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6 第一回 ルーナ・マジ・ブッコロースの会


 ヴィクトリア邸 円卓(ダイニング)の間(物置からもってきた木製丸テーブルを添えて)


 その日の夜、フェナーデル皇国が誇る四皇帝の内聖皇(ヴィクトリア)剣皇(カナン)が集まりさらに遊撃部隊部隊長(アフィリア)までもが今回の召集に応え丸テーブルを囲んでいた。議題はもちろん。

「賠償金180憶をどう返すか......書記のアフィリア、話のおさらいを」

「発端は魔皇(クズ)ことルーナ・マジ・ブッコロースが戦術魔導歩兵と戦闘をした事がきっかけだな。熱光線で破壊された街に追い打ちとばかりに魔法で更地にしたらしい」

「あ......あの女ぁ......殺す......殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

「ヴィクトリアが壊れちまった」

「いつもだろ」

 頬を掠めた拳は見て見ぬふりをしてアフィリアは話を続ける。

「......まぁそれで早急に解決しなけりゃ俺たちの金が7年も一つの街に吸われる事になるってのが事のあらましだな」

「7ッ!?おいおいじゃあポーカーは!」

「ポーカーだけじゃない。賭ける物がなけりゃ賭け事はできないだろ」

「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 ここ最近で一番悔しがってんじゃん。

 椅子から後ろへ飛び出したカナンは床に頭からダイブして、直後に身を捩り叫び散らかす。

 挙動がキモい。

「なんでだああああああああああああああああああああああ!!なんでなんだよおおおおおおおおおおおおお!!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「お前らは借金の話をする度におかしくなる決まりでもあるのか?」

「貴方新作は買えました?」

 ドンッ!バリッ!......(丸テーブルがかち割れる音)

「...........................すぅ...........................はぁ.................................いや、落ち着け......今はあのルーナ(ばかタレ)を探す暇なんてないんだ」

 僅かに残っていたアフィリアの理性が湧き上がる殺気を沈めて考え直す時間をくれる。

「とにかく今は金だ。それがなきゃ俺たちのストレスがどこにぶつけられるか」

「物か人かの二択ですね」

「そうだな。カナン、戻ってこい」

 ヘッドバンキングをしながら叫び散らかすカナンに呼び掛けると、案外耳は正常に働いていたらしくすぐにその奇行を止めた。

「......金、金か。......そうだな。オレちょっと遺跡でも行ってくる」

「ちょっと待て」

 お前に宝を引き当てる豪運があるんだったら苦労せんよ。

「俺もそれは考えたがあまり効率が良いとは思えない。それに遺跡探索は俺たちのする事じゃないだろ」

 遺跡は初心者の冒険者が潜る場所だ。遺跡に潜る奴は大抵一攫千金狙いであるが、それと同時に魔力で満ちたあの空間は絶え間なく魔物を生み出す事で戦闘初心者の絶好の狩場兼訓練場になっている。

「私たちが彼らの邪魔をするのはあまりよろしくない......いえ、単純に見栄えが悪いって事でしょうか」

「どっちもだな。基本的に四皇帝(おまえら)がどこかへ出向くことは好ましくない。遺跡探索なんて金がないですと言ってるようなもんだ」

「調査って体で行きゃあ良いだろ」

「......確かに」

「それだとその遺跡に何かあると噂が広まって人が集まってきますよ」

「......確かに」

 お前らのネームバリューがここにきて邪魔している。どうしたものか。こいつらの運用で返済速度がバク上がりするから下手な使い方はしたくないんだが。

「......そういえば、ルークに頼んでいたあれはどうなりました?」

 唐突に話を変えたヴィクトリアの質問に何となく他国へ行く件かと質問の意図を察する。

「明日には出来上がってるみたいだ」

「ずいぶんと話が早いですね」

「身内がやった愚行だ。弟として思うところしかないだろ」

「え?オレは置いてけぼりか?」

 そういえばこの話はまだヴィクトリアにしか言っていなかった事に今気が付く。

「あぁすまん。俺ちょっと他国まで出稼ぎに行ってくる」

「え?急じゃん」

「言ってなかったから」

 マジの置いてけぼりじゃんと言って「良いなぁー海外!オレは仕事のオンパレードなんだが!」と皮肉を言って来たので「頑張れ」とだけ返しておいた。

「まぁ俺もキャリアはリセットされるんだけどな」

「そう言う割にはあまり躊躇いなどは感じられませんでしたが?」

「俺の部隊長って用意というか、無理矢理捩じ込まれた物だし。それにリセットと言っても一時的な話だ」

「オレも!海外!行きたい!」

 ヴィクトリアと話しているとさっきまで叫んでいたカナンが俺の耳元まで寄ってきて叫びだす。うるさいから止めてほしい。

「この返済が終わったらルーナ(クソゴミ)の奢りで豪遊でもしよう」

 誤魔化しながらカナンを押し出し席に着かせる。

「そうしましょう」

「そうしよう!」

 同僚の扱いがつくづく悪いアフィリアたちはそれからも話を続けてそれぞれの行動指針が決まった。

「オレはとにかく強い奴をぶっ殺す」

「私はこれまで以上に団体活動に重きを置いた行動を」

「で、俺は行き先の国にいる反社から根こそぎ奪い取る」

 これで行こう。

「......あんまいつもと変わんねぇな」

 特に俺とカナン。

「まぁ確かにそうだな」

「私はやっと本腰を入れてやりたいことができるので、特に思う事はありませんよ」

 改めてカナンはとにかく魔物を狩る。ヴィクトリアはこれまで細々とやっていた商売に力を入れる。俺はさっき言ったとおり、言葉通りやる。以上。

「ヴィクトリア、この話って栄皇(カナ)にはしたのか?」

 気になって聞いてみると首を横に振るヴィクトリア。

「言う訳ないでしょう。あの子に心配事なんてさせたくありません」

「良かった。俺もそう思ってたところだ」

「あぁ確かに。カナにこの話はちょっとなぁ~......」

 カナに嫌われる想像でもしたのかカナンが「ああやめてくれ!そんな顔しないでくれ!」と妄想のカナ相手に泣き叫んでいたのは見なかった事にしておく。

「あ、ちょっと萎えた」

「貴方も想像してしまいましたか」

 カナが借金を抱え込んだ俺たちを見て悲しがる様子は......何でだろう、胸がすげぇ痛くなる。

「絶対悟らせないようにしよう。異議言った奴ぶっとばす」

「「賛成に一票」」

 胸を押さえる俺たちであったが、どんな状態もふざけられるだけの元気はあるようだ。




 ヴィクトリア邸を後にしたアフィリアは月明りで見にくい時計塔の針へ目を凝らし時間を確かめる。

「22時。寝るには早ぇなー」

 暴れに行く気分でもないし、んー......。

「この時間開いてる店......ないか」

 本屋は閉まってるし、っていうか使う金がねぇ。

 取り敢えず歩きながら考えようと城下町へ下りて行き、街頭がぽつぽつと並ぶ道路を進む。

 深夜と言って差し支えないこの時間ではやはり昼間の賑やかな雰囲気は欠片もなく、目に見える通行人は片手で数えられるほどしかいない。

「ん?」

 突然視界の端で黒い影のような物が動いたように感じ顔がそれとなくそちらの方へ向く。

 方角的にスラム方面の路地裏か。

 スラム、別名『裏皇国』と呼ばれる皇国の影とも言える街。カナンがいつも借りてくる金も大抵裏組織からなので俺たちにとってもスラム街は勝手知ったる庭のようなものだ。

 昔から反社の金を半ば強奪しているせいか、最近カナン含む俺たちはあっちから手を出される事はおろか見向きもされなくなった。

 歩んでいた足が止まり何となく視線を進行方向の道路へ戻すと店が次々と看板を下ろしていた。まるで統率の取れた工事現場の撤収風景のようだ。

「......影か」

 直近で純粋魔力(ユア・マギ)とかいうバケモノを相手したせいか妙に影が気になる。

「様子だけでも見ておくか」

 アフィリアは路地裏の方へ体を向けさっきの影を追い掛けようと地面を蹴る。

 目の前の家屋の屋根に飛び乗りスラム方面の景色を遠目で眺めるが特にこれと言った違和感のようなものは感じられなかった。

「......あの馬鹿みたいな魔力は感じない。ただの人間だったか」

 まぁそうだよな。あんなのが街を彷徨いてたら世も末だ。

「まぁついでだ。ちょっと金でも貰いに行くか」

 ぶつぶつと呟き不敵に笑ったアフィリアの姿が屋根から消える。アフィリアが姿を消して一分も経たない内にスラムのとある一角から悲鳴が上がった。

「おいそこのお前!何ノコノコ歩いてんだ!ここがどこの島か分かっ———ぎゃあああああああ!!!?でたあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「おい何逃げt———ヒッ!?」

 見張りをしていた筈の人間が俺を見るなり武器を捨ててその場から走り去って行った。さっき言った見向きもしないというのはこう言う事だ。全員戦う意志すら見せない。まぁ今は金が欲しいだけだから無視だな。

「さっきの悲鳴はなn———」

 次に姿を見せた奴も俺を視界に捉えたと同時にストンと腰が抜けたように尻餅を着いた。

「な、なn......なんであんたがこ、ここに......」

 いや、案外話せる。

「金だ」

「か、かね......?」

 まるで意図を理解できていない様子のこいつ。いやそこまで考えるようなものでもない。ただの強奪なのだから。

「まぁ立て」

「え......?」

 手首を掴み立ち上がらせるとまるで事態を把握できていないのか、気の抜けた声を漏らす。

「金だ。金をよこせ」

「......金さえ渡せば良いのか?」

「それ以外今は興味ない」

 何故か信じられないといった表情をされた。

「それで、金は?」

 握り拳を作り賊にその手を見せつけると短く悲鳴を上げ「やるから!金はやる!」と従順に従うようになった。

 賊の案内で金庫まで歩て行く。道すがらすれ違う賊たちはやはり一斉に退散していき俺は特に手を出す事もなくこの組織の支配人の部屋まで着いた。

「て、テメェ裏切ったな!」

「しょうがないだろ!俺たちじゃどうしようもないんだよ!死にたきゃ勝手にお前だけ死ね!」

 金庫の前まで歩み寄る俺は後ろで繰り広げられている裏切り現場を無視して、固く閉ざされた金庫のドアに拳をぶつける。

 耳を劈く衝撃音が辺りに響きそれに伴う威力でもあったため衝撃と風で埃が舞い視界が遮られる。

「魔鉱石製だぞ......」

「だから言っただろ。俺たちじゃ端から何もできねんだよ」

 次第に埃が舞い散る視界も晴れ徐々にキラキラと光る金庫の中が見えてきた。

「おい、詰める物はないか?」

「は、はひ!おい今すぐ持ってこい!」

 十秒にも満たない間に頭陀袋(ずだぶくろ)を持ってくる賊から袋を貰い受け、早速有り金を袋に詰めて行く。

「「......」」

 後ろで「本当に無事で済むんだよな?」「知らねぇよ」と会話をする2人がやはり怪訝な視線を俺に向けて来る。だから金にしか興味ないんだって。

 空間いっぱいにあった金が袋に吸われるように消える様子を固唾を飲んで見守る2人に俺はぱんぱんに詰まった二つの袋を持ちながら向き直る。

「「!?」」

 俺の行動一つ一つに反応する2人を無視して「んじゃ帰る」とだけ伝えその場から立ち去る。

 大量だ。大量だよ。くっそ、ほんと借金さえ無けりゃ好きに使えたものを......。

 後ろから微かに聞こえた「た、助かった......!」「悔い改めるか......」と言った声を置いて俺は建物から離れた。




   ◇◇◇




 『放浪の旅路』

 ~あらすじ~

  昔々、平和に暮らしていた人々の暮らしに陰を堕とした〈絶望〉という災厄が現れた。災厄の魔の手は一国に留まるどころか世界を混沌に陥れ破壊の限りを尽くした。

  人々は願う。神に乞うた「あぁ神よ。何故我らに試練をお与えになるのでしょうか。あぁ神よ。どうか我らに救いの手を」

  天に祈る人々の願いを返す言葉はなかった。曇天に隠れた太陽は一切の光も許すことなく祈りを捧げる人々を嘲る。


       絶望の淵が見えた


  真っ暗な光景に何かも奪われた人々はそれでも立ち上がった。徒党を組んだ。剣を握り締めて顔を上げた。

  そして、挫けぬ人々の思い 戦う勇気が 一筋の〈希望〉を生んだ。



 暗い部屋の中、ランタンが灯る空間に影がぽつんと一つ落ちていた。

「〈希望〉の正義は絆で、〈絶望〉の正義もまた絆」

 アフィリアが本の最初の一ページに書かれたあらすじを読んで内容を思い出す。

「形も、その結論に至った過程も違う正義が......立場一つで違く見える」

 この本は俺にとっての教科書であり、思想そのものでもあり、大切な、そう......パーティーメンバー(あいつら)からもらった本である。

 幼子でも撫でるかのように本に触れる手でそっと本を閉じる。

「この部屋の掃除もヴィクトリアに頼んでおこう」

 本を机の上に置いてあるラックに仕舞い椅子の背もたれに体重を預ける。

「......」

 暗い、静かな空間に身を委ねるように瞼を閉じる。

 この国から離れる事になり少しばかり思う所でもあったのか、珍しく落ち着かない自分に自制を利かせる。

「ふぅ......」

 明日は遠出に必要な物の買い出しだ。もう寝よう。

 これ以上起きていても心が乱れるだけだと判断し床に就く。

「......」

 昔の事を思い出しすぎたか。

 寝つくまで暫く掛かるも次第にアフィリアの脳が限界だと訴えるように急に眠気が全身を襲う。特に抵抗する理由もなくアフィリアは素直に寝息を立て就寝した。


 〈科目:生物学〉


 少し特殊でして......まぁ言って理解するかは分かりませんが一応説明しましょう。正確には魔力を持たない者が魔物を倒すと瓦解するだけで魔力を持った一部の人間が倒したら一定の時間内は残るんですよ。

「......おかしいだろ(あまりに都合が良い)」

 分かってますよ。でも私は科学者ではありません。説明は出来ますがそれ以上の事は分からないんです。今分かっている事があるとすれば、魔物が保有していた魔力の行き先がすぐそばに居る魔力の持つ存在に移るという事だけです。でも何故体が崩れないかは本当に分からないんです。どうしても知りたかったら私ではなく他の誰かに聞いてください。

「拗ねるな」

 うるさいです。


 補足


 魔力=経験値 生まれつき魔力を持った存在はLv1の状態と思えば分かりやすい。


 じゃあなんで魔力を持った存在の前にしか魔物の素材が残らないのか。

 それは霧散するだけの魔力が新しい拠り所に入るためには宿主の魔力と同じ性質へ変質させてるため。でも少し時間が掛かるから魔物の体が崩れる時間もその分伸びる。

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