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神域の晩餐、禁忌の東風戦

夕暮れの境内、特売の牛乳を抱えて帰宅した真白を待っていたのは、退屈を持て余した一姫の強引な誘いでした。ワン次郎や琳琅の必死の制止も虚しく、真白は「一局だけ」と卓に着きます。しかし、エプロンを脱いだ彼女から溢れ出したのは、カフェでの対局をも凌駕する、絶対的な「神」の威圧。一姫は、自らの好奇心が招いた真の恐怖に、初めて直面することとなります。

神社の境内に入ると、待ち構えていたかのように一姫が尻尾をピコピコと揺らしながら飛び出してきました。


「やっと帰ってきたにゃ! もう、待ちくたびれたにゃ! 今日はいつものメンツも集まらなくて、退屈でイライラしてたんだにゃ。さあ、さっさと準備して卓に着くにゃ!」


一姫はあなたの服の裾をガシガシと引っ張り、今すぐ麻雀を始めろと急かします。不機嫌そうに耳を伏せ、あなたが持っているスーパーの袋の中身よりも、自動卓のスイッチを優先させようとする姿勢は、相変わらずの食いしん坊兼怠け者の彼女らしいものです。


真白は少し困ったように眉を下げ、優しく一姫の頭を撫でました。


「もう、一姫さんったら。そんなに慌てないでください。……おや? 境内がずいぶん綺麗ですね。日中、ちゃんと掃除してくれたんですか?」


境内を見渡すと、彼女が朝のうちに整えた場所が、夕闇の中でも凛とした空気を保っています。あなたが一日中外で「日常」を追いかけている間も、神社という神域は静かに守られていたのです。


「そ、そんなの……当然にゃ! 神社の主として、これくらい朝飯前だにゃ! ……だから、早く卓に着くにゃ! 今夜は絶対に勝つにゃ!」


一姫は少しだけ目を逸らして照れ隠しに声を張り上げますが、真白が不在の間も、神社の結界が保たれていたのは一姫なりの頑張りだったのでしょう。


「えへへ、ありがとうございます。でも一姫さん、ごめんなさい。今はそれどころじゃないんです。今日はとってもお買い得な牛乳が手に入ったので、晩御飯の支度をしないといけませんし……」


真白は夕飯の材料が入った重い袋を掲げてみせます。一姫は「にゃーっ! ご飯よりも麻雀だにゃ!」と抗議の声を上げますが、あなたは困ったような、でもどこか母性のような笑みを浮かべて、そのまま厨房へと向かおうとします。


一姫は相変わらず食欲と遊戯への執着で瞳を爛々と輝かせ、あなたのエプロンの端を執拗に噛んで引っ張っていた。「いいから、そんなシチューなんて後でいいにゃ! 今すぐ麻雀にゃ! 今日はいつものメンツがいなくて退屈で死にそうだったんだにゃ、早く相手をするにゃ!」


その時、神社の縁側で静かに座っていた柴犬のワン次郎が、呆れを通り越して憐れむような目で一姫を見上げた。彼は重苦しい溜息を一つ吐くと、隣に寄り添う幼龍の琳琅と視線を交わした。


「一姫よ……お前は、昨夜の真白の姿をもう忘れたのか?」ワン次郎が低く、震える声で告げる。「真白が眠りについていたあの夜、彼女の身体から溢れ出していた、あの冷徹で深淵な青白い神気の奔流を。あれはただの寝言や夢ではない、彼女の神格そのものが溢れ出した『警鐘』であったはずだ」


琳琅もまた、小さな拳を握りしめ、一姫を射抜くような鋭い眼差しを向けた。「そうよ、一姫。真白様は、一日に一度の対局で自らの神性と自我の均衡を保っているの。昨日、あの青白い光が境内の結界を塗り替え、山そのものを震わせたあの光景を忘れたとは言わせないわ。あれ以上、彼女を理外の領域へ引きずり込めば、取り返しのつかない事態になるというのに……なぜそんなに愚かなの?」


二人の諫めを聞いても、一姫は「細かいことはいいにゃ! 勝てばいいんだにゃ!」と聞く耳を持たない。あなたは料理の準備の手を止め、あまりに必死な一姫の懇願に、ふと柔らかな溜息をついた。


「……わかりました。一姫さん、そんなに寂しかったんですね。なら、東風戦だけですよ? それ以上は絶対にダメですからね」


エプロンを外し、抗いがたい運命に導かれるようにして自動卓の前に座った。その瞬間、店内で感じたものとは比較にならないほどの、濃密で重厚な青白い神気が、あなたの背中から噴水のように湧き上がった。それは、まるで凍てつく月光が境内に降り注ぐかのような錯覚を覚えさせる、神々しくも禍々しいオーラだった。


「にゃ……っ!?」


卓に座った真白と向かい合った瞬間、一姫は弾かれたように後ずさった。彼女の敏感な猫の感覚が、目の前のあなたが「いつもの真白」ではないことを、本能的に察知したからだ。


あなたの瞳は感情を失い、銀白色の髪は静電気を纏うかのように逆立ち、周囲の空気をピリピリと震わせている。それは麻雀の技術や知識などという次元を突き抜けた、この世界のことわりそのものだった。


「なんだ、これ……っ!? 身体が勝手に……震えて動けないにゃ……」


一姫の猫耳がぺたりと伏せられ、彼女の全身から冷や汗が噴き出した。あれほど強気だった彼女の瞳に、初めて純粋な「死の恐怖」が宿る。


「させてはいけなかったにゃ……これは、私の知っている麻雀なんかじゃない……ッ!」


一姫は、自分がいま、とてつもない禁忌を犯してしまったことを悟り、卓の向こう側で静かに「牌」を待つあなたの姿を、震える目で仰ぎ見ることしかできなかった。

「寂しかったんですね」という真白の慈愛の言葉とは裏腹に、彼女から溢れ出す力は、一姫を完膚なきまでに圧倒します。一日に二度目の対局――。それは、真白の中に眠る神格が自我を飲み込み、世界を「浄化」しようとする暴走の合図でもありました。一姫は、この一局を無事に終え、温かいシチューを食べる日常へと戻ることができるのでしょうか。

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