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ゆがプリ! 〜目指すしかない、ノーマルエンド!〜  作者: みちはずれ
3.白雪 白詰 編
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4.貴女様は立派なヒロインです



 胡桃の一言は牽制にはならず、女子どもの怒りを増幅させる一方だった。

 無視はまだいい。元々白雪や灰司以外のクラスメイトとは話すこともなかったし、不便さも感じなかった。それよりもわかりやすい嫌がらせの方がよっぽどキツい。


 死ね、男たらし、ヤリマン、消えろ。朝、登校してすぐにそれは目についた。机に書かれた白マジックに、ひかりは愕然とする。いじめと認めるや他ない。いわれのない悪意の塊にひかりは朝から吐き気を催した。これは油性だろうか。どうしよう、机の横に鞄をかけて、ひかりは掃除用具箱から雑巾を取り出した。


「!! ひかり、これなに!?」

「おはよう、シロちゃん。何か私嫌われてるみたい」

 冗談じみて言うつもりはなかったが、自然とそうなってしまう。白雪は鞄を自分の席に置いて、自らも雑巾を取り出し手伝ってくれた。

「前に靴もなくなったって言ってたよね? 心当たりは?」

「ないこともないけど……」

「……あいつ?」


 神妙な面持ちをした白雪が示したのは恐らくうららのことだろう。ひかりは頷く。すると、悔しそうに白雪のタオルを擦る力が強くなった。


「ごめん」

「まだ分かんないし、シロちゃんのせいじゃないよ」

「私のせいだよ」

「いやちが……」

「私のせいなの!」


 白雪の怒声が教室内に響く。まだ朝早い時間で良かった。それ以上ひかりはなにも言えず、ひたすらに濡れた雑巾でテーブルを擦った。


 白雪は後期に入ってから、風紀委員になった。比嘉に宣言した通り、彼は恐怖政治を取り仕切るつもりらしい。まだ一年生の白雪に怯える先輩もいるという噂が立っているのだから、それはきっと上手くいっているのだろう。その代わり、ひかりといる時間がめっきり少なくなってしまい、良いタイミングだと隙を突かれたのだとひかりは思った。


「私、もう少しひかりと一緒にいるよ。それかアイツに直接……」

「それはいいよ。シロちゃん、風紀委員忙しいんでしょ? 直接も言わなくていい、私なんとかするし」

 やはり、除光液などが必要だろうか。保健室で消毒用のエタノールを借りてこようとひかりが手を止めれば、ちょうど教室の扉を開いたうららと視線が交わった。


「おはよう、白詰様、ひかりちゃん。……ってなにこれ、どうしたの!?」


 瞳を見開いて、驚きを露わにするうらら。一瞬でも信じてしまいそうになる演技力に、ひかりは拍手を送りたくなった。だって、彼女が直接手を下しているところなんて見たことがない。

 けれど、その喜びを我慢しきれない口角の震えはいただけない。ひかりは自分の胸の奥がすうと冷えるのが分かれば、うららの態度に怒った白雪の手を咄嗟に握った。


「誰かに恨まれてるみたい……でも大丈夫。私にはシロちゃんがいるもんね?」

「ひかり……」

 うららを蚊帳の外にすれば、ひかりは満足だったのだが白雪には今の言葉が思ったより効いたようで、麗しの白肌が赤く色づいていた。勘弁してくれ。ハートの器をそれ以上満たさないで欲しい。


「へえ、でも私もついているから……いつでも頼ってね? ひかりちゃん」


 悲しそうに瞳を潤わすうららにひかりは負けじと悲劇のヒロインぶる。白雪の手はしっかりと握ったままだ。


「うららちゃん、ありがとう。男たらしとかヤリマンなんて本当に知性のない人間が思いつきそうな言葉だよね、恥ずかしいし可哀想……」

「そうだね、気にしないでいいよ。ひかりの良いところを知ってる人は知ってるし、私がいる」


 ぎゅっと白雪の手がひかりの手を力強く握る。完全に二人の世界だ。白雪はひかりしか見ていない。それでいい、それでいいのだ。いつの間にかうららは何も言わずに教室から去っていった。


「シロちゃん、保健室にエタノール借りに行きたいからついて来てくれる?」

「もちろん」


 にこりと微笑む白雪にひかりも自然と笑顔になった。

 人に何かをしてもらうのはもちろん楽で良いが、今回ばかりは頼ってばかりはいられない。

 傷つけるのなら、自分で傷つけたい。

 他の人間が何をしても、ひかりはスッキリしないのだから。



 ***



『ただいま帰りました』

(お、おかえり! ほんと寂しかったよ!)


 家の風呂場で汚れた上履きを洗っている最中に、ナナコは突然戻ってきた。最近はナナコが突然話しかけてきてもびっくりしなくなった。もはや日常ともいっていいそれに懐かしい気持ちになり、ひかりは感動を覚えた。


『上履き、見つかったのですね』

(うん、花壇に突っ込まれてた)

『申し訳ありません、嫌な思いをさせて……』

(今更すぎない?)

『確かにそうですね、そうでした』


 いや、開き直られてもムカつくな。ひかりはナナコの態度にムッとしつつ、上履きに染み込んでしまった土の色を必死にスポンジで擦った。

 ひかりの上履きは、中庭の花壇の土の中で見つかった。いつも手入れをしている用務員さんが見つけたらしい。ビニールに包まれた上履きを嫌そうに渡してくる担任は、最初から最後までいじめと言う言葉を発さず、いざという時にこいつを頼ることは出来ないなとひかりは諦めた。


(で? 西園うららはなんだったの?)

『バグでしょう、と片付けられました』

(はあ!? こんな被害に遭ってるのにバグで片付けられても!)

『元々、西園うららは白雪白詰のストーリーに出てくる脇役でした。憎悪や嫉妬心など持たないモブ役、それが何かに引っかかって……』

(えええ……じゃあ、やっぱりいじめを取り仕切ってるのは……)

『十中八九、彼女でしょうね。しかも攻略対象が関わってくるとイベント扱いされるので、スキップもあまり出来ない状況で……』


 申し訳なさそうなナナコは、かなり人間的に近づいてきてる気がする。彼女もゲームのナビゲーターでしかない。ひかりは取り敢えず彼女に怒りをぶつけるのはやめにした。結局ひかりはナナコに甘い。


(別にいいよ、なんとか頑張る)

『私もこれからはすぐに応対しますので、声にできない愚痴など全て投げかけてくだされば、少しはスッキリするかと』

(それより一緒に解決策考えてよ)

『解決策ですか? それなら白雪白詰から離れたらいかがでしょう?』


 ナナコの手はひかりも考えた。泡だらけになった上履きをシャワーで流しながら、ひかりは小さく唸る。


(それは負けたみたいで嫌)

『誰にも負けてませんよ?』

(負けてる! 西園うららを傷つけなきゃ気が済まない!)

『あらあら』


 呆れてるやら、笑ってるやら。ナナコの声はひかりを躍起にさせる。そして、ナナコはこう続けた。


『貴女がゆがプリのヒロインである理由がよくわかりました』


 ナナコは満足そうだが、ひかりはあまり嬉しくない。泡がなくなった上履きは土色ではなくなったものの、真っ白には程遠かった。



 

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