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醜と美そして陰謀論、を物語る。  作者: 神谷尚明
第一章 神話となる美と醜の姉妹
12/15

何をしないのかを決めるのも立派な戦略

 

 身体に糞尿といった体液及び汚物が掛かったら臭い、以上。だが致命的である。


 まさかそのようなくっさい状態で王に会うわけにもいくまい。


 でも愛があれば臭くても大丈夫。そのものの固有の臭さはそのものと同一であるから問題はない。


 愛でなんとかカバーできるはずだ。人間はそういう点が凄い。人間は案外に臭いには慣れるものだ。


 だが他人の糞の臭いのするものは愛ではカバーできない。


 だって愛するものとは無関係な奴による不快な臭いのするものとか無理だ。好きな人から知らない他人のものの臭いがするとか、これを正確に「汚された」という。


 違う女の香水の臭いがプンプンする彼氏なんて百年の恋も裸足で逃げ出しても無理もあるまい。男の香水の臭いが鼻につく彼女も同じ。


 幼稚かつ馬鹿馬鹿しいも誠に人間心理を突いた作戦だろう。罠はシンプルかつ原始的な方が強い。そこには根源的なものしかない。


 暴力に訴えてボコボコにしても王に保護を訴え出る可能性もある。殴られたはそこまで「汚された」にならない。怪我はされたがな。


 だが他人の糞まみれになって助けては判断に迷うところ。如何に剛毅な妹も姉がこれではとてもとても、とおめおめと尻尾を巻いて引き返すという選択肢をとる方が高いであろう。


 グフフと王妃は門の覗き穴から近づきつつある姉妹たちが乗っている馬車を見ながらほくそ笑んだ。


 おや? なんで現場にいるの? と思われただろうがそれは見たいからである。


 自分の地位を脅かす新参のただ若いだけが取り柄の田舎の小娘が糞まみれになる姿を。


 いやいや別に見なくていいじゃないの? そんなのをわざわざ見るだなんて。


 こんな疑問を王妃にぶつけてみると彼女はキョトンとするだろう。


 むしろ逆になんで見ないの? と。そういう女である。


 これが小さくて無力な子供の悪戯とかなら大目に見られるかもしれないが大の大人でしかも権力者のやることとなったら話は当然変わる。


 子供の頃のまま無邪気さは大人になると有邪気さとなりよりえぐみのある悪そのものとなる。


 その悪そのものな王妃は覗き穴から姉妹らを見つつ、目標が通路の真ん中の落下地点に入ったら「いまだ!」と声を上げる。


 するとどうだろう屋根からは汚いものが降ってくるわけだ。田舎女の悲鳴があがりそのあと泣きべそをかく赤っ恥からの逃走、そのみっともない様を見て大笑いしたいし子々孫々に至るまで後世に長く伝えるのだ。


 壮大な見世物となるのだ! 自分はそのためにここにいるのだ。


 自分の地位を脅かす巨悪はそんな目に合って当然だし、そうあるべきだ! よって自分のやることは大正義待ったなしなのだ。


 大義名分がつけばこんな下らなく残酷なことも正当化出来るのが人間の恐ろしさであろう。


 こんな汚らしい義挙があってたまるものか。


 王妃はワクワクドキドキしている。さぁ馬車が階段前に止ったぞ。ここからは歩くしかない。


 ほら馬車の御者というべきものが先に降りて……王妃は吹っ飛んだ。


 文章の繋がりがおかしいぞ? と読むほうも書く方も変に思うがそのままである。


 王妃は吹っ飛び地に転がり倒れ不可解さでいっぱいである。


 なんで妾はぶっ飛んだのじゃ? とそれから立ち上がろうとすると、すごい勢いで背が伸びて……ではなく誰かに身体を持ち上げられたのだ。


 すると王妃は子供の頃に父親に高い高いされたなという思い出が甦った。


 もうお父様はずっと前に他界されてしまった。フフッ他界他界ということね。


 などとくだらないことを考えながら下を見ると地獄の獄吏ともいうべき悪鬼羅刹がそこにいた。


 高いのに地獄とはこれ如何に、あっ他界かしら? とか悲鳴を上げる前に現実逃避しだすなか醜い鬼が言った。


「屋根の上が臭いが何を企んでいる?」


 バレていた。説明しよう、顔は悪いが獣のように鼻の利く妹は中門を通過した途端に臭うなと感じ取った。


 二重の意味で察知したのだ糞と悪意のを。


 視力3.0を用いてあたりを見渡すと向うの中門の覗き穴に光が見えた。


 王妃の好奇心による眼差しからの瞳の輝きである。


 そう好奇心は猫を殺すという言葉のようにその意地の悪さが命取りとなった。


 如何に妹の背が高く鼻が利き目が良くても死角となる屋根の上にいるものの姿を見ることはできない。


 耳を澄ませてもあたりからは楽器の音色や生活音と混じって分かりにくい。


 しかし王妃の瞳の輝きははっきりとよく見える。


 あれは罠を仕掛けるものの目の色だと妹は気づき馬車から降りると同時に地を蹴った。


 階段を三段跳びどころか六段も跳び数十メートルの石畳みの道を五歩ほどで翔ぶが如くに駆け抜け、勢いそのままに中門にタックルし開門、結果門に寄りかかっていた王妃は吹っ飛ぶ。


 注視するも王妃の一瞬きの間での隙ありな出来事であった。


 好奇心は策を殺す。


 もしも王妃が覗いていなかったら、もしもあらかじめ汚物を道に撒き散らしていたら罠は成功していたかもしれない。


 汚いのが服の一部分にかかってもアウトだし臭気が身体についても駄目であったのだ。勝利条件は簡単であったのだ。


 物事は余計なことをしないことが肝心なのである。


 戦略とは何をするかよりも何をしないかがより重要になるのと同じことだ。


 目的が新参小娘の参内阻止なら上から狙って落す必要はなく、ましてやその様子を見ることもないのだ。


 目的より手段を重視した結果がこれであり人間が犯しがちな誤りの典型例となろう。


 ムカつく女が恥をかく姿をこの目で是非とも見てみたい! という王妃の幼稚な意地悪さが汚いが上手い策を殺したと言っても過言ではない。


 それはさておき王妃の運命である。彼女は現在両手で首を締めあげられる形のネックハンギングツリー! 奴を高く吊るせ!


 脱出は不可能、まさに絶対絶命だ。


「クセェが、まさか糞ツボを撒き散らそうとしているんじゃないのか?」


 分からないがあてずっぽうで妹が尋ねると王妃は首を振れないが振った。


「そっそんなことはせぬ! 妾は屋根でするのが好きなのじゃ!」


 とかなんとか苦し紛れの答弁。これは本人的にもバレたと思ったからこその語るに落ちる誤魔化しとなる。


 罠というのは掛からなかった後の処理がひと手間でありこのように下手だと見苦しいこととなるこれぞ因果応報。


「やっぱりそうか! やい御糞様。いますぐそれを中止させろ。上にいるものに声をかけろ。5、4」


 待ったそのカウントダウンは何だ? その数字が0になったら妾は絞殺されてしまうのか?


 おっお前そんなことをしたらただでは……あっ

その眼、これから死ぬお前にこちらがどうなるかなんて関係あるの? 


 と言っているな。本当に関係ないな、他人の今後など考えている暇なぞない。


 そうだ妾がとるべきなのは自分の命を助けるための最大限の努力、中止だと大声をあげることだが……声がでない!? 


 この悪鬼に首を絞められて声が出せない。


 おっおい手を離せ!


「3.2.1……」


 いやだ死にたくない! 第一王妃から降るからどうか命だけは助けてくれ!


 脳内で走馬灯が見えだして王妃はその過去の記憶の中からこの状況を脱出する術を捜すも、見えている光景は父親のあの声。高い他界……もうおしまいだ!


「0!」


 王妃は断末魔の声を上げることもできずに……気絶した。


 そして妹は王妃を慎重に床に横たわらせてから大声を上げる。外傷があると厄介だ、そこは親切丁寧にね。


「屋根にいるもの! 中止だ早く下に降りてこい!」


 するとどうだろう屋上から安堵の息が一斉に聞こえた。


 やらずに済んで良かった、と。彼らにとってきつい仕事であった。


 糞ツボを抱えるだけでも不快であるのにその臭いたるや! 


 ツボに蓋をして鼻を覆うもどうしても立ちこめて来る臭気はおぞましいったらありゃしない。


 息を殺していたのはシンプルに出来る限り呼吸をしたくなかったからだ


 おまけに上からかけた後始末の掃除も自分たちがやるのだからたまったものじゃない!


 使用人の身分であるから王妃様の言うことには逆らえないが出来ることなら絶対にやりたくないことであったので彼らは心底ほっとした。


 だからこそ彼らは王妃があのような暴行を受けていてもさして動こうとはしなかった。


 だってこっちはこっちで仕事があるしさ。もしも妾が悪鬼羅刹に暴行されたら助けよ、なんていう命令は受けていない。


 だいたいこんな罠を仕掛ける方が悪い! といった感じで王妃は味方を作ることに失敗し敵をここでも作ってしまっていた。


 アイディアはよかった。よい目の付け所だが運用に失敗した。よくいるアイディアマンのしくじりといったところか。


 そんなこんなで姉妹一行は最後の罠というべきところを突破し王の元へと向かう。


 さて次回はご機嫌な王様と不機嫌な側近たちである。

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