コント・陰謀論
王族会議の続いて一族会議もとい家族会議である。参加者はアカメ十五世・カツテ・クレナイ・テツ・サビ。
議題は「後継者落選したテツの今後をどうするか?」であるがその当の本人はその議題のタイトルにご不満なご様子。
「これじゃまるで当選間違いなしだと僕が自信満々だったみたいじゃないか。僕は全然期待してなくて、期待していたのは兄さんじゃないのさ」
文句を言うテツにサビは嘆息する。
「そうだがなぁ……まさか後継者がテツではなかったのがなぁ」
なおもがっかりするサビを見てテツは苦笑い。
「兄さんったら夢見過ぎだよ。まさか十四年前に死んだことになっている僕を指名とか、あり得るわけないじゃないか」
そのまさかがありえたんだよと目立たぬように息を殺しながら着席しているアカメは心の中で思った。
「夢ではなく現実的だったんだがな。俺としてはかなりテツが有力候補だった。あの三年の空白期間もテツがちょうど十四歳になったら王位継承権を得られるからそれが目的だとな」
ドンピシャな御明察。ああ、有力どころかトップで単独指名だったよとアカメはサビを見ないようにして心中にて思う。
「ふふっ兄さんはロマンチストだね。もっと現実を見ないとさ。そうやって理想だけ見ていたら現実を見誤るよ」
見誤っているのはお前の方だよテツ……あまりサビを刺激するな、とアカメはこの奇妙な会話に口を堅く閉ざして耐えている。
「そうは言うがな、俺としてはあの二人の関係を思い出すとテツ以外考えられないんだ。あの長年にも渡る捜索命令もそうだし何よりもあの人が忘れるはずがないと。
忘れるはずもなく、諦めることもないのに指名なしとは……これは誰か余計なことをしてテツの使命を阻止したと考えざるを得ないかもしれない」
お前はどうしてそんなに全てを見通しているんだ! こいつ……ヤバいだろ。やはり全てを見通して俺を監視しているかもしれない、いや、それはさっき妄想だと認識したがそれでもこいつは怪しい! とアカメはまた陰謀論に片足を突っ込むが微動だにしない。
あらゆる動きがこいつへの合図となりそうだからだ。悟られたらこの復讐鬼になにをされるかわかったものではない。
「そんな陰謀論を……兄さんったら良くないよ。自分の都合の悪い出来事が起こったら誰かの仕業と思うだなんて。
不都合は全部敵の仕業だ陰謀だなんて危ない思考方法だよ。それなら僕を王にしたくないから陰謀を発動させたとかどこの誰なの?」
俺だよ、俺……全部が全部俺の仕業なんだよなぁ……もうやめてくれとアカメは心の中で叫んだ。
誤解している方が正解している方を責めている構造とか正視に耐えられない。
なんだか自分の良心や正義感が汚されているようで嫌だ。そうなったのは自分のせいなんだけどそんなことも言えるわけがない。
まるで二人がそういうコントをやって自分を責めたてているようにも感じてしまう。
それにしても、とアカメはいま気づいてしまった。そういえば俺、陰謀を企んでしかも成功させたな、と。まったく以て自覚していなかった。
別によーしこれから陰謀をいっちょやってみるか! といった気合いとかあいつらを騙してやるぜといった意識ではなく、ヤバいヤバいこうしないと自分の未来が危ない! といった意識の方が強かったなと。
陰謀ってこう、すごく頭の良い人たちが年月をかけて繰り広げる知的な営みだと思っていたのだが、俺ってそうじゃないよね、と。
俺って偏差値45ぐらいの農業高校にやっとこさ入ってさ、指定校推薦とかで大金を積んで私大の経済学部に箔をつけるためだけに入学する生粋の実家の太いすねかじりエリート未来の地元の名士兼地方議員に過ぎないし、こんなのが陰謀を企ててみんなの運命を曲げることなんか出来ると誰が思うのであろうか?
ところがどっこい、これがまた出来ちゃったんだな。国の行く末にも影響与えちゃったし、すんごく頭の良いテツとサビを騙しているし。
別に俺は妻のことしか考えていなかったのに不思議な話だ。そう考えると世の中の陰謀も国をどうにかしてやるとか世界の運命を変えるとかではなく、ただ単に目の前のことを上手い具合に処理したかったとか、家族のことを思ってとか下手したら馬鹿が無思考になんとなくやったことが結果的に世界を変えてしまったになるのかもしれない。
もしもこのあと俺の陰謀がバレてしまったとしたら、動機は妻を上京させたくなかったとか早く妻の元に帰りたかったとか、この二点だけだが誰も信じてくれないだろうな。
きっとその背後には大きな力が働いていてその力の意思によってそうなったに違いないってさ。
俺の背後にはカツテしかいないのだが、まさかカツテがこんな逆指示を出すはずがないのだから論理が破綻している。
つまり疑う前提がおかしいのだよ、そこに気づかないと真実に辿り着けない。なるほどとアカメはセルフ納得し腑に落ちる。
ひょっとして世の中の陰謀論とはそんなに大したものからは始まってはいないだろうなぁ~と。複雑に大げさに考えるからかえって見えにくくなるのかもしれない。
捜そうにも上ばかり見て下は見ないから真実に辿り着けはしないはず。それにもしも後世で俺の行いがバレたら、恐るべき陰謀家として過大評価されそうだなぁ~と、だけどそれはきっと死後になるから俺の身は大丈夫なはずだ……こうしてアカメは思考による現実逃避を始めるが会議は続いていく。
別にアカメの意見など誰も求めないし聞いてもいないのだから問題なかった。
このアカメの述懐とは無関係にテツとサビの会話は続いている。
「そもそも十四年前の人のことをいつまでも忘れらないとか無いんじゃないの?」
「いや、俺は忘れていない……あっ」
うん? とテツはサビの語尾の驚きの意味が分からずに首を傾げるとクレナイが手を挙げた。
「もう終わったことに関する無駄なお喋りは終わりでいいかな? いくら言い合ってもテツ君が王位指名から外れた事実は覆せないから次の策へと移ろう。
その前に確認をするね。サビがずっと推していたテツ君が王位指名を受けて一族で上京する計画はこれで消滅した。
それはかつてサビの伯母が王妃指名を受けての上京計画の再演を狙ってのことであり、アカメ一族総出で行けば身の安全も確保でき最も成功の確率が高いということであったが、これが無くなったことで次の策へと移ります、サビ、良いかな?」
クレナイの問いにサビは頷く。その憤懣やるかたなく納得できない様子の首肯にテツは呆れる。
兄さんらしくもない態度だ。本当に自分のロマンにすがって現実が見えていないなぁ、と。
勉強していないからこうなるんだ。己の間違いを訂正しにくいのは不勉強の証明みたいなもの。
そこらへんは僕が気を付けて間違いを正さないとならないだろうな、とテツはこのことを心に刻んだ。
「次策は第二王子である次男のインとの合流となります。インには四人の娘がいるけれど息子は一人もいない、ここがポイントです」
クレナイは胸の痛みを堪えながら顔色を変えず声を震わせずにそう言った。それが出来る、出来るのだ、だからこそこの場にいられる。
次回「インの家の婿に入るとこんなに有利だという説明回。ただしそれは……」




