表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたので、不正会計を暴きます ~地味な書記魔法の私ですが、辺境伯領を立て直したら冷徹辺境伯がなぜか離してくれません~  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/37

024 公開監査会

公開監査会は、王宮前階段をそのまま使って始まった。


上段に国王、左右に第一王子アルノルトと財務大臣バルタザール・ロヴィス。やや下がった位置にルシアン、監査局代表としてエドガー、書記役の官吏たち。階段中段には証人席が設けられ、下段と広場は一般の傍聴人で埋まる。


王都らしいと言えば王都らしい、見栄えだけは立派な舞台だ。

だが今日は、その見栄えがそのまま逃げ場のなさにもなっていた。


「まず、グレイフォード辺境における会計混乱について」


進行役の官吏が口火を切る。


通常なら王都側から質問を浴びせ、地方側が弁明に追われる流れだろう。だが、消された村の代表が既に名前を読み上げられたせいで、空気は完全に変わっていた。


エリシアは最初の証拠として、北部原図と正式図を並べた。


「こちらが改変前の北部測量原図です。こちらが王都保管の正式図。見比べれば分かる通り、ベルメ、フォーエン、サンティルの三村が、地形ごと折り込まれるように削られています」


広場のざわめきがまた広がる。

地図は分かりやすい。帳簿より直感に訴えるからだ。


アルノルトがすぐに口を挟んだ。


「単なる測量誤差だ。辺境の小集落など、移転も廃村も珍しくない」


「ならば廃村処理の記録をご提示ください」


エリシアは即座に返した。


「戸籍移管、徴税停止、補助終了、いずれか一つでも構いません。ですが税だけはその後も徴収され続けています」


次に黄糸台帳を出す。

蜂蜜税、門税差額、幽霊俸給、修繕費の付け替え。それぞれ別件に見えて、送金先と認証者が繋がっていることを一覧で示す。


「これらはすべて辺境内で発生した差額ですが、最終的な中継先は王都東区慈恵会、および大臣府関連口座となっていました」


「中継先だと?」


国王が初めて強く反応した。

バルタザールが表情を動かさず口を開く。


「慈恵会は正規の公益団体です。災害時の再配分は法に触れません」


「再配分されていれば、ですが」


エリシアは冷静に返す。


「こちらが現地未払い一覧です。薬資未達、橋修繕未達、遺族手当遅延。再配分の結果として支援が届いていない以上、それは公益ではなく横流しです」


広場の後方から、誰かが「その通りだ」と叫んだ。

衛兵が視線を走らせるが、もはや一人二人を黙らせても意味がない。


エドガーが進行へ向かって付言する。


「監査局としても、黄糸台帳の紙質と綴じ糸が大臣府の臨時台帳と一致することを確認済みです」


バルタザールの眉がわずかに動いた。


「監査局は何をしている」


「監査です」

とエドガー。


その返答に、傍聴席から小さな笑いが起きる。

王都で笑いが起きる側が変わったのだと、エリシアははっきり感じた。


次に証人として、ハンナ、ガルド、エルザが順に前へ出た。

ベルメの蜂蜜納入量、フォーエンへの移転経緯、サンティルの熱病と届かなかった薬資。三人の証言は飾り気がなく、だからこそ重い。


「薬が来るはずだと言われた」


エルザは杖を握りしめたまま言う。


「でも来なかった。橋も直らなかった。税だけは来た。それで私たちは“もう記録にいないからだ”と後で知った」


国王の顔色が、目に見えて悪くなる。


アルノルトが苛立ちを隠さず声を上げた。

「証言などいくらでも作れる! 彼女らはグレイフォードとローウェルに丸め込まれたにすぎん!」


「でしたら、こちらをご覧ください」


エリシアは古びた陳情書束を差し出した。ベルメとサンティルから王都へ送り返されたままの嘆願書だ。消印、受領印、返送札。何年も前から、声は届いていたのだと分かる。


「作ったのではありません。ずっとあったのに、読まれなかっただけです」


その一言は、王都の中心へまっすぐ刺さった。


沈黙を破ったのは国王だった。


「アルノルト」


低い声で名を呼ぶ。


「これらを、知っていたか」


第一王子は一瞬言葉に詰まったが、すぐに立て直した。


「辺境の細事まですべては。しかし父上、国の運営には優先順位というものが」


「人が死ぬことが細事か」


国王の声が階段へ落ちた。

広場がしんとする。


その時、進行役へ何かを耳打ちする者があった。若い侍従が顔を青くし、すぐにエドガーへ紙片を渡す。エドガーは目を通した瞬間、厄介そうに眉を寄せた。


「どうしました」

とエリシア。


「追加証人が来ています」


「誰が」


「……セドリック・ヴァンデル」


階段の下がざわめく。

まさか本人が来るとは思わなかった。


しかも、広場の入口に現れた彼は、以前の余裕ある若手官吏とは別人のようだった。髪は乱れ、頬は痩せ、目の下には濃い隈。外套の裾には乾いた泥がついている。


「発言したい」と彼は言った。


王都の空気が一気にざらつく。

エリシアは無意識に息を詰めた。


ここで彼が何を言うかで、今日の結論は大きく変わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ