならないが、それはまだまだ先の訓練になる。
「第二次エド・ブロ戦争」の際には、前皇帝ラファエルと現皇帝アレクサンドル、そしてオスカーの祖父イーサンが、竜に乗って貴族の館に突入し黒魔術師達を撃退した。
皇帝たちは竜に乗ることは滅多になかったが、見事に乗りこなしていた。
Holy Mageとして優秀であれば、そんなことも可能なのである。
生徒たちも、そんな優秀なHoly Mageを目指して修行中なのである。
編隊訓練を終えて戻ると、アンナとクリストファーにキースが言った。
「竜を乗りこなせるようになったら、自領に帰るのも楽になるのにな」
そういえば、キース・ウェスリー・インディゴ・ラングレーの領地ってどこなんだろう?
以前は、レッドリオン領のインディゴ村周辺が領地であったが、ラファエル皇帝が退位してレッドリオン公国を建国した際に領地を献上した。
その代わりに新たな領地を与えられたと聞いてはいたが、それが何処をふたりは知らなかった。
「キースの領地ってどこにあるの?」
と、アンナは思い切って尋ねてみた。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「ブルーフォレス辺境伯領シルバー・ベイリー領の間くらいにあるエド・ロア王国と国境を隣接する地域だよ」
と、キースが答えた。
「えっ?そんな重要な地域を任されているの?」
「辺境伯を名乗っても良いくらいの領地よね」
「そうかい?」
「まぁ辺境地であることは間違いないけれどね」
「でも、エド・ロア王国が友好国なのでブルーフォレス家にシルバー・ベイリー家ほどの危機感は無いかな?」
と、アンナの言葉にそっけなく答えるキースだった。
キースと同じく、貴族の息子であるクリストファーは、辺境地の領主であるキースの懸念事項を良く理解していた。
クリストファーは次男なので領地は兄に任せて好きに出来るが、キースは一人息子である。
自領を父ひとりに任せることに、多少の引け目を感じているに違いなかった。
ましてや、国境と隣接する領地を任されているとなると、領主としての責任は重い。
何かあったら、すぐに駆け付けたいというキースの気持ちはよく理解できた。
「俺たちも、馬のように竜を乗りこなせるようになったら良いな」
と、クリストファーがキースに言った。
「そうだな」
「そうなったら、距離感が縮まって機動力も増すだろう」
「それは帝国の安全を守るためにも役立つ事に繋がるだろうな」
と、キースが笑顔で答えた。
「ラングレー家が帝国の守りの要の領地を任されていた事を、知らないままで済まなかった」
と、クリストファーが言うと
「クリスが謝ることは全く無いよ。良かったら、ふたりで自領に遊びに来てくれよ」
と、言った。
「それは素敵ね!クリスとふたりでお邪魔しても良いかしら?」
とアンナが嬉しそうに言うと
「もちろん!古いけれど、うちの城は素敵なんだよ」
「前の城主が拘って建てたみたいでね。庭も素敵で母が喜んでいたんだ」
と、キースも歓迎するように言った。
「前の領主は、亡くなったのかい?」
と、クリストファーが尋ねると、
「いや、領地を放棄して隠居しちゃったらしい」
「え?どういうこと?」
と、アンナが驚いたように言った。
キースの説明によるとこうだ。
当時その領地を支配していた貴族は、Holy MageでもWhite Mageでも無い貴族の者であったが、子供もおらず、第一次エド・ブロ戦と、第二次エド・ブロ戦の間の10年の間に領地を皇帝に、領地の返還を申し出たとのことだった。
当時の皇帝であったラファエル皇帝もMageに比べると短命な人間にとっての老後の数年は、大切だと考えていたので、その申し出を受け入れた。
そして、キースの父に与えられるまで、その領地は帝国の直轄地として管理されていた。
元々、その土地はジェームズ帝の頃から、Mageではない貴族が治めていた。
子供に恵まれない時は、養子を迎えてなんとか家名を繋いでいたらしい。
だが、最後の領主の時に、立て続けに息子を亡くして無理に家名を残す気力が尽きたとのことだった。
そういう潔さも悪い選択ではないのだろうと、クリストファーとアンナは思っていた。
「その前城主の一族が代々少しずつ増改築したが城が、なかなか素敵で母も気に入っていた」
「父だけになったけれど、母の生前から使えてくれていた家臣や侍女たちが、しっかり維持管理してくれてる」
「まぁ、規模ではミラ・ローズ宮には劣るけれど、宮殿とは違う山城の良さはあると思うから是非一度遊びに来てくれたまえ」
と、キースが言った。
いつになく自領と城の話を自慢げにするキースを見て、彼が母との別れの傷心からすっかり立ち直ったのだと思って嬉しかった。
「是非、お邪魔させて貰うよ、キース。楽しみだ」
と、クリストファーが言うと、
「父もきっと喜ぶと思う」
「竜たちの世話が無ければ、年末の休暇の時にでも来て貰うのになぁ」
と、キースも笑顔で答えた。
すると、アンナが
「竜たちの世話は、ブルーフォレス辺境伯領の竜担当の騎士達が帝都の辺境伯邸から来てくれるという話よ」
と言った。
「ノアも、帝都内の実家に戻って朝夕はお世話に通うって言っていたな」
と、クリストファーも言った。
「それじゃあ、俺たちが自分たちの担当する竜を連れて自領で世話をすると言ったらどうだろうか?」
と、キースは言ったがすぐに自分で
「うーん、それは厳しいかもしれないな」
と、自分の意見を否定した。
そのキースの自問自答を聞いていたアンナとクリストファーは思わず笑っていた。
キースは、ふたりの反応に気づいて照れ笑いをしながら言った。
「どちらにしても、竜達が心配ないなら、年末の休暇はうちの城に招待するよ」
と、言った。
アンナとクリストファーは喜んで
「はい。ご招待ありがとうございます」
「是非!お受けさせて頂きます」
と、答えた。




