銀色の陰謀
王子たち一同はみな同じ体験をしていた。
王の声が聞こえた、いや、そんなことないのは分かっているというのに事実、聞えてしまった。あるいはこうかもしれない。王ならこういった、あの偉大なる王ならそう言うに決まっている。
そう言ってこの混乱と危機を救ってくれるはずだ、と。王の遺言のせいで起きたのだからこれはおかしな論理展開であるが、この状況ではそこまで深く考えることはできない。
だからこそジンは立ち上がり、インは座ったままなのだとみながみな納得してしまっている
そうインは……呆然としている。立ち上がれないまでもなにか言い返さなければならないというのに、口が開かない。立ち上がることも声を出すこともできない。呼ばれていないというのに起き出ることはできない。名を呼ばれるまで出ることはできないのだ。
「と、王は言われたと私には思われますが、如何でしょうか皆様」
アカメ本人だけはその場の空気を読めていない。自分が王の声を出したことなど知りもしない。そして王子含め全員が理解していることは、この男は王の声色を用いていないということである。
今日初めて上京した男にそんなことが出来るはずがない。一度も王に会ったことがなく声も聞いたこともないものにそれは出来ない。それに声色ならばすぐに分かる。よって全員は自分の中にいる王の声を聞いてしまったということとなる。そうであるため反論を起こせない、ただ沈黙を答えるのみ。
そんな様子を見たトンは見て微笑んだ。そうかそういう反応をするんだ、面白いな、と。ジン兄さんが立ち上がりイン兄さんが座ったままで全員黙ったまま。
どうやら王の声に聞えたようだが、そういうこともあるのか。自分にはアカメの言葉はそのままの声で聞こえたし、果たしてあの人はそんなこと言うのかな?
テツを見つけ出したものが次の王だとか言いかねないんじゃないか? 女神を殺した兄さん達を王が指名するはずないじゃないか……とか私怨まじりな暴露をふくめたこと言い出したら場が乱れて台無しだからよしておくか。
なら会議をまとめて母上を草葉の陰から喜ばしてやるか、これはせめてものはなむけということでトンが立ち上がった。
「いまのアカメの意見に俺は同意する。ジン兄さんはテツ王子の代理としての王に就任するのが良いだろうね。それでイン兄さんは代理王のサポートという体制で良いんじゃないのか?
テツ王子がもしも見つかってから譲位するとしたら、王位継承指名のルールとも王の遺志とも矛盾しないとだろう。母上もいない状態の王の代理の立場として統治して問題がなかったのだからな。イン兄さん、とりあえずこれでいいかな?」
名を呼ばれたインだが身体はまだ動かせられない。おまけにいまのトンの声が母の声とも重なった。
『イン、従いなさい』と。もしもここで母上が存命であったら同じ裁定をするかもしれない。
混乱の極みであるこの後継者指名の場で長男を差し置いて次男にするということをあの人はしないだろう。たとえ自分の方が王に相応しいと考えていても、あの保守的でありかつ王妃としての立場を遵守していたあの人ならそうしたはずだ。まずは場を治めることを最優先する。
それでも反感はあるというか、反感しかなく反対しなければならない。だが身体が動けん。これはまさか王の命令を受けているようで……
「まぁ、そうするしかないか」
インは諦めそう言うと身体が勝手に動いて立ち上がった。そう言わないと立ち上がれなかったようだとインは理解しながらジンの方を見た。
まだ何も言わないのか、と緊張したままのジンを見てインは表情を動かさぬように内心で笑った。あなたは私に怯えている。自分よりも上のものが下になることに怯えていらっしゃる。いまもこの私の声を怖がりながら待っている。
先に声をあげた方が負けという闘犬みたいな戦いではないが、それはあなたなりに賢明で正解であったな。私はあなたが先に声をあげたらすぐさま切り返すつもりでしたからな。
『とりあえず俺が王となって』→『王の御遺志に背くのですか?』
『とりあえずテツを王として』→『なら王座はしばし空白にしてその補佐役として兄上と私のどちらかが……』
こういう具合にいくらでも自分の都合の良い方に持ってこれたというのに思わぬ伏兵が……おのれトンめ、それにアカメとかいう部外者め……まぁいい。もとより分の悪い戦いでもあった。兄上のこのだんまり作戦の付き合っていたら時間の無駄だし、結局は誰かが口を開きそして自分から話さなければならなくなっただろう。
そうなったらいくら自分でもこの私の方が王に相応しいという話には持っていきにくい。相手の力を利用しての一撃が最も効果的というもの。己の力のみの攻撃は中々効きにくいものだ。防御に専念しているものへの攻撃は骨折り損のくたびれ儲けになりがち。そしてこの準備が整っていない段階での内乱は避けたいところ。
アカメの案も代理というのだからこちらは納得するしかないし、トンのまとめも代理の補佐であるのだから反対する理由もないし、とりあえずここを足がかかりにするか。
不満はあるもののこれぐらいで妥協したインは受け入れることとした。妥協と不満、そして微妙な勝利とこれぞ政治のスッキリしないし楽しくない点であろうが、これをしないと内乱であるから大変である。
「兄上が代理となることは同意する」
せめてもの意趣返しとしてインは兄を王とは呼ばないことにした。この弟のメッセージにジンはすぐに気づき睨み付ける。しかし出来るのはそれだけである。それ以上の抗議はできない、そう、真の王にでもならない限りはだ。
「私が兄上と補佐いたします、これからの国家運営を共に力を合わせましょう」
「……ああ、頼んだぞ」
やっと一言口に開いたがその声は重々しくまた苦々しいものであった。強烈な反発心と嫌悪感そして恐怖心といったマイナスの感情がなければ出ない声である。インはその声の感情を理解しており鼻で笑い、それを見ているトンは微笑んだ。これはこの先は一悶着しかないぞ、と。
「では補佐役として一つ提案いたします。兄上がテツ王の代理ということは公表せず伏せることといたしましょう。この経緯を公表することは民に余計な混乱や議論が生じるため避けた方がよろしいかと。なんといってもこれを利用して偽テツ王が国中で湧いたら困るでしょうし。
この指名書の中身は秘密にしたまま、だがもしも万が一テツ王が見つかった場合は譲位と公表、このまとめでこの会議を終了いたしましょう。兄上、よろしいでしょうか?」
「……インのまとめに同意する」
かくしてインは王座に就けなかったものの一つの提案をジンに呑ませた。偽者を警戒してテツの存在を公表しないということである。もちろんジンはそこに警戒心を抱く心の余裕はない。
そうであるからインはここから反逆、クーデターそして陰謀を発動させる。
次回「早くおうちに帰らないと母ちゃんに怒られちまうぜ、とアカメは帰国することで頭がいっぱい、自分がいったい何をしたのかもよく分かっていないし興味がない、だからこそこんなことが出来てしまうのだ、げにおそろしきは自分のことしか考えないもの。どの面下げてこいつはサビと会うというのか? 次回から赤色の陰謀について証人喚問へ」




