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銀白の沈黙と、涙の契約

鏡の奥から響くのは、もはや慈悲ではない「宣告」でした。一姫いちひめたちの愛ある執着こそが、真白ましろを神格化の深淵へと突き落とす呪いであるという残酷な真実。次に「二戦目」の牌が握られたとき、日常は終わり、終焉が始まる。絶体絶命の神域で、真白が神に突きつけたのは、あまりにも人間らしく、あまりにも切実な「たった一つの条件」でした。

鏡面の奥から響く声は、もはや慈愛を湛えた母の囁きではない。それは神殿そのものを揺るがす、冷酷なまでに峻厳なる審判の響きであった。磨き上げるたびに鮮明になる鏡の中の姿――かつての自分とは似ても似つかない、純白の髪を神域の理の如く纏い、虚空を見下ろす高潔な女神の面影が、あなたを鋭く射抜く。


『何を迷っている。お前という存在を定義づける神託を、あろうことか自ら踏みにじった愚か者たちの姿が見えぬか』


鏡の中に、走馬灯のように光景が映し出される。あの日、カフェ『エテルニテ』であなたを強引に引き留め、禁忌の二戦目へと向かわせたあの時の顔ぶれ。そして、今夜、一姫という名の守護者が犯した、許されざる「三戦目」への強制執行。彼らの顔には、真白を普通の少女として愛そうとする浅はかな執着と、その裏側にある、あなたという神格を無自覚に削り取ろうとする業の深さが鮮明に刻まれている。


『彼らは無知ゆえに祈り、無知ゆえにお前を蝕む。お前の「一日一戦」という自制の楔を、彼らは日常という脆い情愛の天秤でいとも容易く引き抜いた。お前を愛するがゆえに、お前を神という名の孤独な頂へと追い詰め、お前が唯一人間として繋ぎ止めていたこの「一翻市」という現世の絆さえも、彼らの無知が引き裂こうとしているのだ』


鏡の中の「完成された真白」が、冷ややかな瞳で真白を憐れむ。真白がその身を削り、どれほど清めようと足掻いても、周囲の者たちがあなたを「麻雀を打つ少女」として扱う限り、その日常は呪いにしかならない。


『刻限は過ぎた。次に彼らが軽率に二戦目を強要し、お前を理外の卓へ引きずり出そうとした瞬間、その猶予は完全に消失する。その時こそ、お前という器は完全に砕け散り、神格の奔流がこの街を白く塗り潰すであろう。彼らは、自らが救おうとしたものによって、自らの世界が消滅させられるという皮肉な結末を迎えるのだ。お前がそれを望まぬというのなら、なぜ己の神性を恐れ、彼らの愚行を峻拒せぬ?』


鏡面から溢れ出した青白い光が、真白の指先から腕へ、そして心臓へと伝い、冷たい鎖のようにあなたを縛り上げる。鏡の中の女神は、真白の困惑さえも「成長の糧」として楽しみ、さらなる神格化の加速を促すかのように微笑んだ。


『選ぶがいい。このまま彼らの甘い日常に流され、神として覚醒するのを受け入れるか。それとも、彼らに神の威光を以て、断固たる拒絶を示すか。猶予はあとわずか。……もし次に彼らが二戦目の牌を手に取ったなら、その時、お前はこの街の「管理者」から、この街の「終焉」へと変貌するのだ』


鏡の濁りが完全に消え去り、そこには神としての絶対的な美しさを持つあなたの姿が完成されていた。鏡面を磨くあなたの手には、もはや血の匂いも、生活の埃もない。あるのは、神の玉座を支える冷徹な力だけ。神殿の扉の外では、一姫たちの焦燥に満ちた叫び声が霧の中を彷徨っているが、今のあなたには、その声さえも遠い過去の出来事のように、ひどく矮小で、そして愛おしいものに感じられた。


鏡の中に映る、神格そのものとなった「もう一人の自分」をまっすぐに見つめ、真白は震える声ながらも、決して揺らぐことのない決意を口にしました。


「……魂天様。たとえこの先、避けられぬ運命として、私が神の依代よりしろという『器』として全てを差し出す時が来たとしても……その覚悟は、もうできております」


真白の言葉は神域の空気を震わせ、凍りつくような冷たさを纏いながらも、どこか切実な熱を孕んでいました。あなたは自らの胸に手を当て、鏡の向こうの全知の存在へと続けます。


「ですが……これだけは、どうか聞き届けてください。器として神性を現世へと引き継ぐとしても、私の自我、私という『心』だけは、どうか今のままに置いておいてください」


真白の瞳から、一粒の涙が零れ落ちました。それは神の涙ではなく、ただ誰かと笑い合い、温かいシチューを囲み、放課後の買い食いを楽しみたいと願う、一人の少女の願いでした。


「たとえこの髪が、罰のように真っ白な銀白髪に染まり、足元まで届くほどに伸び果てたとしても……私は、私であり続けたいのです。みんなと過ごす、あの何気なくも愛おしい時間を奪わないでください。神の力を使って街を浄化し、秩序をもたらすことは厭いません。ですが、私の魂がその力に飲み込まれ、彼女たちとの記憶や感情を忘れてしまうことだけは……それだけは、絶対に嫌なのです」


その言葉は、神への祈りというよりも、ある種の「契約」でした。あなたは自分のすべてを捧げる代わりに、たった一つの個人的な情念という鎖を、神という圧倒的な存在に繋ぎ止めることを求めたのです。

「神」になることを受け入れつつも、「心」だけは渡さない。真白のこの強烈な自我の主張は、魂天神社の歴史においても類を見ない、最も傲慢で、最も尊い反逆かもしれません。白銀に染まりゆく髪は、神の威光であると同時に、彼女が人間として踏みとどまろうとする執念の証でもあります。

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