企業歴034/1/18 ケインの部屋
「くあー・・・まだ積もってやがるよ」
朝。黒い肌を窓に押し当て、男は嫌な顔をした。
「雪、なかなか溶けないわね」
その後ろで、半裸の女が欠伸をする。鏡代わりの窓からそれを眺めつつ、男はため息をついた。
片手で一二三と数えつつぼやく。
「丸二日降り続けて、道路が復帰するのに一日・・・。つったのにこれじゃ車も出せねえや」
「ケイン・・・」
唐突に女が背中に腕を回してくる。ケインと呼ばれた男はそれを拒まず、二人は二回ずつ、相手にフレンチキスをした。
密着した肌の間に熱がこもる。昂りすぎる前に、二人は離れた。
「どうした?ミランダ」
「この調子だと、今日は仕事はなさそうね」
茶髪を掻き上げてミランダと呼ばれた女は呟いた。本日の道路は出勤日和にはよくない。二人でゆっくりしようと続けるつもりだった。
そうだな、と生返事を返そうとして、ケインは充電中のナーヴィスのランプが点灯していることに気付く。通知音を鬱陶しがりマナーモードを切らなかったため、気付くのが遅れたらしい。
「おぉっと・・・なんだ?」
画面を起動して最新のメッセージを確認し、ケインは真っ黒な顔を真っ青に染めた。
「緊急出動だぁ!?交通状況わかってんのか本社の連中はよォ!!」
絡みついてきたミランダにどいてもらい、ケインはクローゼットを開いた。ゴソゴソと服を引っ張り長ズボンやら長靴やらを掴む。
慌ただしく着替える恋人にミランダは呆れた笑顔を向ける。
「文句は言うけど、行くには行くのね。あなたらしいわ」
「なんか言ったか?」
「いいえ」
革コートのチャックを上げて玄関へ向かうケインをミランダは見送った。一体何でこんなタイミングに、と毒づきつつも、スタスタと歩いて行く。
仕事と企業に忠実なのだ、彼は。ミランダはそれを知っている。ケインの同僚たちもそれを知っている。
ケイン自身はそれに自覚がない。ミランダはそんなケインが危なっかしく思えて、この関係に身を委ねた。
「生き残れる?」
ミランダは茶髪をを揺らして聞いた。振り向いてケインは答える。
「頑張ればな」
ドアを開けて出て行くケイン。寒い寒いと呟いて階段を駆け下りて行く。
ウォーボットのパイロットである彼氏ミランダは呆れた笑顔で見送った。




