企業歴028/07/11 イーオー内付属病院
女が目を閉じている。世界で一番愛した女が。
その体には至る所に包帯が巻かれており、エジプトのミイラのようだった。忘れることのできない美貌も、肌も、もう目にすることはできない。
過労が原因の交通事故だった。集中力が維持できず、運転操作をミスしてスリップ。そのまま建物へ突入した。
「ユーコ・・・」
思わず縋り着きたくなるのを必死で抑える。いつ死んでもおかしくない大怪我人に大の男が触れば、ひどいことになってしまうかもしれない。それだけはだめだ。ユーコにとどめを刺すような真似はしたくない。
だがどうすればいい。医者は首を横に振った。それはつまり、どうにもならないということじゃないのか。
「ユーコ・・・」
点滴や輸血のチューブが周囲をめぐり、白いベッドは僅かなシワを見せる。消毒液のツンとした臭いが、愛する人の香りをかき消していた。心拍数を示すモニターに反射した己の顔は、ひどく憔悴して見えた。
胸が張り裂けそうだ。死なないでくれ。叫びたい気持ちに駆られても、それはやってはいけない。安静にさせなければいけない。
「ユーコ・・・っ!」
「リージョン?」
「ああっ・・・!?」
返事に驚く。目を覚ましたのか。
それはいけない。会話をさせて興奮したら、本当に命に関わる。
「まだ眠っているんだユーコ。怪我に響いてしまう」
諭すように、静かに言う。落ち着いて話せば、聞いてくれるはず。
「いいえリージョン、聞いて欲しいの」
だが、ユーコは強く返した。自分の意見を押し通すのを宣言するように。
「私がいなくなっても、落ち着いて、あなたの想いを貫いて。たくさんの人のために何かをして見せて、そうでしょう?」
「それは・・・それは若い頃の夢さ、今は・・・」
「これは、私の最後のお願いなの」
最後のお願い。意味深な響きに、思わず押し黙ってしまう。
それはまるで、もうすぐ死に逝く者の台詞だった。
必死の形相になったリージョンに、ユーコはゆったり話を続ける。
「あなたに、英雄になって、欲しいの。たくさんの人を助ける・・・みんなの英雄に」
「ユーコ?どうしたんだ、ユーコ?」
先ほどまで問題なく話していたのに、今になって言葉を途切れさせたり、息切れが起こったりしている。
彼女の体に異変が起きている。
気付いた時にはもう遅かった。
「そばにいてくれてありがとう、リージョン・・・ごめんね」
声が弱々しくなっていった。耳をすませなければ声が聞こえないほどに、ユーコが激しく衰弱している。
「ユーコ、ユーコっ!」
モニターに表示される脈拍数が段々と下がっていく。リージョンは、それがゼロになった時に起きる結末を知っていた。
一段下がり、また一段下がり、そして、ゼロへ。
「ユーコ!!」
かくり。ユーコの体から、力が抜けた。
魂も共に無くなったかのように。




