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ゆがプリ! 〜目指すしかない、ノーマルエンド!〜  作者: みちはずれ
2.百合原 橙也 編
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15.あらあら、



「……なんで宝とお前が?」


 百合原を探る警戒心の塊のような比嘉の声。それは相手を威圧しているようで、何かに怯えている声だった。


「へ? いやそれは知り合いで……」

「なんか聞いてんのか?」

「いやお父さん同士が仲良いとかしか聞いてないっすけど、というかそういう話じゃなくて!」

「そういう話じゃなかったらなんだよ!? テメーがわざわざ俺を呼び出す意味がわかんねえ!」


 辺りに響く大声で怒鳴る比嘉が、百合原の胸ぐらを掴み距離を詰める。百合原はその圧に押され、恐怖で首を竦めていた。こりゃあダメだとひかりは思ったが、意外にも百合原はめげず立ち向かう。


「俺、こういうイジメとか脅しとかもう嫌っす! つるむだけで楽しいですし、やめませんか!?」


 震えた情けない鳴き声。なんて弱々しい。けれど、比嘉は百合原がこうも躍起になって返してくるとは思っていなかったらしい。掴んでいた胸ぐらを乱暴に離し突き飛ばす。百合原はべしゃりと尻もちをついた。


「はあ……そんな事で呼ばれたのかよ。バーカ、俺らがやってるのはイジメじゃねーって。あれはあいつらが自己防衛を怠るから、分からせてやってんだよ」


 百合原の切実な願いを鼻で笑い飛ばす比嘉。子供をあやすような説明口調は完全に百合原を見下している。比嘉の大きく分厚い手が、百合原の小さな頭を包んだ。


「……おっかないね、昌也くん」

「清々しいほどのクズですね」


 百合原は劣勢でしかなかった。ひかりと胡桃は話し合いで解決は無理だろうと、ほぼ諦め状態であった。それでも百合原は諦めない。比嘉を見上げながらも、悔しげに公園の土に爪を立てている。


「べ、別に分からせなくてもいいと思います。金を取り上げたり、パシリをさせることが自己防衛なんておかしいっすよ!」

「どうしたんだよ橙也、なんかあったのか? 俺、結構お前のこと気に入ってたのによ。いつの間に俺に意見が出来る様になったんだ?」


 百合原の頭に比嘉の指が沈む。みしり、と頭蓋骨が軋んだ音が聞こえそうだ。百合原の表情が苦しげに歪む。


「っ、ず、っとおかしいと思ってたんです! けど、俺は弱ぇから……っ、先輩の言うこと聞くしかできなくて……!」

「じゃあそのままでいいじゃねえか。そもそも弱いから悪ぃんだろ? 嫌なことも嫌って言えねえあいつらが悪い」


 話し合いをやめろ。やめろ、やめろ! ひかりは心の中で必死に叫ぶ。この数分でも充分わかる。比嘉は悪人だ。話し合いもできない暴力的な悪人。

 しかし、圧倒的に劣勢の百合原と比嘉の言い分に耐えれず飛び出そうとしたひかりを、胡桃の手が制す。胡桃は人差し指を自身の唇に当て、黙って見てろとジェスチャーを示した。


「みんながみんな、同じ強さを持ってるわけじゃねーし、強くなるのに時間がかかる奴だっています! 先輩はそんな奴らの邪魔しかしてないし、それに気づけてないのはクソダサいっすよ!」


 もう後半はほぼ涙声だった。ひかりは必死に抗う百合原を見て目頭がカッと熱くなる。どこまで純粋で馬鹿正直なんだろう。とてもじゃないがひかりには理解できない。でもそんな所に惹かれたのだ。凡人で弱いことを認め、自分の否を真っ向から受け止める姿はあまりにも眩しい。「百合原くん見てるとしんどいよ」と言う胡桃の呟きにひかりも頷く。


「あ゛あ……? お前さぁ、自分がこれからどうなるか分かってんだよな? お前、今日からマジで生きてけねえぞ?」


 百合原の叫びは比嘉の逆鱗に見事に触れる。争いは同じレベルの者同士でしか発生しない。見下している百合原の言葉に苛立っている彼はとっても滑稽に見えた。百合原は比嘉にやられたように鼻で笑い飛ばした。


「……っう、んだよそのダセー台詞! バーカ、やってみろよ! 馬鹿な俺に口で勝てねえから暴力に走んだろ!? お前はマジでかわいそうだよ、恐怖でしか人が寄ってこねえ、権力にしがみつ……っう゛っぶ!?」


 ――バキッ! 

 百合原の頬を比嘉の拳が打つ。倒れた百合原の腹をすかさず太く逞しい足が蹴り上げる。比嘉が唸るように何かを叫んでいるが、それは言葉を成していなかった。ひかりと胡桃は慌てて茂みから抜け出す。急いで百合原の元へ走り出そうとしたが、突然びゅうっと吹くひんやりとした風が二人の足を止めた。


「ちょっと」


 冷淡な声が二人を呼び止める。しかし、頭に血が上った比嘉は止まらない。スカートをひらひらとはためかせながら、彼女は一方的な暴力現場に臆さず歩みを進める。


「ねえってば」


 美しいおみ足を振り上げて、彼女のローファーが比嘉の背中を蹴った。かなり乱暴に。汚いものを扱うかのように。


「っ!? ふざけんなよ゛! 誰に対して……?」


 よろけて振り返る比嘉が目を見張った。彼女は公園をひと通り見渡した後、ボロボロの百合原を見下ろしてこう問いかけた。


「ひかりは?」


 白雪は普段と変わりなく冷静に問いかけている。

 どうしてこうなるの。ひかりは自分の肩を抱いて、不運体質をとことん呪った。



 

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