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7 寝る気のない夢

 夢を見た。

 俺がまだ一桁だった時の、いつかの話だ。



 森の中を彷徨って数年の月日が流れた頃、今日も食い物を食べようとねぐらの洞窟から姿を見せた少年は体を巡る不思議な力、後に魔力と呼ばれる力を掌に集中させる。

「【 出ろ 】」

 短い言葉に反応した魔力は粒子へと姿を変え、短剣へとまた姿を変えた。

「......」

 数年前森に流れ着き偶然発現したものだ。それから今までの数年かなり重宝している力で刃物だけでなくただの棒や家具にもなれる。一見便利に見える力ではあるのだが何故か自分の手から離した途端消えるため椅子などは作るだけ無駄である。それでも戦いの際には剣を回収せずとも新しいのを用意できるためやはり便利さが勝る。

 今日もしっかり使える事が確認できた少年は森の中へ姿を消す。

 地面を蹴り枝を掴み枝の上へ足を着かせる。安定してきたら向かいの枝へ跳び移る。

「UGiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!」

 まだ移動を始めて一分も経っていないというのに少年の気配を察知した動物(まもの)が木の陰から姿を現した。

「【 出ろ 】」

 何もないところから刃の長い剣を生み出した少年は人間のような見た目をした毛むじゃらをひと刺して一蹴する。

「お前まずい」

 渋い顔をして動物(まもの)を刃物ごと落としまた別の枝へ跳び移る。

 獲物を探して数時間が経過した。狩りはだいたい昼過ぎに終わりいつもならもう帰っている頃なのだが今日は獲物が一向に見つからなかった。見つかったとしてもまずい奴ばかりだ。

 このまま狩りを続行しても見つかるかどうか不安に思っていた時である。

「GUOOOOOOOOOOOOOO!!」

 遠くから聞いたことのない鳴き声が突風と共に森全体に響き渡った。

「!?」

 風に揺らされた枝を踏み外した少年は落下する体を翻し何事もなく着地し鳴き声のした方へ顔を向ける。

「......なんだったんだ?今の」

 少年は熟考した後、危険でも狩りに行こうと決めた。

 少年は強い力を放つ存在の元へ走り出し期待を高める。美味いのか?不味いのか?それとも強いのか?

「美味けりゃなんだっていいか」

 十数分ほど走り少年はようやく強い存在の主をその目に収めた。

 陽に照らされ煌々と赤く輝いた鱗、頭に生やした王冠のような巨大な角は魔物の王に相応しい存在感を示していた。

 赤竜(ドラゴン)だ。

「.......」

 見た事もない動物(まもの)を前に少年は言葉を失う。

 自分の何倍も大きい体を支える骨と筋肉、その巨体から溢れる魔力が少年の頬を撫でる。

 あの巨体でも耐えられる筋肉か。絶対に美味い。

 森の中から現れた少年を見るや否や唸り声を出し敵意と殺意を混ぜたヒリヒリとする視線。全身が身震いを起こし、だが自分は固く拳を握り締めて赤竜と視線を交わした。

「美味そうだ......!」

 少年の言葉を皮切りに赤竜が右前足を大きく振り上げ少年を踏み潰そうとする。

 ダアァン!と大きな音と砂埃が大きく広がり辺りの景色を遮る。

「......」

 足には何の感触もなく恐らく躱されたのだろうと考えた赤竜。首を動かし探そうとするが舞い上がった土煙で何も見えず、煩わしいと少し苛立った様子を見せた赤竜は鬱陶しいものを振り払うかのように大きな翼を広げ羽ばたかせた。

 するとすぐさま景色が晴れ赤竜は先程まで目の前にいた獲物を改めて探す。

 だがどこにもいない。逃げたかと思った矢先、自分の側から声が聞こえた。

「死ね!」

 左目に突如映り込んだ銀色の剣が赤竜の目を潰す。

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 血しぶきを全身で浴びた少年は痛みを逃すように暴れ回る赤竜から一度離れる。

 手から離れた剣は消えたものの未だ痛みに苦しむ赤竜はもう片方の目で少年を捉える。

「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 絶対に殺すとでも言いたげな声色だ。全身を震え上がらせる咆哮からまだ戦意を失っていないと伝わる。

 咆哮の直後、赤竜の口が少年に向き口内に凄まじい量の魔力が溜め込まれていく。

「力が口の中に?なんだあれ......?」

 疑問に思うもすぐに身が竦み上がる感覚に襲われる。

 あれは死ぬと直感が言った。

 だが何故だろう。体は恐れを覚えているのに自分は倒したあと保存はどうしようと先の事を考えている。

 少年は獰猛な笑みを浮かべて赤竜を注視する。夥しい量の魔力が赤竜の口内に収束しその奥には小さな魔法陣が浮かべられていた。少年は「あの丸いのが何かやっているのか?」と何となく思った。

「力ってのはそうやって使うのか......」

 俺も同じことをすればできるのだろうか......?

 あの動物(まもの)の真似をして口を開け口内に不思議な力(まりょく)を込めてみるが、粒子が集まるだけであのように纏まらず丸いのも出てこなかった。

 少年がそんな事をしていると赤竜の溜めた魔力が物質化し口からマグマのような液体が数滴地面へ垂れる。

 ドロッとした質感の液が地面へ触れると焼ける音と同時に地面がその形を崩し溶けて消える様を目にする。

「絶対熱いな......」

 呟き後ろへ下がろうとした時、練り上げられた強い魔力の余波で少年の体が浮き後ろへ吹き飛んでいき「あ、」と小さく言葉が漏れる。体が言う事を聞かない空中で何とか地面からはみ出た木の根っこを掴む。

「あまり......動けないな......」

 慎重に体を起こした少年は地面を踏み締め赤竜の攻撃を迎え撃つために準備を始める。

「【 出ろ 】、あぁいや......ただの(かべ)じゃ無理か......」

 未だとどまる所を知らないあの強大な力に匹敵するなにか、少年が思考する間にも赤竜の攻撃はもう完成間近だ。

「いたっ」

 対抗するために色々と思案していると突然腕に痛みが走る。まだ赤竜は動いていないのに何だ?と疑問に思いつつ腕へ視線を向ければ皮膚がボロボロに爛れて火傷を負っていた。

 辺りを見渡せば周辺の温度や熱風などで陽炎が立ち景色を歪ませていた。この環境はもう人の体では生きれないと幼いながら理解する。

 突風が吹き荒れ少年の体に触れる熱風が体を蝕む中、それでも少年は気にせず考える事を止めなかった。

「ない......ないのか......?」

 出ろと言えば現れる不思議な力。何もないところから刃物を生み出せるこの力なら俺とあいつの間に分厚い壁を創れるか......普通に溶かされそうだ。

 少年が思考に耽る時の中、突如それは起きた。

「【 力の前に 何も出来ず蹂躙される無力な者よ———」

 口が勝手と動き全身を巡る不思議な力も勝手に体を巡り魔法陣を組み始める。

 は......?なんで、え?声が出ない......!?

「———破壊され 消えてゆく今を 未来を嘆く汝が謳う———」

 待て......!誰だよ......!

 少年の疑問も戸惑いも、まるで何も感じていない様子の自分の体に若干恐怖を覚える。自分と体が切り離されたような、そんな状態に陥るも自分の口は言葉を紡ぎ続ける。

 魔法陣に魔力を流し魔力に反応した魔法陣が少年の体と重なるように移動を始めると、徐々に体の中へ侵入していく。

 体の中に知らない円形の魔法陣(なにか)が入っていく光景を抵抗できないまま見ていた少年は頭に?を浮かべ内心で「死んだか?」とかなり焦る。

 次第に魔法陣が完全に少年の体の中へ取り込まれる。案外何も違和感は感じないなと思った矢先、自分の左半身から先程と同じ魔法陣の形が浮かび上がり光を放った。

「———破滅を前に 絶望が見えたのなら この身に残る一筋の希望(ひかり)を 汝に与えん 】———な、何なんだ!へ?」

 勝手に動き知らない言葉を発する自分の口を右手で押さえ驚いた直後、体も動かせるようになった事にも驚きと安心を覚える。

 が、安心したのも束の間だった。視界の下で光る何かに気が逸れ視線を落とす。

「......なんだこれ......?」

 少年の怪訝な視線が左手へ注がれる。

 光の正体が掌から生えた剣の柄なのだから当たり前の反応である。

「......色々と分からないが、今は......」

 口を大きく開けた赤竜と視線が合う。

「お前だよな」

 迷わず少年は左手から現れた柄を握り締め引き抜いた。

 溢れ出る青黒い魔力を散らして現れたのは、青黒い魔力が剣身と化している直剣(ロングソード)だった。

「......?」

 何故こんな物が手から?と疑問に思う。

 あぁいや、また気が逸れたな。

「......」

「......」

 お互いに準備は出来たらしい。律儀に俺が待っていたからなのか赤竜も俺の準備を暫く眺めていた。

「じゃあ......やるか」

 少年が獰猛に笑うとまた赤竜の口角も上がったように見えた。

 少年は赤竜から体の正面を隠すように体を横にして、腰を少し落としたら剣先を後ろに向けて構える。

 重心を前にゆっくりと倒す。

「【 集え 】」

 また口が勝手に動いた。知らない言葉を何でこう続けて言えるのか......。

 思考する頭とは裏腹に足の筋肉を魔力で硬質化し耐久度と筋力の上がった体で地面を蹴る。


 ———刹那だ


「!?」

 突如、目の前に現れた少年に目開く赤竜。だがやることに変わりはない。限界まで溜め込んだ【熱光線(ブレス)】を小さき者にお見舞いするだけだ。

 照準が少年に合わさり【熱光線(ブレス)】が解き放られ、少年もまた握り締める剣を大きく振るった。

 青黒い閃光と赤い軌道が重なり爆発音にも似た轟音と暴風が周辺に広がる。

「いっ!?———」

 轟音が少年の鼓膜を壊し、赤い魔力の波動が少年の強化された体を焼き溶かしていく。

 辺りに散る【熱光線(ブレス)】の余波でさえ森の木々を一瞬で消し炭している。体の強化を優先していなければこうやって感想を言っている時間もできなかっただろう。

 激しい痛みを訴える体を無視して少年は考える。

 剣に魔力を集中させれば体が熱で溶かされ、身体の強化に回せばたちまち剣は壊れ【熱光線(ブレス)】で俺は形も残らず消えてしまう。

「......」

 だが良いではないかと思考する中で思った。

 どちらに転んでも死ぬ、このまま耐え続けても徐々に熱が体を焦がす。なら良いじゃないか。どうせ死ぬのならせめてこの【熱光線(ブレス)】だけは死んでも打ち消してやる。

「【 集え 重なる想いが 勝利を齎さん 】!」

 またも口が動いた。

 少年の内包する魔力全てが剣身に集い剣身が大きく伸びた。

 剣身はみるみる内に【熱光線(ブレス)】を押し返し、やがて剣先が赤竜の首元を撫でた。

「痛っ!?———」

 攻撃が通じた喜びよりも先に強化を失った体が【熱光線(ブレス)】の余波で焼かれる痛みに意識が向く。体の外だけはなく中も熱く息をしているだけで喉と肺がズキン!と痛むがお構いなしに腕に力を加える。

「絶対殺す!死んでも殺すッ!」

 一際大きく膨れ上がった魔力が青黒く輝く剣身を更に伸ばし赤竜の首に食い込ませた。

「死にやがれええええええええええええええええええ!!!」

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 鱗を砕き、強靭な筋肉を断ち斬った青黒い閃光が振り抜かれる。

「くく、ははっ......」

 目の前で宙を舞う赤竜の視線が乾いた笑いを零す俺の視線と交わる。


『楽しかった』


 何故かそう言っているように見えたがすぐに視線が外れ赤竜の首が俺の足元に落ちる。


 ———戦場に静けさが訪れる。


 静けさと共に訪れた虚無感に意識を支配された少年は、痛む肺を押さえようと腕を動かそうとする。が、体どころか指先さえ動かすことが叶わず脱力した体を支え切れない膝が折れた。

 結果は共倒れか.......。

 暗い視界の中、僅かに伝わる振動が耳に伝わるが何の音かは分からなかった。そういえば鼓膜がやられていたと最後に思考し少年は意識を完全に失った。

「駄目だこりゃ。魔力管が完全にやられて駄々洩れ。神経ごと焼かれちゃってるね」

「おい!おい起きてくれ!くそ!ヴィクトリア頼む!こいつもう限界だ!」

「分かっていますから黙ってください」

 意識を失った少年の傍に三人の冒険者パーティーが駆け付けているのを空から目にして、アフィリアは現実へ戻って来た。




 ◇◇◇




「......ん~......クソ眠......」

 カーテンの隙間から差し込まれた光が瞼の上を照らし意識が覚め始める。

 ......まるで寝た気がしない。

 寝汗の感触が気持ち悪いと感じつつ重い体を起こす。

「......懐かしいな」

 カナンたちと初めて会った日の事だ。それと俺の持っていた不思議な力、まぁ魔力の事だな。それが初めて開花した日でもある。

 あれ以降全く発現しないから正直もう忘れかけてた。

 にしても久しぶりに見たなあの【武器作製】みたいな魔法。たしかヴィクトリアから絶対人前でやるなと言われてからこれも全然使わなくなった。

「【 出ろ 】」

 久しぶりに短剣をイメージして唱えてみる。

 すると魔力の粒子が集まり特に装飾などは施されていない簡易的な短剣が生み出される。

 原理は自分の魔力とそこら辺に漂っている魔力をただこねたような物らしい。因みにこの魔法が使えるのは俺以外にもう1人今代の栄皇(えいおう)のカナが使える。

「ちゃんとできるな」

 短剣を適当に投げ手放すと過去と同じように短剣は魔力の粒子となり一瞬で消え失せた。

 形を維持できていたのは触れている俺から魔力を吸収し続けているためであるため、手を離すとこのとおりだ。

「あ、買い出しか」

 懐かしむ時間があるなら買う物買ってからでも良いかとベッドから立ち上がり支度を始める。

 えぇっと、適当に服を何着か買う。あと......。

 〈よく分かんないの〉


【霊剣召喚】・・・詠唱【力の前に何も出来ず蹂躙される無力な者よ。破壊され消えてゆく今を、未来を嘆く汝が謳う。破滅を前に絶望が見えたのなら、この身に残る一筋の希望(ひかり)を汝に与えん】

 

 詳細・・・直剣(ロングソード)の中ではやや小ぶりな剣(剣身90cmほど)。青黒い魔力は霊剣が内包する黒色の魔力がアフィリア少年の青い魔力と同期した際に混じり合った魔力の色。

 発動条件にはかなり厳しい制限が設けられているため未だ解明に至らずアフィリアの記憶から薄れていた。(当時から8歳から11年ほど経過)



 赤竜・・・主な生息地は自らの特性と相性の良い(赤竜の場合は火山地帯など)地域に生息し、滅多な事がない限り住処から出る事はない。

 アフィリア少年の住んでいた森に来た理由は、どこかの冒険者パーティーが討伐依頼で生活圏に侵入し返り討ちにしたものの苛立ちは収まらず鬱陶しい人間を根絶やしにしようとしていたため。

 

 備考

 竜種は知能が高く、歳を重ね経験を積んだ竜は最終的に人類の言語を理解し本能や欲望を抑えれる理性も備えられる。

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