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醜と美そして陰謀論、を物語る。  作者: 神谷尚明
第一章 神話となる美と醜の姉妹
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過去の被害を反芻して自らを苦しめる理由

 

 これに憤慨したのが当然ながら第一王妃であった。


 ぽっと出の地方の田舎娘になんかの下につけるものですか! 私との関係は遊びだっのですか! と王妃は訴えるも王は聞く耳を持たない。


 遊びではなく君とはビジネスだったんだよ。政略結婚なんてそんなものさ。


 君だって僕との関係は仕事だと割り切っていたはずだろ? 


 貴族とは富と名誉を持つがその代わり自由が無いもの。結婚はその最たるもので唯一の仕事みたいなものさ。


 親の言いつけ通りの相手と結婚して子供を作って家を守る、これ。


 お互いに家を守るための道具にすぎないのさ。君はちゃんと王妃としての務めを果たしてくれた。そこは評価するし素晴らしい仕事をしてくれた。


 だけどね、僕はもう真実の愛に生きたいのさ。君だって自由に生き給え。別に表向きは君は第一王妃のままだよ。ただプライベート空間では変えるだけさ。


 それでもイヤ? わがまま言うなら君を故郷に戻すが? 出戻りで良いの? 


 この言い草である。


 もう好きではなくなった女に対する冷徹な態度、この男はそういうタイプであった。


 王は人の心が分からぬではなく、選べる権力のあるものは嫌いな奴を人の心を無視してふることができるということ。


 そんなの酷い! 第一王妃のこの嘆きに対して第二第三王妃は……遠巻きでニヤニヤしながらながめていた。


 本当に嫌な女だと第二第三は第一に対して日々ムカついていた。


 王子三人を産んだということで第一王妃は常々語っていた。


 女の仕事は健康な男を産むことよ、と臆面もなくのたまっていたのだ。姑になったらプレッシャーがすごそうである。


 たまたま運が良かっただけだろうに! と女を一人ずつ産んでいた二人は互いに愚痴り合っていた。


 そうだこの女はずっと負け知らずだったのだ。第一王妃の座に着いてすぐさま待望の長男をそして次男を、ついでに三男と。


 王家にとって文句の付け所もない男三人を産む仕事を全うしそして三人とも特に病気もなく健康に育っている。


 日々鼻高々である。それに比べて二人は……と時たま哀れみの目で見下している、と二人は僻み根性から第一をそういう女だと思っていたのだ。


 そういうところはないとは言わないがそれほどでもない。


 しかし人は事実の上に自分の被害者意識を上乗せするのだ。


 そうすることでこう思える、私はこいつに傷つけられたと。


 一発殴られたが二発は殴っていないという反論に対して「一緒だ!」と被害者意識は叫ぶ。


 言うまでも違う。一発と二発とでは違う。一万円とニ万円ぐらい違う。


 いいやそれこそ違う。何度もその時の痛みを思い出しているから二発どころではない倍々々々と続いて千発だ! 


 毎日毎日私は傷みを思い出して殴られているだという理屈すら動員する。


 自分で自分を殴っといていう台詞がこれ「あいつに殴られた!」である。


 なぜ復讐はあんなにやり過ぎてしまうのか? 


 人は加害を百分の一ほどだと認識し被害は百倍だと認識してしまいがちなのだ。


 これは別に加害者が邪悪なわけでなく加害した記憶なんて憶えていてもしょうがないからに過ぎない。被害者も性格が悪いから根に持つわけでもなく忘れるとまた被害に会う危険があるから忘れられないのだ。


 これで私刑はどうしてあんなに凄惨なものになる理由も分かろう。


 そこまでしなくていいじゃないかと周りが思うなか被害者は悲鳴を上げる。


「私はこれよりもっと苦しかったんだぞ!」


 そうであるからこそ公的機関によるお裁きの場があり第三者の介入が必要なのだ。


 加害者側の裁きでは軽すぎるし被害者側の裁きでは重すぎるので、その真ん中を狙うということだが双方に不満が出ても仕方がない。


 公的機関による裁きである以上は社会的公平性を重視して秩序の回復を優先させなければならないのだ。


 これぐらいの罰で如何ですか? もっと重くしてほしいがまぁ無罪よりかはマシかと被害者は思い、そんな……もっと軽くして、と加害者は思う。


 それはそうと二人のサブ王妃には選択肢がある。第一王妃に協力するか新参王妃の味方になるか。


 もしも第一王妃からなんらかの要請があったら考えてみるという態度からの積極的な協力もするつもりであった。


 新参王妃が若くて生意気な奴な場合は今よりも惨めな思いになるかもしれないし、あの第一が頭を下げてくれたらそれはとても価値のあることなのだ。


 こう考えてみると頭を下げてくれたら喜ぶというのはその人に対して深いコンプレックスがある証拠かもしれない。


 だがしかし第一は頭を下げるどころかいつものようにふんぞり返ってこう告げた。


「あなたたちは邪魔ですから余計なことはしないように」と。


 愚かなことである。


 これで彼女の政治能力の低さも露呈したことだろう。


 味方を作ることは難しいことである。すぐにできることではないし維持することもなかなかに容易ではない。


 だが敵を作ることは容易でありすぐにできそして永続的なものにするのは簡単だ。


 しかもそれは余計な一言や必要のない行動ですぐに出来上がる。


 もっとも余計なことをしないという時点でその人はかなり知的な人と呼べるだろう。


 とにかく人は愚かであるから色々なことを沢山してしまうしその中には致命的なことも含まれている。


 今回の第一王妃の愚かさの極みはこれであると後に分かろうが、ではあの姉妹の方に視点を戻す。


 正門を通過した馬車は大きな庭を何事もなく通過し中門へ行く手前で妹は勘を働かせる。


 もしも自分であったらあの中門で仕掛けるだろう、と。


 あにはからんやのその通り。第一王妃は姉妹たちが中門を通過するのを待っていた。


 罠はこうである。この中門と中門間にある石畳の通路を通過したならば屋根の上から汚穢壺ハニーポッド肥樽つまるところ人間ってのは糞袋に過ぎない、これらを姉妹に目掛けて落すのだ。


 何とも汚しくとても王妃の考えたアイディアとは思えぬが、効果は絶大であろう。


 その理由は……別に説明する必要もないが次回しておこう。


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