世界に正義があるのならどうか二人を滅ぼし、そして俺に許しを与えてくれ
会議後にアカメの評判はすこぶる高まった。まさかあんな地方にあのような人物がいるとは野に遺賢ありといったところか、と。
王に指名されたジンの側からは賛美されるのは当然だがインの側からも不満はあるものの評価はされた。
自分とは無関係なジン王の名前をあげるとはな、あそこでトン王子の名前を挙げたら場は紛糾して面倒になっていた。いわば第三者という中立的立場からの裁定であったのだ。文句の声もあるが他に手があったか?
ジン王が強引に自分が王になると言い出し抵抗するもそれが通ってしまったら……これが恐ろしくてイン側はあの場では緊張していたのだ。
今回の代理ということならまだこちらにも可能性がある、といった妥協で合意ができた。
そしてジンが勝ってもアカメにとって実益は無いというのに、あれだけのことをしてくれた結果、彼は敬意という無形かつ貴重な資産を得ることが出来た。
それにしてもあの男がいるからボンクラな三男の統治も上手くいっているのだろう、これからも何かがあったら彼の意見を聞くべきであろう。なんたってあの難問を均衡状態にもっていってくれたのだからな。
こうしてアカメは都の政治に参加できる資格を得てこれを利用して中央で未来が開けようとしているものの、彼にとって心からどうでもいいことであった。そんな評価はそこいらの犬に喰わせておけというばかりに、すっかりと都嫌いの権化と化した彼にとってこんなところは一秒でも早くおさらばしたい不浄なる地である。
出ミヤコ記、希望の故郷のエクソダス、急がなきゃ上野発の夜行列車に間に合わないじゃないか。えっ? ジン王からご招待? すみませんちょっとお腹が痛いので帰ります。
こちらとしたらテツを政治的に殺したのだからもうなにもやることありません。テツでなかったらどちらが王になっても構いやしませんでしたから。
さぁ早く家に帰らなくちゃ妻に怒られるんだよ~そのことは自分にとって他の何よりも優先されるものだ。国が亡ぶ? うちが無事なら何の問題もないから大丈夫。まぁこんなところが正直なところである。
この恐るべきマイホーム主義的腐れ家長精神と無私の精神が表裏一体している。老子の説く大欲は無欲に似たりなところかもしれない。
たとえれば世界征服のために環境問題活動に力を注ぐ悪の組織みたいなものだ。居住環境を整え綺麗にし住みやすくするのは当たり前の無欲寄りなものであるものの、地球を我が物と考えるのは大欲だが矛盾が成立している。
「少しはゆっくりとしても良いのではないか?」
トンの言葉にアカメは平身低頭でひたすら謝罪するも、だが揺るがぬ意思で以って大急ぎで帰っていった。
その姿に呆れながらもトンはアカメのあの言動に安堵した。やはりそうであったのかと。つまりアカメが囲っているあの綺麗な男の子はテツではないと証明されたのだ。
何故? だってそうではないか。あの席上でアカメが「実はテツ様が我が家に居りまして……」とか言ってみるがいい。
兄二人の顔はさぞかし見物であっただろうからその可能性を半ば考慮して連れてきたし、国の未来に関わる最重要会議に出席させたのだ。
あの二人はこのあいだ王の遺言を聞いた瞬間さぞかし愉快な絶望顔をしたのだろうと想像するだけで面白いものだ。
それでもこれを覆して自分こそ王になるのだと気を取り直して崩れた表情を取り繕って会議に出たが、なんとテツが生きており自分は王には完全になれない、と二度目の絶望顔を……見たかったのだがな。
そしてそれを絵にして後世に残して語り継がせよう考えていたのに、残念だ。まっその代わりに違う表情も見ることが出来たのが収穫かな。是非ともこれ絵画として残すとするか。
そして、ふむ……繰り返すがやはりあの子はテツではなかったとなった。俺の目に狂いはない。もしもこのためにとっておいたら自らあんなことを言いだすはずもない。
まさか自分から積極的にテツを相変わらず行方不明とするわけがない。俺としてはあいつにもしかしたらの大チャンスを与えたのだ、王の義父となる奇跡の瞬間を。
だが、そうではなかったからこの話はおしまいだ。それにしても、だ。ジン兄が王位に就いた。世間一般的には長男である彼が選ばれたのは順当だろう。
だが内情を知る者の間では次男のイン兄が就くのが穏当となったはずだ。様々な事情があるにせよ、二人を比べたらジン兄はイン兄に劣っている。
本人だってそれを自覚していて二人の関係は兄が弟に従うというスタイルとなっていた。だからこそジン兄は王位には切実に就きたかったはず。そうすれば地位的に弟であるインを支配できるからだ。
さぁこれで安定……するはずがない。力あるものを無理に抑え込むという形は反発を生み均衡が崩れる。母上がいたならイン兄を抑えられただろうが母はもういないことで兄二人による一対一となる。
まぁこんな分析はどうでもいいことだ。
要はもしもことが起こったら俺はどちらに付いたらいいのかということだ。前提としてどちらも俺の敵だ。あの美を手に掛けた時点で俺はどちらの味方もしたくはない。
かといって俺は敵としてあいつらよりも先に滅びるのも違う。とりあえず長生きをしたい、それもあの二人よりもだ。
もしかしたら二人はいつの日にかあの事件の罪深さに気づき後悔しながら死ぬかもしれない。または大罪に対してなんらかの罰が降るかもしれない。それを見たい、そしてそれは許しではなく、確認だ。
世界には正義というものがあるということをだ。果たして美のイデアが滅ぼされたのにそれに対する反応は無いものなのか?
あって然るべきはずだ、美と対する醜があったのだから悪に対する正義もあるはず。
そしてそれを期待できるとしたら……サビによる復讐となるのだろうか?
お前はそのために生きているのか? 存在しているのか? もしそうなら助けを求めるならば手伝ってやる。
その復讐が遂げられたあと、もしかしたら俺はあの美に再び出会えるのかもしれないのだ。無力であった俺への許しが与えられる……
……なんとも人任せな祈りである。こんなことを述懐しながら長い晩年を過ごしているトウに背を向け、駆けているのが未来に向かって全力で生きるアカメである。
何が老後だ何が晩年だと彼は思ってはいないがそう思ったとしても不思議でもなんでもない。急いで帰って妻に会わなければその老後と晩年は悲惨なことになるかもしれないのだ。
なんたってこっちは本人の意思や感情よりも配偶者の意思や感情の方が比重が大きいのだ。
そうやってすぐ人の機嫌に左右されて! いい加減に人の顔色を窺って生きるのはやめなさい! といった声に対してアカメは叫ぶ。
ええぃうるさいそんなこといまさら言われたってもう遅い! そんな段階はとっく通り過ぎて引き返せないのだ、と。
彼はそれ以外の生き方が分からないのだからどうしようもない。これが俺の生きる道だ! カツテの機嫌をとりつつサビの陰謀を止めるのだ。
次回「妻の機嫌とかいうヤハウェ並みの理不尽さに妄想で以て向き合いサビとかいう闇と対峙するアカメの回」




