神の裁き、野良猫の末路
天界の静寂を破り、空間に亀裂が走った。テーブルの上に降り立ったのは、先ほど学院から追放したはずの一姫である。彼女はドヤ顔で女神たちを見下ろし、私の料理を無造作に踏みにじった。その瞬間、私の内側で何かが冷たく凍りついた。
神の怒り
「にゃあはっはっ! 変態女神共も驚いたかにゃ! 一姫様にゃ! ……ん? なんか増えてるがまあいいにゃ。にゃんだこれ?」
一姫は伊勢海老の黄金衣を手に取ると、「丸ごと揚げただけで美味しくなさそうにゃ」と吐き捨て、無残に地面へ投げ捨てて踏みつけた。
「高級酒よこすにゃ! ついでに金銀財宝ガッポリガッポリにゃ!」
酔いによる微かな温かみが、瞬時に冷徹な神気へと変わる。私は杯を置き、凍りつくような冷たい眼差しで一姫を見下ろした。
「……野良猫さん。……そこまでです」
「にゃ? 出たにゃ! 真白! 一姫様にゃって何回も言ってるにゃ、頭悪いのかにゃ! 真の神はこの邪神一姫様にゃ! 魂天神社を復活させるにゃ!」
「うるさいです」
私が小さく指を鳴らすと、空気が収縮した。一姫の膝から力が抜け、崩れ落ちる。
「……にゃ? 立てないにゃ! 何をしたにゃ、真白!」
「これであなたはただの野良猫です。だんだんと人間の言葉も忘れ、二本足で歩くこともできなくなります。——さあ、責任を持って、あなたが汚したその料理を食べなさい」
野良猫の末路
「ふざけるにゃー……にゃっ!?」
一姫の体は勝手に四つん這いへと変化した。立ち上がろうとしても足の使い方が思い出せず、本能のままに床へ顔を近づける。鼻先が、先ほど投げ捨てた伊勢海老の揚げ物についた。
「汚いにゃ! 食べないにゃ!」と口にしても、体は勝手にそれを咥え、食べさせようとする。
「責任を持って食べなさい。一粒残さず」
その厳しい口調に抗う術もなく、一姫は泣き叫びながら地面の料理を咀嚼した。神の戒律を破った代償は重い。やがて屈辱に耐えかねた一姫は、涙目で亀裂の向こう側へと転がり落ちていった。
宴の再開
荒れた空間を私が一瞬で修復し、先ほどまでの冷徹さを霧散させる。
「さあ、皆さん。邪魔な野良猫はいなくなりました。宴を楽しみましょう」
私は何事もなかったかのように微笑んだ。
美のヴィーナス(副会長):
「あら……今の冷たい真白様も素敵でしたわ。普段の素直で可愛いあの子とのギャップがたまりません!」
知恵のソフィア(書記):
「神としての裁き……完璧でした。やればできる子だとは思っていましたが、ここまでとは」
豊穣のデメテル(会計):
「ふふ、真白様が守ってくださったのね。あんな猫、ゴミ以下の扱いで正解よ」
龍神の翠(役員):
「ふむ。余計なノイズを消し去るその手際、見事じゃ。余計な笑いなど不要なほどに清々しいの」
勝負の女神(1年):
「カッコよすぎっす! 普段は可愛いのに、いざという時の冷徹さ……惚れ直したっす!」
創造の女神(担任):
「私たちですら手を出しかねたのに、あっさり処分するなんて。真白、貴女こそが真の管理者ね」
調和の桃子(養護):
「真白さんが普段みんなに守られているのは、こうして『本当に守るべき時』に力を使えるようにするためなのね」
芸術の女神(2年):
「慈愛から冷徹への変貌……これぞ神の演じる最高のドラマよ!」
慈愛の女神(3年):
「真白ちゃんが汚れるのを厭わずに裁きを下すなんて……私たちの真白ちゃんは本当に強いのね」
料理の女神:
「料理を汚された怒り……私も同感よ。あの子はもっと評価されるべきね」
真白の冷徹な裁きは、女神たちの中に「神・真白」に対する新たな畏敬の念を植え付けた。普段はぼんやりと節約を愛し、生徒たちと笑い合う少女の姿からは想像もつかないような、絶対的な支配者としての矜持。女神たちは、この危ういまでの「やればできる子」な真白の虜となり、天界の宴はこれまで以上に熱を帯びていく。彼女がただの「可愛いマスコット」ではないことを、天界の全員がその魂に刻み込んだのであった。




