8月12日 夏祭り 1
8月12日
【トウヤ☆:夏祭り、いかね?】
そうメッセージが来たのは、夏祭りの一日前。ひかりが憂と同じテーブルで、宿題を必死に捌いている途中のことだった。
「夏祭り?」
「え、なに?」
ひかりがスマホを眺めて呟いた言葉に、憂が顔を上げる。百合原のメッセージに既読をつけて、ひかりはスマホの画面を憂に見せてやった。憂は目を細め画面を見ると、すぐに理解した様子で宿題へと視線を戻した。
「明日の花火大会の事じゃない? 行っておいでよ」
「ええ〜、ういちゃん一緒に行こうよ」
「やだよ。友達と行くもん」
「え!? 小学生だけで!?」
ついひかりが大きな声を出してしまうと、憂は煩わしそうに上目にひかりを睨んだ。
「ちゃんと先生が見回りしてるし、ちゃんと遅くなるまでには帰るよ」
「ういちゃん、すごくいい子だね……」
「わざわざ悪い事するメリットなんてないもん」
「そういうところ好き……」
「うるさい」
はい、とひかりは従順に閉口する。憂はひかりのラブコールをまともに相手にしない。まともに相手されても逆に困るが、ちょっと寂しい気持ちもあった。
しみじみとそう思いながら、ひかりはスマホの画面に再び視線を戻す。憂の安全面のためにも行って損はないだろう。
【ひかり:いいよ】
【トウヤ☆:じゃあ6時ごろ迎え行くわ!】
【ひかり:おっけ。一応来る前連絡して】
【トウヤ☆:わかった!】
【トウヤ☆:あと棗もいるぞ!】
【ひかり:はい?】
***
焼きそば、たこ焼き、イカ焼き。
りんご飴、チョコバナナ、かき氷。
神社の鳥居をくぐり、提灯輝く階段を登った先には沢山の屋台がずらりと並んでいる。ひかりはその光景に柄にもなく心が躍った。
「わあ……さすがにテンション上がるね」
「お前マジで来たことねーの? ここいらじゃ有名な祭りだぜ?」
「ないなぁ」
「友達がいなかったんだろうなぁ」
神妙な顔でそう言い放つ百合原に、ひかりの拳はデリカシー無し男の肩を小突く。腹が立ったので、結構強めにやってやった。
「いっで! 本当のことだろうが!」
「今のは橙也が悪いよ」
百合原の隣から灰司が顔をひょこり覗かせ、ひかりの行為に同調する。にっこりと笑う灰司の顔にひかりも笑い返すが、やはり違和感があった。ひかり、百合原、灰司。なんだこのトリオ。明らかに自分が邪魔だろうとひかりは思った。しかし誘った本人はけろりとしていて、特に何も気にしていないようだった。
「どこから行くよ。俺、射的行きたい!」
「焼きそば」
「りんご飴」
百合原の意気揚々とした提案にほぼ同時のタイミングで、灰司とひかりの声が重なった。驚いた人たらしの瞳とひかりの瞳がぱちりとかち合い、ついひかりは笑ってしまう。
「ふは、みんなバラバラだね」
「お前ら腹減ってんの?」
呆れた百合原の声に灰司ははにかんだ。
「お腹は減ってないけど、並んでるりんご飴見たら食べたくなっちゃって」
「じゃあ……まだまだ時間あるから全部並ぼうぜ! 金魚すくいもしてえし、スーパーボールすくいもしたい!」
「小学生じゃん」
「うるせーよ!」
そう揶揄われながらも、結局百合原の提案通りに三人は動く事になった。ひかりは焼きそばとイカ焼きで腹を満たし、灰司はりんご飴やチョコバナナに喜び、百合原はお遊びに勤しむ。今は懸命にスーパーボールすくいをやっている。子供たちと一緒に並ぶ百合原の背中から、その懸命さが伝わってきて微笑ましい。
「なんかまぜてもらっちゃって悪いね」
ひかりは百合原の後ろに立ってスーパーボールすくいの様子を眺めつつ、控えめに灰司にそう伝える。すると、灰司は二個目のりんご飴を歯でしゃくりと噛んで少し考えた後、王子スマイルで首を横に振った。
「全然悪くないよ。橙也の友達なんでしょ、相良さん」
「うん、まあ……」
「なんか橙也のびのびしてるし、僕も楽しいし気にしなくていいよ」
「……灰司くんってちょっと変だね?」
「え?」
ぽしゃんっ。
「ああ!! でっかいボール欲しかったのにぃい……」
ぽっかりと紙をなくしたポイを掲げ、おおげさに百合原が嘆く。カップの中には色とりどりのスーパーボール。まだほしいのかよとひかりは鼻で笑った。
「そんなにいらなくない?」
「いるんだよ! 後はあのキラキラのデカいやつがあれば完璧だったのに!」
「にーちゃん、せんすがないよ」
子供のように悲しむ百合原の隣にいた一人の小さな男の子がそう言うと、平然と百合原のお目当てのボールをすくい上げた。ドヤ顔もしない。彼のカップの中には更に山のようにボールがつみ上がっていた。




