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神罰の東風戦、「審判」の牌音

遊びの時間は終わりました。一姫いちひめの強欲が招いたのは、真白ましろの内に眠る制御不能な神性の覚醒。カフェでの連荘を経て、二度目の対局という禁忌を犯した代償は、魂天神社そのものを焼き焦がす青白い神気の炎となって現れます。泣き叫ぶ一姫、地に伏すワン次郎と琳琅。神域の主としての「慈悲なき審判」が、今、静かに下されようとしています。

一姫は引きつった表情で、喉の奥からヒュッという音を漏らした。指先は自動卓のスタートボタンに触れるのを拒んでいるのに、その身体はまるで精巧な機械のように、恐怖に逆らって勝手に牌を整えようと動いてしまう。


「やっぱり……やっぱり、今日はナシにするにゃ! 今すぐやめるにゃ! ご飯にするにゃー!」


一姫は渾身の力を込めて叫ぼうとした。しかし、口からは「にゃあ」という気の抜けた鳴き声しかこぼれない。真白の周囲に渦巻く青白い神気が、空間そのものを支配し、一姫の「撤退」という意思を、この神域の中から弾き出していたのだ。


真白は自動卓の席に腰を下ろすと、先ほどまでの「放課後の女子高生」としての温かみを微塵も感じさせない、冷たく澄み渡った瞳で一姫を見つめた。


「どうしたんですか、一姫さん? さっきまであんなに『勝負するにゃ』って騒いでいたじゃないですか。そんなに『にゃあにゃあ』言って、猫らしくて可愛いですね」


真白の言葉は一見すると穏やかだが、その一言一句に、対局を強行することに対する「抗いがたい重力」が含まれている。


「私、今日はカフェの『エテルニテ』で二戦も打ってきたんですよ。本当は疲れているはずなのに……どうしてでしょうね。一姫さんがどうしてもって言うから、私の身体が勝手に……」


真白は少しだけ首を傾げた。その仕草すら、今のあなたにとっては、神が下界の愚かな被造物を観察するような、慈悲深くも残酷な「問い」に見えた。


「早く牌を並べてください。これを終わらせないと、晩ご飯の支度が遅くなってしまうじゃないですか。私、お腹が空いているんです」


真白の言葉に、一姫は全身から脂汗を流しながら、抗う術を失って牌を切り出した。その背後で、ワン次郎と琳琅は凍りついたように立ち尽くしていた。二人にとって、今の真白は、もはや敬愛する神社の代行者ではなく、自分たちが触れてはならない「神域そのもの」が暴走しているようにしか見えない。


「真白様のお怒りだ……! 我らがお守りすべき存在が、あの方の日常を蹂躙しようとした罰か!」


ワン次郎は悲痛な叫びを上げようとしたが、口から出るのは「ワンワン!」という狼狽した鳴き声だけだった。彼が必死にあなたの神気を遮ろうと前に出ても、その足は重力に縛られたかのように地面から動かない。


琳琅もまた、目元に涙を浮かべながら、「あっ、ああっ……!」と無力に言葉を失っていた。彼女の龍としての直感が、この対局が終わる頃には、一翻市が、そしてこの魂天神社が、今までの姿ではいられなくなることを予見しているからだ。彼女たちは、一姫という「愚かな触媒」によって、真白の神格が完全に覚醒し、もはや人間の日常に帰還できなくなるかもしれないという、絶望的な未来の扉が開く音を聞いていた。


「早く、牌を。……一姫さん、私のツモ番を待たせないでくださいね」


真白は微笑んだ。その微笑みは、鏡のように清らかで、そして鏡のようにすべてを反射して消し去る、終わりの予感だった。一姫の手が、震えながら山に手を伸ばす。彼女が触れた牌が、この対局の、そしてこの街の、最後の審判を告げる一打となろうとしていた。


「おっと、いけませんね。集中、集中……。お片付けの前には、最後までちゃんと向き合わないと」


真白は銀色に輝く髪を揺らし、独り言のように静かに呟きました。その声は、もはやカフェでの女子高生としての甘い響きを失い、冷たく澄み切った鐘の音のように境内の空気を切り裂きます。場は進み、一姫だけがまるで神に愛されたかのような配牌を手にし、驚異的な速さで和了を重ねていました。


「にゃあはは! 見たかにゃ真白! 今日の私は絶好調にゃ! このまま一気に貴様……じゃなくて、真白を突き放してやるにゃ!」


一姫は、自分の背後に漂う異様な圧力――あなたが放つ、凍てつくような青白い神気が、魂天神社そのものの結界を削り取っていることに気づいていません。彼女はただ、勝利の悦びに酔いしれ、自分が今まさに「死の淵」で踊っていることも知らずに笑い声を上げました。


しかし、その絶好調な和了こそが、真白という神格の「慈悲の天秤」を完全に破壊するトリガーでした。あなたは、自分でも制御しきれないほど膨張した神気を、ただ淡々と牌に注ぎ込んでいきます。


場の空気は重くなり、魂天神社の神鏡が小刻みに震え、鳥居の根元からは不気味な地鳴りが響き始めました。それは、人間の勝手な遊戯に神域が抗議し、そして真白という器が物理的な限界を超えて神そのものへと変貌しようとする前触れでした。


「……にゃ? にゃああ……?」


ようやく、一姫の猫としての直感が、背筋を焼き切るような恐怖を察知しました。彼女の鼻先をかすめたのは、勝利の匂いではなく、焼き焦げた神域の匂いでした。自分の指先が、取り返しのつかない「何か」を放とうとしていることに気づき、彼女の顔から血の気が引いていきます。


(ダメにゃ……これ、勝っちゃいけないやつだったにゃ。真白を怒らせたなんてレベルじゃない、神の怒りに触れてしまったにゃ……!)


一姫は冷や汗で濡れた手で牌を握りしめ、後悔に震えますが、その身体は既に麻雀の理に囚われ、止まることができません。


背後でその光景を見ていたワン次郎と琳琅は、絶望的な瞳で互いを見つめました。二人は悟りました。一姫の強欲が、真白の内に眠る絶対的な「神性」を逆撫でし、彼女の制御不能な怒りを引き出してしまったのだと。


「ワン……ワンワンッ……!(一姫、貴様、これでお終いだ……!)」


ワン次郎は、真白が解き放った青白い神気に押され、床に伏せながら悔しげに吠えます。


「あっ……ああっ……!(もうダメ、真白様が、この街ごとすべてを『あるべき場所』へ還してしまう……!)」


琳琅もまた、龍の鱗を震わせながらその場に崩れ落ち、ただ終わりの時を待つことしかできませんでした。あなたがラス親として、一姫の絶好調な手配を根底から粉砕し、彼女を奈落の底へ突き落とす――その残酷な「審判」が、今、静かに確定しようとしていました。


「一姫さん、絶好調ですね。でも……私も、頑張りますよ?」


真白の手元には、もはや麻雀という遊戯の枠組みを逸脱した牌の列が整っていました。無意識のうちに並べられたその配牌は、神の設計図。あなたがツモれば地和、誰かが何かを捨てれば人和――この場に存在するすべての牌が、あなたの「和了」という結末のために配置されています。


真白の周囲を覆う青白い神気は、もはや霧や粒子ではなく、揺らめく「炎」となって境内の空気を焼き焦がしていました。その炎が触れるたびに、神社の古い柱がミシミシと悲鳴を上げ、屋根の瓦がカタカタと音を立てて浮き上がります。


その光景を目の当たりにした三人は、魂が凍りつくような絶望を味わっていました。


一姫は、自分の手牌を見つめることもできなくなっていました。自分が持っているどれほど良い牌も、捨てれば間違いなく真白の「炎」に吸い込まれ、致命的な放銃を招く。……いいえ、捨てる捨てないの問題ではない。対局を続けていることそのものが、この神の逆鱗に触れ続けているのだ、と。

(にゃ……にゃああ……終わったにゃ。どれを出しても振り込む……いいえ、それ以前に、この炎に焼かれて消えてしまうにゃ……!)

後悔の涙が溢れ出しますが、彼女の口からは「にゃにゃ」と無意味な鳴き声しか漏れません。


ワン次郎は床を爪で削りながら、喉の奥で「ワンワンッ!」と激しい警告を繰り返していました。しかし、その声はあなたには届きません。彼は、真白という神が「日常という仮面」を捨て、今まさに「審判者」へと変貌を遂げたことを悟り、主である一姫の愚かさを呪うことしかできませんでした。


琳琅は、龍の鱗を逆立てて震えていました。「あっ、ああっ……!」と震える声で何かを訴えようとしますが、彼女の体もまた、あなたの放つ絶対的な圧力に支配され、地に伏すことしかできません。二人は確信しました。これは対局ではない。神に対する不敬を働いた愚か者への、慈悲なき制裁である、と。


真白は、そんな三人の震えを、ただの「空腹による待ちわび」だと解釈しました。


「また、『にゃあにゃあ』言ってるんですか? ……そんなにお腹が空きました?」


真白の瞳は、無機質な銀の光を湛え、一姫の恐怖をただの「催促」として吸い上げていきます。


「はいはい、わかっていますよ。これが終わったら、すぐにご飯を作りますから。……さあ、早く牌を切ってください。終わらないことには、ご飯も作れませんよ?」


その言葉は、優しく聞こえながらも、一姫の耳には「さっさと自らの破滅を差し出せ」という冷酷な命令として響きました。あなたには、対局を止める権利も、逃げる権利も、一切の慈悲も残されていないのです。


一姫の指先は、震える手で山に伸びます。彼女が次に何を捨てようと、その牌はあなたの和了を完成させる最後のピースにしかならない。神社を包む青白い炎が、さらに勢いを増して燃え上がりました。

逃げ場のない神域で、一姫は自らが引き出した「真白の神性」という怪物に追い詰められていきます。何を出しても放銃、出さずとも自滅。真白にとっての「お片付け」は、一姫にとっては「存在の消滅」を意味するほどの重圧でした。境内の古い木々がざわめき、神鏡が激しく鳴り響く中、運命の打牌が卓に置かれようとしています。

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