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蛇峰院 暁の場合:02「絡み合う、解けないほどに」

俺たち家族は客間で座って待つ。

高そうな長机に高そうな座椅子、極めつけに障子の向こうの窓に広がる庭。

管理が行き届いたその庭はどこかの観光地かと思うほどに綺麗だった。

あまりにも自分とは住む世界が違いすぎて萎縮しソワソワと落ち着かない。

「父さん!母さん!聞いてない!俺こんなの聞いてない!」

「安心しない、父さんも面食らってる」

もはや何も安心などできない返答、むしろ不安が加速する。


「失礼します」

襖の外から声が聞こえる、声色から先ほどの家政婦さんとわかる。

開かれる襖、現れたのは家政婦さんではなく

夫婦であろう和装の男女に加えて同じく和装の女の子…蛇峰院 暁が入室、長い黒髪、切長の赤い瞳その赤い瞳と目が合う、視線が外せない…いや魅了され囚われている。

「──さつしなさい!宗十郎!」


母さんの一言にハッと意識が戻り気づけば相手の両親、女の子は着席していた。

「あ、あぁ、酒榮宗十郎です、本日はよろしくお願いします。」

咄嗟のことに簡素な自己紹介しか出なかった、目の前の女の子…蛇峰院 暁は俺の様子を見てクスリと微笑んだ、細い目が妖しく見つめてくる、それから両親たちは少し話し合う。

すると、席を立ち──

「しばらく若い二人で…」

蛇峰院の父がそう言って4人が襖に向かう。

待て…待て待て待て!!どこに行く!?若い二人がなんだって言うんだ!


俺はどこも行かないでくれと懇願する様に両親を見るも無慈悲に退室、襖が静かに閉まる。

会って数分で蛇峰院 暁と二人きりになっってしまった。

「久しぶりやなぁ…宗十郎さん」

「あ、あぁそうだな」

「私が許嫁なんて驚いたやろ?」

「寝耳に水だった、てか嫌じゃないのかよ?」

「なんでそう思うん?」

「そりゃあ、この婚約は両親が決めたんだろ?

しかも過去に一回だけしか会った事のない俺となんて…」


確かに俺は彼女を助けはしたがそれだけだ

そこから彼女に好かれる様な事はしていない…まず会うのも2度目だ。

「ほんまにそうやろかなぁ?」

暁さんは立ち上がり俺の隣に座った。

急な出来事に驚き距離をとろうとしてしまうが

手を握られて動くに動けなくなってしまう。

「ちょ、な!?」

彼女の体温を感じる、異性にこんな積極的にされたのは初めての事で動揺する。


「私が宗十郎さんがいいってゆうたんやで?

私が、望んだんや」

暁さんのセリフに俺は固まってしまう。

協調される"私"に他の可能性が全て潰される。

そんな混乱の最中彼女は俺の心を畳み掛けるように彼女が抱きき寄りかかってきた。

さらに耳元で囁く。

「なぁ…私じゃあかんか?」


蠱惑的な誘い…まるで、まるで蛇の様に喰らい付いたら決して離さない俺は彼女の行動に、声に、抗えない。

耳元から顔を離し見つめる暁さん。

赤い瞳が俺を見据える、捕食者の瞳。

縦長の黒目…赤い瞳…飼っている白蛇のハクを思い出す、今そんな状況でない事はわかっているがどうしても頭によぎる。


「なぁ…ええやろ?」

子供がおねだりをする風な無邪気さを感じる

状況は真逆なのに…それぐらい心底嬉しいのだろうか、複雑な気分になる。

いつの間にか顔の顔の距離が近い。

呼吸があたるほどの距離、このままじゃ─

咄嗟に顔の間に手を挟み唇が重なるのを阻止。

「ま、まだ、その、早い…といいますか…」

「…ふぅん、"まだ"かぁ」

イタズラな笑みを浮かべる、しくった…というよりどう転んでも彼女が得する様になっている

唯一、彼女が損をする展開は心の底から拒否をされる事だろう。


「楽しみにしとくわぁ」

俺は…彼女を拒否することが出来ない。

正直な所、気になり始めている。

彼女とそういう仲になる事に期待している自分がいる…こんな面食いだったかなぁ、俺。

「もう少しこんままでええ?」

甘える様な猫撫で声の彼女、寄りかかったまま

上目遣いで俺を見つめる。

「あ、あぁ」


思わず承諾してしまう

本音を言えば心臓が持たない、さっきからいい匂いがする!色々柔らかい!

脆い理性を容赦なく攻撃され続けられる、生殺し状態、そんな永遠に感じる時間が終わる。

静かに俺から離れて対面に座る暁さん。

彼女はにこやかで無邪気な笑顔、またそんな一面にドギマギする。

「ありがとうなぁ私うれしいわ」

「?」


「だって好きな人が婚約を継続してくれるんやで?」

「ん、まぁ…そっか…」

臆面もなくストレートに好意をぶつけてくる

俺はそれを受け止めるのに精一杯。

「なぁ…その、なんでそこまで──」

「そんなん、あん時からの一目惚れに決まっとるやん」

彼女は力強く断言をした、それほど…彼女の中では大事で強烈な思い出。


「わかった…そのさ、今すぐに答えは出せないけど…真剣に考えて返事する…します。」

「んふふ、ええよええよ宗十郎さんは絶対に私を好きにさせたるからこれからよろしくな」

彼女から堕とす宣言をされる。

さっきから彼女に押されっぱなしだ、でも悪くない。


「まぁ、でもその前に話とかなアカンことがあんねん」

先ほどの雰囲気から一転して真剣な顔

なにか…重要な事を今から聞かないといけない

その緊張は俺にも伝播する。

「…おかしいとおもうやろけどな、私の家は代々蛇神の家系でなそうゆう力があるんや」

「ち、力?」

急な事におうむ返しに言葉を返してしまう

スピリチュアルな話だろうか?それとも神社とかの神主とか?


「見てもらったほうが早いなぁ、出ておいで」

彼女が俺に手を差し出すがそれは俺にではない…今までフードあたりで大人しくしていたハクが動き始めてフードから姿を見せる、そして彼女の手に触れ両手に収まる。

「あ!いや、これは!ご、ごめん!」

「ええよ、だってこの子…私の眷属やもん」

ハクは大人しくとぐろを巻いていた、赤い目が俺を見つめる。

その光景に驚きつつも力とやらが事実であるかもしれないと驚く、彼女はさらに言葉を続けた。


「宗十郎さんはいつからか蛇に好かれるやろ?」

「どうして…それをっ」

「だって私のせいやもん、それ」

「どういう…」

「私が宗十郎さんのこと好きやからや…詳しくゆうとな、あの助けてもろた時に無意識かつ未熟な私は加護を与えてしもたんや」

ハクを撫でながらどこか悲しそうな顔を見せた、俺に対して悪い事をしたと思ったいるんだろう。


「もしかして…いままで会わなかった理由も?」

「そうや、きちんと力を制御出来るまで会われへんかったんや」

会わなかったのはそういう事か…彼女の力は疑いようがない事実。

「そうなんだ…まぁ、そのさ俺は加護?を貰って別に嫌な思いはしてない…よ?」

「…この子を通してある程度、宗十郎さんの事を知っていたとしても?」


かなり…衝撃的な事を言っている、ハクを通して俺の私生活を覗かれていた。

普通なら嫌悪感を抱く所だろう、彼女もそれがわかっているから初めに話すのを躊躇っていた、でも…俺には不思議と嫌悪感はない。

良くはないだろうが彼女は嫌われるのを、罵られるのを覚悟の上で告白した。


「…そう、なんだ。」

「………ッ」

今までの態度や言葉は彼女の強がり、ここで拒絶されるとわかっての行動。

しかし、俺は──

「まぁ、今後はその…見るのを辞めてさ電話でもしてくれたらいいかな。」

「…えっ?」

彼女は予想外の返答に唖然としていた


「ほんまに…ええんか?」

「あぁ…驚きしたけどね」

「ありがとう…うれしいわぁ!」

目に涙を溜めた彼女は泣き笑いの顔でガバっと俺に再び抱きついてくる。

抱きしめ返していいものか悩んで手があたふた

と空中で遊んでしまう…情けない事に肩に手を置く。


その後は落ち着いた彼女が俺から離れる時を見計らったように両親が客間に入ってきた。

どうやら俺の両親も別室で蛇峰院家の説明を受けていたみたいだ、色々と刺激が強かったのか父さんは心ここにあらずの様子。

暁さんの父親からの提案もあって今日はもう遅いために夕食をご馳走になり部屋を用意して貰った。


──翌日。

蛇峰院家の方に感謝して俺たちは車に乗り込み出発した、最後に暁さんの姿が見えなかったのは残念。

行きとは違い俺は助手席に乗る、流れる景色を見ながら昨日の出来事に思いを馳せる。

「色々と衝撃だったな」

「そうやんなぁ〜」

……おかしいな後ろから暁さんの声が聞こえてくる、もしやと思い後ろの後部座席を確認

母さんの隣に座っているのは──


「あ、暁さん!?なんで!?」

当然の様に暁さんが座っていた…その顔は悪戯が成功した子供みたいな笑顔を浮かべていた、俺は父さんに車を止めて貰おうにもかなり進んでいる。

どうにもできない状況に理解が追いつかず視線だけが右往左往して混乱を極める。

なに!?どうなってんの!?なに!?

俺の混乱をよそにどんどん蛇峰院家から遠ざかってゆく、説明もないまま後戻りできる距離が遠ざかっていく。

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