蛇峰院 暁の場合:01「忘れる事のできない温もり」
「はぁ??俺に…許嫁???」
車の後部座席、流れる景色から目を離し母親から告げられた内容に素っ頓狂な声を出す。
休日の朝に叩き起こされ渋々だが外に出る準備をして先も知らされぬまま車に放り込まれた挙句に婚約者?
「そうよ宗十郎、今から相手の家に行くわよ。」
母、酒榮清子はあっけらかんと答えた。
「いやいやいや!言っちゃ悪いが父さんや母さんの家系って普通だろ?そんな許嫁だなんて」
そう、俺の家系は普通だ。
父さんも会社員で母さんも看護師のパートで働く共働きだ、金持ちでもなければ由緒ある家柄でもない、両方の祖父母がなんてこともない。
「う〜ん…そうだったんだけどなぁ。」
父、酒榮弘彦は運転しながら俺の問いに答えるもバックミラーに映る父さんの顔は困った表情。
「なーに言ってんのよ、原因はアンタよ宗十郎」
「…は?俺!?」
言い淀んでた父さんの代わりに母さんがズバッとはっきり言う原因は俺だと。
心当たりが無さすぎる。
「ち、ちょっと待ってくれよ母さん!心当たりがない!!」
「もーしょうがないわね、ほらあれよアンタ
小さい頃に女の子助けたじゃない?」
母に言われて思い出される記憶。
アレは自分がまだ小学生二年の時だ。
家族で川に遊びに行った、父、母、俺、妹。
父はバーベキューで火の番、母はまだ小さく甘えたい盛りの妹に付きっきり。
俺は有り余る体力で川を泳ぎ、川の段差を超えて遊んでいた。
するとその川辺に和服の女の子がいた歳は多分同い年の子、黒いおかっぱに白い肌。
最初は幽霊かとビビった。
けども様子がおかしいことにすぐに気がつく。
着物から見える足は布が巻かれて出血の跡があった、一目見て怪我をして歩けない事がわかる
川からすぐに上がり女の子に近づく。
「大丈夫!?」
「え…あ、うん」
か細い女の子の声、その驚いた顔を見て俺が声をかけるまで俺に気がついてなかった
「近くにおとーさんかおかーさんは!?」
「おらへん…黙ってでてきたから」
本当なら父か母を呼んでくるのが一番いいがこの時の俺の選択は違う。
「はい!乗って!」
「え…」
俺は女の子に背を向けて乗る様に促した。
戸惑う女の子だったが恐る恐る片足で立ち上がり、俺の背に乗った。
おんぶをした俺は立ち上がり歩き出す。
両親のいる場所まで少し時間が掛かる。
「痛くない?」
「うん…大丈夫や…あ、ありがとうな」
「いいよー!」
歩き始めて数分が経った、女の子が俺に話しかけてくる。
「なぁ…いま、どこにむこうてるん?」
「俺のおとーさんとおかーさんのいる場所!」
「…そうなんや、ここでなにしとったん?」
「家族で遊びにきた!」
女の子と話しながら足場の悪い川辺を進む
すると、食材を焼くいい匂いがしてきた。
「もうすぐ着くからね!」
両親のいる場所が近づいてきて自然に歩くスピードが速くなる。
「あ、宗十郎!どこいっ──」
「アンタ!その子どうし、いや早く車に座らせなさい」
父は遠くに行った俺を軽く叱るつもりが背に乗せた女の子を見て言葉を失う。
母は怪我にいち早く気がついて車に座らせる様に促す、俺はそれに従い女の子を後部座席へ
父は母の代わりに妹の面倒を見る。
その間に母はトランクから取り出した救急箱から消毒液などを準備して女の子の応急処置。
傷の具合をみてテキパキと処置をする母。
俺は無意識だったのか女の子の手を握っていた、なぜそうしたのかは今でもわからない。
ただ、不安が落ち着くだろうと思いそうしたのかもしれない。
応急処置を終えた母は女の子に優しく尋ねる。
「お名前は?」
「…蛇峰院 暁、です」
「暁ちゃんね〜、お父さんかお母さんの電話番号わかる?」
「わかる、ます…×××──」
電話番号を聞いてすぐさま電話をかける父。
母は女の子にお茶を渡していた。
俺はその様子をよそ目に紙皿に焼けた食材を幾つか取りそれを女の子に差し出した。
「はい!どうぞ、一緒に食べよ!」
「え…ええんか?」
「うん!おかーさん、いいよね?」
「…暁ちゃんはアレルギーとかない?」
「ない、です」
「じゃあどうぞ〜、ご飯でも食べておとうさんとお母さんを待っててね」
「あ、ありがとう、ございます」
それから俺と暁は一緒にご飯を食べる、救急車は呼ばずに暁の両親が来るらしい。
……確か、こんな感じだったはず。
え?いや…まさか、いやいやそんなはず─
「その暁ちゃんが許嫁、アンタあっちの親御さんにかなり気に入られている様子よ?」
助手席から顔をこっちに向けて親指を立てる
笑顔な母さん。
「…なんで今まで会おうとしなかったんだ?」
「色々と理由があるそうよ?なんでもしきたり?とかでね」
それにしても年に一回くらい会わせるなりしたほうがよかったんじゃ?
わざわざこんな俺が18になったからと…
そこでハッとなりあり得ない考え頭によぎる
もしや…即結婚でもさせるつもりか!?
さすがに突拍子がなさすぎる…よな?
「アンタまた蛇連れて来たの?」
「連れて来たんじゃなくてついて来たの!」
俺の上着の胸元からひょっこりと顔を出す白蛇のハク、その赤い目が辺りを見渡す。
…なぜか知らないが俺は昔からやたらと蛇に好かれる、生まれつきな訳じゃない。
いつ頃からだったかな…確か小学生三年には気がつけば周りに蛇が常にいる様になった。
その中でもこのハクとは長い付き合いだその小学三年から今までの七年間を共にしている。
正直、愛着もあるし嫌だった記憶も小学生の頃に変なイジリをされたくらい。
ハクはシュルシュルと移動する、ひんやりとした体が首筋を這う、俺の上着のフード部分に収まると肩辺りに頭を乗せる。
蛇は懐く事はないとよく言うがハクの頭を撫でてやると明らかに嬉しそうな様子を見せる。
それに不思議なことも多々ある、普段はケージで大人しく過ごしているが鍵をしているにも関わらず脱走がよくあった。
ただ脱走とは言ったが必ず俺の側に来る…ほんとどれだけ鍵をかけても効果がない。
気がつけば車が止まりサービスエリアに入る
俺は車を降りて背を伸ばす。
ここで休憩を挟み昼ごはんを食べに行く、行き先は確か…大阪の田舎の方。
車で行くにはそれなりに時間がかかる。
今で半分進んだくらい、渋滞がなければ夕方前には到着する。
「てかさ、服装はこんなんでよかったの?」
「私服でしょ?蛇峰院さんからの提案よ」
「父さんと母さんは一応ドレスコードだ…本来ならそれも要らないと言われたがな」
「ふーん?そんなもんか?」
「そんなもんだ」
サービスエリアで食事を終えて少し休憩をしたのちに再び出発をする。
渋滞などはなくスムーズで快適に進んでゆく
俺はと言えば──
「……zZ」
寝た。正直言って後半の道中の記憶がない、そして…今は寝た事を激しく後悔している。
俺の目の前にはデカい日本家屋の屋敷が広がっていて圧巻の景色。
寝ていたせいで許嫁に会う心構えも何もできてないし今更ながら許嫁の件が現実なんだと理解して心臓が早鐘を打ち始めた。
俺が呆然としている中両親はインターホンを鳴らすとすぐに和服の家政婦さんが玄関から現れた。
「遠路はるばるお疲れ様です、さあこちらへ」
家政婦さんと両親の後を着いて行き家に入る
内装は綺麗で掃除が行き届いているでもあらゆる装飾が時代に取り残された様に見える、洋服を着ている俺と両親が異物に感じる。
家政婦さんは襖を開ける、そこは客間。
「ここでお待ちください、すぐ当主様がお見えになります。」




