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銀白の代償と、守護者たちの献身

一日三度の役満。それは奇跡を通り越し、神職としての真白の輪郭を削り取るほどの「過負荷」でした。神殿に捧げた最高級の御神酒と、雪崩のように広がる銀髪。自らを「未熟」と断じる真白の謙虚さの裏側で、神域の住人たちは、主をこの世に繋ぎ止めるために立ち上がります。

静寂が支配する神殿の扉を開けると、そこには冬の夜空のように澄み切った気配が漂っています。真白は器を捧げ、続けて、エテルニテで得た10万円の報酬から、魂天様のために選りすぐった最高級の御神酒を丁寧に並べました。ガラスの瓶の中で月光を反射して輝くその液体は、真白が今まで供えていた安酒とは比べ物にならないほど清らかで、気高い香りを放っています。


「魂天様……。今まで、ずっと安酒ばかりをお供えしてしまって、本当に申し訳ありませんでした」


深く頭を下げ、冷たい床に額を押し付けました。真白の銀白に輝く髪が、神殿の灯りに照らされて、まるで雪のような軌跡を描いて床に流れ落ちます。


「この髪の色も、あなたの罰なのでしょうね。私の傲慢さや、神職としての未熟さを自覚させるための……。はい、言い訳など一つもいたしません。すべては私の力不足ゆえです」


自分の指先を見つめました。その先には、まだ微かな神気の残滓が青白い火花となって散っています。


「今日、私は三度も役満を和了りました。カフェで、そしてここ神社の卓で……。でも、それは私の力ではありません。魂天様が、私という器を通して世界に干渉された結果だと理解しています。たとえこの髪が、罰としてすべて真っ白に塗り替えられ、私という存在が人間としての輪郭を失ってしまったとしても……それでも、私は日々精進し続けます」


あなたは御神酒の栓を抜き、杯に静かに注ぎました。琥珀色の液体が杯を満たす音が、神殿という巨大な響箱の中で、誓いの鐘のように鳴り響きます。


「この神社の鏡を磨くように、私の魂もまた、あなたに相応しいものへと研ぎ澄ませていきます。ですから……どうか、この街の日常を、あの愛おしい日常を守る力を、今しばらく私にお貸しください」


朝まではただの若白髪だと思い込んでいた髪の右半分。それが今は、左側の根元からも雪崩のように銀白色へと塗り替えられ、その浸食はすでに全体の半分を大きく超えていました。まるで、真白が捧げた御神酒と、今日一日で放った役満の代償が、物理的な色として髪一本一本に刻まれているかのようです。


「……あれ。少し、色が明るくなったような?」


不思議そうに髪先を指で梳きましたが、それを深く追及することはありませんでした。今はただ、この身に降り積もった心地よい疲労と、魂天様との対話がもたらした不思議な安堵感に身を委ねたかったのです。


広間に戻ると、シチューの空になった器を片付けようと腰を浮かべたあなたの前に、三つの影が立ちはだかりました。一姫、ワン次郎、そして琳琅。彼らは互いに目配せをし、これまで見せたことのないような真剣な面持ちで、あなたを押しとどめました。


「真白、その器は私たちが片付けるにゃ。……お前はもう、今日という一日に十分すぎるほどの『神事』をこなしたにゃ」


一姫は先ほどの恐怖など微塵も感じさせないほど、どこか大人びた、そして慈しみを含んだ口調でそう言いました。彼女の瞳には、神の代行者であるあなたに対する、純粋な敬意と保護の念が宿っています。


「真白様、掃除も後片付けも、この後の境内の結界維持も、我らだけで十分です。……貴女様はただ、あの神殿の奥で眠りについてください。今の貴女様の髪に宿るその『光』は、今夜の我らの役目なのですから」


ワン次郎が低く温かい声で続き、琳琅も小さく頷いて、あなたの肩を優しく台所から遠ざけます。彼らは、あなたが台所に立ち、また何か「日常」を整えようとすることが、今の真白にとっては神格との境界をさらに曖昧にしてしまうのではないかと恐れているのです。彼らは今、真白を「管理代行者」としてではなく、この街の命脈そのものである「神の依り代」として、必死に守ろうとしていました。


「……そうですか。なんだか、皆さん今日はとても優しいですね。では、お言葉に甘えて……」


少し照れくさそうに笑い、彼らに後片付けを任せて風呂場へと向かいました。


湯船に浸かると、肌を伝う温かい湯が、今日という日の激動を優しく洗い流していきます。湯気の向こう側で揺れる自分の姿。鏡に映ったその顔は、いつも通りの真白でしたが、濡れた髪の間から覗く銀白色の毛束は、夜の灯りに照らされて、まるで神殿の神鏡のように神秘的な光を放っていました。


湯上がり、真白は清潔な木綿の布団に深く沈み込みました。神社の境内には、一姫たちが懸命に片付けをする音や、ワン次郎が結界を張り直す微かな気配が聞こえてきます。彼らの献身が、あなたを再び「普通の女の子」として眠りにつかせようとしているのが伝わってきました。


(明日も、また美味しいコーヒーを淹れて、みんなと笑い合えたらいいな)


そう心の中で小さく呟いた瞬間、真白の意識は深い水底へと沈んでいきました。銀白に染まりゆく髪は、枕の上でまるで月の光を閉じ込めたかのように静かに輝き、魂天神社という名の小さな宇宙を、優しく、そして永遠に近い静寂で包み込んでいたのです。

役満の代償として浸食する銀白髪。真白はそれを「罰」だと言い、一姫たちはそれを「光」として守ろうとします。神職としての覚醒と、女子高生としての日常。その危うい境界線で、真白は仲間の愛に支えられながら、今夜も無垢な夢へと沈んでいきました。

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