湯煙の聖域、箱庭の綻び
大浴場の湯煙が、学院の厳しい規律を優しく溶かしていく。真白は制服を脱ぎ捨て、刺繍入りの専用ネットに衣類を収めると、先鋭たちと共に湯船へと向かった。神としての威厳はここにはない。あるのは、年相応の少女たちが交わす他愛のない会話と、湯船に浮かぶ湯浴み着の白さだけである。
湯煙の中の会話
「真白様のスタイル、本当に整っていらっしゃいますわね。モデルのようですわ」
「いいえ、私なんてまだまだ……」
私は照れくさそうに胸元を隠すような仕草をした。
プラチナブロンドの少女:
「あら、そんなに気にすることないわよ。胸なんて大きすぎても肩が凝るだけだし、今の真白様が一番よ」
赤髪の少女:
「そうよ。私たちは海外での生活が長かったから発育が良いだけ。むしろ真白様の可憐さは羨ましいくらいよ」
茶髪の少女:
「真白様は、その凛とした姿勢が一番の魅力だわ」
ボブの少女:
「ええ、健康的な美しさが一番ですわ」
ウェーブブロンドの留学生:
「Your balance is perfect for your age. Don't worry, Mashiro.(あなたのバランスは年齢的に完璧よ。心配しなくていいわ)」
(……はぁ。この学院の方々は帰国子女や留学生という設定ですし、発育が良いのも当然ですよね。私のスタイルがこの先どうなるか、神の視点でも見通せないのが唯一の懸念ですが……)
私は内心の溜息を隠し、湯船の中で姿勢を正した。
「そういえば皆様方。近日中に、この展望大浴場の休憩スペースを改装し、最新のマッサージ機を設置することにいたしました」
周囲の生徒たちが一斉にこちらを向く。
生徒A:「本当ですか、生徒会長! 疲れていたから嬉しいです!」
生徒B:「さすが真白様、生徒の声に耳を傾けてくださるのね!」
生徒C:「あぁ、真白様と一緒に休憩できるなんて幸せだわ!」
瞬く間に輪の中心になった私は、皆の笑顔に包まれて優雅に微笑んでいた。
女神たちの監視と、迷い込んだ異物
大浴場を見下ろす天界のモニター越しに、女神たちは溜息をついた。
調和の女神(桃子):「そうよ。一姫、あなたが家電量販店で買い占めという余計なことをしなければ、今頃私たち女神全員の専用機と、生徒用マッサージ機を完備できていたのよ」
創造の女神(担任):「全く、あなたは邪神のブラックカードで満足しているんでしょう? 今更、真白に何の用なのよ。しつこいわよ!」
知恵のソフィア(書紀):
「効率を阻害するノイズね。さっさと排除しましょう」
美のヴィーナス(副会長):
「あの子の入浴タイムを邪魔するなんて、万死に値しますわ」
豊穣のデメテル(会計):
「マッサージ機、私の分まで買い占めた罪は重いわよ」
勝負の女神(1年):
「あいつ何のために来たんすか!」
芸術の女神(2年):
「無粋な猫ね」
慈愛の女神(3年):
「真白ちゃんがせっかくリラックスしているのに……」
龍神の翠(役員):
「ふむ、これ以上邪魔をするなら、物理的に追い出すしかないな」
一姫は空間に現れ、不満げに叫んだ。
「にゃんでにゃだと! あいつ、一姫様を参拝客A扱いしたから文句を言いに来たにゃ!」
「「「…………」」」
あまりのくだらなさに、女神たちは完全に呆れ果てた。
「……話を聞くにゃー!! ……もう帰るにゃ! 覚えておくニャー!」
一姫は怒りのままにゲートを開き、虚空へと消えていった。女神たちは彼女を追いかける価値すらないと判断し、再び大浴場の真白へと視線を戻した。
湯煙が渦巻く中、真白は生徒たちからの感謝の言葉に心地よさを感じていた。マッサージ機という福利厚生すらも、神の慈愛と生徒会長の政治的手腕——という設定に基づいた「オートモード」の成果である。一姫というノイズを排除し、真白は湯船に浸かりながら、心ゆくまで学院の運営について思考を巡らせる。彼女の思考は既に、明日届くはずの友人からのメッセージへの返信と、深夜に行われる天界の宴へと向かっていた。




